呪われた呪術師の復讐劇   作:千α

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3話

「田端! 飯!」

 

 あれから数日後、綴は酷く機嫌が悪かった。

 

「おやおや、精が出るね」

「うっるせぇ! 結局呪詛師の面倒押し付けやがって!」

 

 夏油(とは綴は呼びたくもないが他に呼び方がないのでこちらを使う)はニコニコと笑みを浮かべながら田端に用意してもらった紅茶を飲んでいた。

 ちなみに田端は綴が捕まる前に勧誘した呪詛師の1人で、初老のまるで執事のような男である。綴のわがままにも嫌な顔ひとつせず黙々と仕事をこなしていく姿は賞賛に値する。

 

「それに見合う報酬は渡したはずだが?」

「……………」

 

 夏油のいう報酬、それはかつて家族と呼んでいた、美々子と菜々子をはじめとする仲間達であった。

 

「それについては感謝してる。

 けど全部終わったら俺は手前を殺す。忘れたとは言わせねぇぞ」

「もちろん」

 

 奥歯を噛み締めて綴は夏油から視線を逸らす。

 

「綴様、食事の準備が整いました」

「ん」

 

 田端に案内され席に座る。味覚の変化により、味の濃い食事も薄く感じるようになった綴は好き嫌いが極端に少なくなった。夏油の呪霊操術がなければ人間の食べ物は食べられなくなっていたところだが、それも心配ない。

 

「本当に器用に食べられる」

 

 田端の言う通り、綴は手が使えない代わりに糸を使って身の回りの事をやっていた。それ以外のことは田端に任せている。

 

「さて、ある程度呪詛師も揃った。綴、今度はおつかいに行ってくれるかな?」

「おつかい?」

 

 詳細はこう。

 ある屋敷に住まう呪詛師が持っている呪具を持って帰ること。しかしそれは貴重な物で呪詛師が手放しがっていないこと。

 

「その呪具の名は、『窮鼠の鍵』。君にとっても悪い話では無いだろう?」

 

 

「人の足元見やがって」

 

 綴と田端しかいないとある建物の屋上で、綴はポツリと呟いた。

 綴は拘束衣が見えないように、たまたま見つけた和風ポンチョ(レディース)なる物を着ている。

 

「この程度は受け入れると覚悟したのでは? 冷静さを失ってはいけませんね」

「わかってる。だから冷やすためにここに来てんだろうが」

「と、申されましても……余計にイラついているご様子」

 

 田端を睨みつけてみても彼はニッコリと笑みを浮かべるだけだ。

 

「俺のこの状態楽しんでやがるな?」

「はい」

 

 綴を田端は尊敬に値する男だと思っている。だからこそ、綴に付き従い身の回りの世話をしている。だが、綴が子供であることは変わらない。綴が子供らしく大人に振り回される綴の姿は、田端にとって好感が持てた。

 

「しかしこのまま主人を舐められては困ります。というわけで善は急げ。速攻で持ち帰りましょう。

 まずは仕事ができることをアピールします。貴方様は特にそうしなければ。使えないと判断されれば、呪霊操術によってどうなるかわかりません」

「それは散々聞いた」

 

 天気は快晴。まだ昼も過ぎない時間帯。

 

「では、参りますか」

「おう」

 

 

 

 

────────────

 

 

 

【屋敷内】

 

 

「というわけで窮鼠の鍵を譲って欲しい」

 

 屋敷の中はどちらかと言われれば荒れており、肝試しなんかで使うのには適しているだろうが、住むという点においては難がある場所だった。

 

「しかしですね。これは私にとっても大事なものです。他の物であれば幾らでも差し出しますが……」

 

 綴の目の前に座るでっぷりと太った男を見て、綴はため息を吐いた。

 この男は呪詛師でもなんでもない。呪霊や呪術師の存在は知っているが見えていない(・・・・・・)。夏油が生きていた頃によく見ていた。呪いを集める猿と金を集める猿のどちらかに当てはまる部類の非術師()だ。

 

「……いくらだ?」

「いやいや、お金の問題では……」

「一応、10は今手元にある」

 

 綴がそう言うと田端はアタッシュケースを開けて机の上に置く。

 ゴクリ、という唾を飲み込む音が聞こえた。

 

「足りないならあと5は付け足すが?」

「い、いやしかしですね……」

 

 まだ渋る男を見て、綴は田端に命令する。

 

「…………わかった、なら諦めよう。田端、それを下げろ」

「かしこまりました」

 

 田端がアタッシュケースを回収しようとした時、男が立ち上がった。

 

「いえ! これで結構です!」

 

 そう言い、アタッシュケースを田端から強引に受け取り、代わりに窮鼠の鍵を差し出した。

 綴を子供だと思って舐めていたようだ。男は綴の様子をチラチラと伺っている。

 

──しかし、妙だな。

  確かに渋られた。けど金がありゃすぐにそれを手放すなんて………何か別のことを考えている? いや、このタイプの猿がそんなこと………。

 

「おい、おっさん」

「は、はい!?」

「これ、偽物だな?」

 

 男は座り直そうとした椅子から転がり落ちた。あからさまな動揺に綴は思わずため息を吐いた。

 

「どこにある?」

「い、いったいなんのことでしょうか?」

「まだシラを切れると思ってんのか、手前はよ?」

 

 綴は立ち上がり、机の上を横断して男の元へ行く。グイッと髪を糸で掴んで無理矢理立たせるが、男は腰に力が入らず上手く1人では立てない。

 

「綴様、そう怯えさせてはいけませんよ? 何か聞き出しておかないと、あとが困ります」

「……チッ」

 

 綴は男の髪から手を話す。

 

「……で、鍵どこだ?」

「ち、地下にっ」

 

 綴の気迫に押された男はアタッシュケースを抱えてポツリと呟いた。

 

「田端、行くぞ」

 

 男を放置して綴は田端と共に地下へ向かおうと足を扉の方へ向ける。

 

「はい、かしこまりました」

「……………いや、待て」

 

 だが綴は止まった。

 何かを感じ取った綴はすぐにその正体を探る。

 

──屋敷内にはいない。なら玄関か?

 

 糸からの情報をチェックする綴はとうとうその正体を知ることになる。

 

「……田端、急いで回収するぞ」

「なにかトラブルでも?」

「呪術師だ。大方この豚とっ捕まえに来たんだろうな」

 

 そう言うと男の顔が真っ赤に染る。

 

「ぶ、豚!? 今なんと……!」

「手前に決まってんだろうが……いや手前を豚と言ったら豚が可哀想だ」

「綴様、脱出経路は事前に把握しております。呪術師と鉢合わせる前にこちらへ」

 

 その場を離れようとする綴の足に男がしがみついた。

 

「た、助けてくれ! 私がいないとお前も困るだろ!? 鍵だってまだ……」

「鍵なんてあったらいい方ってだけで絶対いるもんでもねぇんだよ。それに、さっき商談は成立した。もう俺にとってあんたは商人でなくただの非術師。助ける義理も何もねぇ」

 

 冷たく男を見下ろすが、男は諦めない。

 ここで捕まってしまったらどうなるかわからない。

 

「な、何でもする! だから!」

「…………今、何でもするっつったな?」

 

 その言葉を聞いた綴はニンマリとした悪どい笑みを向ける。男はコクコクと頷いて綴に助けを求める。

 

「手前、金を集める猿と情報を集める猿、どっちやりたい?」

 

 え?と男は戸惑った声を出す。つまり、綴はこの男をかつての師がしていたのと同じように絞れるところまで絞り取ってやろうという魂胆なのだ。

 

「答えろ、どっちだ?」

 

 正直どちらもしたくない。この青年ともう関わりを持ちたくない。

 

10(じゅーう)9(きゅーう)……」

 

 やり方はチンピラと変わらない。だが、なんだこの圧倒的な威圧感。逆らってはいけないという感覚が頭からつま先まで駆け巡る。

 

8(はーち)

 

 どうする?どうなる?このまま答えなければ、どうなる?

 ゾゾゾッと寒気がする。一瞬でも自分が綴に殺されるところを想像してしまった。

 

7(なーな)6(ろーく)5(ごー)

「わ、わかった! わかったから! アンタに従う!!」

「………おい」

 

 頭を床に擦り付けるように土下座する男を綴は呼ぶ。男はゆっくりと頭を上げると、人を安心させるような笑みを浮かべる綴がそこにいた。これで助かるんだ。そう男は安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっちか選べって言っただろうが」

 

 男は頭に衝撃を受け、後方に吹き飛ぶ。綴は靴に血が着いたことを愚痴っている。

 それを見て、自分は顔面を綴に蹴られたのだということに気が付いた。

 

「綴様、よろしいので?」

「ここで置いていって、俺らのことチクられても困る」

 

 いったい彼らはなんの話しをしているんだろう?

 

「それもそうですね。服は新しい物を用意しておきます」

「あと風呂。拘束衣は暑くてかなわん」

 

 いったい彼らはなんの話しをしているんだろう?

 

「かしこまりました」

 

 いったい彼らは……っ。

 

 

「あーあ、この靴気に入ってたのになぁ…-」

 

 綴は男の残骸を見て、まるでトマトのようだと思った。

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