真・エルフ転生TS ‐エルフチルドレン‐   作:やきなすいため

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第五話 エルフ日記5

 昨日の続きから書く。

 エマに言われたとおり、ダリアには自分で薬という名の私の血を持っていくことにした。

 本当はトーマスのこともあり正直顔を合わせづらいところなのだがほかに任せられそうな人がいない以上、私自身が行くしかない。そういうわけで私はダリアが働いているらしい場所へと向かった。

 

 今更な話だが、私は山に近い村において女性がどんな仕事をしているのかは知らなかった。

 『おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に』なんて意識があったからか山での暮らしで男は山に何かしら苅りないし狩りへ出かけて、女はその間は村で家を守る、まあ要する掃除洗濯から始まる家事を行うのが仕事だと思っていた。

 実に封建的な価値観ではあるが、別に男女差別主義者というわけではない。

 単純に適材適所として男の方が体力があったりするし力仕事を任されるのは当然だという話だ。

 しかし便利な機械が増えたとはいえ家事労働も肉体労働な体力仕事には変わりないしそろそろ私も価値観のアップデートを図るべきか。

 

 それはそれとして。

 こういう山奥での仕事となるとほかに何があるだろうか。

 エマの話によるとダリアは工房にいるということだったが、昔話つながりで考えるなら傘地蔵のように藁で編んだ傘でも作ったりしているのだろうか。

 雪の降る地域でもあるし。

 でもこのあたりには農耕をしているところはないし、そういうものを作るのに適した草花もない。

 しいていうなら森の木々を使えば何かしらの工芸品は作れるのかもしれないが……この手の暮らしに疎い私の貧困な発想ではこの程度のことしか思い浮かばなかった。

 

 とはいえ別にそれほど真剣に考えていたわけでもない。

 言ってしまえば暇つぶしだ。

 どうせこれから会いに行くのだし、そうすればダリアがどんな仕事をしているのかなんてことはすぐにその場でわかることなのだ。

 

 そんなふうに考えながら村の中央にある建物へと向かった。

 

 民家よりも大きく、中からは忙しなく何かしらの作業をしている音がしていて、煙突らしきものもついているし火を使う仕事なのだろうかと考えたりもしたものだ。

 

 昼間だからか出入り口は開放されており、扉は開けっ放し。

 それでいいのだろうかと感じつつひょこ、と中を覗き込むように顔を出してみる。

 皮を叩き潰して広げるものやそれに油を塗っていくもの。

 塗られたそれを順番に干していくもの。

 火で炙ったりするもの。

 皮を裁断するもの。

 加工された皮素材を使い、組み合わせて色々なものを作っているもの。

 

 そこには村の女たちの多くがさまざまな作業をしていた。

 

 ここは革製の工芸品を作る工房で、村の女たちはここで仕事をしているらしかった。

 

 考えてみればすぐにわかる話だ。

 この村の特産品は雪狼の肉、そして毛皮だ。

 それらを売りにするのであればどうせならそのまま売りに出すのではなく何かしらの形に加工しておいた方が売れるものもあるなのだろう。

 加工されているものの中には皮を何枚も重ね合わせてたものを縫い合わせて加工したらしい革鎧、レザーアーマーらしきものまであるのが見て取れた。

 

「あら、エルフじゃない。こんなところに何か用?」

 

 村の見張りのハリスのお嫁さん、ケティだ。

 彼女はどうやらエルフというのを種族名ではなく私の個人としての名前だと思っているらしかった。

 私は名無しのエルフで通しているのだけど……まあでも私を差す固有名詞としては間違っていないしこれまでも特に訂正はしてこなかったけれど。

 

「ケティさん。いえダリアさんに少し用があって……ここ、革細工を作るところだったんですね」

 

「そういえば貴女はここ、初めてだったっけ。そうよ。男たちが獲ってきたものをここで加工して、子供たちに町へ売りに行ってもらっているの。まあうちはまだ子どもはいないんだけど……」

 

 そう言いつつケティはこちらに視線を向けてじーっと見つめてきている。

 その視線は心なしか厳しいもののように思えて少しばかり後ずさりをしてしまったのを覚えている。

 この時はなんだろう、なにか気に障ることでもあったのだろうか、なんて思ったけれどまあ、ケティの心情からしたら仕方のないことではあった。

 

「……エルフ。あなた、うちのに色目とか使ってないわよね」

 

「え。い、いきなり何の話ですか。俺、その、ええと、人族の方にはあまり興味は……」

 

 色目は使っていない。

 けどもしも夜に顔を合わせてしまったらどうなるかわからないので少しびくびくしてしまった。

 

「神に誓って?」

 

 あの邪神以外なら。

 

「は、はい。俺に迷惑かけない神以外になら、ですけど……」

 

「……そう。まあいいわ。ハリスの奴、最近あなたのことばかり話すのよね。やれエルフさんは美人だの、おとぎ話の妖精みたいだの。目の前に私というものがありながらあなたの話ばっかり。ひどいと思わない?」

 

「それは……ケティさんみたいな美人を前にして、ちょっとひどいですね……」

 

 客観的に見てケティは美人だ。

 栗毛色の長髪は今もつやつやとしていてとても綺麗だし、肌もすべすべだし、私からするとこんな美容には程遠い生活環境だというのに町で見かければ振り返る人多数という美人具合。

 結構強気な性格をしているというのに目元はたれ気味で見た目の印象とは反対で、出るところが出て引っ込むところ引っ込んでいて……正直私が男のままだったなら間違いなく声をかけているレベル。

 どうしてハリスみたいなのがケティと結婚できたのか不思議なくらいだ。

 

「……嫌味じゃないところが嫌味よね、あなた」

 

「えっ」

 

「本物の美人から美人だなんておべっかもらっても自信なくしちゃうわ」

 

「いや、俺としては本心なんですけど……」

 

「はいはい。別にいいわよ。言うほど気にしてないし。……そうね。エルフあなた、せっかく美人なんだからそんな男っぽい口調やめてちゃんと女らしくしたら? もしかしたらハリスもそういうところに惹かれてるのかもしれないし」

 

「え、そんないきなり言われても。女らしくって言われてもなぁ」

 

「そんなもの、俺じゃなくて私って言っときゃいいのよ。ほら言ってみなさい」

 

「ええと……私、でいい……のかな?」

 

「……これはこれでその手の男に受けそうね。でも問題ないわ。うちのバカは少し男勝りな方が好きなの。その地位を奪われたりなんてしないんだから」

 

 よくわからないけどケティが満足そうだったのでこの時はそれでよしとした。

 ちなみにこれがきっかけで私は今のように一人称を私と改めることとなる。

 どうにもケティの考え通りだったらしく、私が女らしい言葉遣いを気にし始めたころからハリスは私のことをあまり口にしなくなったらしい。

 それでいいのかハリス。

 それでいいのかケティ。

 まあ、仲睦まじいのはいいことだけれど。

 

 閑話休題。

 

「それでなんだっけ、エルフ。ここに何か用? あなたも何か作る? それとも作ってほしいって依頼かしら」

 

「あ、そうだった。これ、ダリアさんにいつもの薬を持ってきたんだけど、今いるかな?」

 

 そう言って手に持っている酒瓶もとい薬瓶をケティに見せる。

 それを見ると納得いったようにケティはうなずいた。

 

「ああ、それね。舐めるだけで禿げた頭も元通りにふさふさになるし、きつい二日酔いも吹っ飛んじゃう魔法の薬。今度私にももらえない?」

 

「えっ、これそんな効果もあるのか」

 

「ほかにもいろいろあったわよ? 怪我が治るのはもちろんだけど草木の根元にかけたらその辺りだけ異常に育つのが早かったり、気付けになったり」

 

 えっ、なにそれ……知らん。

 いやこの頃の私は本当にそんなに手広い効果があるとは思ってなかったのだ。

 怪我や病気の治りがものすごく速くなる程度の認識だったのだ。

 

「……これ、村の外に持ち出したりしないでくださいね? あんまり知れ渡ると私、ちょっと困るんで」

 

「……わかってるわよ。ダリアの病気、もう治らないって言われてたのよ? それを治すくらいのものだもの。かなり貴重なものだってことくらい田舎者の私にだってわかるんだから。逆に私から注意したいくらいだわ。こんなの無償で簡単に渡しちゃってあなた大丈夫なのかって」

 

「……心配をおかけします」

 

「ま、あなたはダリアの恩人だし、この村の人間全員、この薬のおかげで何かと助かってるし言いふらすようなことはしないと思うから安心なさい」

 

「うう、感謝します……」

 

「はぁ……ほら、ダリアならあそこで服作ってるから行ってきなさいな」

 

 そういってケティは呆れ半分にため息を漏らしながら工房の一区画を指さしていた。

 私はケティにお礼を言って軽く会釈すれば、ダリアのいる方へと向かった。

 この時のケティの話を総括すると私の血は思った以上にやばい効果があるらしかった。

 正直何かしらで金策が必要だったときにはこの血を売ってお金にしようとか思ってたけど下手に売ったりしたら狙われるようなことになりかねない。

 どうかこの村だけで完結してくれると助かるなぁ。

 そんなことを考えながら工房内を歩いているとようやくダリアを見つける事が出来た。

 

「ダリアさん、久しぶりです。いつもの、持ってきましたよ」

 

 ダリアはケティが言っていたように鞣した革を使って服を作っていた。

 そうか、革製の服ってこうやって作ってたんだ……なるほど。

 革ひもを作れば別に針と糸がなくても服が作れる……盲点だった。

 服は買うものであって作るものではない、なんて消費文明系現代人の価値観があだになっていた。

 私元々あまり服に頓着する方じゃなかったから革製品とかもあまり持っていなかったし。

 

 まあそれはそれとして、だ。

 ダリアはキリがよかったのか作業の手を止めて私の方へと顔を向けてくれた。

 

「あ、エルフさん。いつもありがとうございます。この薬をいただいてから体の調子がとてもよくって……今こうして仕事をして生きていられるのもエルフさんのおかげ……貴女は命の恩人だと思っているわ」

 

「あ、あはは……毎度言ってますけど世話になっているのは私の方ですよ。森での一人暮らしは不便なことも多いですし、寂しいですし。こうして村のみんなが温かく接してくれているだけで助かってます。」

 

「それならやっぱりエルフさんも一緒に村で暮らせば……と思いますけど、理由があって森に住んでらしているんですものね。その……私たちはいつでも歓迎しますからね。」

 

「あはは……ありがとうございます。」

 

 ダリアとは顔を合わせるたびにこんな会話をしている。

 だから顔を合わせにくいのだ。

 時々とはいえトーマスを、ダリアの息子を美味しくいただいてしまっている手前、恩人だとか言われても心苦しいばかりである。

 

「けどエルフさん、今日はどうして工房に? いつもなら私の家でトーマスと待っているのに」

 

「ええと、ここに来る途中にエマさんに会いまして。それで俺、いえ私にもよくわからないんですけど、ダリアに何か頼めって言われて……これだけ言えばダリアなら分かるって言ってたんですけど、何のことかわかります?」

 

 ここにきて私はまだ何のことかわかっていなかったのだけど、ダリアはすぐに何のことか察したらしく、私の方へと視線を向けて、私の全身を上から下へと見つめていた。

 

「なるほど。わかりました。これから採寸しますからおとなしくしていてくださいね?」

 

「えっ、えっ」

 

 そして私はなにもわからないままダリアに体中のあちこちを触られたり、私ですら知らない私のことまで知られてしまったのだった……いやただ体のサイズを測られただけなんだけどね。

 けどスリーサイズとか、私自身も知らないしさ。

 

 ……あの邪神、いいのかな。

 自分の身体も同然の私の身体、測られちゃったけど。

 

 その後、あれよあれよという間にダリアは作業に入ってしまった。

 私はその間ただ傍で待っていても暇だろうからと言われてダリアの家でトーマスと遊ぶことになった。

 今日は森で遊ぶわけではなかったので運動するようなことなかったけれどトーマスを膝に乗せて歌を歌ったり昔話を聞かせたりしていた。

 桃太郎の話をするとトーマスはらんらんと目を輝かせて、大人になったら桃太郎になる、なんて言っていた。とてもかわいくて仕方がなかった。

 

 そうして過ごすうちにもうじきに日も暮れてくるという頃、そろそろ帰らないといろいろとまずいという時間になりかけてきた頃ににダリアはそれを持って家に帰ってきた。

 

「エルフさん! 出来ましたよ!」

 

 そういってダリアは手に持っていたそれを広げてみせてくれた。

 革で作られた可愛らしいドレスだった。

 ドレスといっても仰々しいものではなく、こう、動きやすそうな活動的な感じのワンピース的なそういうあれである。

 胸元の革ひもでちょうちょ結びにして前を留めるのが可愛らしくて、正直、とてもうれしかった。

 

「わ、ぁ…! ありがとうございます! こういうの、ほしかったんです!」

 

「そうだったんですか? それならもっと早く言ってくれたらよかったのに。」

 

「あはは、私こういうのには疎くて……大切に着させてもらいますね!」

 

「ふふ、喜んでもらえて光栄だわ。いつも薬のお代も出せないことが心苦しかったの。それ、もらってくれるかしら?」

 

「こんなのもらっちゃっていいんですか…! なんだかそっちの方が心苦しいけど……厚意に甘えます。ありがとうございます、ダリアさん…!」

 

「それはお互い様ですよ。ふふ……そうだ、もうこんな時間ですし夕食もごちそうになっていってくださいな」

 

 そういってダリアは窓の外へと視線を向ける。

 そうだった、もう日が暮れてしまいそうなところだったのだ。

 

 まずい。

 

 このまま居座ると確実にトーマスどころかジョルジュや、ほかの村人の男たちまで襲いかねない。

 

「あ、あー……すみません、ダリアさん。私、さすがにこの時間だとそろそろ森に戻らないといけないので……」

 

「そうですか……? それは残念ですけど……無理に引き止められませんね。またいつでもいらっしゃってくださいね。ほら、トーマス? エルフさんにまたねって。」

 

「おねえちゃん、またね。ももたろうまたきかせてね。」

 

「うん、トーマスもまたね。」

 

 そうして私は二人に挨拶をしてから再び森へと帰ってきた。

 自分の家についたら早速ダリアに作ってもらった革のドレスを身に着けてみた。

 革製だし少し重いのかと思っていたけれどそんなこともなくとても軽いつくりをしていてすごく動きやすい。

 これならこの微妙に肌寒い季節も何とか過ごす事が出来そうだ。

 

 というわけで、今回の話はここまで。

 

 昨日から今日にかけて書いたのは私が革のドレスを手に入れた話。

 このドレスは今でもお気に入りで、この後にちゃんと手入れの仕方も教えてもらい、今も欠かさず手入れをしている。

 

 ダリアには感謝してもしきれない思いだ。

 

 しかしこの日のダリアの視線には、どこか体の採寸を測るためとはまた違った妙なものを感じていたのだが今となってはこの時からもう色々と考えるところがあったのだろう。

 

 それについては……明日書くことにしよう。




 エルフは かわのどれすを てにいれた!

なんか昨日から今日にかけてアクセス数やお気に入り登録数が増えていてとても驚いていたのですが、よく見たらオリジナル日間ランキングの32位にランクインしていたようで嬉しさ半分驚き半分で戸惑っています。ありがとうございます。

感想も書いていただき、お気に入り登録もしていただけて非常に感謝感激です。


もしよろしければ感想を書いていただけると嬉しく思います。
読んでいただきありがとうございました。

2024/1/23 改行など若干加筆修正
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