妹と仲良くしたいと願ったら女になってしまったのですが!? 作:akatsuki4612
「……髪切らないといけないのか」
明日は登校日、つまり学校に行かないといけない。だが、皆に女性になってしまったなんて知られてしまったら大変な事になる
「お姉ちゃん、髪切っちゃうの……?」
声がした方を向くと志穂が悲しそうな顔をしている
「まあ……切らないと女性だってバレちゃうし、そもそも男子は検査に引っかかっちゃうからね」
「そっか……。不便だね、男子って……」
「俺からしてみれば女子の方が不便だと思うけど……」
「そうかな?」
「だってスカートとかめくれないように注意しなくちゃいけないし、髪だって毎日櫛で梳かすのに時間がかかるし……」
「まぁ……確かにそうだけど。それはそうと、髪は切ればいいとして胸はどうするの? 服着ててもあるって分かるくらいには大きいけども」
若干目を逸らしながら話す志穂
「胸……あぁ、なんだっけ……サラシ? 巻いとけば何とかなるんじゃないの?」
ぺたぺたと服の上から自分の胸を触る
「うーん……あれってキツいって聞くよ? 大丈夫?」
「他にどうしようもないし……まあ大丈夫でしょ」
「ふーん……。サラシを巻いたお姉ちゃん……ふむ」
「志穂が何考えてるのかわかんないけど……髪切ろっと」
机に置いてあるハサミを手に取り───
□■□
「ふわぁ……念の為に早起きしたけど……えっとサラシ巻かなきゃ」
昨日買ってきたサラシを手に持って、志穂に教わった通りに前の方からぐるぐると巻いていく
「こんな感じでいいかな……それにしてもきついな」
独り言を言いながら、カッターシャツに袖を通し、ズボンを履いて制服を着ていく
「んー……少し大きいけど、まあいいか」
そんなことを言って部屋から出た後、リビングへ向かう
「おはようー」
「ん、おはよう、ナギ」
キッチンに立って朝食を作っている母さん
「おはよう凪、早いな」
椅子に座って新聞を見ている父さんがいる
「父さん母さんも早いねー……あれ、志穂は?」
「行く時間ズラした方がいい、って先に出ていったわよ。もう学校に着いてるんじゃないかしら」
「えぇ……? わざわざそこまで徹底的にしなくても……」
「あの子、用心深いしねぇ。まぁナギも頑張りなさいな。バレたら性転換手術受けたってことになるわよ」
「それは嫌だ……俺だってなりたくてなったわけじゃないのに」
「なら、頑張るしかないわねぇ。お姉ちゃん?」
母さんは俺をからかう様に言ってくる
「お姉ちゃんって言うのやめてよ母さん! ……もう、学校行ってくるっ」
「ふふん。行ってらっしゃい、ナギ」
悪戯な笑みを浮かべて見送ってくれる母さん。
そして登校途中で気付いたが、ご飯を食べ忘れていたのでお腹ペコペコで学校へ行くことになってしまった
何やかんや色々あったものの、無事に学校に着き、教室で点呼をした後、体育館へ向かう
「えっと、俺の場所は……ここか」
自分の場所を見つけて、その場に座る
「……えっ。おね……お兄ちゃん?」
隣から声がしたのでちらりと見ると、そこには志穂が座っていた
なんという偶然なのだろうか。学年すら違うのに隣同士になるなんて
「うん……。偶然だね、隣になるなんて」
周りに聞こえないように小声で話す志穂
「そうだな……偶然とは恐ろしいものだ」
「ふふっ。なんだか変な言い方だね、お兄ちゃん。……にしても、こうして見ると違和感ないね。髪の毛、自分で切ってたよね?」
何度も俺の髪を見て不思議そうな顔をする
「ん、そりゃあ美容院とかに行って学校の誰かに見られたらまずいし、自分で切ったよ」
「自分で切るのって難しいと思うんだけどなぁ。将来美容師志望だっけ。お兄ちゃんって」
「そんなことないけど……言う程上手かな? 適当に切ったんだけど……」
「違和感無いし、上手だと思うよ。今度、お兄ちゃんに髪の毛切ってもらおっかなー」
「うーん……上手くできるかわかんないけど……文句言わないでね」
「ふふ。注文いっぱいして、お兄ちゃん困らしちゃおっかなー」
「それでもいいよ? お兄ちゃんがやってくれるなら、それでも……ね?」
何処となく儚い笑顔をする志穂
「あ……うん……」
それを見て、また心臓の高鳴りが始まった。それとモヤモヤとした気持ちも……これは何なんだろうか。他の人には全く感じないのに、志穂だけにはこんなにも……
そんなことを考えていると、どうやら身体検査が始まったらしい
1番右から順に検査をしている。時折、不合格とされた生徒が生徒指導の先生の所へ歩いていくのが見える
「ついに始まったのか……」
「うん? ああ、身体検査ね。お兄ちゃん、バレないようにね。お兄ちゃんがバレちゃうと、大変なことになっちゃうだろうし」
「うん……学校に居ずらくなる」
「ふふ。じゃあ、また後でね」
列が進んだので先に行く志穂
「大丈夫かなぁ……引っかからないかな」
心配しながら、自分のクラスの番が来るまで待っていると、とうとう順番が来てしまった
自分の前の人達がどんどん進んで行く中、不安が高まる
「次、如月凪!」
自分の名前が呼ばれる。ついに来てしまった
「は、はいっ!」
しっかりと返事をして先生の所へ行く
先生は、まず髪が目や耳にかかってないかを確認する。
「髪は……大丈夫だな」
そう言って次はベルトの確認をされる。朝しっかりと付けてるか確認したので大丈夫だ
最後に靴下の確認だ。これも間違えないようにしっかりと確認した
「よし……如月凪、合格だ!」
先生がそう言うと、安心してほっとひと息つく
生まれて初めて身体検査でこんなに緊張した気がする……
「それにしても如月、お前風邪引いてるか? 声がいつもと違うぞ」
先生に言われて、声を変えるのを忘れていたことに気が付く
「そ、そうなんですよ……ちょっと風邪気味で……げほっげほっ」
咄嗟に咳き込むふりをする
「そうか……体調管理には気をつけろよ」
「はーい……」
そう言ってその場から素早く立ち去る
「お兄ちゃん、大丈夫そうだね」
既に終わったのか、志穂がこっそり近づいて話しかけてくる
「あ、志穂……まあ、なんとか……バレずに済んだかな」
「ふふっ。よかったよかった。これで安心して夏休み満喫できるね。ああ、そうだ。そろそろ夏祭りもあったねっ」
「あぁ……そういえば、あったね」
志穂は頬を赤らめながら話す
「あぁ……いつ戻るかわかんないし、それまでは……楽しくしよう」
「うん……。戻っても戻らなくても、お兄ちゃんはお兄ちゃんだからさ。って、戻ってほしくないわけじゃないからねっ?」
「……ほんと? でもまた男性不信で避けられるんじゃないかって思っちゃって……」
「うぐっ。そ、それはまだ分かんないけど……。お兄ちゃんがお兄ちゃんなら、きっと――」
「しーほーちゃんっ! 何の話してたのー?」
志穂と話していたら、急に胡桃さんが間から飛び出してくる
「ひぅっ!? あ、くるみちゃん。な、なんでもないよーっ」
「ふーん……あれ、この男性の人は?……あっ!もしかしてかれ──」
「ばっ!? ち、違うよ! この人は私のお兄ちゃんっ」
「なんだーお兄さんかー……あれ?」
「んー?……」
胡桃さんは俺を観察するように見てくる
「えっと、どうしたの?」
「なんか志穂ちゃんのお兄さん何処かで見たことある気がする……」
「そ、そうかなっ?会うのは初めてだと思うんだけどなー」
「う、うん……俺も志穂の友達と会ったことないし」
俺も志穂に続いて、そう言う
「んー……でも2人が言うならそうだよねっ」
はぁ……どうやら納得してくれたみたいだ
「う、うん。そうだよー」
志穂はぎこちない笑みを浮かべて答える
「じゃあ、改めて……桜井 胡桃です! いつも志穂ちゃんとは仲良くさせて貰ってます!」
「そっか……俺は如月 凪で、さっき言った通り、志穂の兄です。いつも志穂がお世話になってるね」
お互いに2度目(凪としては初めて)の自己紹介を終える。
「志穂ちゃん早く教室戻ろー!」
胡桃さんが志穂の腕をグイグイ引っ張る
「う、うんっ。じゃあね、お兄ちゃん。また後でねー」
胡桃さんに引き連れられ、教室に戻っていく志穂
「あぁ……また後で」
軽く手を振って見送った後、俺も教室へ戻っていった
教室では、先生が今後の夏休みの過ごし方について話した後、下校のチャイムが鳴ったので解散となった
クラスの友達にこの後遊ばないかと誘われたがバレる可能性があるので、用事があると言って断った
「はぁ……早く家に帰りたい」
正直キツい、主に胸の所が。早く外して、ジャージに着替えてアイス食べてゴロゴロしたい。そんな気分だ
下駄箱で靴を履き替えて、外に出る
「……志穂はもう帰ったのかな」
登校だってバレないようにズラして行った。だから帰りも恐らく早めに帰ったのだろう
鞄を持ち直して、ゆっくりと家に向けて歩く
一人で登下校なんて、いつもの事だった。家でも一人で居ることが多かった。なのになんで今は寂しいと感じてしまうのだろうか。
最近関わりが多いからだろうか、でもそれはこの身体の時まで。いつかまた戻る時が来る……それまでにまた寂しさに慣れなければいけない
そんなことを思いながらフラフラとした足取りで歩いている
「早く帰らなきゃ……家に帰れば……寂しくなんてなくなる」
ぶつぶつと独り言を呟く
「だーれだっ」
視界が暗くなると同時に女性の声が聞こえる
「……し、ほ?」
今にも消えそうな程、微かな声でその人であろう名前を呼ぶ
「ふふっ。正解ー。って、どうしたの? お姉ちゃん」
視界が明るくなり、背後から抱きしめてくる志穂
「い、いや……何でも、ない……」
「うっそだー。お姉ちゃん、なんだか声変だったよ? それに顔も……。そんなにキツかった?」
「そんなこと……ない、いつも通り……だよ」
必死に涙が出るのを堪えて、そう言う
「いつも通りって……。サラシ巻いたの、今日が初めてでしょ?」
志穂は何食わぬ顔で話す
「そう、だね……サラシ、キツかったなぁ……」
「じゃあ帰ったらお姉ちゃんに合ったブラ探そーねっ。戻るまでは、それも必要になるけど……」
「うん、帰ろ……あの、志穂……良かったら手を繋いでくれる?」
「……なんとなくだよ」
志穂の手を掴んだ後、手の感触を確かめるようににぎにぎする
「……にしては、変に力強いけど?」
「それは……居てくれて、嬉しかった、から」
顔を背け、言葉が途切れながらも言い切る
「うーん? 変なお姉ちゃん。……まぁ私も、それは嬉しいけどさ」
志穂も恥ずかしながらそう言う
「……っ、帰るよ志穂、俺早くサラシ取りたいんだから」
「ふふっ。はーい!」
そうして俺は、軽やかな足取りで家へと帰るのだった