真・エルフ転生TS ‐エルフチルドレン‐ 作:やきなすいため
〇月△日
昨日の続きを書くことにする。
昨日は確か私が邪神から衝撃の事実を告げられたところで終わらせていたからその続きから。
けどここからの会話は正直あまり覚えていない。
告げられた内容があまりにも精神的に強いダメージを与えたからだ。
だから大まかな流れだけ書く。
邪神は邪神の願いが叶うまで私の願いを叶えるつもりもない。
たとえ私の願いが叶って日本に戻れたとしてもそこにはオリジナルの私が存在するから帰ったところで居場所がないから意味がない。
だから頑張ってエルフ繁栄させてね☆
やつはそれだけ告げてどこかに消え去った。
あの邪神がどこに消えていったのかは毛ほども興味はないけれど、もしも次に出会ったときには冷静でいられる自信がない。
それで、そこから今に至るまでの話。
しばらくの間、私は何もする気が起きなくてその小川のそばで何もすることなく過ごしていた。
飲み食いはもちろん、ただ草むらの上に寝転がった状態で空を見上げ続けていた。
正直、何もする気が起きなかった。
家にも戻れないし、戻ったところで居場所はなく、さらに言えば自分はつくりものであり偽物やのだと告げられた直後だ。
何もやる気が起きなくて当然だった。
しかしそんなつくりものの体であってもちゃんと喉が渇くし、お腹も減る。
いっそのこと餓死してしまえば、という淡い期待があったのかもしれない。
私は数日の間飲まず食わずで少し続けた。
結果だけ書くと、この体はどうやら不老不死らしい。
いや、不老かどうかはまだわからないけれど、不死であることに違いはなかった。
私がどれだけの間飲まず食わずを続けたのかというと、二か月と十日ほどだ。
それだけの間この体は水は一滴も、食事もとらずに過ごしていたというのに身体が痩せ細ることはもちろん、肌は荒れたりすることもなく瑞々しさを保っており、金の髪も太陽の光を浴びてきらきらと光り続けていた。
だというのに喉の渇きと空腹感だけはしっかりと感じるのだから一体どういう体のつくりをしているのか気になるところだ。
けど自分の身体を解剖する気はなかったので確かめることはしなかった。
もちろん今もするつもりはない。
次に飲まず食わずで餓死することがないのなら外的要因、つまり怪我で体が傷ついたした場合はどうなのだろうと、その辺に落ちていた木の枝を拾って自分の腹に突き刺した。
これも結果だけ書くけれど、痛みはあるし傷は付くけれど信じられない速さで怪我は治ってしまった。
正直この時の私はどうとでもなれという気持ちが強かった。
あの邪神への当てつけというか、やつの願いが叶うのが癪で叶わないようにと首を吊ってしまおうかと思っていたくらいだ。
けれど実行したところでただ苦しいだけで死ぬことがないのだろうということがわかると、やる気にはなれなかった。
どうやらあの邪神は意地でも私に死なせるつもりはないらしく、どうにかして願い……この世界にエルフという種族を繁栄させたいという、よくわからないものを叶えたいらしかった。
正直に言って、かなり不愉快だ。
この日記を書いている今でさえあの邪神を思い出すと胸の内がぐるぐると渦を巻いてしまうほどだ。
こういうのをはらわたが煮えたぎるというのであれば、まさしくそれだと言いたいくらいだった。
そうして死ぬことも帰ることも無理だと悟った私は、仕方ないと、とりあえずこの森で生きていくことにした。
あの邪神の言いなりになるのは非常に気分が悪いことだが、それ以上に苦しむことから逃げたくなっていたのだ。
どうせ、苦しむようなことをしたところであの邪神がそんな私を見ながら楽しそうに笑っているのかもしれないと思うと、馬鹿らしくなってしまったというのもあるけれど。
不老不死の身体があれば森で生きていくのもそれほど困難ではなかった。
幸い森に生い茂る木々は林檎に似た実を付けることがここまでの二か月半で分かっていたし、水についても小川があるし雨も降る。
川の中には魚が泳いでいることもあり、生きるのには全く困らなかった。
きのみと魚とそして水。
それらを食糧にそんな生活を続けているといつの間にか私がこの世界で目覚めたあの日から一年ほどが過ぎていた。
日数を数えていたつもりはないというのに、私が目覚めたあの日から今日まで何日だろうかと頭で念じればどういう理屈か経過日数が頭の中に浮かび上がってくるのだ。
考えられるとすれば十中八九、あの邪神が不老不死と同じくこの体に仕込んだものの一つなのだろう。
ほかにも何かありそうな気がするが……何が仕込まれているのか考えるだけで恐ろしいのでこれを書いている今もあまり考えないようにしている。
話を戻すがこの森は恐らくこの世界において北の方にあるような気がする。
理由は単純な話、冬が来るとかなりの量の雪が積もるからだ。
二年たった今も私はこのあたりの地図を目にしたことがないし、きっとかなり田舎の方なのだろうということだけを認識していた。
事件は、そんな雪の積もる寒い冬の日に起きた。
私は邪神によって作られたこの体を駆使して森の木を一部切り倒し、工具を作り、小川のそばに粗末な掘立小屋を作ってそこで暮らしていた。
雨風をしのげる程度の雑なつくりの建物ではあったが、どうせ不老不死だし、と何かあった時の対策なども何もなく過ごしていたのだが、そんな私の住処に来客があったのだ。
客の名前はトーマス。
森の外の村に住んでいる幼い少年だった。
歳は、今が十歳だからこの時は九歳か。
やはりこの森の外には村があったのかと考えつつトーマスの話を聞いてみたところ、トーマスには病気の母親がいて、その母に飲ませる薬の材料を採りに森の中へと入ってきたらしい。
しかし森の奥へときたはいいものの、この雪で薬の材料となる木の実を見つけることも出来ず、更には帰り道もわからなくなってしまったという話だ。
正直、どこかで聞いたような話だろうがこの世界だとよくある話だ。
そんな健気な子供であるトーマスを、私ら外へ放り出すことも出来なかった。
というか話を聞き終わったころに既に外は日が落ちかけていたし、雪の降る森の中に小さな子供を放り出すほど私は人非人でもなかった。
私はその日、トーマスを自分の住処に泊まらせ、朝になってから改めて森の外へと連れていく約束をした。
事件が起きたのはその夜だ。
端的に言うと、めっちゃむらむらした。
いわゆる発情期というやつだった。
この一年、一度も発情することなどなかったし、月のものなど一度たりともきたことがない。
だというのになぜ今更と考えた瞬間、目に映ったの寝床ですやすやと眠るトーマス少年と、脳裏に浮かんだ邪神の姿だった。
点と点が線でつながったような、尋常ではない悪趣味さであった。
どうやらあの邪神は、まだ精通もしているかすらわからない純粋そうな少年のトーマスを襲い、子種を搾り取り、子作りしろと訴えているらしかった。
不愉快を通り越して悪夢だった。
私は、そのまま何もせずに寝床についた。
絶対にあの邪神の思い通りになってたまるか。
そう気合を入れて眠ろうとした。
しかし火照った体はなかなかどうして私の思い通りに眠りにはついてくれず、どうしたものかと項垂れながら住処の外でしんしんと降っているであろう雪に思いをはせていた。
雪だ。
そうだ、雪で頭と身体を冷やそう。
そう考えた私はおもむろに起き上がり、小屋の外へと出ようとした。
しかし結局私は外に出ることはなかった。
扉に手をかけた瞬間、背後から「おねえさん、どこにいくの」という寝ぼけたトーマスのさみしがる声が聞こえてしまい、振り返ったからだ。
そう、振り返ってしまったのだ。私は。
そこからは、もう、書くこともはばかられてしまうし、これを読んでいる君はすでにわかっていることだろうから結論だけ書くことにする。
私はトーマスを襲ってしまいました。
はい。
トーマスを目にした瞬間何か頭の中でスイッチが切り替わったように目の前の少年が愛おしくてたまらなくなってしまい、そのまま……トーマスには、ひどいことをしてしまった。
純粋な目でおねえちゃんのびょうきをなおすてつだいすると言ってくれたあのトーマスを私は……
全てが終わった頃にはすでにすっかりと朝になっており、私は眠ってしまったトーマスを背負い、森の外へと続いているらしい道を歩いていた。
自分が情けなくてたまらなかった。
絶対に邪神の言いなりになってたまるかと抵抗していたにもかかわらず、こんな年端もいかない少年を襲ってしまっただなんて……そんな気持ちでいっぱいになってしまっていたことをよく覚えている。
ちなみに、この時点でもまだ私は自分のことを俺と言っていて、つまり自分自身が男のつもりで少年を襲ってしまっていたのだ。
あの時の気持ちを言葉にして表すのは難しい。
トーマスを背負いながら私は自分がこれまで向かったことのない方向、おそらくトーマスがやってきたという方へと進み続けるていると、遠くの空から黒い煙が立ち上っているのが見えた。
一瞬火事か、と思ったけれどそれにしては煙が細いし、揺れ方も穏やかだ。大きなものが燃えているという印象もない。
おそらく昨日から行方知らずになっているトーマスを探すために、あるいはトーマスが村を見つけるための目印として狼煙を焚いているのだろう。
そう考えた私はその狼煙の方へと足を進めながら背中で眠っているトーマスを起こすように体を揺らした。
「トーマス、トーマス。起きてくれ。もうすぐ君の村につくから」
「ん、ぅ……」
トーマスは眠そうな目をこするようにしながら顔を上げた。
「おねえちゃん……? ここ、どこ……?」
「もうすぐ君の村につくよ。だから起きておいてくれ」
「むら……? ほんと……?」
「ああ、だから起きておいて」
「うん……」
眠そうにしつつも目をこすって返事をするトーマスは、その、なんというか、非常にかわいかったということをここに記しておく。
襲ってしまったことの罪悪感はどこにいったと言われてしまいそうだが仕方がないだろう。
今思い返してもあの時のトーマスは尋常ではない可愛さだったのだから。
そうこうしているうちに私とトーマスは森を抜けて、村の近くまでやってこれた。
村人たちは見知らぬ人物である私を警戒するような視線を向けていたものの、背負っている子供がトーマスだということに気が付くとひどく心配そうな顔で駆け寄ってきた。
多分、一番に走ってきたのがトーマスの父だろう。
鍛えられたいい筋肉を持つ顎髭の似合うダンディな男だった。
トーマスの父へは自分は森に住んでいるもので、道に迷ったトーマスを保護して連れてきたと告げるとトーマスの命の恩人だと歓待を受けてしまい、何故か流れでトーマス宅で食事をとることになってしまった。
そこで初めてトーマスの母を目にした。
ベッドの上で床に臥せっており、けれど昨晩はトーマスを心配して泣いていたのだろう。
目元が赤く腫れており、私に向かって何度もありがとうございます、と感謝の言葉を繰り返していた。
お母さん。ごめんなさい。
私、お礼を言われるようなやつじゃないんだ。
お子さんのこと、昨日襲ってしまいました。
そんなことを正直に言えるわけもなく、気まずい気持ちのまま感謝の言葉を受け取っていた。
トーマス一家三人と私を加えた四人で暖かな食卓を囲んだ。
当たり前だがこの世界に来てから初めての人間だし、なんなら久しぶりの団欒の空気に思わず心が安らいでしまった。
食べ終わった後、ごちそうになってばかりというのも嫌だったので後片付けをさせてもらった。
その時、トーマスと二人きりになる時があり、わずかな罪悪感を覚えながらトーマスには昨夜のことは二人だけの秘密だと告げた。
トーマスはよくわかっていなさそうな顔をしていたが、元気よくうなずいてくれたのでそれでよしとした。
しかしこれだけでは私の気が治まることなかった。
お子さんを襲ってしまったというのに罪滅ぼしどころか歓待を受けてしまったことが心苦しかったのだ。
そこで私は、一つ恩返しをすることにした。
トーマスの父が昨夜飲んだ酒瓶を手に取るとその口へと腕を添え、手首を切り、己の血を注いでいく。
あの邪神の加護だか呪いだかの影響かわからないが私の血には傷を癒し、病を治す力があった。
実は森で出会った手負いの獣をこの血を使って生かさず殺さずにし、食べごろになるまで飼い殺しにしていたりするので、その治癒力についてはどの程度まで与えていいのかどうかなども実験済みであったりする。
その時の話も書いておいたほうがいい気もするが、今更どんなふうに実験をしたとか思い出せないので省略する。
ざっくりいうと適当に水で希釈して飲めばいいだけの回復薬になるというわけだ。
これをトーマスのお母さんへの薬として渡した。
トーマスの父には用法容量を良く守って飲まないと毒になるから少しずつ気を付けて飲んでくれと告げておいた。
飲み過ぎると過回復を起こして多腕になったりしたから、飲み過ぎはマジでやばいんだよね。
トーマスの両親は救いの神でも見るかのように何から何までありがとうございますと何度も頭を下げていて、実にいたたまれなくなったのを今でもよく覚えている。
ごめんなさいお母さん。
息子さん、とても美味しかったです。
「おねえちゃん、またね!」
「エルフさん! 息子をありがとう! またいつでも遊びに来てくれや!」
私はトーマス親子が見送ってくれるなか、静かに森の中へと帰っていった。
今日はここまでにしておく。
二日目だというのに書き始めから一気に時系列が飛びすぎではないかと思わないでもなかったが、本当にこの一年はこれといって何一つかけることがなかったのだから仕方がない。
続きはまた明日書くこととする。
トーマスとの夜については、いつかまた別の機会にまとめることにしよう。
トーマスとの夜については気が向いたときにエルフさんの別の日記としてR-18で別作品として投稿するかもしれません。
まだ書いてすらいないので未定です。思いつき次第です。
一応鬱々とした出だしはここまででの予定です。
もしよろしければ感想を書いていただけると嬉しく思います。
読んでいただきありがとうございました。
2024/1/23 改行など若干加筆修正