コメント、お気に入り登録ありがとうございます!
綴に蹴られた虎杖はまた床を転がるがすぐに体勢を立て直す。
速い。さっきよりも格段に速さが違う。
それはつまり、今まで本気を出していなかったということだろう。
「うーん……全体的に悪くは無い、んだけどなぁ……」
綴は虎杖を見ながらそう呟く。
「虎杖は構えもうちょい直して初動を……いや、それより先に嵌め手教えた方が……?」
「え?」
何か言っていることがおかしくないか?思わず口から困惑する声が漏れるが綴はそれを気にしている様子はないようだ。むしろ、そりゃそうだ、と言うかのように口が歪んだ。
「嵌め手……相手の動きを誘導する方法。
構えは防御でもあるわけだけど、次の手を相手に何となく予想させるところあるから、嵌め手を覚えておいて損は無い、と思う。多分今後そういう場面は増えてくる」
他にも色々と虎杖に対して思うところがあるのだろう。「他には……」と説明しようとする綴は、一瞬指導者かなにかと勘違いしそうになってしまう。
「綴様、あと2分です」
「あー、はいはい。
えーと、伏黒はもう少し相手を見た方が良い動き出来ると思う。見るって言ってもそういうことじゃなくて……
実際に戦った虎杖と伏黒を名指しして、体術に対しての改善点を伝える。正直に言うと適当なところのある五条よりも指導している。それが敵であるというのが少し頭をモヤモヤとさせるが。
「もうよろしいでしょうか?」
「うん……時間もないし」
その返事を聞いた田端は手を捻ろうとする。虎杖、伏黒、釘崎はここから離脱するつもりだということを察して取り押さえようとするが……その前に、見覚えのある背中が立ち塞がった。
「はい、ストップ」
その声を聞いて、田端と綴は動きを止める。
「……久しぶり、悟兄ちゃん」
「うん、久しぶり」
その声の主は、最強の術師・五条悟であった。
田端は突然の五条の登場に警戒するが、綴の心は凪いでいた。
「僕の生徒ボコって挙句の果てに指導するってどういうこと?」
「だって動きがなんか気に食わんから」
少しムッとする虎杖と伏黒だが、実際に綴にボコボコにやられているため何にも言えなかった。
「さて綴、僕がここに来た理由はわかる?」
五条がわざわざ来る理由は知っている、五条が直接綴を捕らえるためだ。
五条でなければ綴は秘密裏に適切に処分されることになるだろう。おそらく甘菜家に引き取られるはずだ。そうなればあの家にいる研究者気取りの術師達によって死ぬより酷い目に合わされるはずだ。
そうされないためにも、五条が綴を捕らえる必要がある。
「おとなしく捕まって……はくれないよね?」
「
その言葉は、まるで本当は脱獄をしたくなかった、と言っているように聞こえた。
「………脱獄を手引きをしたのは?」
「言えない」
「何が目的だ?」
「言えない」
「何で子蜘蛛の呪力を使って
「言えない」
「なんで……」
「ねぇ、もうこの無駄な時間やめにしない?」
綴に次々と疑問をぶつける五条だが、綴は呆れたようにそれを切った。
「戦うなら戦う。捕まえるなら捕まえる。アンタは呪術師で俺は呪詛師だ」
五条は何も言わなかった。五条の後ろに控えている3人は、一連の流れから綴と五条が旧知の仲でかなり親しかったことを察していた。
「でも捕まるわけにはいかないんだよな……あんまりしたくないけど……」
五条が動こうとした時、綴は屋敷に張っていた糸を動かす。
「それ以上動いたら、アンタの生徒で
それを聞いて五条は動きを止める。後ろから綴の呪力を感じた。
虎杖、伏黒、釘崎は自分達の身体に違和感をおぼえる。どれだけ声を出そうとしても何も言えないのだ。いや、それよりも……
伏黒はこの感覚に覚えがあった。先程の戦いで感じた違和感だ。それを綴の言葉を思い出す。グッと目に力を入れると、並の術師では気が付かないほど細い糸が全身に絡み付いていることに気が付いた。それが虎杖と釘崎の身体にもある。
「……随分、小物っぽいことするようになったね」
「こうでもしないと悟兄ちゃんは止まってくれないから。
別にいいよ、動いてもらっても。でも生徒が飢えに苦しむ姿は見たくないだろ?」
そうこうしている間に、田端が術を発動する。
「綴様、時間です」
「……わかった」
田端は手首を捻り、綴だけを別の場所に移動させ、自分だけ残る。
3人に絡み付いていた糸はまだ解けない、ということはまだ五条に動くことを綴はまだ許していないのだろう。
「さて、五条悟殿まで来てしまうとは思いもよりませんでした」
このまま田端が術で移動することは容易だが、その時綴は術を解くだろう。
田端の術での移動範囲には限界がある。それを五条が見抜けばきっと追いかけてくるはず。綴曰く、五条はそういった手段があるのだと言っていた。
「別に無抵抗の貴方々をどうこうするつもりはございません。ですが追いかけられても困るので……」
そう言うと田端は懐から両手で持てるだけの(合計6つ)柄付手榴弾を取り出した、これは田端が改造した手榴弾で威力はそこらにある物とは比べ物にならない。それを田端は躊躇無く五条達に投げ付けた。
「それでは、ご機嫌よう」
そして田端も移動した瞬間、3人の身体から糸が解け自由となる。五条はすかさず生徒達を守ることを選択し、綴を追うことはできなかった。
────────────
「アッハッハッハッハッ! 田端、あそこで手榴弾はないだろ」
田端が綴の元へ来ると、腹を抱えて笑う綴がいた。ギリギリ屋敷が見える場所ではあるが、屋敷が大惨事なことになっているのが伺える。
「アイツら帳なんか降ろしてねぇからきっと今から事後処理でてんやわんやだろうな。えげつねぇことするな」
「褒めても何も出ませんよ。それより、こんな所にいつまでも留まっていないで、時間を稼いでいるうちに早く行きましょう」
「………もう少しだけ」
そう言って綴は屋敷をじっと見つめた。いや、屋敷を見つめているわけではない。それを指摘することは無いが、おそらくは……。
隣にいる綴の顔はまるで泣きたそうに歪んでいた。それも一瞬で元へ戻ってしまったが。
「行こう、田端」
「かしこまりました」
甘菜綴は我慢をする人間であると田端は感じている。自由奔放のように見えて、本当はいつだって何かに縛られている。
本当はここにいたくないはずだ。ゆっくりさせて欲しいと思っているはずだ。それを人々は許さなかった。無理矢理綴を戦わせ、意のままに操る、夏油の身体を使う呪詛師の手によって。掘り起こされ、様々な存在に縋りつかられて、雁字搦めになっている。
田端はそれが我慢ならなかった。どんなにわがままな存在でも、綴は自分が仕える心の底から敬愛する主人である。強制されたわけではない、自分から綴に仕えたいと思ったのだ。その主人の苦しむ姿はいつだって胸を締め付けられる。
綴と初めて会ったあの日、田端は綴に救われた。彼にどれだけ必要がないと言われても、その後ろに控えていたい。
本人にその気がなくても、田端は綴のことをそう思っている。
おそらく本気になれば、呪詛師達を勧誘した時と同様にどんな人でもこちら側へ引き込むことができるはずだ。だが綴はそこに興味はないらしい。
「疲れた」
「帰ったら湯を用意致しましょう。
脱ぐついでに拘束衣も新調した方がよろしいのでは?」
「あー……もうボロボロだもんな。
これないと封印された腕がクソ重くて邪魔だから、変えるなら代わりのものが見つかったらにするよ」