お嬢様はピーキーがお好き   作:アルキメです。

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ジオンの残光が公開されていたので初投稿ですわ。


2.9『獄炎のオーガ/紫色の暗雲③』

 ガラミティは悩んでいた。

 自身が選ばなかった選択肢を取ったドズル専用ザクⅡを見て、である。

 ブレイクデカールなるチートツールを使わないことを意気込んだ、その直後に使われてしまったのだ。傍から見れば面目を潰されたようにも見えただろう。

 だが実際は、そんなことを気にする余裕もなければ、気にしていい立場でもなかった。

 ガラミティがブレイクデカールを入手していたのだから、参加メンバーの誰かが同じく持っていても不思議ではなかったはずだ。だのに、ガラミティはそれを想定していなかった。どころか、獄炎のオーガに勝つためならば、それもまた良しとさえ思ってもいた。

 だからガラミティには、ドズル専用ザクⅡのダイバーを責めるようなことはできなかった。

 

『どう、すれば……なにを……』

 

 それでも現状をどうすべきかを決めるのは自分であることには変わりはない。

 視線の先ではオーガ刃-Xが旧ザクの右肩を叩き切ったところだった。

 旧ザクを庇うように前に出たゲルググGがヒートナギナタを振るって切り結ぶ。

 オーガ相手によくも保つものだ、と他人事のように思考さえしていた。

 

『ガラミティ!』

『っ!?』

『場に呑まれるなよ! やると言っただろう! 獄炎のオーガを! 倒すと!』

 

 ニェットの気を張った声に、ハッと目を見開いた。

 今回の目標は獄炎のオーガを打ち倒すことにあったはずだ。

 戦術を破られ瓦解して尚、それでも果敢に挑み、持ち堪えているのが、誰も諦めていない――諦めきれていない証拠だった。

 

『ああ、そうだ。そうだよな』

 

 自身の両頬を叩き、ガラミティは不安に緩んでいた表情を引き締める。

 コントロールスティックを握り、生き残っているわずかなメンバーを確認する。

 味方は、もはやほとんど残っていなかった。

 

『不粋だと、思われているだろうな』

 

 自嘲気味な苦い笑みを浮かべて、ガラミティはニェットと並走する陣形でドム試作実験機を滑らせる。

 目標は――獄炎のオーガの駆るオーガ刃―X。

 当初の目的であった打倒オーガを優先すると決断したのだ。

 その判断は広義に捉えれば順序的に正しくはないのだろう。それでも、ガラミティは先に倒された仲間たちに報いねばならないという、戦士としての意志があった。

 そしてそれは、ガラミティにブレイクデカールの使用を躊躇わせた理性でもあった。

 

『オーガァ!!!』

 

 回線を全体へオープンにし、大声で仇敵の名を叫んだ。

 オーガ刃-Xの頭部がガラミティたちを向いた。そのカメラアイが鈍く光る。

 この時、ガラミティと、ニェットの胸に緊張はなかった。

 ワガママだとは思ったが、そこにあったのは――驚喜。

 このような状況でもオーガがこちらを認識したという事実に、だ。

 両断したゲルググGを跨いで、ガラミティたちに向かってくる。

 

『二人だけだが、アレをやるぞ!』

『ああ!』

 

 二重らせんを描くように左右の立ち位置を入れ替えながら、ガラミティは大型ヒートホークを、ニェットはヒートサーベルを構えた。

 何かしらを仕掛けてくることは、オーガも察知していただろう。

 しかし、だからといって止まるという選択肢は持ち合わせていなかった。向かってくるのならば正面から迎えうつ。それがオーガという男であった。

 ぐんぐんと互いの距離が縮まっていく。あとほんの数秒で接触するほどになるというのに、一秒が無限に感じられるようだった。

 

『こ・こ・だぁ!』

 

 ガラミティが叫んだ。

 ニェットと交差した瞬間、腰部後方に備えていたスタングレネードを投げた。

 コツン。

 一瞬、軽い音が鳴り、互いの合間に眩い閃光を迸らせた。

 無論、ガラミティたちは対閃光防御をあらかじめ用意していたから、実際に閃光を受けたのはオーガ一人だ。

 

『チィッ!』

 

 オーガ刃-XはGNオーガソードを持ったままライトアームをかざして、閃光を防いだ。

 その些細な仕草の隙を狙ってガラミティとニェットが仕掛けた。

 オーガ刃-Xから見て右側――かざしたアームに隠れるようにガラミティが大型ヒートホークを水平に構えて突撃。

 逆側からはニェットがヒートサーベルを同じく水平に構えて迫る。

 左右からの同時攻撃である。

 本来であればダーも含めた三人による連携技なのだが、ガラミティは即席で二人でも繰り出せるように調整したのだ。

 しかし、ガラミティは一つの穴を見落としていた。

 それは大型ヒートホークとヒートサーベルの重量の違いから生じる、わずかなズレであった。

 それをオーガは見逃さない。閃光で乱れた画面から捉えた少しの視覚情報から、既に見抜いていたのだ。

 右側の脚部スラスターをふかし、機体を斜めに傾けて、左脚を軸に滑るようにその場で回転。

 大型ヒートホークの刃を装甲の薄皮で逸らし、ほぼ同時に訪れたヒートサーベルをGNオーガソードで力任せに弾いた。

 

『こ、こいつっ!?』

 

 ガラミティたちの動きが一瞬だけ鈍った。動揺したのだ。

 二人の間に収まる形になったオーガは、その場で各部に設けたスラスターを全解放し捻りを加え――ひとつの渦となった。

 激流と化した刃がニェットのドム試作実験機のヒートサーベルを切断し、次いで腰から入り、緩やかな曲線を描いて断ち切った。

 ガラミティは大型ヒートホークを盾にすることで、寸前で回避を間に合わせた。

 

『いい反応じゃねぇか!』

『このぉっ!』

 

 すぐさま背部のラックを解除し、放電により青く熱されたヒートサーベルを引き抜く。

 溶断された大型ヒートホークが地面に落下する短い間に、そのプロセスを完了させたのだ。

 回転が止まった瞬間を捉え、ヒートサーベルを振り下ろす。

 一矢でも報いてやる、という強固な意志が宿った、あまりにも真っ直ぐな斬撃。

 放電したヒートサーベルがスパークを散らして、オーガ刃-Xの肩装甲を切り裂く――ことはなかった。

 

『これはっ!?』

 

 驚愕。

 肩装甲から形成された短いビームサーベルが、ヒートサーベルを受け止めていたのだ。

 それがガンダムAGEを参考に設計されたビームスパイクであると理解する前に、返しのGNオーガソードがドム試作実験機の腹部を貫いた。

 

『届かない、か』

『ああ、美味くもねぇ味だった』

『だろうな……』

『だが、歯ごたえは悪くねぇ』

 

 その言葉に、ガラミティは目を見開いた。

 聞き間違いではない。

 言葉に圧こそあるものの、それは少なからずオーガらしい言い回しでの賞賛だったのだろう。

 ガラミティは力の抜けたような、申し訳なさそうな小さな笑みを浮かべた。それはある種、諦めにも似た表情であったが、同時にどこか嬉しそうでもあった。

 

『なら、次は絶対に――』

 

 満足させてやる。

 言葉を告げれると同時に、ガラミティはドム試作実験機ごと爆散した。

 それがオーガに届いたかどうかは解らなかったが、その瞬間だけは、ガラミティは敗れたにも関わらず嫌な気持ちではなかった。むしろ、妙に清々しくもあった。

 ただ一つ心残りがあるとすれば、それはドズル専用ザクⅡのことだった。

 

『……』

 

 それ以上は何も語らず、黙したまま最後のドム試作実験機がテクスチャの塵となって消えていくのを見届けたオーガは、視線をドズル専用ザクⅡと、対峙する二機のガンプラに向ける。

 忌々し気に眉根をひそめると、オーガ刃-Xを三機のいる方向へと向けた。

 余計な手配りをしやがって、と文句を言いたい気持ちもあったが、自身が戦っている合間に目撃したダブルオーダイバーのマニューバに、そんな気持ちは『味わってみたい』という好奇心に上書きされていた。

 同時に、ブレイクデカールの使用に踏み切ったドズル専用ザクⅡに対して、怒りがあった。

 最初は数を揃えただけだと思ったガラミティたちの戦術は、実際に体感してみて悪くはなかった、と思い返す。ジェットストリームアタックを独自にアレンジした連携技は薄味だったものの、不味くはなかった。

 勝つために策を弄すことも、技を洗練することも、オーガは嫌いではない。そういった貪欲さが、人をより強くするのだと知っているからだ。

 だからこそ、彼らの頑張りに泥を塗るような決断を下したドズル専用ザクⅡは、まさしく上等な料理に不粋な味付けを足したような不届き者としてオーガには映った。

 コントロールスティックを動かし、スラスターを全開にドズル専用ザクⅡを方へ直進する。

 

 ⁎

 

 ドズル専用ザクⅡは、自身めがけて振り下ろされたGNオーガソードに寸でのところで反応。

 柄の短い大型ヒートホークで不意の一撃を防いだ。

 

『ぐっ、獄炎のオーガか!』

『クソ不味ぃもん、俺様に見せやがって!』

 

 オーガ刃-Xとドズル専用ザクⅡのパワーが拮抗する。

 リクのダブルオーダイバーと戦っていた時よりも、見るからに反応速度とパワーが更に上がっていた。

 

『どうして!? ガラミティの奴らは!』

『そんなもん、とっくに喰い終わってんだよ! 美味くはなかったが、良い歯ごたえだったぜ!』

『感想など! 余裕を言うか!』

『っ!』

 

 黒いスパークがヒートホークの刃を煌めかせた。

 途端、オーガ刃-Xの動きが重くなったのを感じ取ったオーガは、すぐさまスラスターをふかし、素早く後方へ飛んだ。

 先ほどよりも機体のレスポンスが遅い。

 見れば、機体の関節部に黒いスパークが付きまとうように迸っていた。

 

『関節への負荷に加えて、出力の低減か?』

『さしものオーガも、強制デバフには逆らえまい!』

 

 オーガは「ハッ」と短く笑い飛ばした。

 

『この程度で、もう勝った気でいるのかよ?』

『言ったな!』

 

 叫び、ドズル専用ザクⅡが駆ける。

 手にした大型ヒートホークを振りかぶり、黒いスパークを撒きちらしながらオーガ刃-Xを叩き砕かんとしする。

 

『さっきよりも速いっ!?』

 

 ようやく立ち直ったリクが、ドズル専用ザクⅡの強化された機動力に驚きの声を漏らした。

 もしも自分が今のドズル専用ザクⅡと対面したなら、あれを避けることは難しいと考えた。

 しかし、オーガはそれを苦もなく避けてみせた。

 機体にかかる負荷を素早く把握し、動作の追従にかかるラグを考慮しての動きだった。

 装甲を擦るか擦らないかの絶妙な間合いだ。

 だが、それでも膝にかかる負荷によって機体のバランスがわずかに傾いだ。

 

『もらったぞ!』

 

 ここぞとばかりにドズル専用ザクⅡが大型ヒートホークを返して振るう。

 通常の可動域ではまずありえない、あまりにも柔軟な動きだ。

 一閃。

 オーガ刃-Xが防御に回したGNオーガソードを弾き飛ばした。

 さらに三撃目の斬撃を与えようとし――

 

『やらせませんわっ!』

 

 サクに巻き付かれたままのキリシマのコルレル・スヴェイズがドズル専用ザクⅡの腰部に蹴りを入れた。

 コルレルは紙装甲と言われてはいるが、原作ではガンダムDXに蹴飛ばしても平気だったように、ある程度の衝撃に耐えうる最低限の剛性を有しているのだ。

 サクが両腕を伸ばしてGNオーガソードの柄を掴み取り、オーガ刃-Xへ投げた。

 

『ふふ、今のは中々危なっかしい場面でしたわね?』

 

 GNオーガソードをキャッチしたオーガに向けて、ここは共闘いたしましょう、とばかりに横に並ぶ。

 

『邪魔すんじゃねぇ!』

『はぁ!?』

 

 返事の代わりに、押しのけるようなどつきが返ってきた。

 いくら最低限の剛性があるとはいえ、紙装甲であることに変わりはない。

 今の一撃で装甲値の半分が削られたコルレル・スヴェイズは、衝撃を堪え切れず大きくよろめいた。

 

『おふざけを! 折角、助太刀に来たと言うのに!』

『そんなもん頼んだ憶えはねぇ! 邪魔するなら、とっとと失せやがれ!』

『はぃぃ!? さっき完全にギリギリでしたわよね!? よくもまぁそんな言い方できますわね?』

『それはテメェが勝手に決めたことだろうが!』

 

 睨みを利かせて向き合う両者を、リクははらはらとした気持ちで見守ることしかできなかった。

 流石の彼にも、視線の間で火花が散っていると幻視するほどの、あの間に入り込む勇気は湧かなかった。

 

『よくもなぁ!』

 

 強大な力を発揮してなお不意打ちで蹴り飛ばされた怒りからか、怒声とともの大地を踏み砕いてドズル専用ザクⅡが駆けた。

 「危ない!」とリクが叫ぶ前に、二人は動いていた。

 互いにバックステップで振り下ろされた大型ヒートホークを避ける。

 二人同時に叩きつぶそうと目論んだ一撃は、虚しく空を斬っただけに留まった。

 迸る黒いスパークをオーガはGNオーガソードで、キリシマはレイピアで絡めとるようにして、斬り払う。

 

『お邪魔を!』

『すんじゃねぇ!』

 

 二人は黒いスパークを絡めとった剣を投げ捨てる。

 オーガのオーガ刃-Xの固めた拳が、ドズル専用ザクⅡの装甲の上から肩関節を打ち砕いた。

 キリシマのコルレル・スヴェイズの貫き手が、ドズル専用ザクⅡの首関節を抉り貫いた。

 

『なぁっ!? だ、だがっ!』

 

 それでもドズル専用ザクⅡの動きは止まらない。

 関節を壊されてなお、強化されたパワーで無理矢理動こうと機体がもがく。

 黒いスパークが二機を逃さんと発生した。

 致命的なダメージを受けた影響か、弱々しいものであったが、それでも二機の動作を重くするには十分であったようだ。

 

『胡乱な手まで使ったんだ! せめてでも! 一矢でもとぉ!』

『自爆する腹積もりですの!?』

 

 死中に活を見出さんとしたのか、それともダイバーの執念に応えようとしているのか、モノアイを強く灯してマニピュレータで空を掻くドズル専用ザクⅡの動きには、あまりにも人間臭さがあった。

 しかし――

 

『そ・こ・だぁ!』

 

 滑り込むように、リクのダブルオーダイバーが突っ込んできた。

 GNソードⅡをライフルモードのままに、切っ先を融解して開いた装甲の穴に、ねじ込むように突き刺した。

 そのままトリガーボタンを押し込む。

 零距離で放たれたビームが装甲に開いた穴から入り込み、内部を光熱で溶かし、焼き尽くす。

 どれほどに装甲の防御力を高めていようが、内部まではそうはいかない。

 

『ちっぐしょおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』

 

 強制的に行われた、急激な機体性能の上昇により大きくはない負荷を受けていたドズル専用ザクⅡは、ビームを受けた箇所を中心に加熱でぼこりと膨れ上がり、はち切れるように内部から爆発を起こした。

 爆発の直前――正確にはリクが零距離を浴びせた瞬間、事を理解したオーガとキリシマは咄嗟に後方に飛び退り、間近でインパクトを受けるのを逃れていた。

 

『リクさん!』

 

 爆発が晴れる。

 そこには爆熱によるオーバーヒートで、ダクトや装甲の隙間から煙を吐いたダブルオーダイバーの姿があった。

 ツインアイが鈍く輝き、ギギギと音を立てて動作する。

 その姿を見て、キリシマはホッと安堵の息を吐いた。

 

『だ、大丈夫です』

『まったく、とんだ無茶を』

『あはは』

『でも、助かりましたわ』

 

 呆れたように笑う。

 

『っ!? キリシマさん!』

 

 リクの鋭い叫び。

 キリシマはぞわりとしたおぞ気が背筋を撫でるような感覚に襲われ、直感でコルレル・スヴェイズのウイングバインダーから予備のレイピアを接続。

 視界の端に迫ったプレッシャーに対して振るう。

 それはオーガ刃-XのGNオーガソードだった。

 バヂリッ!

 エネルギーの塊と、ナノラミネートが施された細い刀身が、ぶつかり合う音が響いた。

 

『はいぃぃぃ!?』

『食い足りなかったところだ。口直しも含めて、このまま味わわせてもらうぞ、ジャイアントキリング!』

『あ、悪食! 悪食ですわよそれ!』

 

 オープン回線で届いた嬉々としたオーガの声に呼応するかのように、オーガ刃-Xのカメラアイがひと際まばゆく輝いた。




どうしてケリィさんとの対決シーン全カットなんですか……どうして……
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