真・エルフ転生TS ‐エルフチルドレン‐ 作:やきなすいため
村を出てから起きた出来事その二を書く。
昨日の続きだ。
町についた私とトーマスは、その想像していた以上の大きさと規模に驚いた。
町というか街だった。
一つの街を大きな城壁で囲んでいて、ともすれば街全体が大きな城なのだと言われてしまえば信じてしまうくらいに大きな街だった。
街の中へ入ろうとすると門番に止められたりもした。
まあ、親子ほど、というほどではないけれど顔つきの似ていない大人と子供が二人で街に来るなんて怪しいと言われれば怪しいから当然だった。
しかし以外にも簡単に門の内側へと入ることが出来た。
トーマスが学校に学びに来たことや私がその付き添いであるということを門番に告げると打って変わって態度が変わり、応援までしてくれたのだ。
どうやらこの街は学問を学びたいと思っている人間を広く歓迎しているらしく、それだけ告げれば通行証とかいらないらしい。
そんな警備体制で問題ないのだろうかと問いかけはしたが、街の中で問題を起こして門の外へと出られた者はこれまで一人たりともいないから大丈夫だと言われてしまった。
それなら大丈夫か、と安心しかけたがその内容を察した瞬間、いやそれでいいのかと逆に物騒な気持ちが高まってしまった。
こんなので大丈夫なのかこの街。
なにはともあれ私とトーマスはこの街、テムズの街へと足を踏み入れた。
そこからはこれといって何があったというわけではないので割愛する。
精々トーマスの編入や入寮の手続きをして、私は私でこの街での拠点へと移動したり、だ。
もちろん家の場所はトーマスにも伝えている。
トーマスが週末に帰ってくるのは私の住んでいる場所、だしね。
さて、私の住んでいる場所はダリアが確保してくれた。
なんでも町に住んでいた頃の伝手があったらしくそれほど大きなものではないが一人で暮らすには全く支障のない一軒家を借りることが出来た。
本当は元々屋根と壁さえあれば問題ない体ではあるしとかなり安いぼろっちい家にでもしようかと思ったけれどトーマスが来るわけだし……とまともな家を選ばせてもらった。
どうせダリア持ちだし。
そこから私の街での新生活が始まった。
ここからが本題の街に来てから起きたことだ。
私は、この世界で生まれて、初めて労働することにした。
いや、だってこれまでは自給自足で暮らすことが出来たから働く必要なんてなかったんだけど街じゃあそうはいかない。
食べ物も何もかも、金銭の取引が行われている。まさか盗むわけにもいくまいと私の現代日本人的倫理感が物申している。
そういうわけで働くことになった。
仕事探しは難航した。
夜は無理だから酒場の給仕は無理、外見から力仕事は断られる。
この街にもあるらしい夜の街の女にならないかと誘われたりもしたけれど問題しかないから丁重のお断りさせていただいた。
そうしてやっと見つけたのが宿付き酒場の厨房で朝から夕方まで仕込みを手伝うというものだった。
本当は美人な女がいると客の入りがよくなるからと夜に給仕もしてほしいって頼まれていたんだけれど「昔この美貌を恨んだ悪い魔女に呪いをかけられてしまい、夜の間に私と会った男は最低ひと月は不能になる呪いをかけられた」と言ったら難儀そうな顔をしてそれなら仕方ないなと昼間だけの仕事で納得させることが出来た。
いや、そんな呪い本当にあるのか知らないけれど店主のあの反応から察するに絶対にないとは言い切れないのだろう。
今度から興味のない男から夜に会いたいと言われたときはこの言い訳を使うことにしようと決めた。
そんな感じで私の新生活は始まった。
朝起きたらまず着替えて勤め先の宿付き酒場へ向かう。
店主に頼まれた料理の下準備をしたり、足りない材料を買ってきたり、店の掃除をしたり……まあ言ってしまえば店の雑用だ。
元々こういう家事手伝いっぽいことは嫌いじゃないから特に問題なく続けることが出来た。
店主も私が買い出しに向かえばいろいろとおまけしてもらえることが多くて得をするから助かるって言っていた。
やはり世の中顔だなと思った瞬間だった。
そんなこんなで陽が落ちかけてきたかなと思った頃に店主に断りを入れて厨房で賄い飯を作って食事を済ませ、家に帰ってごろごろと過ごす、というのがここ最近の私の一日だ。
家に帰ってきて余った時間に何をしているかというと、こうして日記を書いたり、書き終えた日記を束にして本みたいにまとめてみたりしている。
そういえば書き忘れていた。
これを読んでいるんだからまあ見たままの通りなのだけれど、この本は羊皮紙を重ねて穴をあけて、そこに紐を通して束ねている。
やはりどうにもこの辺りでは紙が貴重品らしく見かけることがない。
なので羊皮紙に羽ペンの先にインクをつけて文字を綴っているというわけだ。
いつか製紙技術が進んだ国にも行ってみたりしたい。
というか私が作ってみてもいいのかもしれない。
まあ、紙の作り方とかよく知らないからかなり気の遠くなる作業になる気がするけど……そういう技術の専門家を探してみるのも一つだろうか。
今のように思いついたことをつらつらと書いて、いつかやることがなくなって読み返したときの行動の指標にしたり、みたいなことも考えている。
紙については割と本気で考えたいし後でこのページを束ねた時には何か栞でも作って挟んでおくことにしよう。
さて、昨日の日記が思った以上に長くなった分、今日の日記が少し短めになってしまった。
別にここで書き終えてもいいのだけれどどうせやることもないし自分の現状について考えてみることにしよう。
まず名前。
元の世界の名前は使えない。
あの名前は今も元の世界で生きている『俺』のものであってこの世界に産み落とされてしまった『私』のものではない。
いつか考えなければいけない課題の一つだけれど今この世界にエルフは私一人しかいないみたいだし、種族名を私の個人名のように扱っても問題ないだろう。
現状の持ち物についても整理しよう。
私の服は邪神に与えられた初期アバワンピースとダリアに作ってもらったお気に入りの革のドレス、そしてこのテムズの街に入ってから買った布のワンピースだ。
このワンピースは深緑をしていて、使われている布地は結構上等なものらしく、普通に買えば結構高くつくようだった。
けれど私はこのワンピースをがどうしても欲しくなってしまいどうにかならないものかと考えた結果、やはり世の中顔だなと思ったということもあり、私は前世も含めて生まれて初めて値切りというものをしてみた。
古今東西男というものは色仕掛けに弱いものだということは知っていたが、服屋の店主には想像以上に効果てきめんだった。
私が傍へ寄るだけででれでれとした顔になっちゃったりして、おねがーいと一声かければみるみるうちに値段が下がっていき、なんとかこの街に来てから稼いだお金を全部突っ込めば買える値段まで値切ることが出来た。
そんなこんなで今私が持っている服はこの三着だ。
正直あと二着くらい着替えを増やしてもいいのではないかと思わなくもないけれど先立つものがなければ買うことも出来ない。
賄い飯があるからと食費まで突っ込んでしまったのだから買う余裕もないし、しばらくは革のドレスと深緑のワンピースを着まわしていくことにしよう。
別に食べなくても生きていけるんだから全部趣味に突っ込んでいいだろうって思われるかもしれないが、それこそ趣味に使っているのだ。
日記を書くための羊皮紙にインクも結構お金がかかるし、なにより週末にはトーマスが帰ってくるのだ。
二人でご飯を食べて楽しく過ごすためにも変なところへお金をかけてはいられない。
服はそんな感じ。
それと靴は、革靴だ。
例によってダリアに作ってもらった革靴で、たしかこういうのをモカシンとかそんなふうに言ったはず。
この世界ではそう呼ばないのかもしれないけれど。
これでとりあえず服装についてはまとめられたかな。
いつかこれを読み返したときには「そういえば初めはこんな格好だったなー」とか思うんだろうか。
それがいつの話になるのかはわからないけれど。
次に持ち物だ。
私の持ち物は少ない。
日記と羽ペンとインク、そしていつかの時に雪狼に襲われたときに使った尖った骨を研いで作った小さな骨のナイフだ。
これがまた優秀で、私一部だったからなのか、私がこういうふうに加工したいと思った形に定まってからは何を何回きっても切れ味が悪くならない優れものとなったのだ。
それからというものこの骨のナイフは万能ナイフとして重宝している。
普段は柄にあけた穴に革紐を通してペンダントのようにして首から下げて服の中へと隠している。もしもの時の護身用だ。まあもしもがあったとしても死にはしないんだけど。
私の持ち物はこれくらいだ。
おかげで家の中は今もがらんどう。置いてある家具はベッドくらいだ。
……このベッドも、トーマスがきたときくらいしか使ってないけれど。
だってさ、森に住んでいた時は地べたに座ってることが多かったし、寝る時も地面に雪狼の皮を敷いてその上で寝ていたりしてたしで家具を作るっていう発想がなかったんだから仕方ないじゃないか。
そういうわけで、トーマスが私の家に帰ってきたときにはせめて寝苦しい思いをさせてはいけないようにと思ってベッドだけは購入に踏み切ったというわけだ。
普段からベッドで寝ればいいじゃないかと思われそうだが、私は『俺』の頃からベッドではなく畳ないし床に布団を敷いて寝る派だったから地面の硬さが心地よかったりするんだよね。
今も寝る時は元自宅の掘立小屋から持ってきた雪狼の毛皮を床に敷いてその上で丸まって寝ている。
ふわふわとした毛皮は案外寝心地が良かったり。
……こうして書いていると私、ダメ人間な気がしてきた。
あ、今は人間じゃなくてエルフだからダメエルフか。
いや、私はダメ人間でもダメエルフでもない。
何もかもあの邪神が悪いんだから仕方ない。
自分の願いを叶えろとか言ったくせにあれ以降姿を見せないし、願いの内容も私に沢山子供を産めとか奇天烈なことしか言わなかったし。
いやまあ、トーマスとの子供なら悪くはないけれど……おかしいな。
この世界に来た当初は男の俺が女として子供を産むなんて意味が分からないと思っていたはずなのに。
もしかして俺は、私は、あの邪神に思考を誘導されたりしているのだろうか。
……いや、トーマスを想う気持ちが作られたものだと考えたくはないし、このことについて追及するのはやめておこう。
私はトーマスが好き。
それだけでいい。
精神的な歳の差は親と子供くらい離れているかもしれないけれど身体は不死身の美少女エルフだしノーカン、ノーカン。
そもそもの話、あの邪神はどうして私をこの世界に連れてきて、エルフにして、子孫を増やせとか意味の分からないことを言い出したのだろうか。
こんなファンタジーな世界なら今はいないくれもそのうち自然に生まれてきそうなものだけれど。
それに似た種族ならいるとか言っていたし、それなら私を連れてきた意味が分からない。
私がこの世界にいること自体に意味があるのか、それとも私が産むことになる子孫がこの世界に何かしらの影響を与えることになるのか。
……いやでもあの邪神だしな。
人の不幸は蜜の味みたいな顔して笑っていたくらいだし、わがままだし、こっちの都合もお構いなしだったし、わりと本気で自分の趣味で自分好みの種族を作りたいからとかそういう理由だったりするのかもしれない。
あんなのでも自称女神で邪神だし、神の考えることがよくわからないのは昔からよくある話だ。
深く考えたら負けというやつなのかもしれない。
これについて考えるのはここまでにしよう。
さて、今回の日記はここまでにしておくとしようか。
明日は週末だ。
夜にはトーマスが帰ってくるだろうし早めに寝て体力を温存しなければならない。
ふふふ。
トーマスが学校から帰ってくる時間と私の仕事が終わる時間は大体同じで、週末はトーマスが私の職場へと迎えに来てくれるのだ。
普通は逆だろうとか思われるかもしれないけれど、私の職場は学校から家までの帰り道の間にあるし、トーマスも男の子だし女の子のエスコートのしかたを覚えてもらわないと困るしー?
いや、私以外の女の子エスコートとかさせたくないけど。
いや、私体は女だけどまだ男だから。
精神的には男だから。
今なんか自然と自分が女としてほかの女に嫉妬してたし、トーマスにエスコートされて嬉しいとか思ってしまっていた。
わりと本気で危ないかもしれない。
これも邪神の精神汚染なのかもしれない。
最近なんだが自分が男であるという認識が薄れていっている気がする。
元の世界で読んだ物語なんかではよく精神が体に引きずられて幼児退行を引き起こしたり、異性化してしまう、なんてものがあったけれどそういうものが本当にあったりするのだろうか。
もしかしたら、いつの日か私は自分が男だったことを忘れてしまうかもしれない。
この体は不老不死だし、そのうち自分の体の性別が正しいのだと感じて精神的にも初めから女だったのだと思い込んでしまう日が来てしまうかもしれない。
もしも、もしもそんな日が来てしまったときのためにも、これからも私は日記を書き続けるのをやめないようにしよう。
これがあれば、読み返せば私は私が元々現代日本に住んでいた三十路手前の男だったことを思い出すことができるはず。
記録を付けることが大事。
初めにそう思って日記を書きだしておいてよかった。
もしも今から書こうなんて思っていたら危なかったかもしれない。
これ以上考えるのはやめておこう。
今日はもう寝る。
明日の夜はトーマスと愉しく過ごすんだ。
おやすみ。
なまえ ■■
しゅぞく エルフ
もちもの E:ぬののふく
E:エルフのナイフ
かわのどれす
めがみのころも
エルフの日記
羽ペンとインク
わざ 着火(火柱)/放水(激流)/送風(暴風)/土塊
いろじかけ
この作品、タグが少なすぎる気がしなくもないですが皆さんどうやって見つけてくるんですか。エルフで検索ですか、それともTSですか。あるいは精神的BLとか。皆さん好きですね。いつもありがとうございます。
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読んでいただきありがとうございました。
2024/1/23 改行など若干加筆修正