ダブルオーダイバーをドズル専用ザクⅡに任せ、ズゴック、キケロガ、サクを駆る三人のダイバーはキリシマを追っていた。
『なぁ、どう思うよ?』
『何がさ?』
ズゴックのダイバーの言葉に、キケロガのダイバーが反応する。
『あいつらがオーガの仲間かってことだよ。ガラミティたちの様子じゃ、オーガ以外の奴らが来ることは予想していなかったようだが』
『さぁね。だけど、キリシマにもしてやられた過去がある。アンタもそうなんだろう?』
『……まぁな』
『それを把握しているガラミティも律義な奴さ。あの場の指示でキリシマともぶつかった奴らだけを選んで即興の小隊を組ませたんだから』
『違いない』
軽口を交えながらも、その視線は森の中に消えたキリシマたちを抜け目なく探していた。
獄炎のオーガを打倒に参加した彼らだが、同時に彼女にも敗北した経験をもっていた。
偶然ではあったものの、今日この場にキリシマがいたことで、ガラミティが気を利かせてのだろう、四人一組の小隊を組ませて追撃部隊として編成したのだ。
指示を出された当人たちにとっては、打倒オーガとために集まったために些か不服ではあったのが。
『……あいつら、勝てると思うか?』
『ガラミティはあれでも優秀だけど、想定に満足して詰めが甘い部分があるからなぁ』
『無理そうか?』
『それならそれで、僕たちがキリシマや他の奴らを倒せば釣りくらいにはなるだろうさ』
『半分は納得しないと思うがな』
『二つ名付きを倒したって功績があれば、大体はそれで納得するものさ』
『そんなもんか』
『そんなものさ。ダブルオーの少年にも悪いが、僕たちの糧となってもらおうか』
『世知辛いな』
『それすら一側面さ。ここのね。そうだろ、サクの?』
キケロガのダイバーからの問いに、少し後を追従していたサクは何も答えない。
ただ伸縮する手足を振るって進むたびに、サク、サク、サクと気の抜けるような効果音が鳴るのみであった。
この異質なガンプラ――サクは、某ガンダムパロディ漫画に登場した超量産型モビルスーツで、サクサク描けるからサクと言う安直なネーミングと妙に愛嬌のあるデザインがウケて、一部ではカルト的な人気を確立しているという。
GPDが全盛期だった頃に何をトチ狂ったのか、とある駄菓子コラボにおいて公式のモビルスーツを差し置いてキット化されたことで、ジョークガンプラから異例の大出世を遂げたという経緯がある。
今で言えば、かつてガンプラもどきと揶揄されていたハイモックの先達と言えるかも知れない存在であった。最も、ジョークガンプラ前提で生み出されたサクと、そうでないハイモックとでは、性能の差はダンチであったが。
『サクなんて、今日日、変わった奴だぜ』
呆れを含んだズゴックのダイバーの言葉にも、やはり無言だった。
代わりに触手のようなアームを上に掲げて、ヒョイヒョイと小さく回して反応を返す。
無言ロールプレイを徹底しているのか、それともサクそのものになりきっているプレイスタイルなのか、二人には解らなかった。
ただ確実に言えるのは、ジョークガンプラで参加したこのサクを、二人はまともな戦力として認識していなかったということだけだった。
⁎
目的の人物――ジャイアントキリングの二つ名で知られるキリシマは、それからすぐに見つかった。
ひときわ高い木の天辺に、器用に立っていたのだ。
「オーッホッホッホッホ!!!!!!」
背筋をしゃんと真っ直ぐに伸ばし、腕を組んだ状態で馬鹿みたいな高笑いをかましていた。
それを見た三機は何とも言えない感覚を共有して、キケロガが「やれやれ」と首を振る。
「よくぞ見つけられましたわね!!!」
『いや見つけられたって言うか、そんな高い所で高笑いしてりゃ嫌でも目につくんだが!?』
『馬鹿と煙が高いところが好きってわけだね』
キリシマはメニューパネルを叩くと、直後に木の天辺から飛び降りた。
瞬間、自身を中心としてテクスチャが構築されていく。
そこに現れたのは、バエルのカラーリングを逆転させたかのようなグレイズだった。
正確にはガンダムXに登場するコルレルをベースとしたミキシングガンプラ――コルレル・スヴェイズなのだが、元々とデザイン性とキリシマの改造により鉄血のオルフェンズに出てきても違和感のない改造を施されていた。
腰部には、増設された細長いウイングバインダーが八基、ドレスのように取り付けられていた。
『グレイズ、か? いや、シルエットがどうにも違うな?』
『腰の細さからガンダムフレームっぽいけど……いや、どちらかと言えばヴァルキュリアフレーム……?』
「あら? もしかしてコルレルをご存知でない?」
『悪いな。こちとら、外伝作品までは完璧に網羅してないんでね』
「外伝……なるほど。まぁ、よいでしょう」
脚部――太腿辺りに佩いた二本の抜身の剣を引き抜く。
恐らく元はバエルソードであっただろう二振りは、細く整えられ、レイピアのように形に成されていた。
それを両手に持ち、切っ先を下に向けるように構えた。
『そんな細っこい剣で!』
気取るなよ!
咆えて、ズゴックが先に動いた。
研ぎ澄ませたアイアンネイルを煌めかせ、コルレル・スヴェイズへと迫る。
アーム中央部に内蔵されたメガ粒子砲を選択しなかったのは、コルレル・スヴェイズのベース機を鉄血のオルフェンズ系統だと思い込み、射撃類に対して高い防御力を発揮するナノラミネートアーマーを警戒したからだ。
真っ直ぐに突き出されたアイアンネイルをコルレル・スヴェイズはゆらりと左に動いて避ける。
『もらったっ!』
回避先を捉えて、キケロガの肩部大型メガ粒子砲がコルレル・スヴェイズを穿った。
ナノラミネートアーマーさえも、極限まで収束したメガ粒子砲の前では要の防御力を発揮しきる前に剥離されるほどだ。
しかし、直撃を受けたはずのコルレル・スヴェイズの姿は、霞のように掻き消えた。
『なっ!? 残像っ!?』
驚愕に声を上げるが、しかし動きに動揺はなかった。
モノアイが忙しなく動かし、コルレル・スヴェイズの姿を探す。
『バカっ! 下だっ!』
ズゴックの声を受けて、キケロガは即座にブーストをふかして上空に飛んだ。
直後、足元の木々を一筋の銀線が奔り、切り裂いた。
コルレル・スヴェイズが身を屈めて潜り込むように接近していたのだ。
一寸の判断が遅ければ上半身と下半身が泣き別れていただろう。
見たところ、コルレル・スヴェイズの武装は手に持った二本のレイピアのみ。
それであるならば、距離をとって遠距離から攻め立てながら、隙を窺ってズゴックがアイアンネイルで貫けば勝機はあるはずだと、キケロガは思考を巡らす。サクはそもそも戦力として期待はしていなかったので、位置取りに気をつけるだけでいいとも考えていた。
有線式アームを射出し、それぞれ別の角度から一斉に腕部メガ粒子砲を放つ。
対してコルレル・スヴェイズは爪先を大地を軽く蹴り、降りかかる光条の透き間を縫って事も無げにすべてを回避してみせた。
『オーッホッホッホ! 踊りはあまりお得意ではないようですわね?』
『見てから避けるかよっ!』
耳障りな高笑いに舌打つ。
『むおおおおおっ! そこだぁぁぁぁっ!』
光条に隠れて接近したズゴックがレフトアームのアイアンネイルを繰り出した。
背後からの一撃だ。防ぎようがない。回避をすれば、その一瞬を狙い撃つ。
しかし、コルレル・スヴェイズはまるで後ろにも目があるかのように、ズゴックに反応した。
マニピュレータを器用に操作してレイピアをくるりと半回転させて逆手に持ち直すと、そのまま突き出し、ズゴックの繰り出したレフトアームを貫き、紙を裂くように断ち切った。
『ぐぁぁぁっ!?』
両断された腕を庇いつつ、後退しようとしたズゴックのモノアイを、振り向きざまにもう一本のレイピアで刺し貫き、そのまま勢いに任せてズゴックの背後へ回り込み、押し出した。
次の瞬間、コルレル・スヴェイズを狙って放たれたメガ粒子砲の光条がズゴックを呑み込んだ。
ズゴックは自分が撃破されたことに気付く一間すらなく爆散し、テクスチャの塵へと還っていく。
『しまったっ!』
『信用しなさ過ぎでしてよ!』
『くっ、……けどねぇ!』
キケロガは戻した有線式アームのマニピュレータを真っ直ぐに固定し、指先から発振したビームの出力を調整する。
収束したビームは、段々とサーベルとして形作られていく。腕部ビームサーベルである。
指の一本一本に内蔵されたメガ粒子によって形成されたそれは、通常のビームサーベルよりも太く、荒々しい輪郭を揺らし、高出力であることを如実に表していた。
肩部大型メガ粒子砲を拡散モードに切り替え、撃ち放つ。
無数に枝分かれしたメガ粒子の光条が木々を蒸発させ、草花を溶かし、大地を焼く。
この時点でコルレル・スヴェイズにナノラミネートアーマーが施されていないことを、キケロガは気づいていた。施されているのならば、先ほどの腕部メガ粒子砲の攻撃をわざわざ避ける必要などないはずだからと。
残像を残すほどの圧倒的な機動力を封じるために直接狙うのではなく、行動の選択肢を狭めるために周囲を攻撃するという方法は、奇しくもガラミティたちがオーガに対して展開した戦術と似通っていた。
『判断は悪くありませんわね』
降り注ぐビームの雨に行動を制限されながらも、コルレル・スヴェイズのコックピット内でキリシマは笑んでいた。
見た目こそ鉄血風に寄せているが、コルレルはコルレル。一撃でも当たれば、即ち被撃破に直結する。
それでもキリシマは笑うのだ。それは何故か?
『楽しいからですわ!』
残像を軌跡として、コルレル・スヴェイズは真っ直ぐにキケロガ目掛けて加速する。
キケロガもまた有線式アームを射出し、左右から腕部ビームサーベルの攻撃を仕掛けた。
『僕だってBランクなんだよ!』
右側からきた刺突を的確な角度で刀身を当てて逸らし、左側からの斬り払いはレイピアの先端で手首を突くことで弾き返す。さながら流れる水のようにキケロガの攻撃を捌いていく。
機動力を一切落とすことなく、残像により射撃の狙いを妨害しながら、果せるかなコルレル・スヴェイズはキケロガに肉薄しようとしていた。
後方に身を退こうにも速度に差がありすぎることを、キケロガは既に把握していた。
だからと言って、キケロガに諦めるという選択はない。
直線で向かってくるのなら、それに合わせて肩部大型メガ粒子砲で迎撃する以外にない。
逸る気持ちを抑え、ギリギリまで引き付ける。
『い・まっ!』
コントロールスティックのトリガーボタンを押し込む。
まさしく絶好のタイミングで放たれた肩部大型メガ粒子砲は、果せるかなコルレル・スヴェイズがウイングバインダーを展開し、身を捻って無理矢理マニューバを変えたことで、胸部装甲を掠めて焼いただけであった。
『なんで!? 当たらない! どうして避ける!?』
悲鳴にも似たキケロガの言葉に、キリシマはレイピアを首元に突き立てることで答えとした。
レイピアは内部を刺し貫き、腰部を突き破ってその切っ先が露わにした。
そのままもう片方のレイピアを振るう。
右肩関節からするりと入ったレイピアを動かし、くの字を描くようにキケロガを断ち切った。
レイピアの刀身をパージし、腹部を蹴って離れる。
『――対ありでしたわ』
『くっそぉぉぉぉぉぉっ!!!』
トン、と音を立ててコルレル・スヴェイズは着地するのと、モノアイから光を失ったキケロガが大地に叩きつけられて爆散するのとは、ほぼ同時だった。
『さて――』
爆炎を背に、レイピアの切っ先をサクに向ける。
味方の窮地にさえ一切動くことのなかったサクに、キリシマは奇妙な感覚を抱いていた。
サクのことは知識にあるが、GBNで見るのは初めてだった。
弱い、とは聞き及んでいたが、それとて作り込みとゲーム内の強化システムでどうとでもなる。
『あなたは、どうしますの?』
キリシマの問いに、サクは無言のまま――行動で示した。
サクゥ!
ひと際大きい、気の抜けそうなSEを鳴らしてサクが飛び掛かった。
『迂闊に飛び上がる!』
ウイングバインダーに内蔵したレイピアの刀身を素早く装着。
引き抜くと同時に、突き出す。
『っ!?』
息を呑んだ。
サクは空中で触手のような手足をバタつかせ、スラスターなどを一切介さず、迫るレイピアの切っ先を、身を捩るように半回転して避けてみせたのだ。
ぎゅるり!
そのまま手足を伸ばし、突き出したコルレル・スヴェイズのアームに絡みついた。
『しまっ――』
振り払う間も置かせず、滑るようにアームを伝って両足を胴に回し、巻き付く。
両腕のアームを振り上げ、コルレル・スヴェイズの装甲を叩きつけた。
ペチンッ!
『――は?』
ペチン、ペチン、と間の抜けた音が耳を打つ。
ガンプラの体力を示すゲージ――装甲値が減っている様子はない。つまりは、ノーダメージ。
『な、なんですの?』
キリシマは当惑した。
まさかコルレルの装甲にすらダメージを与えられない攻撃力などと、予想していなかったからだ。
今も必死に叩いているが、やはり装甲値が減っていない。減る様子もない。
ただ脚部はがっちりと胴に巻き付いているため、易々と振り払うことはできないだろう。
試しにレイピアで突いてみるも、その瞬間だけは、やたら柔軟な動きですべて避ける。
正直、サクのマニューバは悪くない。本来なら宇宙空間で想定されていたAMBAC機動を、重力下でやってのけてたのだから、むしろ良質な部類だった。
あの柔軟な動作も、触手のような手足もフレキシブル加工されているからこそ可能としたものなのだろう。
『あれこれしている暇はありませんわね』
殿に出たリクを案じて、長く考えている時間はないと、サクを巻き付かせたままコルレル・スヴェイズを動かす。
重量にほとんど変化がないことから、このサクはコルレル同様に超軽量級なのだろうと推測する。
さらに、そこに柔軟性を付与する謎技術。
……何なんですの、本当に。
考えれば考えるほど謎が増していくサクにペチペチと叩かれたまま、キリシマはリクの元へと向かう。
その時だった。進行方向の先で、紫色の靄が立ち昇ったのは。
⁎
『リクさん、無事ですわね!』
『キリシマさ――ってそれは!?』
キリシマがリクの隣に降り立ったのは、ドズル専用ザクⅡが紫の不吉な靄に包まれた直後だった。
明確に味方と呼べる存在にリクは嬉しそうな声をあげて、すぐにサクに組み付かれたまま、ペチペチと叩かれていたコルレル・スヴェイズを見て、驚きの声をあげた。
『ちょっとしたアクセサリみたいなものですわ! それよりも――』
視線がドズル専用ザクⅡに注がれる。
モノアイを怪しく輝くと、大地に落下していたパーツが浮かび上がり、次々とドズル専用ザクⅡの元に戻っていく。
『あれは、サイコミュ!? でもそんな機能、使ってなかったはず……』
『でしたら隠し持っていたか、あるいは――』
噂のマスダイバーか。
その言葉を紡ぐ前に、ドズル専用ザクⅡがゆらりと動いた。
大型ヒートホークを水平に構え、赤熱する刃に紫の靄が集中していく。
『くらえいっ!』
ドズル専用ザクⅡが大型ヒートホークを振るった。
リクとキリシマとの距離間から、本来であれば刃が届くことはない距離だ。
しかし――紫の靄が刃と成って射出され、並び立つ二人に迫った。
『お飛びなって!』
キリシマの指示に、リクは素直に従った。直感がそうしろと叫んだのだ。
飛び上がった直後、足元を紫色の刃が奔った。
直撃こそ避けたものの、そこに生じた衝撃が二人――サクを含めれば三人――を襲う。
『くぅぅっ!』
『うわぁぁぁぁっ!?』
機体が重みを増して、足元から掬われるような違和感に苛まれかと思えば、バランスを崩して大地に落ちる。
キリシマはレイピアを地面に突き立てることで無理矢理、姿勢を維持したまま後方に着地していた。
意外にもサクの微々たる重量が重りとなって、安定することができたのだ。
『なんて威力ですの!?』
すぐにリクの方を見れば、落ちる寸前で受け身をとったのだろう、片膝を立てて態勢を立て直しているところだった。しかし、その動きは緩慢であった。
『フハハハハ! こいつぁ良い! 最高だなぁ!』
嬉々とした大声でドズル専用ザクⅡが大型ヒートホークを肩に担いで、大地を踏み砕く。
自身が放った一撃の威力を見て余裕が生まれたのだろう。
さらにもう一撃を放とう、大型ヒートホークを両手に持ち、振り上げる。
『これでトドメにしてやらぁ!』
瞬間――横合いから飛んできたオーガ刃-Xが、GNオーガソードをドズル専用ザクⅡめがけて振り下ろした。
流れ的には原作沿いなので問題ありませんわ!!!!!!!!!!!