え、長くない? それもそうですわね!
カシュゥ――。
自動的にドアが開き、アズマは一歩を踏み出した。
途端、和気藹々とした騒がしさに包まれた。
……これが、GBN!
ラグもなく動く右腕を確認しながら、アズマは目の前に広がる光景を眺める。
大型のディスプレイには何らかの情報やランキング、はたまたどこかの戦闘場面が表示されており、様々なガンダム作品に登場したコスチュームを着た人々やGBN側で予め用意されていたパーツで様々な姿を構築している人々などが、その下を悠然と歩き、喋り、あるいはディスプレイの映像を見守っていた。
「――あの! あのぉ!」
自分の名前が呼ばれていることに気づき、ハッとして顔を横に向ける。
そこには二人――人型アバターがいた。
一人はジャージ風な服装の上から軽そうな皮鎧を纏った少年型のダイバールック。
もう一人はキャスケット帽を被り、首から厚めのゴーグルをかけた眼鏡の少年型のダイバールック。
一瞬、誰かと目を見開いたが、よくよく見ると面影がある。
「リクさんと、そちらがユッキーさん?」
小声で恐る恐る尋ねれば、二人は互いに顔を合わせてから頷いた。
「あーよかった~」
「あってたぁ……」
リクとユッキーがホッと胸を撫でおろす。
「よく私だと解りましたね」
「その、ディスプレイを見上げたまま呆然としている人がいたので、もしかしたらって」
「そうでしたか。それはお恥ずかしいとこを」
「いえいえっ。ところで、アズマさんのそれは、メイド服?」
アズマのアバター――メイド服を着た黒髪の少女型のダイバールックを見て、リクが小首を傾げた。
言葉に釣られたかのようにユッキーが横からズズイっと顔を出し、眼鏡をキラリと光らせた。
「ああ、リッくんこれは『ガンダムEXAVS』っていう、昔流行ったゲームと連動して『ガンダムエース』で連載されていた漫画作品に登場する服装で――」
主人公のレオス・アロイ――正確には彼の女性体であるレイス・レイスが、諸々あって捕らわれてしまったヒロインのセシアがいるマーズⅠに潜入する際に着用したのがこのメイド服であるらしいことを、作品の概要と共に熱く語りだす。
その勢いたるやさしものリクも若干たじろぐほどであった。
「そ、それよりユッキー、これからどうすればいいんだっけ?」
「え? ああ、そうだったそうだった」
ごめんごめん、と軽く頭を下げるユッキーは一度咳ばらいを挟むと、リクとアズマを手招いて歩き出した。
初GBNである故に、目に写る何もかもが新鮮で、度々足を止めてはついつい魅入ってしまう。
「色んなダイバーがいるんだね」
歓心を露に、リクが呟く。
アズマも無言で同意を示すように頷いた。
「ゲームの進行次第で、色んな服装や外観が手に入るみたいだね」
ワクワクと高い声音でユッキーが説明を聞いていると、粘土で出来たような外観のダイバーが三人の横を通りすぎていった。
「あれもダイバー、なの?」
「た、たぶん……」
「――すごく個性的ですね」
⁎
ガラスの外側でザク・ウォーリアが飛行していくのを横目に、三人は最初の目的地であるGBNのメインロビーへと歩を進めていた。
「まずはここのロビーにあるミッションカウンターに行って、遊ぶミッションを選ぶんだ!」
「へぇー」
「初心者ですから、可能なら三人で受けられるものがあればいいですね」
「オンラインですから、その辺りは大丈夫だと思いますよ」
語りながら、次第に遠くにミッションカウンターであろう円柱が見えてきた。
その時――
「よォ、坊ちゃん嬢ちゃんたちィ。何かお捜しかなァ?」
三人の目の前に一人の男がふらりと現れた。
短い金髪の胡散臭い男だ。
いかにもチャラついた若々しい顔立ちには、薄っすらと似合わない髭が生えており、飾ったアクセサリの古臭さが絶妙なアンバランスを醸し出し、それが却って妙に似合っていた。
いきなり馴れ馴れしく声をかけられた三人は困惑と戸惑いの色を浮かべてた。
「い、いえ僕たちは――」
リクが断ろうとした矢先、言葉を遮るように男が腰を曲げて顔を突き出した。
ご丁寧にポケットに手を突っ込んだチンピラスタイルだ。
「何だって用意するぜェ?」
ニチャリとした薄ら笑いを浮かべながら一歩近づいてくる。
「あの、私たちは――」
「お得なパーツかァ?」
アズマの言葉も遮り、また一歩。
「だからあの――」
「レアな報酬品かァ?」
ユッキーの言葉も遮り、さらに一歩。
「それとも――」
「あーっ! ヤスの兄さんじゃーん!」
今度は男――ヤスの言葉を遮るように大きな声が聞こえ、人混みの中から少女がトテトテと小走りでやって来た。
中心が少し凹んだアッガイキャップを被った小柄な少女だ。
外側にはねた明るい茶髪で、少しブカブカな水と白の合わさった合羽のようなパーカーが、幼さを強く目立たせている。
「んだよォ、ミナトか」
「まーた阿漕な商売やってるんですかー?」
ミナトと呼ばれたアッガイキャップの少女はニコニコという擬音が良く馴染みそうな快活な笑みを浮かべていた。
何とも調子の良さそうな少女だと誰もが思うほどに。
「バッ!? ちげェちげェ! 慈善事業ってやつだよっ!」
「えー? ホントにぃー? とか言って自作のジャンクパーツ売ってるんでしょー?」
ヤスをからかうミナトは、後ろ手にリクたちに振り返る。
「もしかしなくても、新人さん?」
「えっ、あ。はい!」
「そーかー新人かー。そーかー!」
ニヒヒ、としたり顔な笑みを浮かべて、
「ボクはミナト!」
「ど、どうも。リクです」
「ユッキーです」
「アズマです」
「うんうん! よろしくよろしく!」
順序に三人を手を握りぶんぶんと振る。
肩が外れそうな勢いだと思った。
「ってことはあれかぁー! ボクがGBN始めてから、初めての後輩! ボクは先輩かぁー!」
「なァーにが『先輩かぁー!』だよ。お前だって初めてまだ一週間も経ってねェじゃねェーか!」
「いーのいーの! 浮かれさせてくれよぉー?」
「ったく調子の良い奴だぜ……」
頭を掻きながら「調子が狂うなァ」とボヤくヤスを余所に、ミナトは胸を張る。
「ま、そんな訳だから困ったことがあったら存分にこのボクに頼ってくれたまえ!」
「はい! その時は頼らせてもらいます!」
フフーン!
鼻を鳴らして宣言するミナトに、純粋なまでにリクは大きく頷いた。
「いいんですかね?」
「まぁ、悪い人じゃないようだし……」
その隣でアズマとユッキーは声を潜めていた。
「おォっと、俺を忘れてもらっちゃァ困るなァ」
気を直して再びヤスが割って入ってきた。
「ヤスの兄さん、まだいたんだ。もう帰っていいよ」
「勝手に帰らすな! ――で、どうだいお三方? 今なら何と一点物のパーツを入荷しててなァ」
「ああいえ、僕たちは別に」
「それに始めたばかりですので手持ちもあまり持ち合わせていません」
「なら、なおさら丁度いい! 何たってこのレアパーツはなァ、選りすぐりの部品アイテムから作り上げた自作ジャンクパーツでよォ」
「ヤスの兄さーん。おーい! ヤスさーん!」
「あー、さっきからなんだよ! ミナトよォ!」
「うしろうしろー」
「あァん? 後ろがどうしたってェ?」
「ヤス」
ドスの利いた声がヤスの耳を打った
瞬間、ヤスの身体がビクリと跳ねた。
錆びたネジのようにギギギと恐る恐る振り向く。
息のかかりそうな距離に――精悍な顔面があった。
「あんた、初心者相手に変な商売しないって約束したわよね」
「ひィィッ!?」
ヤスの顔が一瞬で青ざめる。
「す、すいやせェェェェェんッ!!!」
言下に踵を返し、瞬く間もなく走り去っていった。
三人はそれを呆然とした眼差しで見送る。
ミナトだけは「やっぱりー」と小さく笑っていた。
「さて」
ヤスを追い返したダイバーが振り返る。
紫色の髪、引き締まった腰に逞しい肉体をアバター。
腰に手を当てた挙措は女性的でもある。
「見たところ貴方たち、初めてのようだけど、大丈夫だったかしら?」
「え、ああ、はい……えっと、貴方は?」
「お姉さんはマギー☆」
パチリコ。
ウィンクから星のエフェクトが飛び出た。
「貴方たちみたいな初心者プレイヤーにGBNを楽しんでもらえるよう買って出てるただのお節介よ♡」
言い、プロフィール画面を表示させたコンソールパネルを反転させると、指で突くような動作の後にリクたちに向かってパネルが空中で滑るように移動し、丁度三人の目に入るような位置で止まった。
リクを中央に置き、左右からユッキーとアズマが顔を覗かせて内容を確認する。
「すごい! ワールドランキング23位!?」
「ワールド……つまり世界で、と?」
「うん! 全世界で23人目にすごいってことだから!」
かつて師が激闘を繰り広げ、姉が目指したGPD世界大会と同じものだと考え、アズマは改めて目の前の一見して奇妙な人物が只者ではないと判断する。
「それは――確かに凄いですね」
「少しは信用してもらえたかしらぁ~?」
マギーの言葉に三人は首肯で示す。
「GBNへようこそ! 案内してあげるわ」
その瞬間に入り込むようにミナトがマギーの横から顔を出し、
「そう、ボクたちが案内してしんぜよう!」
エッヘン、とカイゼル髯のアクセサリを付けてえばった。
「あのねぇ、ミナト。貴方だってまだ新人なんだからね」
「わーかってますって! ヘヘヘ、迷惑はかけないんで何卒! なにとぞーっ!」
手を合わせて頭を下げるミナトにマギーは「やれやれ」と肩を竦めた。
ミナトもまたマギーのお世話になったダイバーの一人であり、マギーにとっては記憶に新しいダイバーでもある。
性格は明るいお調子者で、時々失礼なくらい素直な子だという印象をマギーは抱いていた。
その分、誰とも隔てることなく話せるのは既にヤスを見て知っている。
プレイスタイルは性格同様に真っ直ぐ。
粗があって無鉄砲だが、長く見ればきっちりとした強みになるだろうと考えていた。
そんな彼女がこうまで案内、と言うかマギーの真似事をしたがるのは、恐らくマギーへの憧れと、解りやすいくらいに自分と同じ新人と出会えたことからきている高揚感からだろうと推測していた。
要するに――その場のノリというやつである。
それはそれで心配なところはあるのだが。
「あ、あの、マギーさん! 僕たちは構いませんから」
「えっ!? いいの! マジで!? やった! ほらほらマギーさん! こう言ってることだしさー! 本日のオススメですよぉー?」
「んもぅ……解ったわ。でーも、ちゃんと手伝いなさいよ?」
「そりゃもう了解でしてー! それじゃ諸君! このボクに付いてきてくれたまえ!」
「「「よろしくおねがいします」」」
「まったく、調子が良いんだから」
大手を振って案内に意気込むミナトに、マギーは苦笑しつつ保護者の面持ちでリク、ユッキー、アズマの三人を自身の後ろにつかせ、先頭を歩き出したミナトの少し後ろから付いていくのだった。
誰もが物陰からその様子を窺う影に、気づくことなく。
大よその予定では3話までは原作に沿っていきますわ!
だって皆さんサラちゃんと鬼いちゃんに会いたいでしょう!?
わたくしはお嬢様と鬼いちゃんをバトらせてケミカルさせたいですわ!(本音)