後半はおまけで書いたお嬢様の一部始終ですわ!
それは何時の頃の記憶だっただろうか。
息を切らして白い廊下をひた走る
注意の声すら聞こえない。
足が痛い。
わき腹が痛い。
それでもなお足を止めることは許さない。
怒られるのは覚悟の上だ。
目的の白い扉が見えた。速度を緩め、落ち着かせるように深呼吸。
開けた扉の先、清潔なベッドの上には、包帯に巻かれた少女――アズマがいた。
「アズ――ッ」
名前を呼ぼうとして――気づいた。
アズマの右肘から先が欠けていたことに。
右腕を失った痛ましいその姿に、キリシマは一瞬、言葉を忘れた。
ぼんやりと、虚ろな表情のままアズマがこちらを向いた。
ひどく憔悴しきっていた。
「よかった……本当に……」
無事で、とはとても言えなかった。
ゆっくりと慎重な足取りでアズマの傍に寄り、包むように左手を握る。
温かった。そして、微かに震えていた。
『私は――私が――』
アズマが掠れた声でぽつりと呟いた。
けれどそれきりで、後は言葉の代わりに涙が零れた。
ぽろり、ぽろり。
大粒の涙を流して呻くアズマを、キリシマは優しく、そっと抱きしめた。
生きている。この子はちゃんと生きているのだ。
それは『呪い』がアズマを縛る少し前の記憶。
⁎
設定した時計のアラーム音で、キリシマは目が覚めた。
どうやらあのまま作業机に突っ伏したまま寝落ちしてしまったらしい。
「また、あの時の夢を……」
溜め息を吐いて起き上がると、身体のあちこちが痛かった。特に首が。
薄っすらと有機溶剤特有の臭いが染みついたジャージ姿のまま、軽いストレッチを行う。
ペキパキと関節が鳴り、筋肉が伸びる感覚が大変心地よい。
「ちゃんとベッドで寝ないと駄目ですわね」
着替えを準備しつつ、作業机を見る。
そこに在るガンプラを確認し、自然と口角が上を向く。
「楽しみですわね」
臭うジャージを脱ぎ、下着姿のままシャワーを浴びに行こうと部屋から出る。
「おはようございます。お嬢さ――まっ!?」
先に起きて朝食の準備をしていたアズマとバッタリと鉢合わせしてしまった。
早朝からメイドにとことん叱られるお嬢様の姿がそこにあった。
勿論、シャワーでさっぱりした後で。
「まったく。いくら我が家の中とは言え、お嬢様は少し不用心すぎます」
「わたくしが言うのもあれですけど、今の少しで済みますの?」
「夏祭り、浴衣、下着なし」
「ちょっ!? 黒歴史を晒すのは外道ですわよ!? ノータッチドントアンタッチャブル!」
身振り手振りでストップをかけるキリシマをアズマは華麗にスルーし、用意した朝食をテーブルの上に並べる。
半熟ベーコンエッグ。
半盛りのごはん。
わかめの味噌汁。
デザートのバナナ。
お嬢様チックな豪邸に住み、自室以外はお嬢様チックな内装の、お嬢様チックな朝食は――実に庶民チックであった。
「バナナは大安売りでしたので」
「わたくし、嫌いではないのですけど、そのままはあまり好きではないですのよ」
「意外ですね。何でも食べるという意味での悪食かと思っていました」
「貴方、時々すごく辛辣なこと言いますわね!?」
「前からです」
「そうでしたわ!!!」
「それでは、いただきます」
「はい!!!!!! いただきます!!!!!!」
「お嬢様、醤油を取って下さい」
「一応わたくし貴方の主なのですけど???」
「それだけ信頼しているということです」
「もうっ、仕方ありませんわね!!!」
「それとうるさいです」
「はい……」
キリシマとアズマの朝食は妙に騒がしく、そして静かだった。
……美味、ですわ。
アズマの手料理に舌鼓を打ち、空腹を満たすのであった。
⁎
模型店『THE GUNDAM BASE』に寄ると、声が聞こえてきた。
既に盛り上がっているようだ。
「こんにちは」
「アズマちゃん! いらっしゃい」
「「こんにちは!」」
アズマが挨拶と共に入ると、ナナミ、リク、ユッキーの三人が元気よく言葉を返してくれた。
三人の位置取りからするに何かを囲んでいるようだ。
囲いの中心には――ガンプラがあった。
「ダブルオーガンダム。それがリクさんの――」
その姿は先日見た時とは異なっていた。
「はい! これが俺のダブルオー。――ガンダムダブルオーダイバーです!」
「ガンダム、ダブルオーダイバー……」
近づき、腰を曲げてまじまじと観察する。
記憶している限り素体となったダブルオーとの違いを比較し、その作りに自然と言葉が溢れる。
「原型を色濃く残しつつも他のガンプラからのパーツを組み込み、しかしそれが邪魔にならず、さりとて主張し過ぎず、絶妙なバランスによって成立しており、実に正直な作り……出会って日の短い私が言うのもあれですが、実にリクさんらしいガンプラだと感じます」
「へへへへ、ありがとうございます!」
つらつらと述べられたアズマの言葉に、リクは照れ臭そうに鼻を掻いた。
「あれ、そういえばキリシマちゃんと一緒じゃないの?」
「はい。お嬢様は自社系列のホビーショップに新しく設置するGBNの稼働テストで、本日は此処ではなく、そのホビーショップからログインするということです」
「えぇ~! そっちにも新しくできるの!? うち大丈夫かな~」
「とは言っても、此処とは離れた場所ですし、問題はないかと」
「まぁ、元々あんまりお客さんきてないから大丈夫なんじゃない?」
「ユッキー!?」
「今日も俺たち以外、殆どいなかったから」
「リッくんまで!?」
「新設祝いに割引券ならびに無料引換券を配布するそうなので、どうでしょう二人とも、一度ご来店しては」
「ちょっとちょっとちょっとぉ!?」
「頑張らないとですね」
「もーっ、もうしてるわよー!」
リクとユッキーにはキリシマのことを簡単に紹介していた。
本人は気を利かせて先日の会話に混ざらなかったので、二人とも対面はしていないものの、やはりコンゴウジという名前は有名なようだ。
特にユッキーの食い付きとは凄まじいものであったと憶えている。
コンゴウジ――コンゴウジ夫妻が経営するフローレンス工業はGBN開発に携わっているものの、こちらはさほど一般的ではない。
有名なのは射出成型機の生産シェアを半分近く占めていることと、系列のホビーショップではGポッドならびにGPDのバトル台を多く設置していたことぐらいだろうか。
今では小さな古寂びたゲームセンターや模型店にしか置いていないGPDだが、フローレンス工業のホビーショップでは比較的新しい状態で未だに現役を張っている店舗もあるという。
そういう部分を含めて穴場としてもそれなりに有名だとはユッキーの言である。
因みにキリシマ曰く、『娘の名前を店名に掲げるのは止めてほしかったですわ』
「まったく、最近の子は言葉の棘が鋭いわねぇ」
ナナミはやれやれと肩を揺らしつつ、
「ま、それはそうと、三人とも――」
三角形の板を三枚取り出した。
GBNにガンプラを持ち込むために必要なアイテム――GPスキャナだ。
「初GBN、いっちゃいますか!」
「「うん!」」
器用なウィンクとスマイルと共に放たれたその言葉に、リクとユッキーは期待を多分に含んだ笑顔を浮かべて、アズマは緊張を乗せた顔色で「はい」と少し遅れて頷いた。
⁎
案内されたGBNのプレイルームは想像以上に近未来的だった。
メタリックシルバーで彩られた室内はどこかの艦内か基地内を髣髴とさせる。
左右にそれぞれ三台、計六台のダイバーギアとその筐体が設けられていた。
「「わぁー」」
その光景に先を進むリクとユッキーの二人が笑顔のまま感嘆としていた。
「これがGBN……」
「そういえば、アズマさんのガンプラ――」
「そういえば、ユッキーさんのガンプラ――」
気づいたように振り向いたユッキーと言葉が被った。
「ああ、リクさんのダブルオーに夢中で忘れていました」
「恥ずかしながら僕も同じで」
言って、苦笑しつつ互いのポーチから自身のガンプラを取り出した。
ユッキーのジムⅢ。その改造機、その名をジムⅢ・ビームマスター。
オレンジに染められた機体は後衛支援機となっていた。
アズマのアストレイ・ゴールドフレーム。その改造機、その名をアストレイ・ジャグラスナイパー。
背部にジム・ジャグラーから流用したボールユニットをセンサーポッドに改造した狙撃機となっていた。
「ジム・ジャグラー!?」
「はい」
「凄い……パーツもそれぞれ違和感なく取り付けられているし、チョバムアーマーも一つ一つ手入れされてる……」
「ありがとうございます。腰部にマウントした折り畳み式スナイパーライフルは接続部にマグネットアクションシリーズのマグネットを使用し、多少手から離れてもすぐに吸い付いて元に戻るようにしてあります」
「マグネット! そういう発想もあるのか……」
「ユッキーさんも素晴らしい出来だと思います。特にジムⅢベースで素体の頭部周辺を独自に改修、ビームマスターの名称から察するにビーム兵器を多分に含みつつ、装甲を増やし機体の安定性を確立。堅実でしっかりとしていますね」
「え、えへへ、ありがとうございます」
そこからリクも参加し、改めて三人のガンプラを評価し合った。
一通り会話を終えるといよいよとばかりに三人は左側の席に並んで座り、ダイバーギアを被ると、GBNが起動する。
バイザーを通して表示される文字列とシステム音声に従い、セットしたGPスキャナの上にそれぞれをガンプラを設置。
スキャンが始まり、小気味の良い音と共にスキャン完了の音声が流れた。
瞬間、視界が吸い込まれるように変化する。
「!?」
ビリっとした感覚が全身を奔り、無意識に肩がはねた。
その時には既に三人の意識はGBNに電脳空間にダイブしていた。
飛び出したのは青い空間。
流れるように仮想の身体が構築される。
右にも左にも上にも下にも何もない。
奇妙な浮遊感に戸惑うものの、同時に高揚感があった。
『WELCOME TO GBN』
目の前に現れた三角形のエフェクトに文字が表示された。
……これが。
その中心に吸い込まれるように否応なく身体が進んでいく。
不思議と嫌悪感はなかった。
『Will YOU SURVIVE』
その表示を最後に、リクが、ユッキーが、アズマが――光に包まれた。
⁎
一方その頃――キリシマが出向いたホビーショップ。
「オーッホッホッホッホッホ!」
馬鹿みたいな笑い声を恥ずかしげもなく店内に轟かせながら、キリシマはGPDをやっていた。
何とこのお嬢様、この店で偶々催していたショップ大会に乱入、あまつさえGBNの稼働テストを権利として優勝賞品に追加したのだ。
一応許可は取ってあるので問題はない。
父親はかなり困惑していたが、母親はめちゃくちゃノリノリでGOサインを出した。
『は、速いっ!?』
『だが一発でも当てればこっちのもんだっ!』
「その程度の反応速度っ! ――な、中々ですわねっ!」
キリシマの駆るガンプラはコルレルの改造機であるコルレル・スヴェイズ。
ナナミに頼み込んで入手したBD発売記念に期間限定で発売されていたコルレルを、鉄血のオルフェンズに登場するモビルスーツシリーズの一つ『ヴァルキュリアフレーム』に似せて作り上げたミキシングビルド機である。
装甲はそのままに、細長いウィングバインダーを兼ねる剣鞘を腰に八基取り付けていた。
高速機動と持ち前の運動性でフィールドを疾走しながら、レイピアによる刺突で的確に急所を狙ってくる姿は、青白いカラーリングからまさしく一条の流星の如しであった。
レイピアが折れればウィングバインダーに収めた新たなレイピアを引き抜き、手早く補充。
しかもこのレイピア、ただのレイピアではない。
よくよく見れば薄っすらと両刃となっていた。
即ち、レイピアの形状は完全なブラフ。
それは突く以外にも切り裂くことさえ可能としていた。
『所詮は細腕っ! この防御力ならばっ!』
立ち塞がったのはFAZZ。フルアーマーダブルゼータではない。
遠距離型ではあるが、左腕にボルト式パイルバンカーを内蔵したロマン改造を施されていた。
射撃兵装で遠くの敵を殲滅し、近づかれれば強固に仕上げた装甲で攻撃を弾き、パイルバンカーの餌食とする。
しかし――
「突撃あるのみですわぁぁぁぁぁっ!!!」
『ぬ・お・お・おっ!? はやいっ! 想像よりも、さらにっ!?』
振り抜かれるレイピア!
FAZZのダブルビームライフルが銃身から斬り飛ばされ、そのまま装甲に届く。
パキィィン――
レイピアが半ばから砕け、折れた。
「ッ!?」
『もらったぁっ!』
その瞬間を好機と捉えたFAZZが、パイルバンカーをコルレル・スヴェイズ目掛けて射出!
『決まったっ!』
確信。
瞬間、コルレル・スヴェイズが跳んだ。
『なっ!?』
まるで羽毛のようにふわりと、しなやかに腰を曲げて。
射出されたパイルバンカーは虚しく空を貫いた。
コルレル・スヴェイズは着地と同時、鞘からレイピアを抜かず、そのままパージ。
鞘に納めたまま、それをFAZZの胸部に突き立てた。
そして――
『なにを……!?』
「ロマンはこっちにもありましてよっ!」
カチリ。
鞘の内側で起動音が鳴り――
「ダインスレイヴっ!!!」
バシュウッ!
仕込まれていた電磁誘導加速装置により射出されたレイピアがFAZZを貫いた。
因みにコルレルを含むゲテモノ四天王はガンダムXBD発売記念に期間限定で発売されたという設定ですわ。
お嬢様はナナミさんに頼んで独自のルートで仕入れてもらったのですわ!
【アストレイ・ジャグラスナイパー】
型式番号:MBF-P01-JS
全高:17.53m
重量:53.5t
武装:
折り畳み式スナイパーライフル
MMI-M8A3 76mm重突撃機銃
遠隔誘導操作用ボール型センサーユニット
アーマーシュナイダー
アストレイ・ゴールドフレームの改造機。
ジム・ジャグラーから転用したボールをセンサーユニットに改造し、チョバムアーマーを取り付けたミキシングビルド機。
カメラアイ部分にもジムスイナパー用のバイザーを被せてあり、狙撃を主体とした性能となっている。
ボールユニットは原典機の武装こそないが、遠隔操作を可能とした利点を活かし、そのまま相手にぶつけることもできる。
【コルレル・スヴェイズ】
型式番号:NRX-007-VF
頭頂高:17.9m
機体重量:4.9t
武装:
レイピア
ダインスレイヴ
コルレルの改造機。
細長いウィングバインダーはレイピアを収める剣鞘としても機能するように改造し、さらに内部に電磁誘導加速装置の機構を内蔵している。
(厳密にはGPD、GBNで再現できるほどに作り込んでいるだけで、本物の電磁誘導加速装置ではない)
それぞれのユニットはパージ可能。
ウィングバインダー一基につき二本ずつレイピアが収納されている。
外見はヴァルキュリアフレームに似せており、ガンダムXを知らない者からすれば完全に鉄血のモビルスーツだと勘違いされる出来栄え。
装甲は一切増設しておらず、ウィングバインダーで機動力を高めた程度の性能である。
なのだが、その機動力と元々の運動性能にキリシマの操作技術が合わさり、作中では驚異の性能を発揮している。