日替わり能力   作:ココリンク

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ビバ!ビビンニ

うおお、でっけえー!

 

ギルマドンの村から出て、一時間くらい経ったかな。

 

小高い丘を登ると、ビルやら建造物やらが存在感を示すかのように建っていた。

 

なんかよくわかんないけど、大きい建物って興奮するよな。

 

「ふー。あれが、“誰もが知ってる”大都市ビビンニだ。」

 

女は周知なことを強調して言ってきた。

 

なんか腹立つが、もう愛敬だな。

 

「貴様、ビビンニに入る前に、少し口裏を合わせたいことがある。」

 

「口裏を?」

 

なんのことだ?

 

そういえば、都合がいいとか言ってたな。

 

まあ、よくわからない土地で放り出されても困るし、何言われても素直に従うか。

 

「ああ。

あの街はな、ギルマドンの民に対してかなりの嫌悪を示していてな。

基本的に出入りさえも禁止されているんだ。」

 

へえ、結構厳しい街なんだな。

 

どこ行っても田舎もんは干されるものなのかな。

 

「だが、一つ例外があり、ギルマドンでも出入りの許可が下りることもなる。

それは、他の地域の民と“グループ”を結んでいることだ。」

 

はあ、なるほど。

 

わからないっていうことがわかった。

 

……グループってなんだ?

 

「……その顔、貴様、グループも知らないのか?」

 

俺はコクリと頷く。

 

無知ですみません。

 

だが、女もそろそろ慣れたのか、呆れた感じが少し減ってなんか淡々と説明しだした。

 

「グループってのは、ああ、なんて言うんだ。口で説明すんのは難しいな。

とりあえず、そう!証だ!

信頼した人同士の証みたいなもんだ。」

 

へー、証ね。

 

信頼とかそういうのを目に見える形にするのか。

 

なんか、変な感じだな。

 

それで、口裏合わせって何をするんだ?

 

今、そのグループを結ぶのか?

 

「今ので分かったか?」

 

「ええ、ニュアンス程度に。」

 

「そうか。じゃあ本題に入るぞ。

グループってのは簡単に結べるもんじゃなくて、役所で手続きが必要なんだ。

だが、その役所はこのビーウェス域にはビビンニしかない。

それに、グループを結ぶときも結構シビアでな、家族だとか恋人とか、つながりが深くなければならないんだ。

だからだな……その。」

 

女は言葉に詰まり、モジモジしだした。

 

なんなんだよ。

 

いつも通りズバッと言ってくれ。

 

じれったい。

 

「グループ結ぶまで、私の彼氏役を………頼んでくれないか?」

 

「なっ……!」

 

おい!

 

いきなり何言ってんだ!?

 

いや、いきなりじゃないが、初対面でロクに自己紹介をしてないやつに彼氏役って!

 

「おい!なに動揺してやがるんだ!

役だぞ!フリだぞ!

私と貴様なんかじゃ、釣り合うわけねえだろ!バカ!!」

 

うわあ、そういう女もすげえ動揺してんじゃん。

 

めっちゃ赤面してるし、かわいい。

 

そうだよな。

 

こんなかわいい女と、無知な微妙男と釣り合うわけないよな。

 

「んっんん!いいか、フリだからな!

でもちゃんとやるんだぞ。

貴様がヘマしたらなにか被るのは私なんだからな!」

 

はいはい。

 

分かったって。

 

すげえ必死だな。

 

そんなにビビンニの人たちは田舎もんに厳しいのか?

 

「ほら、今のうちに練習しておくぞ。

とりあえず対応は適当に私に合わせればいいが、呼び方だ。

ほら、恋人っぽく呼んでみろ。」

 

ええ……!

 

いきなりそう言われても、名前を教えてもらってないんだが。

 

村のときに、おばさんから言われてた気がするが、なんだっけかな。

 

「ほら、早く言え!

それともなんだ!照れてんのか!」

 

「いえ、そうではなく……。

あのー、お名前聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」

 

俺がそう聞くと女はまた呆れたような目付きで見てくる。

 

いや、これは女の責任だろ!

 

「………そういや、まだ名前言ってなかったな。

私はモニム。ホースィ・モニムだ。」

 

へえー!

 

モニムちゃんか!

 

かわいい名前だ。

 

「はい。わかりました。

モニム……ちゃん。」

 

そう言った途端、女はものすごい形相で喉元にダガーを突き付けてきた。

 

え、ちょっ、言われた通り恋人っぽく言ったじゃん!

 

「貴様!ふざけてるのか!!

モニムはファミリーネームだ!

ファーストネームはホースィ!

どれだけ無知なんだ!!貴様は!」

 

「は、はい。すみません。

ホーシー…………さん」

 

謝ったらとりあえずダガーは納めてくれた。

 

ホントに刃物で脅すのやめてほしい。

 

なんだ、モニムはファミリーネームだったのか。

 

「まあ、そんくらいでいいだろう。

あとホーシーじゃなくてホースィだからな。

それにさんじゃなくてちゃんでいい。

私の方が年下なんだからな。」

 

「は…はい。わかりました。

ホースィ…さ……ちゃん。」

 

なんか、色々めんどくさいな。

 

細かい発音くらいいいだろ。

 

てか、年上って分かった上でこの高圧的態度かよ。

 

俺、もしかして結構なめられてる?

 

 

 

 

そんなこんなで、呼び合う練習しながら俺達は大都市ビビンニに着いた。

 

すげえ。

 

周りは壁に囲まれてるし、その外周には堀のような池がある。

 

まるでお城だ。

 

池には大きな橋が架かっていてそこから入れるようだな。

 

よし、行くか………と思って橋に足をかけたら、ホースィは俺の服を引っ張った。

 

「いいか。貴様は無知だからな。

私に合わせるだけでいい。

絶対に下手な真似はすんじゃねえぞ。」

 

「は、はい。」

 

とりあえず返事はしたが、これでもう何回目だ?

 

どんだけ心配性なんだよ?

 

あと、練習したんだから貴様っていうのやめろ。

 

気が狂う。

 

「じゃあ、行くぞ。」

 

ホースィは俺を後ろに引き、スタスタと歩いていく。

 

前を歩かせたくないってか。

 

プライド高いな。

 

まあでも、道順分かんねえし、こっちのほうが好都合か。

 

 

俺達は橋を渡り、門をくぐり、街の中へ入った。

 

意外とすんなりといけたな。

 

門番とかはいないのか。

 

にしてもすげえ!

 

どこを見ても人!人!人!

 

まるで東京の某所だな。

 

「さて、おい。貴様。」

 

俺が関心してるのにホースィが水をさしてきた。

 

いいだろ別に、都会ってなんかワクワクするじゃんか。

 

「テキトーに人捕まえて、役所までへの道を聞いてこい。」

 

「え?」

 

聞いてこいって………おい!

 

ホースィも知らねえのかよ!

 

「ホースィちゃんが知ってるんじゃないんですか?」

 

つい聞いちまったが、ホースィは俺のこと睨んできた。

 

「知ってるわけねえだろ。私もここに入るのは初めてなんだからよ。」

 

「は、はあ。」

 

そうなのかよ。

 

たしかに言われてみれば、ギルマドンの住人は出入り禁止だったもんな。

 

「おい、そこ!

そこの汚い袋を下げた娘!」

 

 

なんだ?

 

強面のおっさんがこっちに来るぞ。

 

汚い袋を下げた娘って、ホースィのことか?

 

ってことはもうかよ!

 

「もう見つかったか。

仕方ねえ、あいつに聞くぞ。」

 

「ええ、じゃああの人が」

 

「ほら、つべこべ言わずやるぞ。」

 

「……はい。」

 

やっぱりか。

 

うまくできるか心配だ。

 

「君、ギルマドンの民だろ。

ほら、ここは君のようなものが来るとこじゃないよ。

ほら、帰った帰った。」

 

うわあ、すげえいいよう。

 

人権とかあるのか。

 

「もう、ほら〜!

カドくん!言ったでしょ!」

 

やべえ、いらんこと考えてたら不意打ちくらった。

 

計画通りだが、ホースィは俺の腕を両手で掴んで刀屋のおばさんのときのようにめちゃくちゃ猫被りで俺に言う。

 

「グループ結んでなきゃいけないのに、カドくんがそのために行くなら平気平気って言うから!」

 

うう、なんだこれ。

 

次、俺だよな。

 

えっとなんて言うんだっけ。

 

俺は最初、興奮だとか悩殺だとかそういうのかと思ったが、これは違う。

 

性格や印象が違い過ぎて脳が混乱している!

 

「へえ、そうなのか。

えっと、君は……そう、カドワキタケル。」

 

え、なんで俺の名前を!

 

それにホースィのことをギルマドンの民って見破ってたし、なんでだ?

 

「貴様。」

 

痛っ!

 

おお、この女!

 

抓ってきた!

 

しかも小声かつ低い声で言われるのめっちゃ怖え!

 

は、そうだ!

 

セリフ言わなくちゃいけないんだ!

 

「ご……ごめんなぁ〜。ホースイィ……!」

 

あ、やべ。

 

俺、めっちゃ緊張してる。

 

ホースィ!そんな目で見るな!

 

俺が一番わかってる!

 

「もういい。私が交渉する。

貴様はもう喋るな。」

 

は、はい。

 

すみません。

 

「あの〜。私たち〜グループを結びに来たんです。

それで〜役所に行きたいんですが、道がわからないんです。

教えてもらえませんか〜?

ハンサムな保安官さん!」

 

わあ、最初はカワイイって思ったけど、素を知ってるとなんか気持ち悪いな。

 

それに、妙な色気を出そうとしてるし。

 

まだ酒も飲めねえような年だろうが。

 

「あ、ああ。

そうだったのか。こ、これは失礼……。」

 

あ、意外と聞いてるっぽい。

 

「道案内なら、ハンサムな!この俺、ガディヌ・ディスタがする。

縁は切ってるだろうが、一応ギルマドンの民だからな。

野放しにするわけにはいかない。」

 

うわあ、この保安官、結構調子に乗ってる。

 

ってん?

 

縁は切ってる?

 

どういうことだ?

 

「は〜い!ありがとうございま〜す!」

 

ホースィは無邪気に返事して保安官に付いていく。

 

女って怖えな。

 

「貴様、なに突っ立ってる。」

 

呆気に取られている俺に、女は冷徹な顔で言った。

 

女って怖えな。

 

 

保安官に連れられ、俺たちは役所に着いた。

 

いや近え!

 

入口から歩いて1分も経ってねぞ!

 

しかも道、真っ直ぐだったし。

 

「ありがとうございます〜!」

 

「いやいや、保安官として当然のことをしたまで。

このハンサムガイ……ガディヌ・ディスタ、いつでもビーウェス民の味方です。」

 

調子いいこと言ってやがる。

 

ってかビーウェスってなんだ?

 

さっきホースィが言ってたような気がしたが。

 

まあ、また成り行きで教えてくれるか。

 

「さあ、いくぞ。」

 

「はい。」

 

保安官がいなくなったらこれだよ。

 

 

言われるがまま、役所に入った。

 

うわあ、大都市なだけあって綺麗だな。

 

「ほら、貴様からいけ。」

 

「え?」

 

いけってどこに?

 

役所に入ってからは何もリハーサルしてないんだけど。

 

「鈍いな。あそこだよ。

ほら、一番手前のグループ課!

そこへいきゃあいいんだよ!」

 

「は、はい。」

 

そんな怒らなくても………

 

って思ったが、道中結構セクハラ発言されてたからなー。

 

気が立ってても仕方ないか。

 

俺は言われる通り、グループ課のカウンターに向かった。

 

『なにか、御用でしょうか?』

 

うわあ、機械だ!

 

進んでるな!

 

よし、じゃあサクッとグループ登録を………ってなんだ?この文字。

 

「なにグズグズしてんだよ。

簡単だからさっさとやれ!」

 

そう言われてもなあ。

 

「あの、少し聞いてもいいですか?」

 

「ああん!貴様機械音痴か!?

操作がわからないなら、右下のヘルプ押せばできるからそれでやれ!」

 

「いえ、そうじゃなくて。

これら全部、なんて読むんです?」

 

「はっ…!?」

 

ホースィは今までで一番、驚愕した表情で俺を見る。

 

「貴様。今までどう生きてきたんだ?」

 

「すみません。」

 

俺ももうどういう半生送ってきたかわからない。

 

「ほんとうにコイツはなんなんだ?

ステータスもわからない。書き込みも今日。ビビンニを知らなければ文字も読めない。

おまけに出身地や好きな食い物もよくわからんものだし。

はあ。使えるところは無口で逆らわないってとこだけか。

だが、ここまで来た以上こいつとグループ結ばなきゃタコ殴りだからな。」

 

おい、全部聞こえてるぞ!

 

いやまあ確かに、DNAに刻まれてるような事ができなかったり、識字能力ゼロだったりは色々不安になるだろうけどさあ!

 

「貴様、ステータスの出し方は覚えているよな。」

 

「ええ、指をくるっとして……」

 

「わかった。じゃあそれをやれって言うまで貴様は何もせず…!空気のように…!ここに立ってろ…!

いいな…!」

 

「は、はい。」

 

それからホースィは画面とにらめっこしながら、操作しだした。

 

なんかすげえ苛立ってるし、画面叩こうとしてるし。

 

ホースィも機械音痴なのかよ。

 

「なんだよ、このクソマシン!

ほら、さっさとやれ!

ここにだ!画面には触るなよ!」

 

それから10分経ってようやく出番が来た。

 

おお、画面の上でなんか青白く光ってる!

 

どうなってんだ!?

 

「殺されてえか!さっさとやれ!」

 

「は、はい!」

 

関心してたら、画面じゃなくてホースィの癪に障った。

 

俺は急いで光ってるところの手前で指をくるっと回し、指で突いた。

 

ホースィも同じように指で突く。

 

数秒ほどこの状態をキープしていると、画面の表示が変わった。

 

成功か?

 

「どけ、文字が見えない。」

 

「はいー。」

 

「まあ、こんなもんか。

じゃ、これから私と貴様はメンバーだ。」

 

成功っぽいな。

 

ってかメンバーってなんだ?

 

多分あれか、グループが同じ人のことかな。

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

俺は握手を求め、手を差し伸べた。

 

だが、ホースィは叩いてそれを拒む。

 

「誰が貴様なんかと。

それに便宜上、貴様をリーダーにしているが、立場は変わんねえからな。」

 

「はい。……わかりました。」

 

なんか、今になってすげえ利用されてる感が出てきた。

 

もっといい人に見つかりたかったな。

 

 

 

俺とホースィは役所から出た。

 

ホースィ、まだ苛立ってるよ。

 

いつかホントに刺されそう。

 

もう少しこの国のこと詳しくならなきゃな。

 

………でも、字が読めないんじゃだめか。

 

ホースィは教えてくれるだろうが、一々怒られなくちゃいけないのもな。

 

「貴様、じゃあ行くぞ。」

 

「え?」

 

行くって……どこへ?

 

「“え?”じゃねえよ。

ここに来た理由、なんだか覚えているのか?」

 

理由…………。

 

あー!そうだ!

 

俺の言うことが嘘か本当か確かめに来たんだ!

 

そうじゃん!

 

ホースィはまだ俺がからかっているって思っているからあんなに苛ついているのかも!

 

本当って分かれば教えてくれるかも!

 

「はあ……。

貴様といると疲れる。」

 

ホースィはそう吐き捨て、入口方面へ一人で進んでいく。

 

なんか、言い方素っぽかったかも。

 

割と傷付く。

 

てか、道わかるのか?

 

「おい!そこのジャラジャラ音鳴らしている女!!」

 

ん?

 

なんだ?

 

入口方面から逆の方からドスの効いた声が。

 

そして、なんだ?声から逃げるかのように人が押し寄せてくるぞ!

 

ジャラジャラっておい、まさか…!

 

「何シカトしてんだよ!

テメェだ!ツギハギだらけの薄汚れた袋鳴らした女だよ!!こっち向け!コラア!!」

 

うわあ、間違いない、ホースィだ…!

 

もう、申請したじゃないか。

 

「なんだ?私に用か?」

 

ちょっ、おい、反応したらまずいって!

 

「ああ、そうだ。

2回で返事したか……俺も結構人の特徴を捉える力を付けたもんだな。」

 

何言ってんだ………。

 

ってうわあ、あの男がホースィの後ろに立って分かったがでけえ!

 

身長何センチあるんだ!?

 

2m近くあるぞ。

 

あごひげ蓄えて、顔も怖え!

 

俺だったらチビリそうだ。

 

「ナンパなら別のヤツにしな。

今、取り込んでるんでな。」

 

おい、何挑発するようなこと言ってんだ!!

 

お前との身長差は50cmくらいあるんだぞ!

 

穏便に済ませろ!

 

「ナンパ……?

ガハハハハハハ!!

面白い冗談だ!俺がナンパするわけ無いだろ!?

お前みたいな“田舎物”を」

 

「……ッ!」

 

明らかな挑発だ!

 

ホースィはそれに乗ってしまった。

 

胸あたりに納めたダガーを抜き、俺を脅すときのように切っ先を男に向けた。

 

だが、男はビビることはせず、その刃に対し殴ろうとした。

 

刃は男の拳を串刺しに……………っと思った時、

 

「ぐおうら!!」

 

「ぐわッ!」

 

男の拳はホースィの顔面を強打し、殴り倒した。

 

吹っ飛ばされたホースィはよくわからないような表情をしている。

 

あの女、刃が刺さるのを見て、目を瞑っただろう!

 

でも、その光景を見ていた俺にもよく分からなかった。

 

遠くから見ていたからなのか、目の錯覚か分からない。

 

確かに男の拳に刃は刺さっていた。

 

だが、今見るとヤツに傷はない。

 

どうなってるんだ?

 

「俺はなあ。

さっきあそこでギャンブルして来たのさ!

だが、負けちまってよお。

そんでムシャクシャしてんだ!!

そこにお前がどうぞ私を殴ってくださいと言わんばかりに立っていたんだ。

ついてるよなあ。

その運をギャンブルの方に渡せゴラァ!!」

 

さっきの現象もだけど、こいつもなんなんだよ!

 

ホースィは………よかった。

 

出血はしてない。

 

立ち上がってるし、またダガーを向けた。

 

まだ戦えそうだ………っておい!

 

戦うな!逃げろ!

 

てか、野次馬も集まってきたし………。

 

保安官……!さっきと違う人だが止めろよ!

 

喧嘩起きてんだぞ!保安しろ!

 

「はあっ!!」

 

うわ!ホースィのやつ、ダガー持って飛びかかりやがった!

 

「負けん気が強いねえ!

これだからやめられねえな!!」

 

男もまた拳を振り上げて正面から殴ろうとしてる!

 

今度こそしっかり見るんだ。

 

それでまた不可解なことが起きたら引っ張ってでも逃げる!

 

「はあ!!」

 

ホースィと男の距離が5mくらいに縮まったとき、ホースィは折れた刀を取り出し、男の腹目掛けて投げた!

 

奇襲か!

 

なかなかやるな!

 

男はホースィを殴る動作に移っているから防御もできない!

 

そして男は怯むはずだ!

 

そのスキに逃げるぞ!

 

さあ、どうだ!?

 

男の腹に刀が刺さって……………って、え!?

 

すり抜けた!?

 

刀が!?やつの腹をすり抜けたぞ!!

 

「貴様!やったか!?」

 

やったか……?

 

ってまさか、ホースィ!?

 

俺は青褪めた顔でホースィを見た。

 

見るとホースィは手で男の姿を隠し、更には目を瞑っている。

 

バカか!男はもうお前の目の前なんだぞ!!

 

「うおら!!」

 

「ぐは!!」

 

男は無防備なホースィを力一杯殴った。

 

ホースィは10mくらい吹き飛ばされる。

 

野次馬共は歓声を上げている。

 

なんだこいつら、楽しんでるのか?

 

「おいおい、どうした?

さっきの威勢はよお!?

刀ぶん投げて終わりか?」

 

男は嫌味を言いながらホースィに歩み寄る。

 

逆上させてまた返り討ちにするつもりか?

 

どんだけ腕に自信があるんだ。

 

「ほら、かかってこいよ。

それとも何だ?

恐れをなしたか?

糞以下のギルマドン民。」

 

うわあ、やっぱり、ギルマドンの住人だから狙われたのか。

 

酷え人種差別だ。

 

「く………誰が……………お前なんか…………」

 

ホースィはまた立ち上がろうとしている。

 

強打を受けて、目のあたりに紫色の痣ができている。

 

ん?たしか目は手でガードしていたような?

 

まあ今はどうでもいい、ホースィ、目を瞑ったまんまだ。

 

あの女、まだ腹に剣が刺さっていると思ってんのか。

 

教えてやんねえと。

 

ホースィがやられてしまう。

 

教えるんだ。

 

俺は口を開け、ホースィに教えようとした。

 

そうしようと頭の中では思ってた。

 

だが、言葉は出なかった。

 

そうだ、俺はあの男と敵対するのを恐れているんだ。

 

イジメられている人を助けようと思うが、自分もイジメられてしまうかもって心のどこかで思い、躊躇するように。

 

俺は………何もできなかった。

 

「そういやさっき、お前なんか言ったよな?

俺に対してじゃねえ。このギャラリーの誰かにだ。

ギルマドン民が、ビビンニを跋扈してんのはおかしいもんなあ。

誰かメンバーがいるだろ?」

 

ドキ!?

 

やべえ、俺の事だ!

 

俺はつい目をそらしてしまう。

 

いや、確かにここで俺がそのメンバーだって言えばカッコいいが、ホースィでも敵わない俺があんなヤツの相手になるわけがない!

 

「いや、いるわけねえよな!

どうせお前も逃げられたんだろ!

結婚するにしても、冒険するにしてもギルマドン民をメンバーにするのは足枷にしかならねえんだからよお!!」

 

「はあ!!」

 

ちょっ、おい!

 

ホースィがまた飛びかかった!!

 

目は瞑っているが、声から距離を計算したのか、向きはあってる。

 

だが無謀だ!

 

「うおら!!」

 

「ぐわああ!!」

 

男のカウンターパンチがまた、顔面に直撃した。

 

かわいい顔が台無しじゃないか。

 

ホースィは倒れ、鼻血が出ている。

 

もうだめだ。

 

助けてやりたいが、ヤツを倒す力が………………

 

力…?

 

そうだ!力だ!!

 

俺には炎の能力があった!

 

ヤツは今、俺に背中を向けている。

 

そこに一撃くらわせるんだ!

 

そしたらヤツは怯む!

 

そのスキにホースィを抱えて逃げるんだ!

 

やるしかねえ!

 

チャンスは一度切り!

 

いくぞ!!


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