お嬢様はピーキーがお好き   作:アルキメです。

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悩んだのですが初投稿ですわ。


エピローグ『極炎のオーガ/その後に二人』

 ドズル専用ザクⅡのダイバー『ズルド』にとって、ドズル・ザビは憧れの存在であった。

 ザビ家という野心渦巻く一族の中に在って、武人として信念を貫き通し、良くも悪くも身内に対して情の深いあの姿が、ズルドにはとても理想的な人物として映ったのだ。

 自分もああなりたいと思った。

 あんな風になってみたいと夢に見た。

 ドズル・ザビのような男になりたいと。

 しかし、現実というものは非情であり、ズルドの性格はとにかくドズル・ザビのような武人肌とはあまりにも縁遠いものであった。

 肉体を鍛えようと頑張っても三日で諦め、せめて信念を貫く意思の堅さを見せようとしても気が付けば妥協に妥協を重ね、自発的に何かを成そうとするわけでもなく、ただ無為に日常を過ごすことの繰り返し。

 せめてGBNではドズル・ザビのようなアバターにしようとも考えたが、自身の現状を鑑みれば、それすらおこがましいものだと思い、憧れとは真逆の小柄で目付きが悪くてずんぐりむっくりな根暗なダイバールックにしてしまったほどだ。

 幸いにも、ズルドにはビルダーとしての技量も、バトルの技量もそれなりにあった。

 醜悪なダイバールックも、愛嬌があると言ってくれた人もいた。

 だからズルドはそこから自分なりに努力して、色んな資料や動画を漁って、ドズル専用ザクⅡを作り上げることができたのだ。

 それからは少しずつ、ほんのちょっとではあるが前に進んだのだと、進めたのだと思った。

 敗けることもあったがバトルも勝利を重ねて、Bランクに昇格する目前にまでいったのだ。

 嬉しかった。楽しかった。憧れにはなれなくても、憧れを心に頑張ることができたのだから。

 

 ――獄炎のオーガに出会うまでは。

 

 それはどうしようもないほどに、圧倒的な敗北だった。

 両腕を斬り飛ばされ、頭部に突き立てれたのは幅の広い刀身のソード。

 コックピットの中でズルドは、ただ茫然とするしかなかった。

 勝てると思っていた。

 何度も反復練習を重ねて、直撃軌道のビームを斬り払うという技を身に付けたのに。

 何度もバトルを繰り返し、自分に合わせた武装を描き、考えて、作り上げたというのに。

 積み重ねてきた努力の一切が通用せず、為す術もなく大地に斬り伏せられた。

 

『食べ応えもねぇ』

 

 倒れ伏すズルドを見下ろしながら、オーガはそう呟いた。

 その一言は、ズルドの心に根深く突き刺さった。

 そして気づかされたのだ。いつの間にか、妥協していたことに。

 憧れになれなくてもいい。ただ好きであればいいのだ。

 憧れになれないのは当たり前だ。仕方がない。

 そういった無意識の妥協が、必然的にズルドを本気から遠ざけていた。

 強くなりたいと言いつつ、強くなるための努力をしながらも、上に――次の段階に進むことから目をそらしていたのだと。

 オーガに敗けてからは今までの覇気を失い、研磨することを放棄し、ただ目的もなくGBNをプレイしていた。

 挫折、と言ってもよかった。

 そんなズルドにとって、ガラミティに声をかけられたことは天啓にも等しかった。

 彼についていけばオーガに一泡吹かせられるかも知れない。

 そう考え、ズルドはガラミティの打倒オーガに乗ることにしたのだ。

 メンバーは自分のようにオーガに散々な敗北を喫した者で溢れていた。

 ガラミティはなるほどよく出来たダイバーだった。

 オーガの性格も含めて、呼びだす場所を決め、その地形を事細かに分析し、メンバーの得手不得手を考慮に入れて配置と陣形を決めていく。

 

『オーガの実力はお前らも知っているはずだ。少なくともタイマンじゃまず勝てない。

 だから俺たちは数で押す。あえて言おう。戦いは数だ、とな』

 

 ガラミティの言葉にズルドは大いに賛同した。

 何せ憧れのドズル・ザビの言葉を引用されたのだ。

 あの瞬間、ズルドの心は確かに跳ね上がったことを憶えている。

 それからは研磨することさえ思い出せず、オーガに勝つ方法を探した。

 もはや何でも良かった。あのオーガに一泡吹かせられるなら、否、勝つには手段は選べないのだと言い聞かせて。

 そうして手に入れたが――ブレイクデカール。

 仲介者を名乗るあるダイバーから紹介された、俗に違法改造ツールとして実際に手にしたソレを、ズルドは初心者救済用ツールだと自分自身を誤魔化して使用した。

 今にして思えば、それが誤った選択だと理解できる。

 自分の心の弱さが、矮小な性格が、自棄になった感情が――ブレイクデカールを使ってしまったのだと。

 

 ⁎

 

「くそッ!」

 

 嫌な過去を思い出し、強制送還によってセントラルロビーに転送されたズルドは足早にその場を後にしようとした。

 すぐにログアウトを選択しなかったのは、それが自分にとって今最もやってはいけない逃げだと思ったからだ。

 

「……」

 

 脳内で先ほどの戦闘が思い起こされる。

 ガラミティが最初にキリシマ追跡に自分を組み込んだ時、腑に落ちなった。

 確かにズルドはキリシマにも敗けたことがある。

 けれど、勝ちたいとは思っていても、その時はオーガほど引き摺ってはいなかったはずだ。

 

「いや、違うな」

 

 見抜かれていたのだろう。

 オーガと戦うことへの、恐れを人一倍抱いていたことを。

 だからガラミティは気を遣って、あえて自分を一度オーガから遠ざけようとしたのだ。

 その結果はどうだ。

 動きの緩慢さからルーキーだと判断し、勝てると踏んだダブルオーガンダムの改造機のダイバーにしてやられた挙句、その現実を、その事実を認めることができず、ブレイクデカールを使用したのだ。

 ブレイクデカールによってもたらされた強大な力に、ズルドは酔いしれた。溺れた、と言ってもいい。

 実際、その効果によってオーガに一撃を入れる寸前までいった。

 キリシマの横槍が入らなければ、あのまま撃破できた可能性だってある。

 しかし、そうはならなかった。

 オーガとキリシマ。あの二人はブレイクデカールの効果によって発現したスパークをあっという間に攻略し、ズルドを返り討ちにしたのだ。

 ブレイクデカールの影響か、普通なら機能停止になってもおかしくないダメージを受けたドズル専用ザクⅡはそれでも持ち堪え、まるでズルドの意地に応じるように動いてくれたが、結局、最後は飛び込んできたダブルオーダイバーにトドメを刺される形で爆散した。

 そうして、今に至る。

 

「どんな顔で出向けばいいってんだよ……」

 

 違法改造ツールにまで頼って、敗けたのだ。足を引っ張った以前の問題だ。

 それくらいの自覚をするくらいには、ズルドの精神はそれなりにまともだった。

 だからこそ、ガラミティたちに顔を向ける勇気も、かといって自ら運営にこの事を報告する度胸もなかった。

 憧れの背中が遠ざかっていくのを感じる。

 後悔と卑屈がない交ぜになった苦々しい表情を浮かべて、頭を振る。

 

「おい! そこのダイバー!」

 

 つと、声が聞こえた。聞き慣れた声だ。

 名前を呼ばれてもいないのに、その声が自分に向けられたものだと直感し、ズルドは思わず顔を向けてしまった。

 ガラミティが、いた。

 

「ズルドだな?」

「な、なんだよ」

「お前、ブレイクデカールを使ったな?」

 

 心臓が早鐘を打つ。

 顔から血の気が引いていくのが解る。

 足元がおぼつかないという感覚に陥り、視界がぐにゃりと歪んだ。

 

「……ああ、使った」

「そうか」

 

 にべもないズルドの短い頷きに、ガラミティは軽蔑を眼差しを向けなかった。

 むしろ、どこか安堵したような、そんな眼差しだった。

 それからバツが悪そうな表情を浮かべて、頭を掻いた。

 

「あ~、そのだな。……実は俺もなんだ」

「――あ?」

「俺も、ブレイクデカールを持ってたんだ」

 

 ガラミティの告白に、ズルドは目を見開いた。

 

「勝つためには手段を選ばなくていい。そう思ってた」

「けど、あんたはソレを使わなかったんだろ」

「まぁ、な」

「だったら俺とは大違いだ。あんたは使わないまま、オーガに挑んで敗けた。

 俺は使って――敗けた。最低な選択を取って、最悪の敗北をしちまった」

 

 拳を作った腕に力がこもる。

 怒りではない。自分自身の行いに対して、苛立ちが先にあった。

 

「そう、だよな」

「何しに来たんだよ。運営に自白しろとでも言いに来たのか?」

「それもある」

「ほらな」

「けど先ずは――ズルド、俺たちのフォースに入らないか?」

「――はぁ!?」

「他の奴にも声はかけたんだ。半分はまぁ、俺たちが先にオーガを倒すとか、諸々の事情で自分たちのフォースに戻っていったりしたが……」

「それで、数合わせで俺ってことか?」

「いいや違う」

 

 ガラミティはハッキリと否定した。数合わせでない、と。

 

「だったら――」

「お前の実力を見て決めたんだ」

「ハッ」

 

 自嘲気味に、短く笑う。

 

「ブレイクデカールを使って、今こうして逃げようとしていた奴に、そんなことよく言えるもんだよ」

「だからこそ」

「あ?」

「だからこそ、って言うのも何だかおかしいが、――やり直そうと思って」

「やり直す?」

「ああ。もう一度、みんなでやり直すんだ」

 

 そう言ってズルドを見るガラミティの眼差しは、真剣そのものだった。

 例えるならばそれは、戦士の目であった。

 このままでは終われないという、終わって堪るかという、そんな意思を宿した、強い目だ。

 

「それで今度こそ、オーガの奴を倒す! そのためにズルド、お前の力が必要だと、そう思ったんだ」

「――俺は」

 

 弱い男だ。

 ドズル・ザビに憧れているにも関わらず、意志は弱く、諦めは早く、すぐに感情に流される。

 そんな奴の力が、果たして何の足しになるというのか。

 けれど、もしも、こんな自分にもそんな機会があるのならば――もう一度、ドズル・ザビの背中を追ってみたい。

 

「……本当にいいかよ。俺で、俺なんかで」

「ああ。勿論だ」

「へ、そうかよ」

 

 ふぅ、と息を吐く。

 

「いいぜ。ガラミティ。あんたの話に乗せてくれ」

「そうか。そうか!」

「けどその前に、俺にはやることがある。あんたもそうだろ?」

 

 ズルドの問うような声に、ガラミティは首を縦に振った。

 

「使おうが使わなかろうが、ブレイクデカールに手を出して、持ち込んだんだ。お互いにケジメはつけないとな」

「そうだな。どんな処分も、きちんと受け止めるさ」

「永久アカウント凍結かも知れないかもよ?」

「その時は、我儘な話だが……諦めるさ。潔く」

「へ、都合のいいこって」

「何にせよ俺たちのやろうとした、やったことは報告するさ」

「……だな」

 

 軽く笑って、ズルドはガラミティの手を取り、握手を交わした。

 その日、二人のダイバーがブレイクデカールを使用したという報告を以て運営に出頭。

 しかし運営は、実際に使用した痕跡やガンプラに異常を発見できず、証拠不十分として処理せざるをえなかった。

 同時に、それが最もブレイクデカールの厄介な性質であると、頭を抱えるのであった。 

 出頭した彼らの意思とは関係なく、電脳の世界に入り込んだ悪夢は、じわりじわりとGBNに広がっていたのである。

 

二人がブレイクデカールの本当の脅威を知るのは、もう少し後の話。




これにて第2章、一応は完結ですわね?

【ズルド】
ドズル・ザビに憧れるダイバー。
本人はドズルほど剛毅な性格ではない。
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