呪われた呪術師の復讐劇   作:千α

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遅くなってすみません!



9話

「こ、これは……」

 

 どうすればいいんだろう。

 戸塚は困惑する。

 対する綴はいつもの無愛想な顔。いや、もう通り越して無である。

 蟲飼いが用意したチップは半分以上溶けていた。

 

「……えっと……」

 

 どうしよう。どう声を掛ければいいのかわからないくらいに弱い。

 圧倒的に綴には運が無さすぎる。

 

「む、蟲飼いかそっちの執事さんに代わってもらうのは……?」

「負けて涙目になった綴を慰めるのは俺な」

「綴様に触らないでいただけませんか、この変態が」

 

 この2人、綴を助ける気はまったくないようだ。主人の危機になんて悠長なことを……と戸塚は頭を抱える。

 戸塚は綴のことが嫌いではない。むしろ好感を持っている。

 この男なら、この賭場をどうにかできるはずだと思っていた。

 思っていたのに……。

 

「続行するの?」

「まあ、するしかない、と思う」

 

 綴の後ろで控える蟲飼いと田端が目を光らせている。

 いったいどういう意図を持って綴の逃げ場を塞いでいるかはわからないが、2人は綴が勝負から逃げることを許さないようだ。

 

「……このままじゃ私が納得いかないわ!

 運じゃなくて、別の種類のゲームにしましょう!」

 

 戸塚はたまらず、バンっと机を叩く。

 

「いいのかい?」

「なにつまらなさそうな顔してんのよ!

 ルールはディーラー()が私の都合で変えるわ。神経衰弱、これ一択よ」

 

 これ以上のルール変更はできない。

 それを綴に伝えると、綴は頷いた。

 先程よりも顔色はいい。心底ほっとしているようだ。

 

「でもチップはかえらないわよ。そのかわり、貴方が買った時点でここの所有権を渡す。いいわね?」

「わかった」

 

 ゆっくり頷いた綴を見て、戸塚は満足そうに微笑む。

 

 すぐに用意されたテーブルにはトランプが全て並べられている。

 ひとつの欠けもない、新品のトランプを使用している。

 

「じゃあ、次こそいいわね?」

「要は絵合わせだろう?」

 

 戸塚と綴はまたテーブルを挟んで向かい合い、ゲームを始める。

 

 

 

────────────

 

 

 

 戸塚が抱いたのは違和感だった。

 何故か、覚えていた場所のカードが違うものになっている。

 しかし綴がイカサマを行っているようには見えない。

 そもそもこのゲームではイカサマなどできないようにしてあるのだから、そんなことをした場合、縛りによって呪いを受けるのは目に見えている。

 

「……」

 

 何故?

 さっきから綴も違和感を感じているようで後ろを睨みつけている。

 蟲飼いと田端、2人を見比べて綴は口を開いた。

 

「…………田端、余計なことすんな」

 

 え、と戸塚と蟲飼いが呟いた。

 さっきまで綴が負けていても手を貸さなかったような男が、イカサマなど思想にもない男がイカサマをしたのだ。

 

「失礼致しました」

 

 田端は綴に恭しく一礼する。

 

「しかし貴方が勝つという結果がわかるような試合を、時間をかけてまでする必要がありますかな?」

「ある」

 

 綴は田端から目を逸らすと、ゲームに集中し始める。

 

「……ねぇ、田端…さん?」

「なんでしょうか?」

「さっきの言葉の意味って、つまり私が負けることが確定してるってこと?」

 

 若干その言葉に引っかかった戸塚は田端に質問する。

 田端は如何にもと頷いたが、それが戸塚の勝負師魂に火をつける。

 たとえディーラーだとしても、この賭場を手放したいと願っていても、戸塚はどうしようもなくギャンブラーなのだ。

 

「じゃあ、仕切り直してもう1回……」

「いえ、このまま続行よ」

 

 蟲飼いがカードを配り直そうとした時、戸塚がそれを止めた。

 

「こっから巻き返してこそ、でしょう?」

「やれやれ、田端が余計なことするから」

 

 戸塚栄子。

 彼女は呪術師、というわけではなかった。しかし昔から呪霊が見えていたこともきっかけとなり、この界隈へ足を踏み入れてしまった。

 どうやら自分にはギャンブラーとしての素質があったようで、次々と勝っていき……ついにはこの賭場を手に入れた。

 そこからはつまらない日々、初めの頃にあった一喜一憂するあの感覚を得られない。

 

 だから、この界隈から足を洗いたかった。

 たったそれだけで、幾人もの挑戦者と勝負してきた。

 

 

 その結果が、例え自分の破滅だとしても。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

「……良かったの?」

「何が?」

 

 椅子に座りながらぼうっとしている綴に蟲飼いが話し掛ける。

 

「戸塚は呪術師ではないが、呪霊が見えていた」

「……」

「惜しい女を亡くしたと、そう思わない?」

 

 蟲飼いの眼差しは真剣なものだ。

 それを聞く綴の表情などこか暗い。

 何も答えない綴に、蟲飼いは溜息を吐く。

 

「ま、綴が何でもいいなら俺もいいけど……しかし、あの呪いがあんな効果を発揮するなんて……戸塚も運の悪いやつだ」

「手前が俺に何を求めているか全くわからないが、俺はこの結果で良かったと思っている」

 

 綴はハッキリと蟲飼いに伝えた。

 少し目を見開いてから、蟲飼いは綴に微笑む。

 

「………そう、綴がそれでいいなら、それも満足だ。

 きっと戸塚も、安らかに眠って………」

 

 蟲飼いがそう言った時、扉がバンっと開いた。

 

「死んでないわよ!!」

「おっと、戸塚無事だったか」

 

 そう言う戸塚の頭には包帯が巻かれている。

 

「どうやら、負けると致命傷を負う呪いがあったようです」

 

 戸塚を治療していた田端も同じように扉から入ってきた。

 

「しかし驚きねぇ、あの田端さん反転術式使えるなんて」

「亀の甲より年の功ってね」

「蟲飼い、貴方も独自の治療術があるでしょうに」

「正直綴以外に使いたくないんでね」

 

 放っておけば死んでいたであろう戸塚は綴の指示によって生きながらえた。

 

「さて、これでここのオーナーは貴方よ、綴君」

「戸塚………それはアンタのままで良いだろう?」

「は?」

 

 綴は面倒くさそうに戸塚を見ながらそう言った。

 戸塚は自由になるためにこの賭けに乗ったのだ。何を今更、と口を開きかけたが……。

 

「確かに、この土地の持ち主は俺になってるけど、それで俺がここに関わっていると高専に知られたら厄介なことになる」

 

 綴が手を差し伸べる。

 

「アンタは俺の部下になってもらう。

 だから、ここは今からアンタが自分の居心地のいいように使ってもらって構わない。

 その代わり、情報や資金はこちらに提供してもらう」

 

 困惑する戸塚に、綴は言葉を続ける。

 

「勝負して、どれだけ自由に焦がれているかはよく分かった。見えない人間(非術師)に振り回されて、不本意でここまでやってきたんだろ?

 俺は、俺達が自由であれる世界を作りたい。アンタみたいな人間を無くしたい。だから、手伝って欲しい。

 戸塚、アンタは自由(・・)が良く似合う」

 

 理解者がいてくれる事がどれだけ嬉しいことか。

 欲しいものを手に入れた時、どれだけ感動することか。

 手を差し伸べ、導いてくれる存在が、こんなにも喜ばしいだなんて……。

 

「わかった、やるわ……私にできることなら、なんでも」

 

 戸塚は綴の手を取って、涙を堪えて答えを出した。

 

 

 

 

 こつりと、靴の音がする。

 

「えー、お集まりの皆様……どうも初めまして、蟲飼いと申します」

 

 スポットライトに照らされ、蟲飼いがマイクを持ってニッコリと笑う。

 

「今日からこの賭場は我らが主の所有物となります」

 

 困惑が賭場を支配する。

 

「ですので……

 

 

 

 

 

 

         死ね」

 

 その瞬間、蟲飼いの周りに蝶のような蟲の呪霊が現れる。

 それが弾丸のように次々に賭場にいた人間達を貫く。

 

 

 しばらくすると、蟲飼いはまたニッコリと笑う。

 

 

「今、生きている人達は俺の蟲が見える人間だと判断した人達です。

 俺の主は優しいので、見える人間は生かしておけとのことで………」

 

 血溜まりを歩く。

 

「でも、俺は綴のように慈悲深くない」

 

 賭場の中心へやってきた蟲飼いは笑みを消す。

 

「綴に従え、さもなくば死ね」




こうして綴ガチ勢が増える。
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