日替わり能力   作:ココリンク

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一日目
生意気な女


俺は気づいたら、平原にいた。

 

何を言っているのか分からない気がするが、俺にも分からない。

 

ただ、何度確認しても草しか生えない平原に俺は立っている。

 

試しに頬をつねったら痛い。

 

これは夢ではない。

 

いったい、どうなっているのだ!?

 

「貴様、いったいなにをやっている?」

 

そのとき、俺の後ろから女の声がしたのだ。

 

チャンスだ、ここがどこか、その女に聞こう。

 

「すみません、ここは…………

 

俺はそう言って、振り向いた途端、パッと話すのをやめちまった。

 

なにせその女、刀を持って俺に身構えてるんだぜ。

 

俺より一回り小さいくらいだが、貫禄っていうか殺意がすげえ。

 

恐怖というよりビックリ混乱さ。

 

本物の刀なんて初めてみた。

 

「貴様、何者だ?大人しくステータスを見せろ。」

 

???

 

俺の頭にさらにクエスチョンマーク!!

 

ス……ステータス!?

 

ステータスって、なんだ?

 

資格とかか?

 

免許証ならあるが、それでいいのだろうか?

 

「えー、これでいいでしょうか…。」

 

俺は免許証を出そうと、ポケットから財布を出そうとした。

 

だが、その女は俺がポケットに手を掛けた瞬間、喉の手前に刃を突き付けやがった。

 

恐えぇ〜。

 

「貴様、何をしている。

次怪しい動きをしたら、この刃の先が赤く染まるぞ。」

 

「は、はい。すみません。」

 

女の冷酷な声に、俺はつい謝っちまった。

 

ただ、財布を出さないとそのえーと、ステータスを出せないんだよな。

 

「何をしている、早くステータスを出せ。」

 

「は、はい。」

 

俺は、女の顔色を伺いながら再びポケットに手を掛けようとした。

 

が、俺は底知れぬ恐怖を感じ、咄嗟にやめた。

 

これをきっかけで、刃を突き付けられたんだ。

 

一応許可もらった方が良さそうだ。

 

「あのー。その、ステータス(?)出したいので、ポケットから財布だしてもいいでしょうか?」

 

「財布?

なぜ、そのような物を出す必要がある。

私は金なんかに興味はない。

貴様が何者かどうか知りたいだけだ。」

 

「いえー。ですから、あのー。」

 

俺はどうしたらいいか、たじろいでしまう。

 

もしかしたら、ステータスって免許証のことじゃないのかも知れない。

 

間違えたら命はない。

 

とりあえず、擦り合わせをしておこう。

 

「すみません。一つ確認しておきたいのですが…。」

 

「何だ?

早くだせ。それともこんなとこにいるんだ、剥奪されたか?」

 

「いえ、剥奪も何も………

あのー、ステータスってなんですか?」

 

「なっ!?」

 

俺の言葉に、女は愕然とした。

 

ショックのせいか刀を手から落としてしまっている。

 

「貴様、ステータス知らないのか?

一般常識……いや、赤ん坊があーだー言ったりよちよちしたりみたいな、DNAみたいなもんだぞ!」

 

DNAって、つまり、人間みな出来るってことか!?

 

嘘だろ!

 

もしかして、地球上でステータスの事知らないの俺だけ?

 

「本当なのだな?本当に知らないんだな?」

 

女はもう呆れたように言っている。

 

少し、怪訝そうな顔もしてるが、明らかに俺のこと見下している。

 

「ああ、一切分からない。」

 

「………………」

 

俺の応えに女は頭抱えちまった。

 

そして、俺の顔をチラって見ると人差し指をグルッと回し、そこを突いた。

 

そしたら、女の前にモニターのようなものが浮かび上がり、何かよくわからない文字がズラッと並んでいた。

 

「こうするんだ。」

 

「は……はあ。」

 

俺は訳がわからなくてパニック。

 

多分、これは夢だろうな。

 

今まで夢と分かった夢の中で頬をつねったことないから分からなかったが、夢の中でもつねると痛いみたいだな。

 

あはは。

 

「早くしろ、斬り殺されたいか!」

 

そんなこと考えていたら、女は刀を拾い上げ、再び刀を構えやがった。

 

短気な女だ。

 

嫌いじゃない。

 

「えっと。こうですか?」

 

俺は見よう見まねで、指をくるッとさせた。

 

「うおお!」

 

そうすると、さっきはみえなかったが、そのくるッとしたとこに謎の青い光が現れた。

 

「どうなってんだ!これ!?」

 

俺は興奮して、女の方をみたが、女は冷たい目で俺を見ていた。

 

すみません。取り乱してました。

 

俺は光を指で突いた。

 

そしたら光はスクリーン状に広がり、どんどん文字が打ち込まれていった。

 

「書き込みが始まった。

ステータスを知らなかったってのは本当だったんだな。

カドワキタケルか。

変わった名前だな。なんていうか発音がカクカクしてる。」

 

女はなぜか感心したように言った。

 

「これが、ステータスだ。

今行われているのは書き込み。

貴様の“能力”を決めることだな。」

 

「能力?」

 

俺はまた聞き慣れない単語に首を傾げる。

 

女は溜息をつき、また呆れたような目で俺をみやがった。

 

仕方ねえだろ、分かんねえもんは分かんねえんだからよお。

 

「能力ってのは、いわば才能みたいなもんだな。

本来は赤ん坊のときに書き込みをやるもんだが、そうか、貴様は孤児だったんだな。」

 

「いや、普通に親から愛情貰いましたけど。」

 

女の言っていることがまったく理解できず、話が噛み合わない。

 

女はまた俺のことを軽蔑した目で見て来やがった。

 

ピーーン!!

 

「ほら、書き込みが終わったぞ。」

 

奇天烈な高音がすると思ったら、女はスクリーンを指差した。

 

スクリーンには数字の羅列でいっぱいだ。

 

俺はこういうのが少し苦手だから目を背けちまった。

 

別にいいだろ。

 

女が見せろって言ったんだから見せたまでだし。

 

「なるほど。

これが貴様の能力か……。」

 

女はその羅列をジロジロと見送っている。

 

なんか嫌だな。

 

自分自身では関心がない、別によくも悪くもない微妙な点数のテストを見られているような感覚だ。

 

女はスクリーンを最後まで見終わると、刀を納刀して、俺の方を向いた。

 

大丈夫だったのか?

 

「貴様には謎が多い。

出身地や好きな食べ物など聞いたことのないものばかりだ。

それにこれ。」

 

女は訝しげな顔して右上の大きく取られたスペースを指差す。

 

「貴様の能力、ハテナと出ている。

これが一番謎だ。

仮に能力がないならはっきり“無し”と出る。

だが貴様の能力は“ハテナ”。

そんなの聞いたことない。」

 

女は怪しそうな目で俺の方を見る。

 

そんな目されても俺自身よよくわからないからどうすることもできねえよ。

 

「書き込みが遅かったから、成熟された能力が型に当てはまらなかった可能性もある。

もしくは前例のない新しい能力か?」

 

女は一人でぶつぶつ言い始めた。

 

考え事するときに声に出ちゃうタイプなのか?

 

「答えろ!

貴様はどこから来た?」

 

女は凄い形相で聞く。

 

疑問と怒りが混ざってる。

 

あまり疑問を残したくないタイプなのか?

 

にしても困った。

 

どこからと言われても、ここがどこなのか?

 

言葉が通じるから日本であることは確か…………なはず。

 

それとも移住者か。

 

だとしたらホントにここは日本か?

 

県内か?

 

前提がないからな。

 

下手に答えると斬られそうだし。

 

怒られそうだが、まず前提を聞いてみるか。

 

「あのー。すみません。

ここってどこですか?」

 

そう聞くと女はピクリと皺を寄せた。

 

やっぱ怒らせちまったか。

 

「質問に質問で返すのは礼儀違反だが、貴様は何も知らないようだし教えてやる。

ここは“ギルマドン”。

退屈で平和な村さ。」

 

「はぁ……ありがとうございます。」

 

初めて聞く名前に俺は素っ頓狂な返事しかできなかった。

 

ギルマドン……てどこの国だ?

 

ヨーロッパとか欧米とかか?

 

とりあえず、外国っぽいな。

 

「俺はニホンから来ました。」

 

「ニホン?

ああ、ステータスに載っていたな。

だが、聞いたことがない。

まあ、貴様も所詮は田舎者か。」

 

田舎町………。

 

いや、日本って結構世界でも有名だと思うけどなあ。

 

ジャパニーズマンガとか。

 

それでもまあ、仕方ないか。

 

辺境の地なら、他の国とか知らないってのもなきにしもあらずって感じかもな。

 

「グヒャアアアアア!!」

 

わあ!

 

なんだ!?

 

いま、向こうの方から声(?)がしたぞ!

 

あまりに甲高くて俺も女も思わず耳を塞いじまった。

 

「くっ……来たな!

ドウェスバッファ!!」

 

女はそう言って、刀を出して身構える。

 

てか、ドウェスバッファってなんだ?

 

「下がってろ!

なんの能力を持ってるかは知らんが、無知な貴様では危ない!!」

 

「は、はい。」

 

女があまりの逼迫した声で言うから、俺はただ言葉に従うしかなかった。

 

口は悪いが、俺のこと心配してくれるのか。

 

優しい奴だ。

 

「グヒャアアッ!!!」

 

うげ!

 

そんなこと考えてると、凄いスピードで怪物がこっちに向かって走ってきた!

 

なんだ、アイツ!?

 

カエルみたいな体してるが、顔は殆ど口で、目とか鼻とか、そういうの全然見えないぞ!!

 

体長も4,5mくらいあるし、あれが、ドウェスバッファか!?

 

「グヒャアア!!」

 

とか考えてたら、ドウェスバッファは、女に飛びかかった。

 

危ない、食われるぞ!

 

「はあ!!」

 

そう思ってたら、女はドウェスバッファにジャンプして刀を一振りした!

 

すると、ドウェスバッファの片方の前足が切断された。

 

うげ、やっぱあの刀、本物だったのか。

 

足を一本無くしたドウェスバッファはバランスを崩して、地面に激突。

 

瞬間、切断面から血が大量に噴き出した。

 

俺はこういうの大丈夫だが、苦手なやつは卒倒するだろうな。

 

「グヒィィ。」

 

ドウェスバッファは情けない声を出して、元の方へ戻っていく。

 

少し可哀想だが、助かっただけいいか。

 

もう来るなよな。

 

俺はドウェスバッファを見届けたあと、礼を言おうと、女の方を向いた。

 

だが、女は着地した後、ずっと蹲ったままだった。

 

「おい!

大丈夫か?」

 

俺は慌てて声をかける。

 

肩に手を当てて、顔を横から覗いた。

 

意外と可愛い顔してるな。

 

と呑気なことを考えてたら。

 

「う………おえ……。

げふ。がは……。」

 

うお!

 

この女、吐いた!

 

吐きやがった!!

 

「おい!大丈夫か!?」

 

俺は慌てて女の背中をゆする。

 

それ以上の知識はないから、それくらいしかすることができないのが苦しかった。

 

よく見ると女の顔に血色がなく、唇も真っ白だ。

 

でも、体にはドウェスバッファにやられた傷は見当たらない。

 

出血多量でこうなった訳ではなさそうだが、まさか、この女。

 

「はぁ………はぁ…………気にするな。

どけ、私のそばに立つな。」

 

女はしばらくするとそう言って立ち上がった。

 

「おい、無理するな。

まだ顔が真っ青じゃないか。」

 

「いいから、どけっていってんだ。」

 

女は虚勢ともとれる威勢を張って、俺に命令する。

 

命令されるのは癪だが、病人に言われちゃいう通りにするしかないな。

 

女は俺が離れると、血飛沫がついた刀身を恐る恐る見たと思ったらすぐに顔をそらした。

 

(やっぱりか。)

 

女は2,3回突っ掛かりながら、ノールックで納刀しフラフラしながら俺から見て左の方へ歩き出した。

 

平気なのか?

 

なわけ無いだろうな。

 

そう思ってると女は俺の方へ顔を向けた。

 

「ついてこい……。

どうせ………この辺の地形も無知なんだろ……。」

 

「あ、ああ。」

 

俺はから返事をしてついていくしかなかった。

 

体を支えようとはしたが、女は拒絶するに違いないし、それが癪に障り、斬られたてでもしたら嫌だしな。

 

 

 

少し歩くと住宅地に来た。

 

と言っても、家は木造で4,5件しか建ってなかったけどな。

 

みんなねずみ返しのようなのがついている。

 

もともと倉庫だったのか?

 

「ほら、入れ。」

 

女は一番手前の家の階段を上がり、扉を開けて中に入り、俺に入るように促した。

 

「お邪魔します。」

 

俺は家の中に入る。

 

習慣的に靴を脱ごうとしたが、玄関的なものはなかったし、女も土足だと気付きやめた。

 

にしてもこの女の靴、スニーカーみたいだが、ずいぶんと汚れてるな。

 

家の中は小さな部屋一つにベッドと棚が一つあるだけだった。

 

キッチンとかトイレとかそういうのはない。

 

どう生活してるんだ?

 

俺はそう思いながらとりあえず部屋の真ん中に立つ。

 

女は棚からズラッと並ぶ液体の入った瓶を一つ取り出し、それを飲んだ。

 

すると、女の顔色がどんどん良くなる。

 

すげえ。

 

「なんだ?

その、えっと、なんだっけ?

ニホン?にはこういうのないのか?」

 

女は呆れたような感じで聞いてきた。

 

俺が凄く興味深そうな顔していたからかもしれないな。

 

「それって、薬ですよね?

一応ニホンにはありますが、即効性があるのは初めてですよ?」

 

「ふーん。遅れてるんだな。

吐き気止めくらい、簡単に醸造できそうなのに。」

 

女の何気ない一言に俺はイラッときたが、なぜか俺は安心していた。

 

多分女の具合が良くなってホッとしたんだろう。

 

「それで、貴様はなぜあそこにいたんだ?

平原にただ一人。武器も何も持たずに。

赤ん坊ならまだわかるが、貴様はどう見ても大人の男だ。

まだ青臭いがな。」

 

「それが、俺にも分からないんです。

気付いたらあそこに立っていて。」

 

「は?

貴様、ふざけるのはいい加減にしろよ。

あんな姿を見て、私をナメてんだろ?」

 

うわあ、すげえ怒ってる。

 

地雷踏んだか?

 

でも、ホントにこれだけだもんな。

 

それに、身の回りだとか生活の常識は覚えているが、自分の出生に関してはまったく覚えてない。

 

なんでだ?

 

「おい、答えろよ。

この刀が、もっと赤くなる前に。」

 

うわ、怖え。

 

だが、女はそう言ってるが、刀は抜いてないし、抜こうともしていない。

 

けどまあ、とりあえずホントの事を言うしかない。

 

「本当に分からないんです。

それに自分の事も殆ど忘れてて。

いつの間にか見知らぬ土地にポンッと。」

 

俺はそう言うが、女の疑いの目はそのまま。

 

いや、どんどんその顔が険しくなっている。

 

逆効果だったか?

 

でも、下手にウソついても状況は変わらなさそうだし。

 

「貴様!

何回私をおちょくればいいと思う!!」

 

女はついにプッツンして、鞘に納まったままの刀を振り上げ、俺にがなりたててきた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!

本当に分からないんです!」

 

本当に分からないんだ!

 

嘘ではない!

 

だが、もうだめかもしれない。

 

絶対、踏んではいけない地雷を踏んだ

 

ああ、これが夢であってくれ。

 

女は勢いよく刀を振り下ろし、俺の少し手前で止めた。

 

やっぱこの女、腕前は確かなんだな。

 

素人だからよくわからないけど。

 

「貴様も。もう分かってんだろ。」

 

 

急に女が聞いてきた。

 

俺は答えようとしたが、女は答えを待つことなく続ける。

 

「私は、血を見るのが苦手なんだ。

小さい頃のトラウマでな。

見ると吐き気がする。

文字で見るのも、実際に見るのもだめだ。

紙で指を切るとき程度でもな。

笑っちまうだろ。

剣士のくせにって。」

 

女は俺に自嘲的に言う。

 

俺はなんて返していいかわからない。

 

こういうのって下手に同情するのは逆効果になることがあるからな。

 

「私は、貴様を斬ることはしない。

だから貴様に私の要件をのんでもらう。」

 

「要件?」

 

なんのことだろう?

 

交渉ってわけか?

 

「貴様の言葉。

突拍子もなく、嘘をついているにしか思えない。

だが、貴様は頑なにその嘘を言い続ける。

だから、もしかしたら本当なのかもしれない。

けれど、私にはそれを判断することができない。

だから、それを判断できる人に会いにいく。」

 

女は刀を腰に納めた。

 

とりあえず、一時助かったってことか?

 

「いくら無知な貴様でも、知ってるだろう。

“ビビンニ”にな。」

 

え?

 

女は改まった感じで言うが、俺はクエスチョンマーク。

 

全くわからない。

 

「貴様。ビビンニも知らないのか。」

 

女はまた呆れた感じで聞いてきた。

 

無知ですみません。

 

「うーん。

なら、まだ隠し通せるというわけか。

なら都合がいい。」

 

また、女は一人でぶつぶつ言い出してる。

 

隠し通せる?

 

都合がいい?

 

どういうことだ?

 

「貴様。

ほら、家から出ろ。

すぐビビンニに行くぞ。」

 

え、もう行くのか?

 

顔色はよくなったが、まだ家に入ってから数分しかしてねえぞ。

 

でもまあ、女はすぐ行きたがってるし、また無知って蔑まれるのもいやだからな。

 

素直に従うか。

 

 

俺は家から出て、階段を降りた。

 

少し経って、女はズタ袋のようなものを下げて出てきた。

 

中からガラスがぶつかり合う音がするが、何が入っているんだろう?

 

それに袋はツギハギだらけだ。

 

ずいぶんと長く使ってるんだな。

 

「ほら、行くぞ。」

 

そんなこと考えてたら、女は顎でしゃくり、村の中心部まで歩き始める。

 

俺はとりあえず、付いていくことしかできなった。

 

 

村の中心部はお店がたくさん並んでた。

 

と言っても、建物が構えられてるわけでなくフリーマーケットのように敷物引いて、そこに食べ物やら洋服やらが並べられてる感じだ。

 

「ミーレさん。

お願いします!」

 

女は、4,50代くらいのおばさんのとこで立ち止まり、腰に納めてた刀を渡した。

 

てか、今の声と態度なんだ。

 

すげえ猫かぶってるっていうか、俺へのつっけんどんな態度はどこへ?

 

「あら、ホースィちゃん。

今日は早かったのね。」

 

「はい!

ちょっと先にありますので、回収はお任せします。」

 

「はいよ。

ホント、わるいねホースィちゃん。

血がだめなのに、あんなこと請け負わせちゃって。」

 

「いえいえ。大丈夫ですよ。」

 

ホント、すげえ猫なで声だ。

 

それともあれが素か?

 

なんか楽しそうだし。

 

ちょっと可愛いかも。

 

………にしても、さっきあのおばさん、“ホースィ”って言ってたな。

 

あの女の名前か?

 

ホースィなんて名前、なかなか聞かないな。

 

それにあのおばさんの近くには刀が沢山おいてあるから、刀売りみたいだし。

 

本当にここはどこの国なんだ?

 

「はいこれ、ちゃんと仕上がってるよ。」

 

「ありがとう!ミーレさん!」

 

「いいのいいの。

じゃ、今日もよろしくね。」

 

「はーい!」

 

女はおばさんから、別の刀を受け取った。

 

さっき渡したのとそっくりだ。

 

もしかして、刀の返り血もだめだから一回一回変えてるのか!?

 

本当になんであいつは剣士やってんだ!?

 

「ほら、なにボケっとしてんだ。

行くぞ。」

 

俺が驚いてると、女は肩をぶつけてまたつっけんどんな態度で話し掛けた。

 

裏表怖ええ。

 

 

 

村の門を通り、草原に出た。

 

数分間歩いたが、あるのは草、花、木、岩くらいで、蝶々一羽も飛んでない。

 

こう同じ風景が続くと退屈だな。

 

女は全然口効かないし。

 

「おい。」

 

って思ってたら、女が話し掛けてきた。

 

「貴様。

さっきの私の姿のことは忘れろ。」

 

「え?」

 

どういうことだ?

 

もしかして、恥ずかしいのか?

 

「私は好きでぶりっ子してるわけじゃない。

それにどっちかというとこっちが素だ。

と言っても、ロクなコミュニケーション取ってないから、素がどういうのか忘れちまったけどな。」

 

この女、すげえ饒舌をふるってる気がする。

 

顔も合わせないし、やっぱ恥ずかしいのか?

 

まあ、どちらにしてもそういうことにしておくか。

 

煽ったら斬られそうだし。

 

「ゲビャアアアア!!!」

 

わあ、なんだ!?

 

すげえ重低音のような大きい音が、村の方から聞こえてきたぞ。

 

「くっ……もう来ちまったか!」

 

来た……?

 

えっ、一体何が来たの?

 

「貴様!

下がってろ!」

 

「え、あ、はい!」

 

女は刀を抜き、構える。

 

俺は後ろへ下がり、見守るだけだ。

 

てことは、また怪物?

 

「ゲビャアア!!!」

 

「うわあ!!」

 

怪物が姿を現した途端、俺は腰を抜かしちまった。

 

なんせ、その怪物はさっきのドウェスバッファと瓜二つなのに、大きさが10mくらいある。

 

しかもすげえ怒ってるみたいだし。

 

もしかしてさっきのやつの親!?

 

倒せるのか!?

 

「はあ!」

 

女はなんの躊躇もなくドウェスバッファに向かい走る。

 

ドウェスバッファもデカイ口を開け、ヨダレを垂らしながら女に向かう。

 

うわあ、アニメでよく見るような光景だが、間近で見ると結構迫力あるな。

 

「はあ!!」

 

女の方が先に剣を振り下ろした。

 

が、早すぎた。

 

剣はドウェスバッファの歯に当たってしまい、傷一つ負ってない。

 

嘘だろ。

 

俺たち、ここで死ぬのか?

 

ドウェスバッファは、歯を噛み合わせ剣を噛み砕く。

 

もうおしまいだ。

 

と思った矢先、女は剣を引き、そのままドウェスバッファの胴体の方へ走り、折れて短剣のサイズになった剣を一振りし、前足を切り裂いた。

 

「貴様!やったか!?

足は切断されてるか?」

 

女はドウェスバッファが視界に入らないように手で隠して、俺に聞いた。

 

えーと、だいぶ弱ってるからだいじょー…………

 

「ゲビャアアアア!!!」

 

ぶじゃない!!

 

「まだです!

完全に切り落とせていません!!」

 

あんなバカでかい足を、小さくなった剣で切断するのは無理だったのか。

 

だがどうする。

 

切断はできてないが、切り口から血が出てるぞ。

 

「ちっ!踏み込みが浅かったか!

コイツ!もう一発くらいたいか!!」

 

女はやりきれてないと分かり、ドウェスバッファに体を向けた。

 

その瞬間、

 

「う…………!」

 

女の顔が一瞬で青褪めた。

 

そして、折れた剣をノールックで投げたが、距離が届かずに虚しく地面に落っこちてしまう。

 

ダメ元でやった行動なのか。

 

だとしたら、もう終わり!?

 

俺たち、こんどこそ本当に死ぬ!?

 

「ううぇえ………」

 

わあ、また女が吐いた!?

 

完全にだめなやつじゃねえかこれ!

 

「ゲビャアアアア!!」

 

ドウェスバッファは怒りがピークに達している感じだ。

 

今すぐにでも飛びかかりそうだが、もしかして嘔吐物にビビってる?

 

少し躊躇してる感じが。

 

こ………こうなったら。

 

俺の、俺の謎めいた能力でなんとかするしかないのか。

 

俺はそう思ったら、体が自然と女を庇うような位置まで立っていた。

 

なにができるか分からないが、とりあえず、この女を守らなくちゃいけないって本能で感じた。

 

「ゲビャアアアア!!!」

 

ドウェスバッファは俺に飛び掛かってきた。

 

興奮して、目に付いたものは見境なくって感じだな。

 

さあ出ろ、俺の能力!

 

なんだろうな。

 

カッコいいのがいいな。

 

例えば、炎を操り、あいつを丸焦げにするとかな!!

 

「ゲビイイイイイ!!!」

 

「え?」

 

俺は思わず素っ頓狂な声を出した。

 

だって、想像していたものと全く同じようになったからだ。

 

具体的に言えば、両手を差し出すとその間から炎が飛び出し、ドウェスバッファを包み込んだ。

 

感動とか安心とかより驚きの方が大きかった。

 

「ゲビイイィィ……………」

 

ドウェスバッファの断末魔とともにやつの体は灰となり、消えていった。

 

ああ、小さい頃、虫も殺せなかった俺が、あんな大きいやつを殺したのか。

 

なんか複雑だ。

 

「貴様。なんだ?いまの。」

 

女の声がして後ろを振り向くと、女はダガーを持ちながら、驚愕した表情で俺を見詰めていた。

 

足元には薬の空き瓶が転がってる。

 

「答えろ!

なんだって聞いているんだ!?」

 

女はダガーを首の近くへ当てながら俺に聞く。

 

血見るの嫌なら、その癖やめない?

 

「わかりません。

こうできたらいいなって思ったら、炎が出て、あいつを丸焼きに。」

 

その答えを聞いて、女はダガーを納めた。

 

「そうか。

貴様の……能力か。」

 

「能力………。」

 

これが、俺の能力か!

 

炎!

 

単純だが、カッコいいなー!!

 

俺は自分の掌を見詰めた。

 

ここから炎が出せると思うと、いつもより逞しく、そして温かく見えた。

 

「そうだよな。

みな、能力は持ってるんだよな。」

 

俺が密かに喜んでると、女は悲しそうな表情で言った。

 

俺はその言葉の意味がよく分かっていなかった。

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