勝ったんだ……。
俺ら……勝ったんだ……。
深く抉られた背中から血を流し、地面へと倒れ伏す、2m近くある巨漢を見ながら、俺は思った。
まだ意識はあるみたいだが、いずれ死ぬだろう。
しかし不思議と、罪悪感はなかった。
多分、怒りのせいだろう。
希望の光が見え始めた少女を鬱憤晴らしのために利用したことへのな。
「貴様、回復薬をくれ。」
そう思っていると、モニムは俺に背中を向けたままそう言い、真っ直ぐ手を伸ばした。
………。あの女、目を瞑ったままで俺の位置分かってないな。
いやまあ、返り血も浴びてるだろうしそうするしかないだろうから仕方ないか。
「モニムさん。こっちですよ。」
俺はそう言いながら、袋から回復薬を取り出してモニムへと歩み寄る。
「分かってる。
なるべく動きたくない。貴様の方から回り込め。」
「わかりました。」
確かに怪我人だし、動かない方がいいか。
俺もそうだけど、モニムのよりかは全然マシだ。
てかホントに分かってたのか?
モニムのことだから、屁理屈いって誤魔化したんだろうな。
俺はそう思いながら回り込み、モニムの前に立った。
「はい、回復薬です。
蓋、開けますか?」
「ああ。頼む。」
俺はビンの蓋を開けようとしたが、スゲエ固え。
それにさっきの戦いでの疲れと右掌と左手の手関節後面あたりが怪我してるから力が入らねえ。
「うぐぐッ!」
裾を使って、痛みを我慢し、ようやく開けられた。
ああ、固かった……。
今度からは手を怪我しないように慎重に行動しよ。
俺は開けるときにビンについてしまった血を拭き取り、ビンをモニムに渡した。
モニムは縁にやわらかそうな唇を当て、回復薬を飲もうとしたが、何を思ったかやめてしまった。
そして、まだ薬が一杯入ったビンを俺に押し付けようとした。
「貴様が飲め。
薬は一つしかないんだ。」
「え?」
なぜ急にそんなことを?
この女、自分の体のこと分かってんのか?
腹を殴られたり、壁に投げられたり、体切られたり全身ボロボロじゃねえかよ。
こうして立っているのが不思議なくらいに。
「いえ、モニムさんが飲んでくださいよ。
もう口付けたじゃないですか。」
「飲まなくても平気だ。」
「平気って………モニムさんの方が重症なんですよ?」
「私は平気だ。
貴様の方が能力使って疲れてるんだろ?」
モニムは平気平気の一点張りで引こうとしない。
目を瞑って視界の中、手で俺を探って押し付けようとしてくる。
確かに疲れてるけども、全身血塗れの少女の前で、大人の男がじゃあ頂きますってできると思うか?
さすがに無理だろ。
「……………貴様。
私……目を開けていいか?」
「はい?」
「だから、目を開けていいかって聞いてんだ。」
?
いきなりまた何を。
「少し待って下さい。」
とりあえず、モニムの視線の先に血がないか確認する。
俺の体は……さっきの右手と左手くらいだけだな。
モニムは………うん、首の下からは真っ赤だ………。
しかも吐瀉物も少しかかってんじゃねえか。
後で着替えさせねえと体に悪いんじゃ。
「待ったぞ。いいか?」
確認している途中なのに、モニムはそう言って目を開けようとした。
短気な女だ……!
「ちょっと待って下さい……。
まだ左頬に。」
俺は慌ててモニムを止めて、ハンカチで左頬の多分ロデンの返り血を拭き取る。
うげえ、なんか肉片みたいなのあったぞ。
俺もちょっと吐きそう。
「取れたか?」
「ええ、完全ではないですが……。
あと、モニムさんの首から下は見ないでくださいよ。」
「ああ。」
モニムは空返事のように言うと、ゆっくりと恐る恐る目を開いた。
こうして見るとキレイな目をしてるな。
そう思っていると、モニムはさっきまで俺に押し付けようとしていた回復薬を、飲み始めた。
姿を見て俺の怪我が大したことないってことがわかったのかな?
これでモニムは助かるんだな。
体のいたる所が痛いけど、モニムが無事ならそれでいい。
「なにニヤついてんだよ。
ほら、貴様も飲め。」
「え?」
俺は呆気に取られた表情でモニムを見て、それからビンを見た。
ビンの中にはまだ半分くらい薬が残っていた。
「いいえ。
モニムさん、全部飲んでいいんですよ。」
「全部飲むかどうか決まるのは私だ。」
「ですが、半分だけって………その、中途半端に回復することになるのでは?」
「…………確かに、貴様が言う通り完璧に治るってわけではない。」
ほら、そうじゃん。
だから、モニムが全部飲めばいいって。
俺は明日になれば新たな能力使えるからそれで回復すりゃあいいしさ。
今、まだ朝の7時だけど。
「貴様。約束したよな。」
「何をです?」
いきなりなんだ?
なんか回復薬で約束したようなことあったっけ?
水筒の水感覚で飲むなくらいしか言われてないような。
「何をじゃねえよ。
願いを叶える手伝いをするって。
貴様が言ったことだろ。」
「………?
ええ、ですから、その願いの主であるモニムさんが飲むべきでは。」
「……………はあ、ホントに貴様は察しが悪いやつだな。」
え?なに?
また呆れられてる。
察しって?
何を察しろと?
「これは“契り”だ。
貴様はナライ・フォーさんの話を聞いても結局よくわからない。
だが、まあ……なんだ、その………少しくらいは役に立つからな。意外と勇気だけはあるし。
……だからほら、飲め。」
モニムはちょっと照れくさそうに顔をそらしながら言った。
「モニムさん。」
俺は気付くとモニムからビンを受け取っていた。
なんかよくわからないけど、仲間として認めてもらえた。
そんな気がする。
……契りか。
杯を交わすみたいでかっこいいな。
一度やってみたかったんだよな。
「じゃあ、いただきます。」
俺はそう言うと、ビンの中の薬を飲んだ。
飲んでる途中で、間接キスじゃないかと思ったが、ムードに合わないため、早急に振り払った。
ただ、この薬結構苦いな……。
飲み切った後も口に苦味が残る……。
飲み物なのに粉薬を飲んでいるようだ……。
「ありがとうございます。」
「礼はいらん。
あと、瓶はまた袋に入れておけ。
よくわからない能力から足がつくかもしれないからな。」
「はい。」
俺は言われる通りに空瓶を袋に入れた。
そのとき、その腕の動作が飲む前よりスムーズに感じた。
良薬口に苦しとは正にこのことだな。
こんなに早く効果が出るとは……この世界凄いな。
「ほら、行くぞ。
早くいかないと面倒くさいことになりそうだ。」
「面倒くさいこととは?」
俺が質問する前に、モニムはもう橋を速歩きで歩き始めていた。
本当にせっかちな女だな。
まあでも、歩行速度もいつも通りだし、足を引きずる感じもないし、モニムも回復できたんだな。
「ロデンにはまだ仲間がいるはずだ。
アイツは性格はどうしようもねえクズだが、能力は強いからな。
普通なら、すでに私達を片付けて連絡寄越しているような時間だし、異変を感じてここに来るかもしれない。」
「仲間……ですか?」
仲間?
あいつがか。
あの自分以外の生物すべてを見下しているようなやつが?
「ああ。アイツはあの街灯に化けていた男に対し、アイツじゃない誰かが雇った風な口だった。その雇い主もどうせ金の付き合いだろうがよ。
そんくらいしか確証はねえが、ビビンニから出るに越したことはない。」
「なるほど。」
確かに、そんなこと言ってたような。
まあでも、どんな理由つけてもここからは出たいよな。
ナライさんのようにいい人はいるけど、なんか嫌なところだったしな。
その後、俺たちは橋を超え、草原を進んで行った。
道中、特にこれといったことはなく、モニムも口を利くような感じじゃなかった。
気まずくはないが、認められたと思ってたから少し寂しいな。
ビビンニから出て30分くらいした頃、行商人の店が見えた。
まあ、店と言っても荷台になにか布みたいなのが入っていて前に立て看板が立っているだけの簡素なやつだけど。
「貴様、少し寄るぞ。」
「あそこに……ですか?」
「……他になにがある?」
いや、そうだけど……一応。
見るとあそこは服屋のようだな。
やっとこれで血塗れのモニムの服が着替えられるな。
モニムもずっと首を少し上に向けて疲れてるだろうし。
「おお、お嬢ちゃん。奇抜な格好してるね。
でもそれじゃあウケないよ。」
服屋に少し近づいただけで、店主であろうなんかチャラそうな男性が話しかけてきた。
どこの世界も服屋はそうなんだな。
「ああ、そうだな。私も好きでこんな格好してるんじゃないんだ。
だから少し、見させてもらうぞ。」
モニムは店へ歩きながらふてぶてしく店主に言った。
これはぶりっ子使わないんだな……。
「ええどうぞ。是非堪能してね。
この僕、シミーレ・デエタのコレクションを。」
そう言うと店主--シミーレ・デエタは指で四角を描き、そこに現れた四角い光を拡張し、横に広げた。
それはまるで、空中に浮かぶスクリーンのようだ。
ステータス……じゃないが、それに似たようなものかな。
なんかスゲエ!
本当にワクワクするなこの世界は。
「貴様。ボーッとしてないで貴様も探せ。」
「俺も……ですか?」
「ああ。」
………あ、罵りはなしか。
言われてみれば、服は今着てるのしかないし、買った方がいいかもな。
アイツとの戦いで汚れたしな!
そう思いながら俺はスクリーンを見た。
おお。すげえ。
スクリーンは色々な洋服のデザインが表示されていた。
格好いいものかなカワイイの。
無難なものから奇抜なもの。
何でもありって感じだな。
「検索もできるから、自分の好みにあった服を選んでね。」
「はあ、ありがとうございます。」
検索……これか。
確かにバリエーションもあるからスライドして探すのも大変だしな。
てか、このスクリーンって能力なのか?
それとも商人登録的なことをしたら受けられるようなやつ?
まあ、難しい話はいいか。
「貴様、値段は気にするな。
金はたくさんあるからな。
服もたくさん買った方がいいだろう。
道中何があるか分かんねえし。
そうだな……3着くらいでいいぞ!」
「は、はあ。」
なんか凄い大きい数出しました的な感じで言われたが、3着って………多いか?
いや、モニムの格好………よく見るとほつれてるとこ多かったり、縫ったあともあったりするからな。
モニムにとっては3着でも十分に多いのか。
「貴様。私じゃなくてスクリーンを見ろ。
気が散る。」
「は、はい。すみません。」
そうだな。とりあえずみよう。
値段は気にするなと言われたが一応どのくらいか……………ってなんだこれ。
忘れてた。俺、この世界の文字読めないんだった……。
数字の数え方は同じだから行けると思ったのに、だめじゃないか!
それに文字わからないから検索もできねえ!
ああ、これは詰みだ。
「お兄さん。項垂れちゃってどうしたの?」
膝を付く俺に店主のシミーレが話し掛けてくれた。
さすが服屋の人!
「あの、すみません。
実は………」
いや、ちょっと待て。
そこまで言ってあれだが、文字分からないっていうのメッチャ恥ずい!
この世界の識字率ってどんくらいなんだ!?
低いなら別に大したことはなさそうだが、高かったら大の大人が文字読めないってのは、ちょっとキツイぞこれ!
「貴様、私は選び終わったぞ。
早くしろ。」
はっ!?モニム!ベストタイミング!
「いや、すみませんなんでもないです。」
「そうか、じっくり嗜みなね。」
「はい。」
モニムなら俺が文字読めないって確かわかってたはずだ!
それにもうだいぶ慣れたからモニムになら貶まれても構わないし。
「モニムさん。あの。」
「なんだ。」
「文字読めないので代わりに検索してもらってもいいですか?」
モニムは俺の言葉を聞くと、呆れたような表情をしたあと、俄にスクリーンを操作し同じ赤いシャツを3つ選んだ。
「面倒だからこれでいいな。」
「え、俺の選んだんですか?」
「ああ。文句あるか?」
「……いや、ないです。」
圧に負けてないとはいったが、同じ服って……。
それに無地な赤シャツって……。
いやまあ、血がついてもわかりにくいけどさあ。
もうちょっとバリエーションあってもよくない。
「ズボンは?」
「一つくらいは。」
「あそ。」
モニムはそう言うと、黒い長ズボンを選択した。
ああ、隣のベージュの方がよかったな。
「これでお願いする。」
「はいよ。」
結局決まっちゃったな。
まあ、モニムと一緒にいる限り俺に決定権はないか。
「へえ。どっちも赤いシャツに黒い長ズボンね。
ペアルックにしては地味だけど、そこはお客さんのセンスに任せるよ。
僕は一人一人のセンスを重視したい性格だからね。」
シミーレはそう言うと、荷台から赤と黒の布を取り出した。
そして、その布に手をかざすとハサミとか糸とかがひとりでに動き出して、その場で選んだ洋服を誂え始めた。
すげえ。これも能力か?
………てか、モニムも俺と同じ赤黒なんだ。
年頃なんだし、もっとオシャレしたくはないのかな?
しばらく待った後、頼んだ洋服が完成した。
早速着てみたが、こりゃすごい!
サイズを測ってないのにピッタリだ。
それにとても動きやすい。
「凄いですね。
ピッタリですよ。
見ただけでわかるんですか?」
「そうだね。僕にはその力があるからね。」
俺の質問にシミーレはさも当たり前のように言う。
力……やっぱり能力なのか。
そういえば、能力って軽く明かしていいものなのかな?
そこらへんの基準を知りたい。
ちょっと聞いてみるか。
「あの、差し出がましいようですが、シミーレさんのその……能力っていうのはどのようなものなのですか?」
「僕の能力かい?
今見せた通りさ。
僕の脳内のイメージをスクリーンに投影し、君らお客さんに選んでもらう。
その選んだファッションをそこの荷台の布から作る。
そして僕はみただけで身長や胸、腰、尻のサイズがわかる。
それが僕の能力、“着せ替え”だよ。」
「へえ。ありがとうございます。」
意外とすんなり言ってくれるんだな。
名前みたいなものなのかも。
積極的に自分から明かさないけど、聞かれたらすんなり言える的な。
「おい、そんなやたらに聞くなよ。」
そんなこと考えてると、着替えを終えたモニムが呆れたように言った。
俺はその言葉の意味を尋ねようとしたが、着替えたモニムが結構可愛くて思考が止まってしまった。
なんだよ、格好は俺と同じ赤い服に黒いズボンだけど、そこに黒いスカジャンして、なんかストリート系みたいだな。
髪もショートボブだし、ボーイッシュでかわいい。
「長かったね。
気に入ってくれたかい?」
「ああ。
動きやすけりゃ、それでいい。」
モニムは面倒くさそうな口調で、ダガーの鞘がついたベルトのようなものを胸に巻く。
あまり胸はないな………発展途上か…?
………って俺、何考えてんだ。
「そうか。
僕の芸術は凡人にはわからないからね。
柄はシンプルでも、君たちの体型を考えた………」
「私達、急いでるんだ。
はやく精算を済ませたい。
全部でいくらだ?」
シミーレが自惚れてるように解説しようとしているのを、モニムが睨みながら止めた。
誂ってもらったんだから、もう少し礼儀よくしようよ。
ああいうタイプ苦手なのかな?
「ソーリー。
お嬢ちゃんにはまだ僕の芸術は早かったかな?
お代は金貨10枚でいいよ。」
「金貨…………10枚………。」
モニムは値段を聞いた瞬間、ドキッとした表情をし、金貨が入った袋を開けて、金貨を1枚1枚丁寧に取り出す。
まだこの世界の基準はわからないが、金貨10枚って、凄い価値なんだろうなー、きっと。
だがまあ、俺たちにはナライ・フォーさんから金貨をたくさん貰ったから、十分余裕があった。
「ほら、10枚。
きっちりあるぞ。」
モニムもこれ見よがしに金貨を渡している。
普段使わない大金使って、背伸びしてるみたいでかわいいな。
「ちゃんと10枚。
まいど。
また僕のコレクションが恋しくなったらおいで。」
「…………。」
「……あ……ありがとうございました。」
シミーレはキザにいうが、モニムは無視。
とりあえずお礼はしたが、なんか後味悪いな。
「モニムさん。もっとこう、愛想よくできないんです?」
「貴様こそ、へーコラしすぎだ。
ずっとペコペコ頭下げて、気持わりい。
反吐が出る。」
モニムは俺を睨みながらそう言い、脱いだ服と買った服を別々に入れた紙袋を二つ、俺に押付けた。
本当に今のモニムは機嫌が悪いな。
それに睨んだときのあの目、殺気が立ち過ぎてて怖かったー……。
………しばらくそっとしておくか。
それから1時間くらい経ったかな。
だいぶ歩いたが、まだゴルムにはつかない。
さすがのモニムも疲れたのか、少し休憩することにした。
はあー!やっと休める……。
ほんと、俺も老けたな………まだ20代だけど。
にしても腹減ったな……。
あ、確かモニムがドウェスなんとかの肉を持ってた筈だ…。
モニムは確かあの木の裏にいるはずだ。
ちょっと貰いに行くか。
俺は小腹を満たそうと、木の裏にいるモニムのとこへ向かい、話し掛けようとした。
だが、木に近付いたとき、嫌な予感がした。
なんだ……このニオイ。
吐き気がしそうな………吐き気……!
まさか!
「モニムさん!」
俺はまさかと思い、急いでモニムの様子を確認した。
俺の予感は的中していた。
モニムの顔は真っ青で、唇は白い。
地面にはかなりの量の吐瀉物がまかれていた。
「モニムさん………大丈夫ですか?
いったい何が……?」
「うるせえな……………はあ……。
あっちいってろ………。」
俺は心配して、モニムの背中を擦ろうとしたが、モニムはまた俺を睨み、邪険にあしらう。
だが今回ばかりは下がることはできない。
すごく辛そうじゃないか。
「できません。
俺はモニムさんのメンバーですよ。
こんなに辛そうな姿を見て、放っておくなんて酷いことはできません。」
「だから………はあ………はあ。
うるせえって…………言ってるだろ。
本当に……貴様は…………
うッ…………」
お、おい。
大丈夫かよ……。
いや、大丈夫じゃないよな。
なにか、袋とかあれば………
もう手遅れだろうけどさすがに地面へ直は衛生的に悪すぎる。
気分がよくなっても、ニオイで再発しそうだし。
俺も少し吐き気がするしさ。
「がはっ………………」
ああ、ついに吐いてしまった……。
大丈夫かよ。
これで何回吐いたんだ?
……………って、ん?
モニム……両手になにか持って…………
ってこれ、ダガーとなんかの布………手入れしてたのか。
それでダガーの血を見て、吐き気を……。
「モニムさん、ダガーの手入れくらい、俺がやります。
モニムさんは少し風当たりのいい場所で休んだ方がいいですよ。」
「はぁ………はぁ……………。
くらい……………。
貴様………………………。
“くらい”とはなんだ!!」
「えっ……ちょ、モニムさん…!?」
モニムは怒りに満ちた表情でそういい、ダガーを俺に向けた。
また俺、なんか変なこといったのか?
「貴様はもう何も言うな!
メンバーとはいうが、親しい間柄でもねえただの同行者だ。
無知なんだから、戦い以外では役に立たねえんだから、私の言うことだけを聞いて、あとは突っ立ってさえいりゃあいいんだ!
さっきそう契りを結んだはず…………
うッ………………がはぁっ……………………」
「モニムさん………。」
怒りで興奮したからなのか、モニムはまた嘔吐した。
でも俺は、可哀想だとか心配だとかの感情より怒りの感情の方が強くでていた。
確かに俺はこの世界に関しては無知だし、下手な行動はとりたくない。
それにモニムへの恩はあるが、さすがにもう我慢の限界だ。
身勝手すぎる。
プライドが高く、大切なものを貶されたと勘違いしたと思っても、あそこまで人に暴言を言っていい理由にはならない。
俺は手のひらをダガーに翳し、引き寄せようとした。
「な………なにをする!?」
モニムは抵抗するが、嘔吐で衰弱した体では力が入らず、ダガーは俺の手元へ渡った。
「モニムさん。移動しますよ。
風が当たる場所まで。」
俺はそういいながら、モニムの腕を掴み、引っ張ってでも連れて行こうとした。
「離せ!
貴様!聞いてなかったのか!?
それにダガーも返しやがれ!」
案の定、モニムは抵抗する。
でも俺は引き下がらない。
モニムは思っていたより力が強かったが、弱っていた。
俺は黙ったまま、モニムを風通しの良いところへ連れてきた。
散々騒いでモニムは俺を睨んだまま黙って呼吸を整えている。
「ダガーは返しますよ。
形見なんですよね?」
「……………。」
モニムはうんともすんとも言わない。
うーーん、どうしたものか。
………そうだ、ダガーについている血だけ引き寄せるってのは…………お!できた!
とりあえず、手のひらにつけかないように慎重に引き寄せて………よし、地面へ垂らせたな。
思ってるよりこの能力便利だな。
最初から気付いていれば服を変える必要なかったかもな。
「モニムさん。ほら、ダガーです。
しっかり取ってありますよ。」
俺はキレイに血が取れたダガーを差し出す。
モニムはちらりと見ると、ひったくりのように奪い取った。
モニムはダガーをじっくりと見て、鞘にしまうと、尻目で俺を見た。
「さっきは取り乱してすまなかった。
少し気分がよくなった。先へ進もう。」
モニムはそういうや否やあるき始める。
たしかに顔色はよくなったが、足がすこしふらついていて、歩き方に元気がないような気がする。
なぜああまでして見栄を張るんだ………。
プライドが高いとか性格の範疇を超えている。
「モニムさん。もう少し休みましょう。
まだ治りたてですし、無理しないほうが。」
「……………無理なんかしてねえよ。
それに今ここで休んでたんじゃねえ。
ここから先で戦うかもしれねえからその準備をしてただけだ。」
「戦い?」
戦いって?
なんの。
ここから先は深い森だが、なんかいるのか?
ヤバい民族とか。
「ここから先はゴルムの森だ。
そこいるのは…………」
そこまで言って、モニムは急に座り込んだ。
片手で軽く頭を抑えている。
「モニムさん?大丈夫ですか?」
「ああ…。少しクラっときただけだ。
もう平気だ。」
そういいながらモニムはまた歩き出そうとしている。
やっぱ回復できてねえじゃん。
疲れによる立ち眩みかな。
言っても聞かないし、こうするか。
俺はモニムに向かい手を伸ばした。
「うわ。
………貴様。なんのつもりだ。」
「モニムさん。やっぱりまだ疲れてるんですよね。
もう少し休憩しましょう。」
「……………そうか…。
貴様。意外と体力ないんだな。
いいだろう。貴様が使えないと話にならないからな。
特別に休ませてやる。」
「え………あ、ありがとうございます。」
え………何この流れ?
ツンデレ?
……まあ、休むみたいだし、結果オーライか。
その後俺たちは30分くらい木の陰に何も話さず、ただじっと座ったりドウェスの肉を喰ったりしながら疲れをとっていた。