呪われた呪術師の復讐劇   作:千α

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12話

 八十八橋。

 そこを訪れた綴と矢野は、橋を見て回ろうとして足を止めた。

 

「呪術師がいるな」

「え」

 

 姿は確認できないが、おそらく高専のあの1年生達だろう。

 

 さて、どうするか……。

 ここで会ってしまうのは避けたい。会えばまた面倒なことになることは目に見えている。

 だからと言って、呪霊のように非術師に認知されない訳では無い壊相と血塗をここに案内したとしても、しばらく身を潜める場所が無ければ騒ぎになるのもわかっていることだ。

 

「綴さん、あの人達何しに来たんでしょう?」

 

 そう、それが1番の問題。

 もしも自分達と目的が同じであれば、争うことは必至。

 夏油の皮を被った奴の目を欺く為にも、もしもの場合は綴達も加勢することが望ましい。

 

「したくねぇ……」

「面倒相手なんですか?」

「弱くて殺しそう」

「あ、なるほど」

 

 呪術師はできれば殺したくない綴らしい答えだった。

 特級呪術師である夏油の弟子である綴にとって、高専1年生は取るに足らない存在だ。うっかり殺してしまうかもしれない。

 

「そこはほら、壊相さん達に相談しましょって」

「……そうだな。

 はぁ…なんで田端連れてきたらダメなんだろ」

 

 転送術式を扱える田端を使えないこの現状に綴はため息を吐く。

 今回連れて来てもいい存在は、矢野だけだった。

 田端は待機することになっており、その条件を違えれば綴達は呪霊達からの信頼を失うことになる。

 

「なんで呪霊達の信頼を失っちゃダメなんですか?」

「……」

 

 それは綴のせいだ、とは言えなかった。

 綴が夏油の皮を被った彼を裏切れば、1番に被害を受けるのは綴に信頼を寄せる彼らだ。また、彼らが裏切れば被害を受けるのは綴だ。

 呪霊の信頼を失うということは、奴にもそれが直結してしまう。

 

 夏油は綴の中にいる子蜘蛛を使役したからこそ、綴は子蜘蛛と肉体や精神を取り合うことはなかった。

 もしもそれがなくなれば、綴は今までの負荷を一気に受けることになる。

 ほとんどの子蜘蛛を食べている綴の寿命は縮み、そして今までの力を失うことだろう。

 綴を信じる人間たちは、綴を守るために我慢を強いられている。だから綴もそれに応えるために、奴に従うしかない。

 

「……話すべき時がきたら、話す」

 

 矢野の顔を見ずに綴はそう言ったが、矢野は気にしなかった。

 

「はい、待ってますね!」

「聞かないのか?」

 

 矢野は頷いた。

 

「だって、いつかは話してくれるんでしょ?」

 

 満面の笑みを浮かべてそう言う矢野に、綴は顔を顰めた。

 自分は、もしかするとこの少年を裏切ることになるかもしれないと感じたからだ。

 

 面と向かって見せられる好意には未だに慣れない。

 昔からずっと受けてきたものだと言うのに、目を背けたくなる。

 何故なら、自分はそれを受けていい人間ではないから。自分のせいで破滅した人間を見てきたから。

 

「──……。

 とりあえず、この近くを探索して八十八橋の呪いの情報を集める。

 その後に壊相達を呼ぶぞ。アイツらが移動できるのは夜だけだから、明日までにはここへ連れてくる。

 それまでにアイツらが八十八橋について情報を得るようなら……俺達がどうにかするしかない」

 

 できればしたくない。

 

 綴は面倒くさそうにため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「大丈夫でしょうか?」

「田端、部屋をウロウロしないでくれない?」

 

 綴を心配し、部屋をうろつく田端を蟲飼いは鬱陶しいと眉を顰める。

 

「田端は本当に過保護だねぇ……綴のことを思うなら、ちょっと放任すればいいのに」

「またご無理をなされるかもしれないのに?

 蟲飼い、綴様がいない半年間、貴方は何を思い生きてきましたか?」

 

 それを言われてしまえば口を噤むしかない。

 今回自分達は綴について行って手伝うことを禁止されている。

 だが、綴はまだ子供だ。18歳だと言っても、まだ大人目の前だと言うだけで片足にも入っていない。本来であれば、まだ世間から庇護されるべき存在だ。

 そんな子供はいつだって無茶をする。

 無茶をして大人である自分達も守ろうとする。

 だからいつだって、誰よりも傷付く。

 

「何を、思って生きてたか、ねぇ……」

 

 そんなこと決まってる。

 地獄だ。絶望でしかない。

 綴がいない世界は地獄でしかない。毎日がつまらない、綴が心配で心が休まらない。

 最初はただ、子蜘蛛が魅力的で欲しかっただけ。だと言うのに、そんな自分にも手を伸ばし懐に入れてしまった。

 その瞬間から、この子を守らないといけないと感じた。

 この子を死なせてしまったら、きっと自分は後悔する。

 子蜘蛛としてでは無く、1人の甘菜綴(人間)として蟲飼いは綴に対して初めて愛情を抱いた。

 

「そう言う田端はどうなんだ?

 俺はアンタと綴がどう出会ったかなんて全く知らないんだ。どういう経緯で、綴に従っているのかは知っているけどね?」

「誰にも話しませんよ。

 それが、あのお方との約束ですのでね」

 

 田端は一礼して部屋を出た。

 

「………相変わらず、ケチだな〜」

 

 そう思わない?

 

 蟲飼いが振り返ると、そこにはツギハギの呪霊が立っていた。

 

「えーと、確か真人だっけ?

 ごめんね、待たせちゃって……」

「別にいいよ、面白い話も聞けたし」

 

 田端が用意した粗茶(謙遜などしていない)を飲みながら、ニコニコと笑っている。

 

「呪霊からこっちにコンタクトを取ってくるなんて、信じられないけど……何の用?」

「いや、ちょっとした人間の勉強って言うかさ。

 前から興味あったんだよ、君達に。もう1人には……逃げられたけどさ」

 

 人間の勉強?

 何わけのわからないことを、と僅かに顔を顰める。

 綴曰く、真人は魂の揺らぎも見えているので、表情を殺していても意味が無い、との事なので、蟲飼いは敢えて表情を全面的に出していくことにした。

 

「俺から学べることなんて、何も無いと思うけど?」

 

 呪霊と話しているだけで、妙な気分になる。

 

「いや、俺が興味持ってるのは……甘菜綴のほうだよ」

「は?」

 

 蟲飼いは綴の名前を聞いて、真人への警戒心を高める。

 

「初めて会った時、ちょっと驚いてさ。

 アイツ、俺でも見えないくらい魂をガッチガチに固めてるんだよ」

 

 綴の本音はいつだって見えない。

 魂が絶対に揺らがない。

 それが不思議でたまらない。

 

 しかし、唯一それが解れる人間がいた。蟲飼いや田端、そして幼い頃から綴を信じて、今また全員集結しようとしている人間達、夏油一派の残党、そういった人間には、綴もある程度気を許している。

 いつでも、誰に対しても魂を固めるなんてできっこない。そもそも魂が揺らがないように固めるなんて無理だと思っていた。

 実際にしているところを見れば、認めるしかないのだけれど。

 

 初めての事例だ。

 だから、甘菜綴が知りたかった。

 

「……綴は、我慢の天才なんだよ。

 

 呪術という世界に触れた時も、綴は我慢した。

 子蜘蛛に己を食い破られそうになっても綴は我慢した。

 五条先輩の時(・・・・・・)も、綴は我慢した。

 

 我慢して我慢して我慢して。

 そんなあの子の気が休まるなら、俺はなんだってするさ。

 少しでも自由に生きられるように努力する。

 俺は綴が、世界で1番大切なんだよ。

 

 だから、悪いけど、そんな大切な綴のことを他人と共有したくないんだよ、俺は。

 ほら、同担拒否って奴。

 人間相手にもそうなのに、呪霊のお前に、これ以上のことは言いたくないね。

 

 ま、綴の魂について教えて貰えたから、少しはサービスしたけど……これ以上はないよ」

 

 それ、飲んだら帰れよ。

 そう言うと、蟲飼いは部屋を出た。

 

──平気そうな顔をして、アイツも甘菜綴が心配なんじゃないか。

 

 真人は粗茶を飲みながら、蟲飼いが出て行った扉を見つめていた。




蟲飼いをもっと気持ち悪く書きたい。
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