呪われた呪術師の復讐劇   作:千α

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5話

「目だけで見ようとすんなっての」

 

 伏黒は綴の蹴りを受けて後方に転がった。

 物が無くなってガランとした地下は多少暴れてもいいような広さになっており、そのため綴は物を壊すなどという心配をせずに伏黒と対峙していた。

 

「クソっ」

 

 伏黒は綴の術式がわからず混乱する。

 甘菜家は呪流術を用いた体術を扱う一族であり、その術式は知っているつもりではあった。しかし実際に綴と戦うと、その呪流体術を一切使わない。だというのに、ここだというところで身体が上手く動かなくなる瞬間がある。

 

「……目だけで見ようするからそうなる。呪術師なら呪力も感じろ」

 

 しかもだ、この男は伏黒に戦闘の指導まで始めた(しかもすごくわかりやすい)指摘されたことはかねがね綴の言うとおりなのだから腹が立つ。どれだけ余裕だというのだろうか。

 実際、綴は伏黒に負ける気などしておらず、何だったら体術面の粗が目立ち腹が立っていた。だから思ったのである「指摘して直せばいいんじゃねーの?」と。

 だが綴が今使えるのは足のみであり、腕を使うことができないため言葉だけの指導に限界を感じているところだ。

 

「式神使い自身が向かってきた時はちょっと期待したんだけどな」

 

 伏黒は綴の言葉にムッとする。

 確かに綴に比べると伏黒の体術は劣っている。わかってはいるがやはりどうしても五条がチラついて腹が立つのだ。ちなみに綴は意図的に記憶の片隅にある五条の腹が立つところを真似て伏黒を煽っている節がある。

 

「で、次はどうする?」

 

 伏黒は印を結び玉犬(黒)を出す。

 

──俺はこの人に勝てない。

 

 綴が本気でないことは確かで、このまま意地になっていても仕方がない。とにかく今は虎杖と釘崎に合流しなければ。

 玉犬(黒)は覚えていた虎杖と釘崎の匂いを嗅ぎ、伏黒を道案内しようとするが、それにはまずこの目の前の綴をどうにかしなければならない。

 

「……そういえば、あと2人いるんだったな」

「!」

 

 数を把握されている。伏黒はその事実に冷や汗をかく。

 

──この人の術式……? それともさっきの男の? くそっ、情報が足りねぇ!

 

 甘菜綴の情報は規制が掛けられている。それは甘菜家からの強い要望によるものらしいが、詳しいことは誰も知り得ないことだった。五条ならば何か知っていたかもしれないが、その時は深く考えていなかった。

 

「ってことは、合流を優先する気だろう? 俺との1対1は手前じゃ荷が重かったってこった」

「だったら何だ?」

 

 強がってみるが内心は焦っている。そんな心情を気取られないようにするがそれを見透かすかのように綴は鼻で笑う。

 

「まあ、別に俺としては高専の1年生が何人増えようが関係ねぇけど……手前を押し付けてきた田端が腹立つからもう少し向こうを1対2にしておこう」

 

 そう言うと、綴はまた構えた。それを見て、伏黒は警戒心を上げるのであった。

 

「俺が飽きるまで胸を貸してやるよ」

 

 

 

────────────

 

 

 

「ふむ、下も始まりましたか」

 

 上の階にいる田端は、それぞれ拳とトンカチを構える虎杖と釘崎を見据える。

 負ける気は起きないが、2人のうち1人は綴から聞いていた「宿儺の器」である。警戒するに越したことはないだろう。

 しかし、どうしたことかすぐにこちらへ上がってくると思っていた綴が一向にやって来る気配がない。

 

「下? 伏黒こと?」

「はい、左様でございます。我が主は下の地下にて彼を相手しているかと……」

 

 先程から警戒して動かなくなった虎杖と釘崎に対して、田端は何もしてこなくなった。何か思惑があるのかと考えてみたが、そんな様子もない。

 

「釘崎、この人……」

「本当に私達を殺す気がないみたいね」

 

 そう、田端は虎杖と釘崎を殺す気がない、というよりも危害を加えたくない。

 どう考えても田端は2人より強い。よって、うっかり(・・・・)殺してしまわないかが心配なのだ。そうなれば綴に何を言われるかわからない。田端はそれをスルーすることもできるが、綴の心が荒むような時間は少ないほうがいいだろう。

 綴がそうなる瞬間を田端は嫌っているのだから。

 

 と、そこで田端のスマホが振動する。

 

「おや? もうこんな時間でしたか」

 

 スマホで時間を確認する田端だが、そこに一部の隙もなく虎杖と釘崎は手が出せない。そうこうしているうちに、田端はまたドアノブを捻るように手を動かす。

 

「残念ながら、我々は帰る時間です。これ以上ここに長居することは出来ません」

 

 すると上から綴、そして伏黒が降ってきた。

 それぞれが急に床に叩きつけられた形になり、苦悶の表情で打ち付けた背中や頭を抑える。

 

「………」

「………」

「………ゴホン」

 

 思わず黙り込んで田端を見る虎杖、釘崎。咳払いをする田端。

 微妙な雰囲気になった場を見て田端は虎杖と釘崎に対して恭しく頭を下げた。

 

「…………失礼、また失敗いたしました」

「そっちに謝る前に俺らに言えよなぁ、田端ぁ! おいコラ、こっち見ろ田端ぁ!」

 

 田端に怒号を飛ばす綴だが、田端は(吹けない)口笛を吹いて誤魔化す。

 

「おい、大丈夫か? 頭思いっきりぶつけただろ」

 

 綴は立ち上がると打った頭を抱える伏黒に手を差し伸べようとして、腕が使えないことを思い出した。本当にこういう時に不便である。

 そうして立ち尽くしている間に伏黒は虎杖に回収されていった。別に今攻撃するつもりはないのでそんなに急がなくてもいいのに、と思ったがさっきまで戦っていたので仕方がないだろう。

 

「伏黒、いつの間に敵と仲良くなったのよ」

「なってねぇよ」

「じゃあなんで心配されてんのよ」

「知らねぇよ」

 

 綴と田端を警戒し、今後どうするかを話し合う虎杖、伏黒と釘崎。一方綴は田端がここに綴を連れて来た理由を早々に察する。

 実はこの屋敷に入る時間は予め田端と決めており、その時間を超過するわけにはいかない。ここを去らなくてはならない10分前に田端がアラームをセットしており、おそらくそれが鳴ったのだろう。

 

「綴様、帰りましょうか?」

「……うーん……あと5分」

「承知致しました……が、よろしいので?」

 

 田端は、はて?と顎に指をかける。

 

「あの黒髪の体術が気になるからちょっと直してくる」

「ああ、なるほど。貴方様は本当に体術のことになると、人が変わったようにやる気になられる」

「褒めてもなんも出ないからな」

「ではまた5分後に」

 

 田端が手を捻ると綴が目の前から消える。

 それを見た虎杖達が驚いていると、伏黒の後ろから綴が現れ、そのまま伏黒の後頭部を蹴る。

 

「頭、首、胸、あと背中は絶対守る。敵が見えなくなった時はそこに集中しとけ。ある程度知識のある呪詛しなら、大体はそこを狙ってくる」

「伏黒!?」

 

 虎杖は伏黒を庇うように綴の前に立つ。

 

「……宿儺の器……確か虎杖悠仁だったか?」

「は? なんで俺の名前……」

「悟兄ちゃんに聞いてたから。

 あとそっちの女は……トンカチ持ってるから釘崎野薔薇だな?」

 

 どういうことだ?と虎杖も釘崎も首を傾げる。そして聞いたことのある「悟」という名前は……。

 

「甘菜綴、交流戦の時に脱獄した、1級呪詛師だ」

 

 状況を把握できなかった虎杖と釘崎は、そこでやっとことの重大さを知ることになった。

 甘菜綴と出会った時の対処法は五条から聞いていた。

 

──「とにかく逃げて。絶対に殺さないこと」──

 

「………まぁ、バレたとしても支障はない」

 

 綴は虎杖を蹴りつける。咄嗟に腕でガードするが、その腕がピリピリと痺れる。

 蹴りをガードされたことに綴は驚くが、さらに虎杖にたたみ掛けようと先程とは反対の足で首を狙って蹴りつける。だがまた止められた。

 

──動きは悪くない。

──ある程度、器として耐久力もある。

──なるほど、伊達に宿儺の器をやっていないな。

 

 だが綴も体術で負けてはいられない。

 床に両足をつき、胴を狙って回し蹴り。止められる、のはわかっていたので綴はすぐに身を低くして虎杖の足を払う。

 床に転がりながら、虎杖は綴に勝つ方法を考えるが睨まれた瞬間、色々と考えていたことが霧散していく。綴に勝てるビジョンが虎杖には見てえ来ない。

 

「1度敵と相見えたなら、思考を止めるんじゃない」

 

 綴は虎杖の頭目掛けて蹴りつけた。

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