あと早く渋谷事変書きたいという煩悩が見え隠れしてます。
蟲飼いは綴に吹き飛ばされた少年を見て首を傾げる。
「あんな子うちにいたっけ?」
「綴様が連れてこられたお方です」
それに答えたのは綴の為によく冷えた水を持ってきた田端だった。
「綴が?
またいつの間に人をたらしこんでるんだか……」
「たらしこんだ、というよりは……」
田端が何かを言おうと口を開くが、それは激しい破壊音によって掻き消えた。
少年が綴に蹴り飛ばされて壁に突き刺さったようだ。
「やりすぎじゃない?
あの子術師でしょ?」
「ええ、ですが最近まで生身の身体を使っての戦闘をしたことが無いとか」
「は?」
どういうことか詳しく聞こうとした時、綴が田端を呼ぶ。
蟲飼いのことよりも綴を優先する田端から、あの少年のことを聞くことが叶わず思わず肩を竦め、蟲飼いも綴の所へ向かう。
「田端、浴室の準備をしておいてくれ」
「かしこまりました。
お食事の方はどうされますか?」
「適当な物を頼む。こいつは病み上がりだから食べやすい物を」
綴の頼みを聞いて、田端は一礼してから部屋を出る。
「で? 綴はなんでその子いじめてるの?」
「いじめてない。
こいつが頼んできたんだ」
綴がそう言うので蟲飼いは少年をまじまじと観察する。
頬に傷のある少年だ。
少年は綴に蹴り飛ばされたことを悔しく思っているのか、口を結んで俯いている。
「うーん……よし、自己紹介からだ。
俺は蟲飼い、ヨロシク……で、君は?」
蟲飼いが差し出した手を訝しげに見つめてから、少年は名乗る。
「……与幸吉」
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綴にとって、呪霊達が何を企もうと関係の無い話だった。
仕事はするが基本勝手にやっていろ。こちらに火の粉がかかりそうになればトンズラすればいい。
だが、結局そうも言っていられない事態となった。
それがこの与幸吉だった。
「つまり、殺されそうになっていて、助けられそうだったからこっそり田端の転送術で助けてきた、と?」
「自分でもどうかしてたと思うよ」
「本当にね」
ここは特級呪霊が揃っている。
もしもそんな彼らの手から逃れた術師がいれば、それが綴によって手引きされたものだと知れば、何が起こるかわかったものではない。
「その辺は
「イマイチ信用できないけどなぁ」
「俺が
誤差でしかないだろうが。
というのは蟲飼いには言わなかった。
あまり彼を含めた仲間達にこれ以上の心配は掛けたくない。
ただでさえ最近無茶をしていて彼らを不安にさせているのだから。
「……そう。
綴がそう言うなら信用するよ。でも、本当に無理だけはしないでくれよ?」
「わかってる」
蟲飼いはそんな綴の表情を見て、何かを隠していることに気がついていた。
その何かはわからないが、もしもの時は自分が何とかすればいいと無理矢理納得することにした。
「で?
与君だっけ? 君はこれからどうするつもり?」
「どうするって……」
「俺らは呪詛師だ」
その一言で与は蟲飼いが何を言おうとしているか何となく理解する。
「まだ引き返せる」そういうことなのだろう。
「田端の転送術なら君を安全な所まで連れて行ける。
その後のことは保証できないけどね」
「……俺は」
蟲飼いも綴も与の次の言葉を静かに待つ。
例え呪術高専の人間であろうと彼は術師だ。どんな言葉が返ってこようと綴はその意志を尊重しようとするし、蟲飼いもそれに従う。
「俺は、強くなりたい……皆に、会いに行くために!」
与の脳裏に過ったのは京都校の仲間達…そして、幸せになって欲しいと願った
そのためには強くならなくてはならない。
そうでなければ、彼らに合わせる顔など無い。
「……だってさ」
蟲飼いは綴に尋ねる、このまま彼を匿い続けるかどうかを。
だが、答えは最初から綴のなかでは決まっている。
「わかった。
とりあえず身体の使い方をおぼえろ」
そう言うと綴は2人に背を向けて立ち去って行った。
取り残され呆ける与の肩をポンポンと叩く蟲飼いの表情を見ることができなかったが、与は少しだけ正気を取り戻す。自分にはまだ、彼らと再会できるチャンスがあるのだと。
「待っていてくれ、みんな……」
そんな与を尻目に蟲飼いは気付かれないようため息を吐く。
また面倒ごとが増えた、それが彼の本音である。
綴を付き従う人間は自分ひとりで充分であるし、こんなどう転ぶかわからないような人間を抱えておくリスクも大きい。
綴にバレないように感情を押さえ込んでみたが、今の顔は綴にはもちろん他の仲間にも見せられない。
それくらい酷い顔をしているはずだ。
───どうにかして、こいつもどこかで消せないか……?
綴にバレたら俺の身がどうなるかわかったもんじゃないけど……それはそれで興奮するしな。でも悲しんでるところは、あんまり見たくないなー。
あー……迷うなぁ……。
蟲飼いは救いようがない変態である。
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「やぁ、綴」
「手前に名前で呼ばれたくないんだが?」
綴が睨む先には奴がいた。
「そう睨まないでくれよ。
ほら、見た目は君が大好きな夏油傑だ」
「…………………」
この男を殺してやりたい。
他の誰でもない自分の手で。
そうやって恨みを募らせていくが、当の本人はどこか余裕そうに苦笑するのみだ。
「そろそろ私の正体にも気がついた頃だろう?
君の情報収集能力は馬鹿にならないし、何よりあの双子よりも頭がキレる」
「……美々子と菜々子のことか?
アイツら確かに馬鹿ではあるけどあんまり舐めてんなよ」
「はは、君もなかなか言うね」
この男の正体。
確かに綴の持てるものを全て駆使して探っていたが、結局答えにまではたどり着けていない。
それでも、"有り得るのではないか?"という仮説が綴のなかで固まっていた。
「……俺の知っている術師の中に、百歳を超える婆さんがいる」
「へぇ、それは長生きだ」
「よく言うよ、それより長くを生きているくせに」
そう言うと彼はニヤリと笑う。
「その婆さんが言うには、自分の父親の知り合いには額に大きな縫い目があったらしい。
名前は、加茂憲倫」
目の前の男の反応を見るに、どうやら当たりのようだ。
「………けど加茂憲倫に、その縫い目があるってことはだ……アンタの
そう答えた綴に彼はフッと吹き出すようにして笑う。
「前、ね……?
そこまでは良い推理だったよ」
しかしそれでは足りないのだ、と彼は綴に突きつける。
「それじゃあ、これからも引き続き頑張ってくれ」
「わからないな。
俺はアンタにとってそこまで重要な術師でないはずだし、俺が裏切る可能性のほうが高いだろう?」
何故、この男はそこまで自分をかうのだろうか。
それがわからなく、綴は不気味に思っていた。
「理由はいろいろある。
君は呪霊操術でいつでも私の思い通りに動かすことが出来るし、人質になる術師もいるからまず裏切ることはない。まだ利用価値もある。
だがそれ以上に………君を最期の寸前まで思っていた夏油傑に感謝することだ」
それだけを言って彼は綴に背を向ける。
「ああ、それと。
今度こそ彼は綴の元を去っていく。
完全にいなくなったのを見て、綴はため息を吐いた。
「何も対策しなくてもバレバレじゃないか。
奥歯が鳴る音がする。
それは自分の行動を読まれているこの状況に対してか、それともまだ夏油傑に守られていることがわかってしまったからなのか。
劇場版呪術廻戦0、上映おめでとうございます!
もちろん見に行きました!
本当に感動して仕事の疲れも吹っ飛びました。
これからも芥見先生を始めとした呪術廻戦に関わる人々を応援しています!