GBN内に設けられたハンバーガーショップ。
キリシマを何とか立ち直らせた一行は、サラの一言ですっかり気を良くしたマギーの奢ってくれるという好意に甘えることにして、ついでにと相談することになった。
六人用のテーブルに案内され、サラ、キリシマがマギーを挟むように並んで座り、向かい側はユッキーとアズマがリクを真ん中にして座っていた。
「つまり、みんなでガンプラがない子がいても楽しめるミッションを探してたのね?」
「うん。一応、僕たちで探してはみたんだけど、結構数が多くて……」
「そうなんです。それに採取と言いつつもNPDバトルありのものが多くて」
「マギーさん、何かありますか?」
「そうねぇ……それなら――」
メニューパネルを開き、数度画面をタップするとツイツイっとスクロールしていく。
すぐに「これがオススメね」とパネルを反転させ、表示したミッションを見せる。
『採取は誰のために』
そう表示されたミッション名に三人の視線が集まる。
「ディメンションの全体マップを使った、コレクトミッションよ」
「えっ、全体マップ!? 行けるの? フォース組んでなくても?」
「もちろん♪」
ユッキーの反応を皮切りに、リク、アズマ、サラが「フォース?」と疑問を零す。
それに対しマギーがフォースの説明から始まり、ミッションの詳細検索の小技や、運営公式のQ&Aコーナーの存在を紹介する隣で、キリシマは退屈そうにメロンソーダを啜っていた。
他の四人は興味津々に話を聞きながら、「面白そう!」「見たい! 欲しい!」といった反応を示している。
……か、蚊帳の外ですわ!
さながら体育の授業で二人一組を作ってと言われた際に一人だけ取り残されたような感慨だ。
組みそこなった人と一緒になりましょうと楽観的にしていればいつの間にか自分だけが余っていることが多い。
……あれは地獄ですわ。経験したことありませんけど? 本当ですけど?
あんまり思い出したくない記憶が蘇り、キリシマは一人だけ顔色を青くしたり赤くしたりと忙しなかった。
「他にも解らないところがあったら、後でザクムラの動画を確認するといいわよ♪」
「ザクムラ?」
「Gチューブで活動している運営公認のダイバーでね、初心者ダイバー向けの動画を投稿しているのよ」
「へぇ~! そんな人もいるんだ!」
「僕たちも後で見てみようよ!」
「うん!」
「ところで、キリシマちゃんはどうするの?」
「ほぇ?」
つと、マギーに名前を呼ばれて顔を上げる。
勝手にノスタルジーに浸っていたので一寸、反応が遅れた。
「なんですの?」
「あなたも四人のミッションに付いていくのかしらってことよ」
「あぁ、そうですわね。折角ですし、付いていきますわ。わたくしもGBNプレイヤーの先輩の端くれ。傍にいたほうが何かと都合が良いでしょうし」
チラリ、と向かい側の三人の覗けば、視線がキリシマに傾いていた。
期待の眼差し二つと、不安の眼差し一つ。
二つは勿論、リクとユッキー。そして一つはアズマのものだ。
サラはマギーに頭を撫でられている。
……いいなぁ、わたくしも撫でたい。
などと思えば元気の声が重なって聞こえた。
「よろしくおねがします!」
「フフフ、お願いされましたわ!
それに――わたくしも皆さんのガンプラが動くところを見てみたいのですから」
得意気な微笑みを作り、わたくし今すごい頼もしい顔をしていると確信する。
普段のテンションをよく知るアズマからの不安視は絶えないものの、ここらでGBNの先輩として良いところをお見せしましょうとムフーと鼻を鳴らして、ぐるりと肩を回した。
……だめなおねえさんではないですわよ! 頼れるおもしろうるさいおねえさんでしてよ!
やる気に満ちるキリシマの姿に「きっと仕様もないこと考えてますね」と内心を見透かしたアズマだったが、他の三人がいる手前、奇妙奇抜なことはしないだろうと判断して自分を納得させた。
既に馬鹿みたいな高笑いをロビーで披露しているので今さらな考えなのだが。
「あ、そういえば」
そこでハッとして、何かに気づいたようにリクが呟く。
「目的地まではユッキーたちはどうやって行こうか?」
「ガンプラ自体はリクさん、お嬢様、私とありますので、どれかに二人乗りという形で搭乗すれば問題ないと思いますが――」
「ああ、それなら!」
メガネを押し上げ、ニヤリと含みのある笑みを浮かべる。
「やってみたいことがあるんだ」
キュピーン!
光を反射したメガネからそんな効果音が発生した。
「やって」
「みたい」
「こと」
「ですの?」
リク、アズマ、サラ、キリシマの順に小首を傾げる。
「フッフッフ……それはね!」
やってみたいこと。それは――
⁎
「うわっはぁー!」
口を大きく開け、瞳を光輝かせたユッキーが喜びの叫びを上げた。
目の前にちょこんと座るサラを支えながらである。
二人は今、ダブルオーダイバーのマニピュレーター――掌の上に乗っていた。
「モビルスーツのマニピュレーターの上に乗る。確かにやってみたいことですね」
ダブルオーダイバーの少し後にアズマのアストレイ・ジャグラスナイパーが続く。
その掌の上ではキリシマが身を乗り出して馬鹿みたいな高笑いをしていた。
「さいっこぉー!」
ユッキーの歓喜にも似た叫びに共感するように、負けじとキリシマもまた高笑いをよりいっそう大きくするが、乾いた風が口内に吹き込み、あっけなくむせた。
アズマはコックピット内でキリシマを落とさないように操作をしながら、リクに通信を送る。
「そちらは大丈夫でしょうか」
『うん。大丈夫。ユッキーはもっとスピード上げても良いって言ってるけど』
「多少なら大丈夫だと思いますよ」
『それなら、よーっし!』
ダブルオーダイバーが加速し、身を翻した。
流れるような見事なマニューバだ。
初心者狩りの時にも思ったが、GPD経験者のアズマから見てもリクの操作技術は筋が良い。
若さというアドバンテージが大いにあるのだろう。それにスポーツ――サッカーをやっていると聞いたことがあるので、それに必要な状況判断能力や瞬発力が十分に備わっているのだと考える。
加えて突発的な展開に対して臆することなく立ち向かえる度量もある。
これはガンプラバトルにおいて最も重要なものだ。
慎重に相手の動きを見極める洞察力も大切ではあるが、時には火中の栗を拾いに行く度量もまた大切なのである。
「――ん?」
ダブルオーダイバーの動きが急に変化したのに気づいた。
ツインアイの向きが下を向いている。
まさか、と思いすぐにメインカメラをズームさせ掌を確認すると、そこにユッキーとサラの姿はなかった。
そのまま別に動かしていたサブカメラが落下中の二人を確認する。
直後、ダブルオーダイバーが落下していく二人を追ってブーストをかけた。
あの速度であれば間に合うだろう。それに落下中にモビルスーツのマニピュレーターにキャッチされると言うのも、ある種の夢である。
「お嬢様」
「何ですの?」
「以前、新約Zガンダムを観ていた時に『わたくしもああいう風に受け止められたいですわぁ』と仰っていましたよね?」
「えぇ、言いましたわ」
「――私もああいうのやってみたいのですが。空中キャッチ」
「えっ」
「落としても?」
「フフフ…‥アズマ、よくお聞きなさい。常識的に考えてダメ以外の答えがありまして?」
「では――」
速度を上げる。
「ちょっ!? あず、アズマ!? アズマさぁーん!? アズマしゃぁぁぁぁん!?」
「ていっ」
機体を翻した。
「お゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛」
ユッキーとサラを無事にキャッチしたダブルオーダイバーとすれ違う形でキリシマが太い悲鳴をあげて落ちていった。
『キリシマさんっ!?』
「大丈夫です」
すぐさま後を追うアズマがそう言い残し、落下中のキリシマを開いたマニピュレーターで慎重に受け止める。
ゲーム故にある程度のリアルを省略しているとはいえ、実際にやってみると中々どうしてやり難いと感じる部分はあった。
アズマは先にこれをやってのけたリクの操縦技術が、どれほどに高いポテンシャルを秘めているのかを、改めて痛感する。
しかし、まさかこのタイミングで空中キャッチをするという夢を叶えられえるとは。
「おお、これがガンダム隠れた名物の空中キャッチ……」
「あ、アズマぁ……ちょ、これ、スリリングがすぎ――すぎましてよ!?」
「アムロになれた心地はどうでしたか?」
「……最高ですわね!」
乱れた髪をかきあげながら、キリシマが強気の笑顔を繕って親指を立てた。
「ではもう一度やりましょう」
「あー! うそうそうそっ! 冗談、冗談ですわ! わたくしにアムロ心地はまだ勇気が足りませんの!」
青筋を浮かべてかぶりを振るキリシマ。
たまにはこういうお嬢様も良いなと思うアズマであった。
「……貴方、時々結構攻めてきますわよね?」
「偶の仕返しです。根に持ってるんですよ。色々と。先日のGPDの件とかそれなりに」
「あ、あれはデザート抜きで済んだはずでは!?」
「デザートを抜いたくらいで許されるとお思いで?」
「うぐぅ〜……これは今後、迂闊な我儘は言えませんわね……」
「迂闊なって何ですか迂闊なって。――私だって、あの日一緒にGBNをするの楽しみにしていたんですから」
「うっ……す、すまんですわ……」
高度を上げて、ダブルオーダイバーに並ぶと、リクがユッキーに怒られている最中だった。
「やっぱりわたくしも怒っていいですわよねこれ?」
「実は反省しています。申し訳ございません、悪ノリが過ぎました」
「……そ、それなら仕方がないですわね! 超許しちゃいますわ!」
「ふふっ、お嬢様のそういうところ、私は好きですよ」
『あ、みんな見て見てっ!』
後半の言葉と被るように、ユッキーの声が届いた。
視線を上げれば、森を抜けた先にサンクキングダムの町並みが見えた。
建物の精密な再現度は元よりドロシー・カタロニアが乗っていた愛車のリムジンまできちんと配置されているのを見ると、ユッキーが感嘆するのも解るというものだ。
「ん? そうえいばアズマ、先ほどは何て?」
「――いいえ、何も」
GBNだからこそ見ることができる光景を眼下に、一行はサンクキングダムの上を通過していくのだった。