日替わり能力   作:ココリンク

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透過の男

あれから俺たちはすぐに出掛けることにした。

 

モニムは居ても立っても居られないようだったし、朝の方が人通りが少ないからな。

 

家から出るとき、フォーさんは俺たちにドウェスバッファの焼き肉と、回復薬を2つ渡してくれた。

 

それと、血のシミがすっかり取れたモニムの服も。

 

本当にお世話になったな。

 

いつか恩返ししたい。

 

俺たちはフォーさんに礼を言い、路地裏の更に奥を進んでいく。

 

なにせ、この奥に使われなくなった街の出入口があるらしい。

 

俺たちが入った出入口以外はすべて封鎖されてるのだとか。

 

「モニムさん。

その肉、食べないんですか?」

 

「いつ食べても同じだろ。」

 

フォーさんから受け取ったもののうち、俺は回復薬を、モニムは焼き肉を持っている。

 

歩きながら食べるためと思ったが、全然手、つけないな。

 

結構、ぶ厚く切ってあるな。

 

いい茶色してるし、美味そうだなー。

 

「でも、肉ですよね?

早く食べないと腐ってしまうのでは?」

 

「ドウェスバッファの足の肉は日持ちがいいんだ。

覚えてとけ。」

 

「は、はい。」

 

へー。便利だな。

 

じゃあ俺も火の能力を最初に使ったとき、丸焼き程度で止めればよかった。

 

「貴様は喉が渇いても、そこらへんの水感覚で回復薬を飲むんじゃねえぞ。

貴重なもんなんだからな。」

 

「分かってますよ。」

 

そんな大事なものだって、俺だって分かる。

 

実際、効果をこの目で見てるんだし。

 

ってか、せっかく金貰ったんだから薬屋で買えばいいんじゃ。

 

それと折れた剣の代わりとか。

 

「モニムさん。

フォーさんから、お金受け取ったのですから、ここで剣とか薬とか買わないんですか?」

 

俺が言うと、モニムはいつも通り俺を呆れた表情で見てきた。

 

「貴様、馬鹿か?

こんなとこでチンタラしてる暇はねえんだぞ。

本来なら私はロデンの仲間に回収されて、堀に捨てられているところだぞ。

そんな状況で呑気に買い物ができると思うか?」

 

「すみません。そうですね。」

 

確かにそうだ………。

 

頭が回らなかった……。

 

っていうか、モニムはこういうことに関しては頭いいんだな。

 

 

それから少し歩いたところで、道は鉄格子で塞がれていた。

 

ここまでずっと道は曲がらず真っ直ぐ行ってたけど、間違ったのか?

 

「貴様、奥に木箱あるだろ。

あれ、引っ張れるか?」

 

「え?」

 

木箱……?

 

確かに鉄格子の間から見えるが、引っ張って何するんだ?

 

「モタモタするな。やれ!」

 

「は、はい!」

 

俺は取りあえず、真夜中でダガーを引き寄せたようにやろうとする。

 

が、どうしたものか………やり方を忘れた。

 

取りあえず一か八かで、力んでみたり、手招きしたり、綱引きのようにするが、無理だった。

 

「貴様……。

何やってんだ?」

 

やべえ、モニム怒ってる……。

 

えっと……は!そうだ!!

 

できないなら、燃やせばいい!

 

火の能力は何度もできたからやれるはずだ!

 

いけえ!

 

俺は手をかざし、炎を出そうとした。

 

だが、炎はでなかった。

 

あれ、なんで?火の粉一つ起こらない。

 

昨日はできたのに…!?

 

「もういい。私がこじ開ける。」

 

モニムは呆れた様子を見せ、鉄格子へと歩き出す。

 

「モニムさん。待ってください。

もうちょっとだけ。」

 

本当にもうちょっと、多分感覚を忘れてるだけだと思うから。

 

俺はモニムを引き止めようと右手を翳した。

 

「うわ!?」

 

すると、モニムの体が浮かび上がり、俺の右手までまるで磁石のようにくっついた。

 

え、何が起きたの?

 

「貴様。

ふざけるのはいい加減にしろよ。

なに私を引っ張ってんだ。」

 

「す、すみません。」

 

モニムは怒りに満ちた表情で俺に言う。

 

本当に申し訳ない。

 

俺は謝り、力を抜くとモニムの体は右手から離れた。

 

これで引っ張る感覚はわかった気がする。

 

もう一度、今度はあの木箱でやってみよう。

 

俺は木箱に手をかざし、力を込めた。

 

「お!」

 

すると、木箱はカタカタと音を鳴らし、空中へ少しばかり浮くと、勢いよくこちらへ飛んできた。

 

「うお!」

 

鉄格子があるとは言え、怖くて思わず声を出しちまった。

 

木箱は鉄格子にぶつかり、その衝撃で鉄格子に人一人通れるくらいの隙間ができた。

 

すごい荒業だ……。

 

「できるなら最初からやれ。」

 

モニムはそういいながら、そそくさと隙間を通る。

 

そう言われても気付いたのさっきなんだよな。

 

「なにやってる?置いていくぞ。」

 

溜息をつく俺にモニムは催促する。

 

ホント、早くここから出たいんだな。

 

俺は鉄格子の隙間を通り、モニムの元へ向かおうとした。

 

…………ん?

 

今、なんか後ろから物音が聞こえたような?

 

「貴様!行くぞ!」

 

やべ、モニム、カンカンだ!

 

多分、音は気のせいだな。

 

「すみません。」

 

 

それから俺たちはまた少し歩いた。

 

すると、薄暗い路地の向こうに光が見えた。

 

あれは、出口か?

 

「貴様、行くぞ。」

 

モニムはそう言うと光へと走って行く。

 

「ちょ、モニムさん待ってください。」

 

確かに、嫌なことがあった街だし、すぐに出たいよな。

 

俺たちは路地裏を走り抜け、大きな広場に出た。

 

モニムは足を止め、あたりを確認する。

 

待ち伏せされていないかの確認か?

 

用心深いな。

 

にしてもここ大きいなー!

 

でもなんだか寂しい。

 

昔、使われて広場なのか。

 

封鎖される前は屋台とか出されて盛り上がっていただろうな。

 

「キョロキョロしてないで行くぞ。」

 

モニムはあたりを確認し終えると橋の方へ歩き始める。

 

取りあえず、何もなさそうだ。

 

隠れるようなものもないし、橋の前の左右対称には街灯があるが、あの後ろに隠れることはでき………………

 

ん?

 

なんだ?

 

幻覚か………今、左の街灯が動いたような?

 

「何をしてるんだ?早く行くぞ。」

 

モニムは5mくらい後ろにいる俺に、早く来いと促す。

 

モニムは気付いてない………じゃあ、俺の勘違い?

 

俺はもう一度、動いたと思う街灯を見た。

 

だが、街灯におかしな様子はなかった。

 

なんだ………思い違い………………!

 

では、ない!

 

やっぱりこの街灯動いてる!

 

さっきは左右対称にあったのに、今は左の街灯が少し近付いている!

 

モニムに教えなきゃ!

 

ってやべえ、もう街灯の近くにいる!

 

くっ………言葉で伝えても、モニムは相手にしてくれるのか?

 

いや、今はどっちでもいい!

 

「モニムさん!」

 

危険物から遠ざけるだけだ!

 

俺は叫びながら、能力を使いモニムを引っ張った。

 

「うわ!」

 

「ううぇ……!?」

 

引っ張りながら俺はモニムの驚く声とは違う、素っ頓狂な声の方を見た。

 

うわ!気持ち悪い!

 

街灯に人の顔が浮かび上がり、柱から手が飛び出ていた。

 

化けていたのか?

 

俺はあまりの気持ち悪さで力が抜けていた。

 

すると、引っ張られる途中だったモニムへの力がなくなった。

 

「うわっと。

なんだお前!」

 

モニムは後ろに転びそうになるが、体勢を立て直し、街灯の顔を思い切り蹴飛ばした。

 

「ぎゃひん!」

 

すると、街灯は普通の人間へと戻り、力なく倒れていた。

 

モニム強え……。

 

「やっぱ日雇いじゃだめじゃねえか。

ケチりやがってよお。」

 

突然、どこかから声が聞こえた。

 

俺はその声をききふと身構えていた。

 

モニムを見るとダガーを構え、身構えている。

 

やっぱり、あいつの声だ。

 

どこだ?どこにいやがる。

 

「貴様、もっと寄れ。

はやく、私の方へ。」

 

俺が声の主を探していると、モニムは手招きしながら小声で俺に言った。

 

「ですが。」

 

だけど、近付くのは危険だ。

 

纏めてやられるかもしれない。

 

「何をしている。

あいつは不意打ちはしない。

いずれ姿を現す。

だからこい。」

 

「……………。」

 

俺は取りあえず、モニムに従うことにした。

 

色々疑問は残るが、従わないと絶対モニム折れないだろうし。

 

「ったく、捕えて見世物にしようとしたのによお!

能力の割に雑魚だったじゃねえか!

ギルマドン民になんかやられちまって!

なあーー!!!」

 

「え!?」

 

声の主が姿を現した……………橋の下から!

 

通り抜けたのか!?

 

ってかなんでそんなとこに!?

 

「おいおい!やっぱりあんちゃん、グルだったじゃねえか!?

見捨てたのに仲良しこよしか?」

 

ぐっ………胸に刺さることを。

 

「……気にするな。

貴様。私がなんとか後ろに回る。

そのとき、ダガーを固定しろ。いいな。」

 

「え、あ、はい。」

 

おお、いきなり作戦を。

 

だから近づけと言ったのか。

 

てか、固定……!?

 

道中試したが、俺は引き寄せることしかできねえぞ……!

 

いや、でももしかしたらできるかも。

 

それにしてもなぜ、あいつが………ロデンがこんなところにいるんだ?

 

いつ見付かったんだよ?

 

まさか、あのときの物音か?

 

それからつけて来たのかよ!

 

「田舎者!

逃げ切れたと思ったか?

残念だね!さっきの鉄格子にはセンサーがかかってんだよ!

それから…………おっと、その先を言うのは契約違反か………。

とにかく!お前が持ってた金はすぐにすわれちまったし、薬は全部吐き気どめじゃねえか!

旅行でも行く気だったか?

夢見てんじゃねえよ!!」

 

くっ………ホント、ムカつく奴だ!

 

とっちめてやりてえ!

 

この街の英雄だかなんだか知らねえが、そこまで卑下していい理由にはならねえぞ!

 

「貴様。感情的になるなよ。」

 

俺の怒りが通じたのか、モニムはそう言った。

 

だが、モニムの声はいつもより冷たかった。

 

モニムも、静かに怒ってるんだ。

 

「田舎者。

お前の身体能力には驚いた。

お仲間さんの声と同時に後ろに引くなんてよお!」

 

………!これって、まだ俺の能力に気付いていない!

 

モニムも同じことを思ったのか、俺と顔を見合わせる。

 

「チャンスがあればいつでもいけ。

強気でいいぞ。」

 

「はい。」

 

作戦は決まった。

 

後は、成功するかどうか。

 

だが、なぜロデンはべちゃくちゃ言って攻撃してこないんだ?

 

動いてくれないと、後ろは橋だから挟み撃ちができねえじゃないか!

 

「なあ、お前ら。

仲間ってのは強いほうがいいぜ。

使えねえやつは逆に迷惑だからな。

こいつのように!!」

 

「……!!」

 

酷え……!

 

ロデンのやつ、あの街灯の男を堀に投げやがった!

 

いくらなんでもあの仕打ちは……!!

 

「はああ!!」

 

ってモニム!!

 

感情的になるなって言っておきながら、あの女!

 

焼き肉の袋を投げ捨て、ロデンに対して走り出しやがった!

 

「なんだ、田舎者!

あんなやつのために怒るのか?

お前も無能だから、感情移入ってか!」

 

ロデンは昨日のように拳で向かい打とうとしている。

 

そして、昨日ように拳とダガーが交わ………らない!

 

モニムはダガーを向けてない!

 

「なに!?」

 

ロデンは咄嗟に体を透過し、モニムはそこを通過し、顔めがけてダガーを投げた。

 

しかし、ロデンは全身を透過しているから効いてない。

 

いや、チャンスってこれかよ!

 

何か合図送れ!

 

俺は喉元で引っ張ると解除を連続でやって、固定してる風にするしかねえ!

 

街灯の男が、アハ体験の画像のように徐々に移動したようにするしかねえ!

 

くそ!早く透過を解除しやがれ!

 

「お前!なにをして……………ぐっ…!」

 

よし!刺さった!透過を解除した………………はずだ……。

 

「ぐっ…………うう。危ねえことするじゃねえの?」

 

それなのに、やつはほぼ無傷だ。

 

いや、解除したと俺が思い込んだだけかもしれない。

 

刺さったと思って、引き寄せを解除したダガーは落下し、あろうことかロデンが掴んでしまった。

 

自身の透過した腹の中に、手を突っ込んで!

 

「貴様!どうなってる!?」

 

は!そうだ!モニム!

 

モニムはまだダガーが刺さってると思ってる!

 

今度は早く言うんだ!

 

「いいえ、すみません!

失敗しました!」

 

「っな!

そんな!?」

 

そう言いながら、モニムが顔を上げた瞬間、

 

「うおら!!」

 

「ぐっ………うぐッ!!」

 

ロデンはモニムの腹を殴り、そのまま拳をあてながら振り回して、出てきた路地裏の方の建物へ凄い勢いでふっ飛ばした。

 

「モニムさん!」

 

モニムは壁から地面へと倒れる。

 

俺は急いで、モニムの元へ向かった。

 

「ぐっ………う………。」

 

大丈夫だ。まだ意識はある。

 

だが弾丸のようなスピードで建物に叩きつけられたんだ。

 

戦うのはもう無理なんじゃないか。

 

………取りあえず、回復薬を飲ませよう。

 

血は出てない。目を開けても大丈夫だ。

 

「モニムさん。

目……開けれます?

これ、回復薬です。意識があるうちに。」

 

「…………いらねえよ。」

 

モニムはそう言いながら、立ち上がろうとしている。

 

いらないって………そんな体で……。

 

ボロボロなんだぞ。

 

「モニムさん。無理しないでください!

ここは俺がなんとかします!」

 

「へえ?なんとかする?

あんちゃんが?」

 

「…………!」

 

後ろから嫌な声が聞こえた。

 

真後ろに、俺に影法師をさして。

 

ロデンが来ていた!

 

「ずいぶんとなめられたもんだな!」

 

ロデンは腕を振り上げ、俺かモニムかを殴ろうとしている。

 

やばい、なんとか…………は!あれは!

 

看板!よくカフェの入口にあるようなチョークでメニューが書かれているあの看板!

 

あの距離なら!

 

俺は咄嗟に手を伸ばし、遠くにあるスタンド看板を引き寄せる。

 

それを当てるんだ!

 

たぶん木製だが、距離が付いてるぶん威力はある!

 

「ん?うおら!!」

 

ロデンは看板に気付いてしまい、振り上げた拳で殴り、真っ二つに折ってしまった。

 

ちっ!だが、これでもいい!

 

俺は手を伸ばし、看板の下半分を引き寄せる。

 

そして、俺の少し手前で引き寄せを解除し、わざと俺の体にぶつけた。

 

「ぐわ……!」

 

「うう……。」

 

その勢いで、俺とモニムは少し吹き飛ぶ。

 

やっぱ痛え………。

 

だが、少し強引だが、成功だ。

 

距離は取れた!

 

「なんだ………風か!?

だめだよ〜あんちゃん!!

気をつけなきゃ!」

 

ロデンは威圧する声を出しながら俺たちの方へ向く。

 

よし、背中を向けたな。

 

俺は手を伸ばし、真っ二つにしたときに出た、鋭い木片を引き寄せる。

 

ダガーは失敗したが、これでどうだ!

 

木片はロデンへと迫り、そして………………

 

貫通……いや、通過してしまった……!!

 

「なに……ぐっ……!」

 

俺は咄嗟の対処ができず、木片は右手の掌に刺さってしまう。

 

俺は咄嗟に引き抜き、そこから血が出てきた。

 

すげえ痛え。

 

「おっと、あんちゃん。

不幸だな。燃やせばよかったのによお。」

 

くっ……………だめだ。

 

勝てねえ。

 

あの能力……強すぎる………!

 

「貴様、ダガーだ。

そいつを引っ張れ。」

 

俺が諦めかけたとき、モニムが言った。

 

「え?」

 

俺は振り向くと、モニムは立っていた。

 

内臓が破裂していてとおかしくないくらいの衝撃を受けながらも、モニムは立っていたんだ。

 

普通なら無理するなとか言ってとめるだろう。

 

だが、俺はこのとき、なにも言わず頷いた。

 

なぜなら、モニムは諦めていないからだ。

 

強すぎる能力に絶望するしかないのに、モニムの瞳は明るく輝いていた。

 

俺はその輝きにすべてを託す。

 

「そいつをよこせ!」

 

俺はロデンに叫びながら血が垂れる手を前に伸ばし、引き寄せる。

 

「………?なんだ?

ダガーが、俺の手から…………!」

 

ダガーはロデンの手から上へ上へと抜けていく。

 

が、しかし。

 

「ちっ!逃げんじゃねえ!」

 

ロデンはダガーをしっかり握り締めてしまう。

 

筋肉隆々のヤツの力は強く、引き寄せてはいるが、びくともしない。

 

「なあ、あんちゃん。

これやってんのあんちゃんか?」

 

「…………!」

 

やべえ、勘付かれた!

 

それに、能力を使い続けるのもパワーがいる………。

 

もう、体力が…………。

 

「どうなってるか知らねえが、やっぱりあんちゃんの仕業だろ?

汗が凄いぜ。疲れてるよな。

疲れるとパワーが落ちるよなあ。

ほれ、指3本でも支えられるぞ。」

 

そう言ってロデンは俺を馬鹿にするように人差し指から薬指までの3本でダガーを抑える。

 

くそ!それでも無理だ………。

 

なんとか………なんとかしなければ…………。

 

「頑張っても無駄なんだよ!

この俺の無敵の力に敵うものはいないんだからな!

ガーハッハッハッハ!!」

 

ロデンは高笑いし、俺を嘲る。

 

そうだよな。無駄だよな。

 

俺一人だけじゃ。

 

「はあっ!!」

 

「イテッ……!」

 

油断しているロデンに、モニムはダガーを掴む手に強烈なキックをお見舞いした。

 

そうさ!もともと俺の力でダガーを取り返すのが目的じゃない!

 

奴はダガーを放さないように握っていなくちゃいけない!

 

だからその握る手は否が応でも実体化させなくてはいけない!

 

だから確実に、そこに攻撃は届くんだ!

 

よし、ロデンの手からダガーが離れた!

 

「はあ!!」

 

モニムはダガーを取り返し、間髪入れずロデンを切りつけ……………

 

「なっ…!?」

 

られない!

 

ロデンが反応できる前に、手を切りつけたはずなのに………もう透過させていた!

 

「ちっ!田舎者があッ!!」

 

「ぐわぁっ!!」

 

ロデンは怒りに満ちた表情でダガーをモニムから強引に奪い、そしてモニムの体を切り付けた。

 

「うっ…………ぐ……………ぐはッ………!!」

 

モニムは膝を付き、着地はできたが、力が入らないのか立ち上がることはできない。

 

モニムの体から血が流れる。

 

血も吐き出し、それを見たモニムの顔は真っ青になった。

 

やばい!吐く!

 

そうなると吐き気止めもないし、完全に無防備になってしまう!

 

「モニムさん!」

 

俺は手を伸ばし、モニムを引き寄せようとした。

 

だが、

 

「おっと!あんちゃん……。

まだ終わってねえんだよ。」

 

ロデンはモニムの腕を掴み、それを阻止する。

 

ちくしょう、なら……!アイツごと!!

 

俺はロデンごと引き寄せようとしたが、ロデンの体は重くビクともしない。

 

「あんちゃん!!邪魔しないでくれるかな!?」

 

「がはっ……!」

 

ロデンが俺に殴りかかろうとしたとき、モニムはついに吐いてしまった。

 

だが、ただ普通に吐いただけじゃない。

 

自分の腕を掴む、ロデンに対して吐いたんだ。

 

「おわ!何してやがんだ!コイツ!!」

 

しかし、やはりロデンは超スピードで反応し、腕を透過させ、吐瀉物にかかるのを阻止した。

 

そして、怒りに満ちた表情でモニムを片手で橋の方向へぶん投げる。

 

「いやっ!!」

 

「モニムさん!」

 

モニムの悲鳴と共に、吐瀉物と血液が地面を濡らす。

 

俺は回復薬を飲ませるためモニムを引き寄せようとしたが、

 

「うッ………!!」

 

「……………!!?」

 

ロデンは………トドメとばかりにダガーをモニムへ投げ、ダガーは腹へとぶっ刺さった。

 

俺はその光景を見て、言葉を失った。

 

あまりにも惨い。

 

今の俺には………それしか言えない……。

 

ただただ幸せが欲しいだけの10代の女の子の未来が、こんな……人を差別し暴力を振るうおっさんに奪われていいはずがない……!!

 

惨い………惨すぎる………。

 

「あの田舎者……!

この俺を足蹴にするだけじゃ飽き足らず、汚物をかけようとするとはな!!

本当なら生け捕りにしようとしたが、死んで当然の奴だ!」

 

「…………………。」

 

「そういりゃあ、さっき投げたとき金の音がしたな。

俺への慰謝料だ。貰っといてやるか。」

 

「………………………。」

 

「野蛮なギルマドン民め。

地獄で一生贖罪してろ。

生きてきたことにな!」

 

「おい!

このギャンブルクソ野郎!!」

 

「ああ、あんちゃん?

なんだって………?」

 

「ギャンブルクソ野郎って言ったんだよ!!!!」

 

俺の中で、何かが切れた。

 

俺は手を伸ばし、ロデンにかざす。

 

「………!!なに!?」

 

すると、ロデンはすこし浮き、俺に引っ張られた。

 

俺は咄嗟にさっき手に刺さった木片を拾い、それを構えて向かい打つ。

 

「くっ!!ざけんな!!」

 

ロデンも俺の引き寄せる力を利用するつもりなのか、いつでも殴れる体勢で構える。

 

「ぬわっ!」

 

それを見た俺は咄嗟に引き寄せを解除し、木片を持って、ロデンへ走る。

 

ロデンは急な停止に対応できずに転びやがった。

 

そこへ木片を突き刺そうとした。

 

「無駄だ!」

 

が、ロデンは体を透過させる。

 

だが、それは想定内。

 

俺はそのままロデンをスルーし、木片を後ろへ投げ、モニムの方へ走る。

 

まだ死んだとは限らない、薬を飲ませれば、なんとかなるかもしれねえ!

 

いや、なんとかする!

 

俺は左手に薬を取り出した。

 

「ちッ!そいつが狙いかッ!!」

 

「ぐっ!!」

 

ロデンはそれを見逃さなかったか、木片を俺へと投げ、左手に刺した。

 

引き寄せるのに使えればと思ったが、失敗だったか……!

 

痛みで俺は、薬を放してしまう。

 

ガラスでできた薬のビンは割れ、中の液体が溢れる。

 

ちっ、だが、薬はもう一つある。

 

それを飲ませれば!

 

そう思ったとき。

 

「…………………ッ!?」

 

俺の後頭部に、なにか硬いものがあたった。

 

衝撃で俺は転ぶように前へ倒れてしまう。

 

幸い、何かが割れる感覚はなかった。

 

「あんちゃん。あんちゃんだけは許してやろうと思ったが、少し気が変わったぜ。」

 

後ろから怒気のこもったロデンの声が聞こえる。

 

ちくしょう、あと少しなのに……。

 

俺は立ち上がり、走り出そうとした。

 

そのとき、大きな手が俺の頭を掴んだ。

 

「おっと、いかせねえよ!

あんちゃんも昨日、俺の手に攻撃したよな?

そのつけがまだ残ってんだよ!」

 

「ぐわ!」

 

ロデンはそう言いながら、俺を建物の方へ飛ばす。

 

俺は建物へと打ち付けられる。

 

すげえ、痛え。

 

背中がおかしくなりそうだ……。

 

「あんちゃん!安心しな!

この田舎者の息の根を完全に止めたことを確認したら、同じところに連れてってやるよ!!」

 

ロデンはそう言いながら、足音を立てながらモニムへと近づく。

 

もう、だめなのか………。

 

………………いや、だめじゃない。

 

さっき、割れたガラスの破片との直線上に、ロデンがちょうど重なっていた。

 

俺は手を伸ばし、大きなガラス片を一枚引き寄せる。

 

一枚が限界だった。

 

「…………?あんちゃん!!

それほど死にたいようだね!!」

 

しかし、ロデンはまた体を透過させ、ガラスはすり抜け、地面へと落ちてしまった。

 

くそっ………しょせん悪あがきにしかならないのか?

 

「これ以上、体力使いたくねえしよお!

あんちゃんを先に始末するしかねえなあ!!」

 

ロデンはそう言いながら、俺に向かって歩いてくる。

 

ふっ………なんだ。

 

俺……もう死ぬのか。

 

1日とちょっとしかいれなかったけど、この世界……楽しかったな。

 

…………………!

 

そのとき、俺は目の前の光景を疑った。

 

モニムが……………モニムの手がピクリと動いた。

 

顔も上げた………俺の方を見ている。

 

なにか伝えたいようだ。

 

手………この動き、俺の能力…………。

 

……そんなこと言っても、能力を使う体力は……………。

 

体力……?

 

そういりゃ、ロデンは言っていた、“体力を使わせるな”と!

 

まさか!ふっ…………これが正真正銘、最後の悪あがきか………。

 

失敗したら死ぬんだ………やるだけやってやる!!

 

俺は最後の力を振り絞り、手を伸ばし、ガラス片を引き寄せる。

 

「あんちゃん!

まだ抵抗するのか!?

俺、分かってるんだぜ?あんちゃんが手を伸ばせば何か飛んで来るってことはよお!

ほら、こんな風に………?」

 

ロデンは目の前に何かが通らないのを不思議に思ったのか、怪しそうに後ろを振り返り、その後俺を見た。

 

「なんだよ……?はったりか……?

………………ぐほ………ぐっ………!!

なんだ、こいつあ!!」

 

よし、一瞬あいつは解除した。

 

そのときに俺が何をしたかわかったはずだ。

 

「あんちゃん!俺の体の中で固定しやがってるな!?」

 

そのとおりだ。

 

今ので、やつの内臓のどこかを傷付けたはずだ。

 

さあ、どう出る?

 

「ふっ!あんちゃんいま、俺の体のどこかを傷付けたと思っただろう?」

 

…………え?

 

………………!そういえば、最初のとき!

 

喉にダガーが刺さったとき、無傷だった!

 

まさか!

 

「ガハハ!!

能力ってのは才能なんだぜ?

天から授かった、生まれ持った能力だ!!

だから影響がない程度にほんのちょっと刺激を受けた程度で、勝手に能力が発現してくれるんだよ!!」

 

チッ!!

 

やっぱそういうことか!

 

反射行動……………熱いやかんに手を触れたときに思わず手を引っ込めるように、能力が出るのか…………。

 

「ガハハッ!!

そうかそうか、狙ってたのに残念だったな!!

いいだろう。あんちゃんはギルマドン民じゃねえからな!!

その固定したり引っ張ったりする能力を疲れきるまでやれよ!!

昨日のように炎を出してもいいんだぞ?

特別にきれいな最期をおくらせてやるよ!!」

 

ロデンは大笑いし、俺にそう言う。

 

能力によっぽど自信があるみたいだな。

 

いいだろう、限界までやってやるよ!!

 

「フン!と言いつつも、疲れるからやめた…………ん?」

 

ロデンは移動しようとしたが、気づいたようだ。

 

俺が仕掛けた罠に。

 

「あんちゃん。やるね。

包囲網か?」

 

「ああ。ガラスの小さな破片を俺を中心とした半円のように横にズラッと繋げた。

これでお前は俺に近付けない。

お前はすでに体力比べをする運命だったんだよ!」

 

よし、言ってやった。

 

これでどうだ。やつの性格上………

 

「ガハハ!いいだろう!

ギャンブルは好きだぜ!

チップはそれぞれの魂ってか!?」

 

乗った!あとは俺の体力次第……!

 

もう結構体力ギリギリだが、踏ん張るんだ…!

 

引き寄せ、解除、引き寄せ、解除。

 

それだけだ。

 

それだけをやれば、勝てる!

 

許すことができないあいつに……!

 

「おい………あんちゃん……。

あんちゃんのガラス片………少し俺の腹から出てきてるぞ……?」

 

…………!

 

しまった。

 

ガラスは完全に固定できるわけではない。

 

少しずつ俺の方へ引き寄せられているんだ。

 

このままじゃ、無意味になる……!

 

これで終わりかよ………!

 

そう思った瞬間、

 

俺の体力はつき、引き寄せていたガラスは一斉に地面へと落ちた。

 

俺は希望にすがり手を伸ばす。

 

「終わりだな…………。

じゃあ……死ね………!」

 

しかし、ロデンは拳を振り上げ、俺を殴ろうとした。

 

そのときだ。

 

「死ぬのはテメエだ……………!!」

 

「ッ…………!!

なに………!?」

 

ロデンの後ろから、モニムがダガーで刺した。

 

俺が引き寄せたんだ。

 

「くそ!だが無駄だ!

透過………………できない!?」

 

ロデンは体を透過し、切り抜けようとしたが、無理なようで焦りの表情が見えた。

 

「お前の能力は強え。

だがな、能力ってのは体力がいるんだ。

いくらそんなに筋肉つくくらいトレーニングして体力つけても、透過を何度も長時間できるはずがない!」

 

モニムが力強い声と目付きで言う。

 

出血がひどいはずなのに、よほど怒ってるんだろうな。

 

「この田舎者があ!!

…………!?なに!!?」

 

ロデンは腕を後ろに回して、モニムを殴ろうとしたが、腕が動かず、困惑している。

 

俺が腕を引き寄せているから。

 

俺もモニムと同じだ。

 

怒っている。

 

「俺は体力が限界になったから止めたんじゃない。

モニムのサインがあったから止めたんだ。

お前の邪魔はさせねえよ!」

 

本当はすげえキツかったが、ヤツが悔しがるならそれでいい。

 

「バカな!!俺の能力は最強のはずだ!!

こんな………こんな田舎者とあんちゃんなんかに……!!」

 

「お前はその能力を過信し、慢心した。

それがお前の敗因だ。

これまでお前が殺した人………そしてその家族の分

“地獄で一生贖罪してろ”。」

 

モニムは冷酷な声でそう言いながら、ダガーでロデンの体をえぐり、切り裂いた。

 

モニムは横顔に返り血を浴びながら背中を向け、いつものことを聞く。

 

「貴様。やったか?」

 

俺はあまり見たくない感じがするエグく深い傷を見て、モニムの赤く染まった背中を見ながら言った。

 

「ええ。やりました。

俺たちの勝利です。」

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