呪われた呪術師の復讐劇   作:千α

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遅くなりました。


10話

 綴の目の前は目隠しをされ真っ暗だ。

 そのまま椅子に座らされ、やや緊張したような面持ちである。

 

「綴、口を開けて」

 

 蟲飼いの声が聞こえてきた。

 綴は若干躊躇したが、結局蟲飼いが言う通りに口を開ける。

 舌に蟲飼いが何かを乗せる。

 それを口を閉じて咀嚼し…………。

 

 

「…………………佃煮?」

「んー、惜しい! さて、これはなんの佃煮でしょうか?」

「小エビとか?」

 

 首を傾げながら答えるが、蟲飼いは「違う」と答える。

 若干嬉しそうなのが腹立つ。

 

「ほらほら、味覚がまだしっかり残っているかの調べてるんだから、頑張って」

 

 そう言われても……佃煮であることは確かであるが、しかし"何の"とつけば全くわからない。

 さて、どうするか。このまま答えを聞くのも嫌だ。絶対にからかってくるのは目に見えている。

 肉類、魚類の歯ごたえで無いことは確かだ。

 食べた中で1番近いものは小エビだったが、それは蟲飼いから不正解だと言われてしまった。

 

「……んー……」

「もう1回食べる?」

「うん、食べる」

 

 もう1度蟲飼いから口を開けるよう指示をされ、綴は口を開ける。

 目の前に気配がする。蟲飼いが佃煮を綴の口元へ運んでいるようだ。

 あと少しで口の中に佃煮が入る。

 

「何を! しているんですか!?」

 

 が、それは田端によって止められた。

 

「何って……いつもの味覚診断」

「質問が間違っていました。

 何を綴様に食べさせようとしているのですか!?」

 

 田端は急いで綴の目隠しを外す。

 

「イナゴの佃煮」

「!?」

 

 綴は目の前にあった器に盛られたそれを見て絶句した。

 

「綴が俺の育てたイナゴ食べてるのを想像したら、もう……興奮しちゃって……」

「何故それを実行した!?」

「俺もう田端が用意したものでしか診断しない」

「えー? でも美味しかったでしょ? 俺が、綴のために、真心込めて作ったんだよ」

 

 息がだんだん荒くなる蟲飼いから綴を庇うように田端が仁王立ちで立ち塞がる。

 

「綴様に近付くな変態が」

「田端、なんか飲み物用意してくれ」

「かしこまりました」

 

 田端は綴にそう言われると、綴を連れて部屋を出る。

 

「いやいやいや! なんで綴を連れてくの!?」

「貴方と綴様を一緒の部屋にすることはできません。

 全く油断も隙もない人だ」

「酷い。俺ほど綴を思ってる人間はいないよ?」

 

 自分の正当性を主張し始める蟲飼いを無視して綴と田端は調理場へと向かった。

 

「美味しいのに」

 

 蟲飼いは残念そうな声を部屋に残し、蝶となってその場から消え去った。

 

 

「美味かったのが余計に腹立つ」

 

 田端が入れた麦茶をストローで飲みながら、ため息を吐く。

 

「美味しかったのですね」

「普通に小エビかなんかの佃煮だと思ってたわ」

 

 蟲飼いはこうして忘れた頃に自分で育て、自分で作った昆虫食をあの手この手で食べさせようとしてくる。

 普段は田端が目を光らせているのだが、今回はタイミングが悪かった。

 

「前回ははちのこでしたね」

「幼虫類はトラウマあるって言ってんのに……。

 で、そっちはどうだ?」

 

 綴の問いに田端は書類を綴に渡す。

 

「使えそうな呪術師は、10人も残っていません。

 あとは、本当に見えるだけ呪力があるだけの人間でした」

「ふぅーん……」

 

 綴の合図で田端は書類のページをめくっていく。

 それら全てはあの賭場でこちら側へ引き入れた呪術師の詳細な情報である。

 

「ま、呪術師が非呪術師に買われなくて良かったよ」

「そうですね」

 

 田端は穏やかに笑い、綴の言葉に同意する。

 その笑みで田端が言いたいことがあるのだと綴は察する。

 

「なに?」

「12月の百鬼夜行から、また大きくなられた、と思いまして」

「そうか? そういえば今年はまだ測ってないな」

 

 そういう意味では無いのだが……と苦笑すると、綴は少しムッとしたように口を歪ませる。

 

「やはり貴方様を主と認めて正解でございました。

 この田端、残りの生命は全て綴様の為に使う所存でございます」

「いや、そこまでせんでもいいよ」

 

 田端の決意には素直に感嘆するが、でもそこまでして欲しい訳では無い。

 ただ、これまでの人生においてろくな事がなかった田端が、これから先の残りの人生を謳歌できればいいと思っている。

 

「私がそうしたいのですよ」

 

 そう言われてしまえば何も言うことが出来ない。

 田端はいつもこうだ。

 なんでもなんでも優先事項は綴。もっと他のことにも目を向ければいいのに、と思うが田端にその気は無いので何度言っても頷くだけで気にも止めないのだろう。

 

 その時、不意に部屋の扉が開いた。

 

「おや、蟲飼いがいないとは珍しいね」

 

 綴と田端がそちらへ目を向けると、そこに立っていたのは師の皮を被った男だった。

 

「………………田端、飲み物を」

「下水ですね」

「中身はメロンパンだが、身体は傑兄ちゃんだ。玉露をお出ししろ」

「かしこまりました」

 

 顔は怖いことになっているのにも関わらず、綴はテキパキと男を出迎える準備を始める。

 

「君に椅子を勧められるとは思ってもみなかったな」

「身体が傑兄ちゃんだからだっつーの。そうでなかったらマジで下水だしてるよ」

 

 立ち上がった綴は椅子を糸で出し、男を座るのを見てから綴も椅子に座った。

 夏油が生きていた頃は、それはもう尻尾をはち切れんばかりに振る子犬のように夏油を歓迎していた。1部の綴派の人間はその光景をハンカチを噛み締めながら覗いていたという。

 

「──で、なんの用?」

「また、頼みたいことがあってね」

「またかよ」

 

 というかこの男、人使いが荒くないか?気のせいか?

 

「綴、呪胎九相図は知っているね?」

「……ああ」

 

 明治の初めに史上最悪の呪術師として名を馳せた加茂憲倫によって生み出された九体の呪物の総称、それが呪胎九相図。

 

「実はそれの1番から3番までを受肉させてね」

 

 曰く、それらに宿儺の指の回収を命じた。

 曰く、ただの利害の一致であるためまだ信用ができない。

 曰く、もしもの事がないように監視をして欲しい。

 

「いや、別に俺じゃなくてもいいだろ」

「忘れたかもしれないけどね、綴……」

 

 夏油はやれやれと首を横に振る。

 それを見て綴がキレそうになるが、それを何とか堪えて次の言葉を待つ。

 

「君も、彼らと立場は一緒なんだよ」

「………………」

 

 いつ裏切るかわからない。

 

 綴達も、その九相図も同じだと男はそう言った。

 

「ここでもしも私は兎も角、呪霊達の信用を得られなければ、困るのは君だろう?」

 

 綴を呪霊側に引き込むことを呪霊達は了承している。

 だが、綴についてきた呪詛師達はその限りではないということだと、綴は初めに聞かされていた。

 それでも必要だと感じたからこそ綴は彼らを呼び戻した。

 つまり彼らがまた綴の元へ集結した理由は綴にあり、綴の都合なのだ。

 その都合で大切な仲間を殺してはいけない。

 

「……わかったよ、やればいいんだろ?」

「監視するのは君と…田端と蟲飼い以外の呪術師……最近、また数人引き入れたのだろう?」

「そこも指定してくんのかよ」

「むしろ君を参加させてあげることに感謝して欲しいよ」

 

 綴に近しい人間は綴の立場をわかっているからこそ、綴が、望まないことはしない。

 だが、綴と一緒に行動するようになって日の浅い人間はそうではない。まだ綴の考えていることを察することができない。

 

「まあ、ちょっとした試験ってやつだ。

 万が一があれぱ……わかっているね?」

「……わかった」

 

 睨みにけながら綴は吐き捨てるように了承した。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、あの子はどう動くかな?」

 

 綴達が潜伏する部屋から出て、男は呟いた。

 彼にとって綴は駒のひとつに過ぎない。だが、その駒はいつどんな風に動くか全く予想ができない。

 

「期待しているよ、甘菜綴」

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