妹と仲良くしたいと願ったら女になってしまったのですが!? 作:akatsuki4612
洗面所に置いてある鏡で自分の姿を確認する。
髪は肩まで伸びており、顔付きも男性の時と比べて少し丸くなっている。
「……え、あの……志穂? これ、夢だよね?」
「えっと……多分、現実だと思うよ……?」
「……嘘、こんなことある?」
まるでおとぎ話の中みたいな出来事が起こるなんて……しかも自分に
「ほ、本当にお兄ちゃんなの? 確かに服とか髪型とかお兄ちゃんの面影あるけど……。だからって、そんなこと……」
「ほんとにお兄ちゃんだよ!……どうしたら信じてくれるかなぁ」
「だ、だってお兄ちゃんは男の人だったから。昨日まで、絶対男の人だったよ!」
「でも今日起きたら女になってるんだよ!!」
「って言われても、男性特有の怖い感じがしないし……。お兄ちゃんなら、何か家族にしか分からないこと言えない?」
「家族にしか分からないこと……昔、志穂が俺にべったり付いていた時に皆からはぐれてその場でずっと泣き続けていた事が───」
「わー! わあああああ! わ、分かった! お兄ちゃんだね! うんっ」
会話の途中で慌てて俺の口を塞いでくる志穂
「志穂……なんか距離近くない?」
今日はやけに志穂との距離が近いような……それに、怯えてないし、こうやって手で口を塞ぐなんて……昨日までの志穂なら絶対にしない筈だ
「え? あ、確かに。やっぱりお兄ちゃんが男の人じゃないから……かな。さっきも言ったけどね。パパみたいな男性特有の怖い感じがしないの」
「そうなんだ……なんだか嬉しいような嬉しくないような」
志穂と距離が縮まるのは嬉しいのだが、代償として女性になるというのは酷すぎる
「うーん。女性になっちゃった、って説明すれば?」
「朝起きたら息子が娘になるって結構驚くと思うんだけど……むしろ俺だって気付いてくれるのかな」
「パパは分からないけど、お母さんはなんか分かりそうな気がする」
「流石に母さんでもありえないでしょ……」
志穂にだってわかってもらえるのにこんなに手間取ったし……いくら母さんが抜けているとはいえ、男性の時とここまで違うからむしろ不審者として間違われそうな気がする。
「大丈夫! お母さん達には私からも話すからっ」
「あ、ああ……ありがとう」
いつもの志穂と違い、なんだかとても頼りになる。男性不信がないとここまで違うんだな……
「お兄ちゃん、ボーッとしてないで行こっ」
「う、うん……」
志穂に連れられてリビングへ向かう。
リビングでは母さんが1人でテレビを見ている。ここから見える限りだとファンタジー物だろうか
「ん。あら、ナギ、シホ。どうしたの? あ、そうだそうだ。今度家族みんなで海行こうと思ってるんだけどどうかな?」
母さんは俺達を見ても何食わぬ顔で話している
「え、あの……俺がわかるの?」
「うん? 何を言ってるのかしら。おかしなナギねぇ」
母さんは首を傾げながら、そう言う
「……ね? やっぱりお母さんなら分かったでしょ。天然だし」
「シホー。聞こえてるぞー」
「母さんは何で俺達を判断してるんだろう……」
「何って……顔?」
「今は顔も結構違う気がするんだけど……」
「そうかしら。いえ、そうね。確かに段々とパパに似てきてるわねぇ」
「あー。確かに言われてみれば今もパパに似てるかも」
「父さんに……?」
「みんな何の話をしてるのかな?」
噂をすればなんとやら、父さんがリビングへとやってくる
「あら、パパ。ナギがパパに似てる、って話よ」
「そ、そうだっけ……?」
「凪が? うーん……似てないと思うけどなぁ」
そう言いながら父さんはソファに座る
「そういえばママ、この子は? 志穂か凪の友達?」
「何言ってるのよ。どこからどう見てもナギじゃない」
惚けてる様子もなく、至って真面目に母さんは言う
「冗談はやめてよママ……そもそも凪は男じゃないか」
「え? ……あ。本当だ。ナギちゃんになってる」
「あ、今まで気づいてなかったんだ……」
「お母さんは天然というか、抜けてるところ多いしね……」
「でもまぁ……息子が娘になっただけね」
「いつも抜けてるとはいえママ……ついにボケた?」
「いや……母さんが言ってることは正しいんだよ父さん」
「パパったら酷いなぁ、もうっ。ね、ナギちゃんだったでしょー?」
「いやいやいや、そんな息子がいきなり娘になるとかありえないでしょ……みんな俺を騙そうとしてるんだなー?」
「パパ、本当にお兄ちゃん、お姉ちゃんになっちゃったの……」
「父さん……ほんとに凪なんだよ。昨日、神社に行ってボウリングして……罰ゲームの内容まで知ってるよ」
「えっ。そうだっけ? 私覚えてないなぁ……」
「発案者ママだったじゃないか……それにしても本当に凪なのか……嘘だろ?」
「……俺もびっくりだよ、まさかこうなるなんて。嘘ならどれほど良かったことか」
「このままずっと女のままだったら、学校も困るし、色々と不便だし……元に戻る方法もわかんないし……どうしよう」
これからの事を考えると不安で仕方がない。
「男の子でも女の子でも、私の子には変わりないよ。だから安心してね、ナギっ」
母さんなりに励ましてくれているのだろうが、何かズレている気がする
「母さん……嬉しいけどそうじゃない」
「でも……どうしたらいいんだろう。誰に相談したって有り得ないで片付けられそうだし……」
「解決策ねぇ。私とパパで探してみましょうか。なっちゃった、ってことは戻る方法もあるでしょうし、ね?」
「流石に凪がこのままなのも可哀想だしな」
「……ありがとう父さん、母さん」
「そういうわけで、ナギ。シホと一緒にショッピングに行ってらっしゃい」
「え、なんでショッピング……?別に買うものなんてないよ」
「そうかしら。貴方、シホの服着たいのねっ」
「えっ。わ、私は別にそれでもいいけど……」
志穂が小声で何か言っているが上手く聞き取れない
「い、いや……別にジャージでいいよ……」
女物とかどうせ戻ったら着なくなるんだし……お金の無駄だしジャージで過ごせばいい
「ダメ。女の子がジャージだなんて。もっとオシャレしなさい。それに水着もまだ買ってないでしょ。ついでに見てきなさい」
「一応男なんだけど!? 水着は去年着てたラッシュガードでいいから……」
「でもあれメンズでしょー? レディース買っておきなさいって」
とてもいい笑顔でそう言ってくる母さん
「お母さん、絶対楽しんでるよね。今の状況……」
「ママ、こういうのは昔から変わんないなぁ……」
何かを思い出しているのか苦い顔をしている父さん
「最悪海に入らなきゃいいから! レディースなんて着たくない!」
あんな肌を晒して、ビキニとか、ああいうのは着たくないし戻った時に思い出すのも嫌だ!
「そっかぁ……」
「お母さん。お兄ちゃん虐めるのそこまでにしてあげてね……。でも、お兄ちゃん。せっかくだし、一緒にお買い物行こっ。今のお兄ちゃんなら平気みたいだし、久しぶりに外に行きたいしねー」
「志穂がそう言うなら……」
これを逃したらもう志穂と2人で行けないかもしれない……なら今のうちに思い出を作っとかないと
「さて。ネットで同じような事例とか調べ……」
「お母さん。それ絶対何も分からないやつ」
母さんは相変わらず何処か抜けている。
「俺とママでやっておくから、凪は志穂とのショッピングを楽しんできてね」
「うんっ……じゃあ着替えてくるね」
「あ、お兄ちゃんの服選び私も手伝うー」
小鳥みたいに追いかけてくる志穂
「お兄ちゃんお兄ちゃんっ。私の服着てみないー?」
部屋に上がる途中で、俺の隣に来てそんなことを言う
「え、志穂の服を……? そう言ってもサイズとか合わないだろうし、無理して言わなくても……」
自分の服を今は女性とはいえ、兄が着るのは嫌だろうし……なんなら前に来てたTシャツの裾さえ結んでしまえば着れないこともないし……
「大丈夫っ。今のお兄ちゃん、私とあまり背丈とか変わんないしね。それに……ふふふー」
志穂は意味深に笑みを浮かべている
「し、志穂……?」
やはり、自分が女性になってから志穂が変わりすぎている気がする……何を企んでいるんだろう
「うーん? あ、そっちじゃないよお兄ちゃん。男物しかないでしょ、お兄ちゃんの部屋は。こっちこっちー」
こっそり自分の部屋へ行こうとするが半ば強引に背中を押され、志穂の部屋へと連れてかれる
「お兄ちゃんっ。……あー、うん。お姉ちゃん。どんな服着てみたいー? 今のお姉ちゃん。結構可愛いからどんな服も似合うと思うよっ」
「お姉ちゃんって……別にTシャツとジーパンでいいよ」
「お母さんも言ってたけど、オシャレしようよー。あ。せっかくだし、ワンピースとか着てみるっ?」
「わ、ワンピース……女性物は着るのに抵抗が……」
身体は女性とはいえ心は男性だ。流石に着るのは躊躇いがある
「うーん……そっかぁ。じゃあじゃあ。スキッパー着てみよっか?」
部屋に入ると、志穂はクローゼットを漁り始めた
「す、スキッパー?……じゃあそれで」
「えーっと……あったあった。あ、そうだ。お姉ちゃん、まず服脱ごっか?」
「えっ……ここで脱ぐの?」
「えっ? うん。お姉ちゃん、今の女の子だから。大丈夫だよねっ」
「う、うぅ……」
渋々服を脱いでいく。改めて自分の身体を見ると、昨日までなかった胸の膨らみが嫌でも女性なのだと認識させられる
「うわぉ。意外と大き……あ。えっと、後ろ向いてた方がよかった?」
「……今更遅いよ」
それを言うならもっと早めに言って欲しかった……恥ずかしい思いをせずに済んだのに
「ご、ごめんね。……不思議とね。今ならお兄ちゃんと接することができるから、嬉しくって。つい、はしゃいじゃって……」
「志穂……ううん、いいんだよ……その、俺だってこうやって話せるの、嬉しいから」
志穂から目を逸らして、小声で言う。なんだか言ってる自分が恥ずかしい……
「そっか。お兄ちゃんが嬉しいなら良かったっ。じゃあ早速服着ようねっ」
さっきまでしおらしかったのが、俺の言葉を聞いて急に元気になる。
元気になったのならよかったと思い、目線を戻すと志穂の顔が目の前にあった
「お兄ちゃん、じっとしててね。着せてあげるから。……えっと、一応確認するけどいいよね?」
「う、うん……着方わかんないし、無理に着て志穂の服が駄目になったら嫌だし……お願い」
「……お兄ちゃん、やっぱり可愛いよね。私、お兄ちゃんになら……って。ごめん。なんでもないよっ」
そう言いつつ、丁寧に服を着せてくる
「……ど、どうかな?」
着せられた服を確認すると、Vネックのセーターを重ね着したような首元のデザインの赤色のニットウェア。下はシンプルにジーパンだ
「……綺麗。お兄ちゃん、すっごく可愛いよ!」
俺の姿を見て志穂は興奮気味に喋った後、抱きしめてくる
「あの、し、志穂……急に抱きしめてくるのはびっくりするから……」
「ふぇ? あ……ご、ごめん。抱きしめるね?」
志穂はそう言って更に強く抱きしめてくる
「う、うん……」
小さな声で返事する。
そして抱きしめられたまま、数分が経過する
「……その、いつまで抱きしめてるの?」
「え? も、もう充分、かな。ありがと……」
頬を朱色に染めて、ゆっくりと離れる
なんだか名残惜しいような気分になる、それにどうして妹相手なのにこんなにもドキドキしているんだろうか……?
これではいけないと思い、頭を左右に振って気を逸らす
「そ、そういえばさ。昔はこうすること、多かったよね、って……」
志穂の方を見ると、何処を見ているのか。目線がこちらを見ていない
「と、とは言っても……小学校低学年の時までだろ……?」
「そうだけどさ……。あの……事件があった後から、極端に減ったから。昨日も、だったし……。お兄ちゃんに、悪いことしちゃってたなぁ、って……」
「悪いことって……あんな事件があったんだ……仕方ないだろ」
「う、うん……」
志穂は申し訳なさそうな顔をする
「むしろよく頑張ってるよ、志穂は」
そう言いながら志穂の頭を優しく撫でる
髪、サラサラだなぁ……
そう思いながら、触り心地を堪能するために撫で続ける
「う、うぅ……。そんなに撫でないでよ、お兄ちゃん……」
志穂は恥ずかしそうに顔を見上げてくる
「あ、あぁ……ごめん、つい」
「それなら……うん。仕方ない、ね……。お、お兄ちゃん。そろそろ行こっか。準備もできたし、ね?」
「うん……じゃあ行こっか」
自分の手をそっと志穂の前に出す
「うんっ」
差し出した手を志穂が力強く握ってくる
そして部屋を出て、2人仲良くショッピングモールへと向かった