真・エルフ転生TS ‐エルフチルドレン‐   作:やきなすいため

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第一話 エルフ日記1

 〇月×日

 今日から日記をつけていこうと思う。

 ここで暮らすようになってから早いものでもう二年が過ぎた。

 最初の頃はこの世の全てを呪うような目をして過ごしていたけれど、なんだかんだと言いながらも今日もこうして生きているし、それを考えると自分の適応能力の高さにはあきれを通り越して笑いさえ生まれてくる始末だ。

 

 さて、何故日記を付けようかと思ったのかというと先に書いたようにここで暮らすようになって二年が過ぎたからである。

 この二年の間にはいろいろなことが起きた。

 人は何か問題が起きた時、過去の人間が残してきた記録の中から問題解決の糸口を探すことが多いのは歴史からも証明されている。

 それならもしも今後私のように特殊な事態に巻き込まれたケースが起こったときに、あるいは私自身がまた面倒事に巻き込まれた時、事態の解決を図るための一方策の判断材料の一つになるかもしれないとこうして記録を残しておくことにしたのだ。

 

 ……まあ、私が現在進行形で巻き込まれているこんな特殊な事態は後にも先にもないだろうけど……いや、ないことを祈ろう。

 私がどんな特殊な事態に巻き込まれているのかというと、それを説明するのはいささか難題を極める話なのだが簡潔にまとめるとこうだ。

 

 ある朝、私が気がかりな夢から目覚めた時、自分が深い森の中で一人の見目麗しいエルフに変わってしまっていることに気づいた。

 

 ◆

 

 エルフとは、いわゆる妖精である。

 頭髪以外に目立った体毛が少なく、顔の造形の整った美男美女の姿として描かれることが多く、その特徴的な長く尖った耳は俗に『エルフ耳』という通称で親しまれている。

 線の細い見た目通りに筋力は弱いとされているが弓矢の扱いが上手いとも言われており、必ずしもその限りではないというのが私の見解だ。

 

 さて、先に述べた通り私はエルフである。

 正確に表現するとエルフにされてしまった元人間なのだけれどこの姿に慣れ親しんでしまった今となっては些末なことだ。

 しかし記録として残すのであればどういう経緯で私がエルフにされてしまったのかを正確に記述しなければならないのでここに記すこととする。

 

 

 ちなみにエルフとなった私の姿は例に漏れず金髪碧眼の超絶美少女であることをここに強く主張する。

 

 

 先にも書いたが私はある朝何やらとてつもなく悲惨な悪夢でも見たような気がして、思わずはっと目を覚ましたのだ。

 するとどうだろう。

 周りにはテレビもなく、机もない。自分が横になっているのも寝心地がいいという評判で購入したはずベッドでもなく、地面から好き放題に生え散らかしている草むらだ。

 おかげであの時は体中の節々が痛い気さえしたものだ。

 眠る前に枕元へ置いたはずのスマートフォンも当然存在するわけもなく、周りを見渡しても視界の許す限りに背の高い木が鬱蒼と生い茂っており、どこからどうみても住み慣れた我が家ではなかった。

 というか森だった。

 

 「どこだよここ……」と、思わず言葉が漏れた。

 

 しかしその声は私のものではなかった。

 

 慌ててもう一度周囲を見渡してみたものの、当然周りに誰かがいるわけでもなく、当たり前の話ではあるがその声は私のものだったというわけだ。

 しかしこの時点で私は自分がエルフに変わってしまっているということには露ほども気付いておらず、必死でおーい、と大きな声でいるはずの誰かに向けて声をかけ続けたりしたものだ。

 

 もしもあの時誰か私の姿を見ている者がいれば、その姿は実に滑稽なものとして映っていたことだろう。

 いや、事実滑稽だったはずだ。

 あの後こんな事態を引き起こした悪夢の元凶が私の前に姿を現すのだが、そのとき奴はとても面白いものが見られたとばかりに楽しそうに笑っていたのだから。

 きっとこの時の様子も笑いながら見ていたに違いない。

 実にむかつく話だが今は話を進めることとする。

 

 私はしばらくの間そのいないはずの『誰か』に向けて声をかけ続けていたのだが、何度呼びかけても返事がないことを訝しんだあたりでようやく今の状況がおかしいことに気が付いたのだ。

 

 たしかこの日は長年付き合っていた恋人が自分よりもお似合いの相手と浮気していたことが発覚し、敗北感にまみれながら自棄酒をした、その翌日だったのだ。

 それ故にこの状況も二日酔いのせいで見てしまったたちの悪い夢の続きだと思ってしまっていたのだ。

 

 だがそれも大きな声が頭に響いて目を覚ましたからだろう、だんだんとはっきりと物事が考えられるようになり、私はその場から逃げるように走り出した。

 

 自分が今どこにいるのかもわからず、気が付けば見たこともない森の中にいるなんて事態はどう考えても普通の状況じゃないということくらい二日酔いが抜けきっていない状態の頭でもすぐに理解ができた。

 

 この時私はもしかしたら誘拐されたのかと思ったが、自分をさらって何か得をするようなことはあるだろうかと首を振ってこの考えを否定した。

 私は別に高給取りでもなかっまし、資産家の跡取りというわけでもない。

 財産と呼べるものなど街行く人々と同程度しかないし、身代金を要求されたところで出せるものなどそれほど何もない生活をしている以上、誘拐犯には何のメリットも存在しない。

 

 ではこの状況はいったい何が起きているのだろうか。

 わからないことだらけだった。

 考えられるとすれば後は私怨くらいしか思いつかないが……私は誰かに恨まれるようなことをしていただろうか。

 恨みというのは自分の知らない間に買っているものだし、無自覚に喧嘩でも売っていたことがあるのかもしれない。

 何にせよこのままひとところに留まるのはまずいと、そう考えて走り出したのだ。

 

 十数分か、数十分か。

 あるいはもっと長い間だったのか。

 それなりの距離を走り続けてなお森を抜けだすことも出来ず、ただただ走り続けていると近くから水音が聞こえた。

 

 水音がするということはそこには水の流れ、つまり川がある。

 川のそばには人が集まり、そこには村や町があったりするはずなのだということを昔何かで見たことがあった。

 どれだけ走っても人の姿も見えない山奥であろうと下流へと向かえば人里くらいあるはずだし、ちょうど喉が渇いていたということもあり、私はそこでひとまずの休息をとることにした。

 

 賢明な読者にはすでに理解していると思うが、そのとおりである。

 

 

 私は、ここで、ようやく、自分の姿を確認することになるのだ。

 

 

 水音が聞こえた方へとしばらく進むと予想した通り、綺麗な小川があった。

 これ幸いにとばかりに私は夢中で小川へ駆け寄っていく。

 

 寄生虫だなんだと言ってはいられない。

 人間水分不足で干からびてしまえばどちらにしろ死んでしまうのだと割り切り、岸辺へと膝をつくと手のひらで水をすくって飲もうとした。

 

 そう、ここだ。

 この瞬間に気づいたのだ。

 

 手、小さくない?と。

 

 両手をお椀の形にして水を掬おうとしてようやく自分の手足が縮んでいることに気が付いたのである。

 

 縮んでいるといっても子供のような大きさではなく、あくまで少し小さめの成人女性といった程度のものではある。

 だがそれでも元々成人男性であった私からすれば自分の手がいつも見ているそれよりも小さくなっていたのは一目瞭然だったのだ。

 

 そんな異常事態に思わず首を傾げてしまう。

 そしてちらりと川に映った金髪の超絶美少女の姿を見て更に驚きに目を丸くすることになった。

 

 美少女は私が動くと当然鏡合わせに同じ動きを繰り返し、私が水面に顔を近づけるとあちらも顔を近づけてくる。

 傍から見れば奇行でしかないのだろうがこの時の私は、マジで本気にびっくりして気が動転してしまっていた。

 

 そんな、手を振ったり顔を近づけたり、妙なポーズをとっているときだった。

 

 奴だ。

 奴が現れたのだ。

 

 諸悪の根源。

 悪夢の元凶。

 滅びるべき邪神。

 

 私をこの世界で生きる原因となった自称女神だった。

 

「あっはははははっ! 貴女何してるの? そんなバカみたいな動きして! おっもしろーい!」

 

「だ、だれだっ!?」

 

 振り返るとそこには女がいた。

 見た目だけはエルフとなった自分と同じくらいの、というかそっくりな超絶美少女であったのだが、中身は最低最悪を極めた邪神だ。

 私はこいつをこれまでも、そしてこれからも、金輪際、一度たりとも、絶対に崇めたりはしないだろう。

 

 甲高い声が耳に刺さる。

 聞いているだけで頭が痛くなりそうな高音域だというのに自然と耳に馴染んでしまう不思議な声で女、というか女神は笑っていた。

 

「私? 私は女神。この世界においての絶対なる神であり全ての頂にあるもの。けどそうね、貴女にもわかりやすい、理解できるようにこういったほうがいいかしら。貴女をここへ連れてきたもの。そして貴女の願いを叶えたものよ」

 

 自称女神が口にした内容はこの時私が欲していた情報の全てが的確に示されていたのだが、この時に私はその内容があまりにも衝撃的過ぎて頭が回っていなかった。

 

「……女神とか自分で言っていて胡散臭いと思わないんですか?」

 

 確かにやつからは神秘的なオーラが出ていた。

 なんか宙に浮いていたし、女神と言われれば信じられるような雰囲気をまとっていたのは確かだ。

 けれど状況が状況ゆえにすぐさま信じることができず、思わずそう口にしてしまっていた。

 

 けれど自称女神は特に何ということもなく返事をしてきた。

 

「ええ、別に何も。事実を口にしているだけですもの。貴女は自己紹介をして恥ずかしいと感じたりするかしら」

 

「それは、まあそうだけど……」

 

「そういうことよ。それで、どうかしら。私が与えたその体の調子は。問題なく動いているようで安心したわ」

 

 そう言われて私は改めて自分の体を見た。

 というよりは女神の姿を見たのだ。

 

 理由を先に書き記すと、女神はどうやら自分の姿に似せて私の体を作ったらしい。

 見た目はほぼほぼ同じと言っていいほどそっくりなのだ。

 違いがあるとすれば髪くらいだ。

 私の髪は日の光を浴びると太陽ようにきらきらと黄金色に輝くけれど、女神の髪は透き通った水のように透明で、奥の景色が文字通り透き通るように映し出されていた。

 

 実に奇怪だと思った。

 

 何にせよそんな人外らしい姿を見てしまったからか自称女神の言い分をひとまず信じることとして話を続けた。

 相手が本当に神だというのなら下手なことを言って怒りを買いたくないと思ったからだ。

 

「……俺をここに連れてきたといいましたが、一体何のためにですが」

 

 この頃の私の一人称はまだ俺だった。

 今は理由があって私に直しているけれど。

 私と口にするのも今となってはずいぶん慣れたもんだなとしみじみ感じる。

 

「何のためにって私は貴女の願いを叶えただけよ。代わりに私の願いもかなえてもらうけれど。」

 

「願い? 神様が人に願いを叶えさせるだなんておかしな話ですね」

 

「こればかりは人でないとできないことだから。私にはどうしようもないもの」

 

「……俺は何を願ったんですか」

 

「あら覚えていないの? 絶対に裏切ることのない女の子が欲しいって、貴女口にしていたから貴女を女の子にしてあげたのよ。自分を裏切ることなんてできないでしょう? 善悪問わず自分の行いは自分のものだものね」

 

 そう、この女神はあろうことか失恋のショックで酔っ払った私の言葉をどこかで聞いていたのかそれを願いと受け取り勝手に叶えてしまったのである。

 いい加減にも程がある。

 

「……あの、それ願いというか、ただの愚痴です。それに俺が女の子になりたいわけじゃないので」

 

「あらそうなの? せっかく私と同じ見た目にしてあげたのに」

 

「文句ばかりになって申し訳ないのですが、どうか元の姿に戻して、元の場所へと戻してもらえないでしょうか」

 

 この時の私は割と切実であった。

 たしかに美少女の姿になってたのは少しばかり興奮しなかったというわけではないが、生まれ持った自分の体を手放したいと思うほど自分のことが嫌いというわけではなかったからだ。

 それに、どことも知れない森の中にずっといるのなかなかどうして精神的に堪えるものがあり、この時はできるならすぐにでも住み慣れた我が家に帰って安心したかったのだ。

 

 だがそうはならなかった。

 というかそうなっていたらそもそも私はこうして日記を書いていない。

 

「いいえ、それは出来ません。だって私の願いを叶えてもらっていないもの。裏切らない女の子が欲しい、という貴女の願いを叶えたのだから私の願いを叶えてもらわないと次の願いに進めないわ。ああでも、新しい願いを叶えるためにはまた別に私の願いを叶えてもらわないといけないけれど。意味のない願いは叶えたくないの」

 

 聞いているだけで頭がくらくらしそうな内容だった。

 実際この時私の頭はくらくらしていた。

 

「……じゃあ、早くその願いを言ってください。可及的速やかに叶えてみせるので」

 

 本当に出来るのかもわからないことではあったが聞かないことには話が進まないと思ったからだ。

 けど、聞かなきゃよかったとも、今は思っている。

 

「ええ、いいでしょう。私の願いはとても単純な話よ。貴女、今の自分の姿を見てどう感じた?」

 

「どうって……女神様と同じ姿ですね。髪の色は違いますけど。なんか、漫画に出てくるエルフみたいな……」

 

「そう、それです。エルフ。人の空想によって生まれた妖精。美しい姿と神にも等しい永遠の命を持って森に隠れ住む賢者だったかしら。実に素敵だと思わないかしら」

 

「ええ、まあ」

 

「けれどね、私の世界にはいないのよ、エルフ。似たような種族ならいるけれど人の親戚みたいなものだしエルフと呼べるものじゃないのよね」

 

「はあ」

 

「だから貴女、私の世界でエルフになりなさい。そして子を産みなさい。子孫を繁栄させなさい。それが出来たらまた貴女の願いを叶えてあげる。」

 

 聞いて、卒倒しそうになった。

 今更ではあるがこの世界は私が元々生まれ育った世界ではなく、その世界の言葉でいうところの異世界というものなのだが、この自称女神は私に子を産んで数を増やせと抜かしやがったのだ。

 

「ちなみに拒否権はないのでしっかりとお願いするわね。神とはいえ、一つの種族を生み出して繁栄させるところまで干渉すると世界に歪みが生じて壊れてしまうのよね。けど一人くらいのイレギュラーを混ぜる程度ならそれほど歪むことはないし、そこから自然の流れで種族が繁栄したなら何も問題はないのよ。ね? 頭のいい考えだと思わないかしら」

 

 

 実に頭の悪い考えで頭がくらくらしそうだった。

 実際くらくらしていたと思う。

 

「い、いやだ。俺を元に戻せっ! 戻してくれっ! 元の姿に戻して元の場所へ返せっ! そんなの、お前の言いなりになんてなりたくないっ! 何が子を産めだ。俺は男だっ、百歩譲ってこの世界で暮らしてもいい、だが子を産めってなんだよっ!? わかわかんねぇよっ!?」

 

「あーあー、人間って頭が悪いのね。元の姿に戻すのも、元の場所へ戻すのも出来ないし、やったところで意味がないといったでしょう?」

 

「何が出来ないっていうんだよ!? ここにこうして俺を連れてきている以上また連れていくことくらいできるだろっ!? つーか俺の願いも正しく叶えてないのに何が願いを叶えろだよっ!? 契約にもなってねぇしこんなもん無効だろうがっ!! くそっ、早くしろよっ、もう姿はこのままでもいいからせめて元の場所に、家に帰してくれよ……」

 

 正直、泣いてしまった。

 見た目が超絶美少女だったからまだ絵になっているかもしれないが中身は成人男性なわけで。

 こんな喚くように言葉を浴びせかける姿は実に情けない姿だったに違いない。

 女神に掴みかかろうと近づいたものの、ふらりと宙を舞う女神に躱されてしまい、私はその場に倒れ伏した。

 立ち上がる気力すら起きないほどに、精神的に参ってしまったのだ。

 そんな私の様子を、自称女神も呆れたような、迷惑そうな顔で眺めていたのをよく覚えている。

 

 そしてこの時、自称女神は……邪神は最大の爆弾を落とした。

 

「はあ……貴女、全くこちらの話を聞いていないのね。無理なの。出来ないの。意味がないの。だって貴女が生まれたのはこの世界だもの。」

 

「……な、にを言ってるんだよ。俺の生まれは日本の」

 

「貴女が生まれたのは貴女が目を覚ました森の中。草むらの上。あそこが貴女の生まれた場所。言ったでしょう? 私は貴女の願いを叶えたの。ちゃあんとね。貴女の言う貴女の世界……日本にはちゃんと今も、貴女は存在するわ。うふふ、かわいそう。願いを叶えてもらえたとも知らずに、きっとのうのうと暮らしているのね。」

 

「な、え……?」

 

「じゃあ今のここで話している自分は何者なのかって顔をしているわね。ええ、答えてあげましょう。貴女はね、願いを叶えた私の力で生み出されたもう一人の貴女。この世界で生まれた新しい命。空っぽの器に入れるためだけに複製された模造品の魂。それが貴女。」

 

 

 

 

 ……一日目として書くにはなかなかきつい内容となってしまった。

 というか思い出したらむかついてきたし精神的にきつくなってきたので今日はここまでにする。

 続きはまた明日書くことにして今日は寝るとしよう。

 

 ……日記というよりは備忘録のような状態になってしまったが、現実の時間に追いつくまでは仕方がない。

 これはあくまで記録なのだから。

 




初っ端からこんな展開ですみません。
エルフさんはメンタルクソ雑魚なのです。

もしよろしければ感想をいただけると幸いです。
よろしくお願いします。

2024/1/23 改行など一部加筆修正
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