獄炎のオーガ。
バトル系ミッションやヴァルガを中心に活動しているダイバーならば、どこかで一度はその名を聞いたことがあるはずだ。
フォース【百鬼】の頭を務め、己の強さを磨くために強者とのバトルを求めてバトル系ミッションに現れる戦闘狂。
獰猛なマニューバから繰り出される攻撃は燃え盛る炎の如く苛烈を極め、既に幾十人ものダイバーが彼の餌食となって、打ち倒されている。
その中にはオーガよりもランクの高い者もおり、まさしくジャイアントキリングと言う二つ名が似合う男であった。
しかし、その二つ名を既に頂いている者がいた。
それこそが、キリシマであった。
今のGBNにおける【ドラゴン騎士団】のエマ、【
オーガも、キリシマも、互いに直接会ったことはないが、中継されていた戦闘記録では知っていた。
故にオーガは、現れた五人の内、二人の少年と何かを言い合っているドージを横目に、キリシマを睨むようにして見ていた。
キリシマもまた鋭い視線に気づいたのだろう。
怪訝そうな表情を浮かべたかと思えば、一度髪を払って不敵な笑みを作ってみせた。
一見すれば挑発にも見て取れる仕草であったが、実際は彼女の何気ない所作の一つである。
何かを誤魔化すようにわざとらしく大声を上げるドージを手で制し、オーガは自分たちがここにいる理由を確認するために口を開いた。
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「――俺たちを呼び出したのはお前たちか?」
オーガの問いに、キリシマは小首を傾げた。
察するに、彼は何者かに呼び出されて此処にいるのだろう。
でなければ、このようなのどかな場所に訪れるような男ではないはずだ。
そしてあのオーガが此処にいると言うことは、決してバトルとは無縁ではないことを示している。
少なくとも、キリシマの抱くオーガに対するイメージは、そのようなものであった。
「一人以外は、初心者か。用が済んだのならさっさと立ち去れ」
リクや、ユッキーの反応から、自分たちを此処に呼び出したダイバーではないことを察したオーガはそう言った。
ぶっきらぼうな言い方だが、要は自分たちの事情に巻き込まないためにこの場からの退避を促しているのだろう。
それくらいは察せられる程度には、キリシマは冷静であった。
既に目的であるヤナギランも手にしている。断る理由もない。
しかし、ドージの煽りを受けた直後に、あの高圧的とも捉えられる物言いだ。
ドージの態度も合わさって、納得のいかない様子のリクとユッキーを宥めていたアズマも、不愉快気に眉根をひそめていた。
サラを見れば、彼女もまた不安そうな面持ちでいた。
「そのような言い方はないのでなくて。ごくうま……ん゛ん゛っ゛、獄炎のオーガ」
一歩を大きく踏み出して、庇うような形で前に出た。
言い間違えかけた名前を太い咳払いで誤魔化す。多分、バレていないはず。
視線をキリシマに固定したまま、オーガが首を動かした。
「キリングジャイアント……」
「あら意外。ご存知でしたの。もしかしてファンですのね?」
「そんなわけがあるか」
「本当は~? サインなら無料で書いてさしあげますわよ」
「いらん」
バッサリとした答えだった。
キリシマは微笑んだまま、少しばかり残念そうな表情を作る。
オーガのほうは、鬱陶しそうに口を歪ませていた。
「そう、残念ですわね。そちら、あなたはどうですの? いります? サイン」
「えぇっ!? オレ!?」
いきなり話を振られたドージは、目を大きく見開いて驚いた。
キリシマのブレない瞳がドージを真っ直ぐに見据える。
先に聞いた初心者狩りの特徴と、四人――特にリクとユッキーの反応から、このドージこそが初心者狩りの犯人であると判断したからこそ、あえて声をかけたのだ。意趣返し、というやつである。
しかし、キリシマは知らぬことだが、彼にとっての憧れは兄、オーガである。本来ならば断わっておくべきなのだろうが、それはそれとしてそれなりに有名なダイバーのサインも欲しい、と言う幼くも可愛らしい部分が同時にあった。
ドージはチラっとオーガを見るが、好きにしろ、と言わんばかりに一瞬、視線を合わせただけだった。
「……い、いらねぇよそんなもん!!!」
短くも、十分に迷ってから断った。
先ほどまでリクたちを小馬鹿にしていたのが嘘のような慌てぶりである。
「フフフ、こちらも残念ですわね」
悪戯気に笑ってみせたが、その瞳はすぐにオーガに向けられる。
キリシマの態度に、自分は眼中にないのだと思い込んだドージは、ギリっと奥歯を噛んだ。
それが当たり前だと理解していても。
「あなたの言わんとすることは解りますわ。ですので、こちらも邪魔になる前に立ち去るといたします」
「いや、待て」
踵を返そうとした瞬間、オーガが言葉を投げた。
「……何でしょう? 解っているようですけど、わたくしたちは誰一人、あなたを呼び出していませんわ」
「それは解っている。だが、その前に――」
オーガの口角が自然と吊り上がる。
それは極上の餌――ディナーを目の前にした、獰猛な獣のように思えた。
先ほどは立ち去れ、と言ったのに、この気の変わりようである。
しかし不思議と嫌な感じはしなかった。
次にくる言葉を予想し、キリシマは僅かに身震いした。
それは恐怖や、怯えからくる震えではない。緊張と、高揚からくる武者震いだ。
四人には申し訳ないと思いつつも、今目の前の強者とのバトルを求める気持ちを、偽ることはできない。それが、キリシマと言うお嬢様であった。
「ちゃんと来たようだな」
しかし、オーガが次の言葉を紡ぐ前に、別の声が割って入った。
短い舌打ちをして、オーガが視線を声の聞こえた方に向ける。
キリシマも、ドージも、その場にいた全員も、同じように視線を向けた。
そこには、三人の男性ルックのダイバーがいた。いずれもSEED作品に登場する軍服を纏った男たちだ。
その内の一人、真ん中のダイバーが一歩、前に出た。青みがかった前髪が、片側に寄っているのが特徴的だった。
「なんだ? 仲間を連れてきたのか」
「おいガラミティ、あの金髪は……」
キリシマを見て、刈り上げた茶髪を後ろ側に撫でつけたような髪型のダイバーが、最初に口を開いた前髪が片側に寄ったダイバー――ガラミティに声をかけた。
「解ってるさ、ニェット。あの巌も削り貫きそうな金髪縦ロールに、今にも馬鹿みたいな高笑いをしそうな不敵な顔、間違いようがない……」
茶髪――ニェットの言葉に返事をしながら、ガラミティはごくりと喉を鳴らした。
必然であろうが、偶然であろうが、自分たちが呼び出した獄炎のオーガの他に、キリングジャイアントのキリシマがいるのだ。緊張しないわけがない。
当のキリシマは――
「……んん? 今ちょっと馬鹿にされてました?」
「いえ。ただの事実では?」
「多分、本当のことを言っただけだと思うんだけど……」
「この短い時間で、納得してしまうくらい慣れてしまってる自分が怖いよ……」
「さ、流石のわたくしも傷つきますわよ!?」
場違いなほど暢気であった。
そんな一行を尻目に、オーガが口を開く。
「お前らだな? 俺を呼び出したのは」
「ああ。この前のフォースバトルでは世話になったな」
「面倒見てあげたのですの? 意外と面倒見が良いのですわね」
「お嬢様、額面通りの意味ではないと思いますよ」
「ちげぇーよ! この場合はやっつけたって意味だよ! ボコボコにしたんだよ!」
キリシマの言葉に、アズマとドージがほぼ同時にツッコミを入れた。
二人に同調するように、ヘルメットを被ったダイバーが苛立たし気に腕を大きく横に振って怒号をあげた。
「そうだ! 認めるのも癪だが、徹底的に、完膚なきまでに敗けたんだよ! しかも、そのせいで折角のフォースメンバーが二人も抜けちまった!」
「落ち着け、ダー。……これを仇討ちとは言いたくはない。こんなことをしても、意味がないことも重々理解している。だがな――」
「御託はいい!」
「なに?」
片側の口の端を吊り上げ、挑発的な笑みを作ってオーガが言葉を遮った。
その右手には、鞘に収まったままの刀を握っていた。
「かかってこいよ。呼び出しに応じて、態々足を運んでやったんだ。手前らの強さを、この俺に喰わせろ!」
メニューパネルを開くと同時、刀を振り上げる。
「ジンクスッ!」
叫び、振り下ろす。
ぶった切るように刀はメニューパネルを叩き、次いでオーガを包み込むようにガンプラが召喚される。
それは赤い、鬼めいた姿のジンクス――より正確にはジンクスⅣの改造機――オーガ刃-Xだった。
「ちぃっ、相変わらずの戦闘狂め!」
悪態を吐きながら、ガラミティ、ニェット、ダーもメニューパネルを操作し、ガンプラに乗り込む。
胴体装甲とリアアーマー、そして腕部装甲の一部を赤く塗装したドム試作実験機だ。
「中々どうして、渋いチョイスですわね!」
「ジンクスⅣの改造もさることながら、寸分違わず同じ箇所に塗装されたドム試作実験機の統一感の美しさ! すごい、すごいよ!」
「奇しくも同じ赤色塗装に、因縁を感じますわね!」
「二人とも、危ないから下がって!」
目を輝かせて四機のガンプラに見入るユッキーとキリシマを引っ張りながら、リクが叫ぶ。
その後ろ側で、アズマはこれからこの場で起こる激戦の予感に、不安そうなサラを支えるため、その両肩に手を添えていた。
そこでサラの肩が震えていることに気づき、優しい声音で言葉をかける。
「大丈夫ですよ。あの二人を何とかしてから、我々は離脱しましょう」
「ううん。違う、そうじゃない……」
「違う、とは?」
ふるふると首を横に振るサラに、アズマは頭上に疑問符を浮かべた。
その時、サラがハッとして顔を上げた。視線の先はドム試作実験機――その後ろを見ていた。
「もっとたくさん、くる……」
「いったい、何を――」
言っているのですか、と尋ねる前に、サラの言葉の意味に応えるように、重量を感じさせる音が、木々を、大地を揺らした。
森の中に潜んでいた鳥たちが一斉に羽ばたいて、空の向こうに消えていく。
「あれは……」
生い茂った森の中から、ぬぅっと姿を現したのは――ドズル専用ザクⅡ。
その後に続くように、次々とガンプラが姿を現した。
旧ザク、ザクⅡ、サク、グフ、ズゴック、ゲルググと言った一部を除き宇宙世紀作品のモビルスーツばかりだ。中にはキケロガなどのマニアックすぎるガンプラもいた。見たところサイコミュ試験型ザクをベースにジオングなどのパーツを使用しているようだ。
『このようなやり方は、本来ならば不本意であるが、ここに集ったのは、お前にやられた奴らだ。そいつらを全員、俺たちのフォースに引き込んだ!』
ハンドサインで指示を出しながら、ガラミティがそう説明する。
『ハッ! 質より量ってことか。数だけ集めりゃ、俺に勝てるとでも思ったのか?』
『ああ。だから、あえてこの言葉を言わせてもらう』
ガラミティのドム試作実験機が、手にした大型ヒートホークを、オーガ刃-Xに向ける。
『戦いは数だとなぁッ!』
咆えるような怒声を合図に、戦いの火蓋が切られた。
いつも誤字報告助かっておりますわ。ありがとうございます。
因みにドム三人衆、原作アニメと違い、ちょっとした小ネタを仕込んでおりますの。
【F-ARMS】
ヴォルゴ・グラーナ率いる、謎多きお嬢様フォース。
通称を冷静なほうのお嬢様、高笑いしないほうのお嬢様、ゲリラお嬢様、戦争卿などなど。
マゼラン大陸を活動拠点としており、移動型フォースネストを用いて活動しているため、所在不明。
SDコマンドガンダムや、コマンドガンダム風に改造した陸戦型ガンダムなど愛機としている。
SDガンダム限定のフォースバトルロワイヤル『グレートパンクラチオン』で三度の優勝を飾って殿堂入りしているくらいには高い技量を有しており、現時点におけるキリシマが乗り越えるべき存在の一人。
ドラゴン騎士団のエマ、本編主人公のキリシマと共に三大名物お嬢様ダイバーの一人して数えられている。
【ヴォルゴ・グラーナ】
ロシア風な軍服に身を包んだ栗色の髪の女性ダイバー。
宝石のように青く美しく瞳をもつ。
冷静沈着に努め、様々なトラップや武器を扱う。
近代的な装備を中心にした改造を施したガンプラを扱い、SDやリアルタイプを使い分ける。
一人称は『自分(わたくし)』 二人称は『貴公』『貴方』など。
堅実にして堅物なイメージがあるが、その実、分の悪い賭けは嫌いじゃない。