▼この外伝は青いカンテラ様のガンダムビルドダイバーズの二次創作作品「GBN総合掲示版」の第一有志連合編の時間軸に位置しますわ▼
▼作中で名前が出てくる「ハスラー・O」「コガネイ」の両名は、「GBN総合掲示板」のキャラ募集にて応募された逸般People様、試遊様のキャラクターになりますわ▼
▼お嬢様はピーキーがお好きの本編とは直接関係はありませんわ。現状で共通するのはナルミ(ナルカミ・スズメ)のキャラ設定だけになりますわ▼
カタカタカタ。
片方の明りが消えた電灯に照らされた一室で、パソコン画面を前のめりの姿勢で睨みながらキーボードを打ち続ける人物がいた。
小柄な女性だ。
白髪混じりの茶色の長髪はまともに手入れがされていないのかボサボサで、それでも邪魔にならないよう後ろ側で
化粧っ気のない顔は齢27を迎える間近だと言うのに未だ幼さを色濃く残していた。
美女を表す可愛いと言うよりは、小動物を表す可愛いというニュアンスが似合う。
花柄のブラウスと紺のプリーツスカートに、袖の余りそうな白衣を着て、眼鏡をかけていた。
ナルカミ・スズメ。
それが彼女の名前だ。
リアルではGBN開発者の一人にして、サブシステムの担当者として働いており、GBNではナルミと言うダイバーとしてログインし、現在は紆余曲折あって運営公認Gチューバーとして活動している女性である。
同僚には彼女の同じGチューバーとして活動しているザクムラと言うダイバーもいて、他にもハスラー・Oと言うダイバーや同じ開発者仲間のコガネイもいるのだが、彼らが集うのはまた別の話。
集中してパソコンと向かい合っているナルカミに、背後から近づく影があった。
「せ~んぱいっ♪」
声と同時に、ナルカミの首筋にキンキンに冷えた缶ジュースを押し当てる。
「わひゃあっ!?」
不意に訪れた冷気に総毛立ち、丸まった背をピンと伸ばして固まった。
「アハハハハハ! 相変わらずいい反応ッスね先輩!」
「~~~ッ!!! リリジマ、君はぁ~!!!」
直接的な冷気に晒された部分を抑えながら、ナルカミが振り返る。
そこには缶ジュース二本を片手で持った女性――リリジマがいた。
左側頭部に編んで垂らした赤茶の髪を揺らして、悪戯気のある顔で笑っていた。ついでに豊満な胸も揺れていた。当てつけか? 揉むか?
リリジマ・ミヤコ。
GBN運営スタッフの一人で、ナルカミやザクムラの後輩にあたる人物だ。
GBN開発後期、上の都合によって無理矢理な追加発注が起きた際に組み込まれた人材で、現在はGBN内ではガンイーグルの運営アバターを使って活動している。
先輩であるナルカミたちには結構遠慮がないのだが、決して軽んじているわけでなく、むしろ尊敬さえしている節がある。
ナルカミが作成したバグ対応表マニュアルなどをボロボロになるまで読み続けているのがその証拠の一つだろう。
余談ではあるが、以前行った『ネオ・ジオングのサイコシェードに関する誤判定検証耐久配信』ではエナジードリンク『マ・ザイ』を飲んで継続していたものの、徹夜二日目後半戦でついに寝落ちしてしまったナルミの代役として引き継ぎ、ガンイーグルちゃんとしてちょっと話題になったことはまだ知らない。
因みにこの時、宇宙空間で水面に浮かぶヒイロ・ユイめいてプカプカと浮かびながら寝落ちしたナルミの姿は切り抜き動画で投稿され、かなりの再生数を稼いでいた。
「いや~めんごめんごッス! お詫びにこれ上げるッスから」
言って、『アトラのココア』と表記された缶ジュースを差し出す。
GBNの鉄血のオルフェンズエリア実装記念で発売されて以降、今も売れ続けている人気商品だ。
元々はGBN内で実装されたものであったが、それを逆輸入してリアルでも発売した経緯がある。
甘味の中にあるミルクのまろやかさが愛飲者には好評であった。
「お詫びって、コレ私が頼んじゃやつじゃないか」
「要らないんスか?」
「要るよ。まったく……」
引っ手繰るように受け取りながら「でもまぁ、ありがとう」と呟いた。
「えっ!? なんスか? ちょっと聞こえなかったんスけど~?」
「感謝の言葉を言っただけだよ」
「え~ほんとッスか~? 聞こえなかった感謝は感謝じゃないッスよ~?」
「君は……ありがとうって言ったんだよ」
「んふふ~、よく聞こえなかったッス~♪」
「嘘だ絶対聞こえてたろ顔ニヤけてるぞ」
「本当ッスよ~」
「……どこがどう聞こえなかったか訊いても?」
「えーっと、“君は……ありがとうって言ったんだよ”までしか」
「全部聞こえてんじゃないかぁー!?」
「アハハハハハ♪」
余り袖でペチペチ叩いてくるナルミを適当にあしらいつつ、リリジマはパソコン画面に目を向ける。
「……例の、ブレイクデカールってやつッスか?」
「うん? ああ、今はそれで起きたと思わしきバグから色々逆算して修正パッチを作ってるところなんだ」
「逆算って、そんなことできるんスか!?」
「いや、ほぼ推測。って言っても、ややこしいんだよねこれ」
「ややこしいッスか?」
「そうなんだよ」
苛立たし気に前髪をかきあげながら、ナルカミはココアを飲む。
口の中に広がるミルクの柔らかな甘味と、砂糖で薄めたココアの苦味が程よく混ざり合い、冷えた液体として喉を潤していく。
「ブレイクデカールって言うのは、痕跡を残さない厄介な性質があるのは知ってるだろう?」
「今じゃこっちの常識ッスよ。バグのイタチごっこだって」
「ん、ただバグって言われてるが厳密にはそうじゃないんだ」
ナルカミの言葉に、リリジマは「バグじゃないってことッスか?」と小首を傾げた。
「バグって言うのはシステム開発時における意図しない動作――つまりは欠陥を指すんだよ。
それで、ブレイクデカールによって起こされたと思われる事象の数々はそれとはまた別の――つまりはエラーやプログラムの欺瞞と改ざんに近しい類のものだということなんだよ」
「えーっと……?」
「あー……要するに一昔前に流行ったプロアクやセーブエディターみたいなものだってこと」
「ああ、アレ! あのフツーに店頭に並んでたけど、気づいたら姿を消していたってやつッスね!」
「そうそれ。で、ブレイクデカールに至っては明らかに異常は異常なんだけど、それがガンプラに備えられた固有機能かどうかは断定できない。加えてデータ上は何もないから全くのシロ扱い。
その異常が見られた際に起きたバグは、そもそもその異常が原因がどうかもまともに調べられない」
「はぁー、いつ聞いても厄介ッスね」
「うん」
頷きながら、ココアで一区切り。
そういえば今日は朝から何も食べていないことを思い出す。
……後でザクムラにせがんでみるか。
「んでんで、先輩、逆算って?」
「――GBNで確認されてきた不具合と、ブレイクデカールで起きた事象に類似するものを――GPDを始め世界各国の歴代オンラインゲームのものまでとにかく何でもかき集めて、そこから出来る限りの修正パッチを幾つか作ってみたんだ。
逆算なんて言ったけど、ごめん、要は過去の事象から試験的にワクチンサンプルを作ってるだけだよ」
「――ん?」
「何だい?」
「それって、可能なんスか?」
「現に私がこうして作ってるんだが」
「ああ、そッスね……」
流石にGBN-ガードフレームの基礎を組み上げた人の言うことはよくわからない。
そいえばサブシステム担当とは言ってたけど最初はメインシステム担当者の一人としても働いていたことを思いだす。
「因みに今いくつくらい?」
「108個」
「は?」
「108個。下手な鉄砲数撃てば当たるの精神でとりあえずそれくらいは作ってみた。
この中の一つでも効けば御の字だけど、最悪全部が全部まったく効力がない可能性もある。
まぁ、この修正パッチ自体はさっき言ったようにあくまでサンプルみたいなもので、これを作った本来の意味はブレイクデカールの情報が手に入った時に即日対応で作成できるようにするための環境作りなんだけども――」
「あの、先輩」
「うん?」
「馬鹿なんスか?」
「ハハハ、ザクムラやコガネイにもよく言われる」
「やっぱ馬鹿なんじゃないスか!?」
カラカラと笑ってココアを飲むナルカミにリリジマは呆れるしかなかった。
そもそも現状に置いて打つ手がないブレイクデカールに対して、過去の事象を元手に効果があるのかさえ解らない修正パッチを108個も作成するなんて正気ではない。
何となくザクムラの「あいつの真似はしないほうがいい」という言葉の意味を理解できたような気がしたリリジマであった。
「あれ?」
つと、視線を横の机に移すと、本来置いてある書類の山が全て片付けられていた。
代わりにガンプラと工具が散らかっていた。
キット化されたGBN-ガードフレームの改造機『ワークフレーム』と、大型MA『ラング』だ。
さらに多数のオッゴが整列されていた。
リリジマもガンプラを作るには作るが、こんな一気に作ったりはしないし、ラングに関してはキット化さえしていない。第一、IGLOOに出てきた『ビグ・ラング』だってまだキット化してないのだから。
「先輩、これって……」
「片手間に作ってた」
「それは解るんスけど、いや解っちゃいけないんスけど、あのもしかして――」
キラリッ、とナルカミの眼鏡が光った。
「私も参加する。有志連合に」
「はぁっ!? だ、ダメッスよ!? 先輩、カツラギさんからこっちを手伝えって言われてたじゃないッスか!」
「ぶっちゃけさー、もう私これやることやったからいいかなーって」
「いいいかなーって、じゃないッスよぉ!? 人格はアレっスけどそこら辺の腕は信用されてるんスよ!」
「そこはほら」
リリジマを指さす。
「君がいるし、何ならコガネイだっている。とても頼りになるし、私がいなくても大丈夫だ」
「うっ、それはそうでしょうけど……えへへ……」
「それに私はこっちの方がしっくりくるようでね」
「……それは元ガンプラマイスターの意地ってやつッスか?」
「そうとも言えるかも。それに……」
「それに?」
「もしかしたら有志連合に参加している有名ダイバーやフォースとお知り合いになれるかもって」
「私利私欲丸出しじゃないッスかぁー!?」
「あ、ブレイクデカールに関するマニュアルは既に作って、そこの棚に置いてあるから」
「へ?」
「それ見てやれば、余程頭イオク様じゃない限り今回の件の対応はある程度できると思う」
「は?」
「ちょっと量は多いけど、大丈夫、君ならできる。優秀だからね」
「あの」
「ついでに焼き肉も奢ったっていい」
「……もう一声」
「丼盛り高級焼肉店鉄火丼の食べ放題コース」
「乗ったッス!」
「乗せた!」
そういうことになった。
迷うことなく即答だったのだ。
「んじゃ、こっちで何とか誤魔化しておくッス」
「よろしくたのむよ。後任の育成も含めて」
「カツラギさん、絶対にこんな時にする状況ではないって怒ると思うッスけどね」
「とは言ってもこっちでできることと言えば全部後手後手になるからねー」
「そーなんスよね。色々備えてはいるんスけど、それだって使わないに越したことはないッスからね」
お互いに頷く。
「そういえばそのガンプラ、後で動作テストするんスか?」
「しておこうと思う」
「なるほど。それじゃあ、自分マニュアル借りていくッス」
リリジマは棚から分厚いマニュアルを挟んだファイルを取り出し、扉へと向かう。
「先輩」
ドアノブを握ったところで、リリジマが振り向く。
「絶対、勝ってきてくださいよ」
「そこはほら、有志連合次第だから」
「うっわ、最後まで締まらないッスね」
「それもよく言われる」
「あっ、あと先輩」
「うん?」
「ザクムラ先輩、ああ見えて褐色ギャル好きらしいッスよ!」
「君、その恋愛脳拗らせた物言い、本当に気持ち悪いからな!?」
「イヒヒヒ、さいならッス~」
リリジマは扉の隙間から顔を覗かせ、悪戯気な笑みを見せてから扉を閉めた。
一人残されたナルカミは「まったく」と呆れた調子で呟き。パソコンに向き直る。
ふと、日光を浴びることを忘れて久しい自分の白い腕を見つめた。
「……焼いてみるかな?」
一寸。
「健康のために」
わからない。わたくしは雰囲気でプログラムとか言っちゃってますわよ!
【リリジマ・ミヤコ】
GBN開発後期にやってきた後輩。
運営スタッフとしてガンイーグルのダイバールックを使用している。
ものぐさなナルカミと違い、プライベート用アカウントを使い分けている。
プライベートでは『ディメンションガイド系Gチューバー・ミヤジマ』として活動している。
「アイネイアース」「魚の骨」といった小型船を使い分けている珍しいダイバー。
【アトラのココア】
鉄血のオルフェンズを舞台にしたエリア『ディメンション・ポストディザスター』開放記念にGBN内で発売された飲食アイテムの一つ。
好評を博したため、リアル側にも逆輸入される形で販売された。
砂糖控えめでミルク多めの甘味。
因み開放記念の際、期間限定でNPDアトラが手渡しで販売していたため、店頭前はカオスと化していた。
【丼盛り高級焼肉店鉄火丼】
『鉄には火が通っている』で同じみの海鮮料理と焼き肉が味わえる高級焼肉店。
丼物が多く、マグロステーキと薄切り和牛ロースの鉄火丼などの丼メニューが大人気。
この時、ナルカミはまだ知らなかった。
リリジマの誤魔化しを看破したカツラギとコガネイの手によって、ナルカミ主催の飲み会に変貌していたことに。
「作戦成功の暁には、ナルカミの奢りで丼盛り焼肉店鉄火丼にて打ち上げを行う運びとなった。各自、割引券を忘れず予定を空けておくように」
割引券を促すのはカツラギさんの良心かも知れない。
【ガンプラマイスター】
ガンプラバトルにおける最高にして名誉ある称号。
またはその称号を頂いた者たちの総称。
ビルダーとしての卓越した製作技術、ファイターとしての高い操縦技術を求められるため、この称号を有する者は非常に少ない。
言わばメイジンと並ぶ誉れ高き称号の一つである。
初出は『ボリス・シャウアー』を名乗る謎の男性から発祥されたもので、当時はこの称号を頂いた者を『シャウアーを継ぐ者』と呼ぶ風潮があった。
ナルカミもかつてはその称号を頂いた人物の一人であるが、現在はそれを返上し『元ガンプマイスター』となっている。
現在ではホビープロショップの『作る楽しさ』を伝えるために、純粋に製作技術と知識を追求した人物のことを指す名称――職業として定着しており、シャウアーを継ぐ者としてのガンプラマイスターは稀有な例として存在するのみとなっている。
因みにシャウアーのほうは『特製サングラス』を記念に贈られるため、多くはこれで見分ける形になる。