IS -可能性の宇宙へ-   作:ババネロ

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#phase-9「手続きは大事」

 悪いことは連続して起こるもので、セシリアと一夏の訓練が開始された翌日の朝、SHRで千冬の口から容赦のない言葉がマコトたちに告げられた。

「気がついている者もいると思うが、オルコット、デュランダルは本日欠席だ。今週末には戻ると思うが彼女らは本国から緊急の呼び出しにより一時帰国することになり早朝学園から出ている。呼び出しの内容は学園にも通知されていない。わかっていると思うが詮索はしないこと」

 セシリアとレイラの緊急帰国。唐突なことに1組生徒全員がついていけない。特に一夏の受け衝撃は計り知れない。彼は昨晩のセシリアの指導を思い出す。非常に論理的すぎて分かり辛すぎたが、レイラがセシリアの言いたいことを一夏レベルに翻訳し、結果的に一夏はたった一晩でスムーズな飛行と歩行、更にはかなり手加減しているとはいえセシリアの射撃を回避することが出来ていた。

 見違えるようになった動きに一夏は確かな手応えを感じており、これならクラス代表戦で簪とぶつかっても、戦いにはなるのではないかと思ってしまうほどだ。

 そんな、可能性を育むための場がいきなり失われた。

 千冬も一夏の事情はわかっているためかなり心苦しく、表情には一切出せないが本当は彼のことを励ましてあげたかった。

「(……これが大人になるということなのか…?)」

 まだ、彼女は24歳。早熟かもしれないが、まだ心の隅には感情を優先したい、弟を姉として守りたい、という気持ちが訴えかけてくる。

 そんな千冬の葛藤を全く察しているはずのない箒が突如挙手した。

「織斑先生」

「……なんだ、篠ノ之。イギリスの二人のことの質問は受け付けないぞ」

「いいえ、二人のことではありません。一夏…織斑のISの練習についてです」

「個々人の自主学習については感知していない」

「アリーナの予約時間がまるで先回りしたかのように潰され、我々1組だけが予約できていません。これについて、思うところはありますか」

 箒も、簪のようにアリーナの不自然な予約状況を感じ取っていたのか、席を立ちハッキリと告げた。彼女の言葉に教室がざわつき、中には実際に端末をSHR中だというのに開き確認して「本当だ」と言う生徒もいる。

 マコトは箒ならば言うと、真っ直ぐに千冬を見る彼女の姿がとても凛々しく見えた。

 対する千冬は、あくまで教師としての話をする。

「アリーナの予約状況については全て正規の手順で行われている。承認は生徒からまず教員に行われ、生徒会が書類確認を最終的に行い、データベースに反映される。最終確認を行う生徒会役員、特に実際の承認を行う生徒会長は国家代表だ。立場上そういった不正などに加担することはまずできない。した場合はIS学園側が所属国に資格なし、と通告できるからな」

「なるほど、非常に性善説に乗っ取ったシステムですね」

「篠ノ之、何を聞きたい」

「では無礼を承知で申し上げる」

 まるで武士のような、抜身の刀のような周囲を威圧する気を発する。彼女の周囲の生徒たちが無意識に体を引かせる。マコトですらも思わず気圧されるような気迫だ。箒の真面目さは当然、一夏の置かれている状況を許さない。まだ昨日まではセシリアやレイラのおかげもあり、実質一夏がなんの被害も受けていないために我慢していたのだろう。

「疑わしきは罰せずなどバカも休み休み言ってください。実際にこうして陰湿な行為が起きているのだから対処しなくて何が教師ですか」

 ざわっ、と1組の生徒たちがする。あの千冬に、バカ、などと言い切った箒に信じられないといった目を向ける。最強「織斑千冬」に対してというわけではなく、教師として厳しい織斑先生に、そんな無礼を承知でなどとつけても、言ってはいけないような言葉を箒は言ったのだ。

 先ほどから千冬の隣に控えている真耶は「篠ノ之さん、お、落ち着いて」と顔を青ざめさせながら箒をとりなそうとしているが、箒は完全に無視している。

「……篠ノ之」

「ッ……!」

 解放されたのはまるで見られただけで射殺すような怜悧な瞳。過去、今は無き篠ノ之家の道場で相対した時に千冬が見せた、剣鬼としての殺人的な気迫。正面にいる一夏でさえも硬直し、隣の席の生徒は失神しかけている。

 箒は過去にも受けたことがあるためか、なんとか正気を保っていた。

 強張りながらも引かない箒に千冬は内心、感謝していた。体裁上こうして威圧しているが、箒の真っ直ぐな物言いは本来「千冬が姉として言いたかった」ことだ。千冬として、このアリーナの予約がおかしいことは察している。実際に申請に来た女生徒たちの様子も知っている。

 それでも言えない。仮初とは言え、彼女は教師なのだから。箒が憧れたように、彼女も真面目に役目を果たすためにここにいるのだから。

「その物言い、普通であれば罰則処分ものだが……いいだろう。諸君、今篠ノ之の言った通り、不自然なアリーナの予約があることは学園側も把握している。だが、先ほども伝えた通り正規の手順で全て予約されている。よって、学園としては動くことはできない」

「先生!」

「逸るな、篠ノ之。手続きというのは大事でな、急ぎの時も怠ってはいけないものだ。……山田先生、アリーナの時間外での使用許可証、オルコットから取下げはありましたか?」

「え!?ひゃい!?あ、ああ!時間外のですね!確認してみます!」

 真耶が慌ててタブレット端末を操作し、何かを確認する。すると、真耶が何かを見つけぱぁっとした笑顔を見つけた。

「あ、ありました!オルコットさんからの許可証は取下げされていません!来週までの利用者氏名もそのままです!」

 タブレット端末の画面を教室内に見えるように真耶はひっくり返し、生徒たち全員がその画面を注視する。一番前の席に座っている一夏は画面の内容がよく見えた。そこにはアリーナの使用時間と、使用する予定者の名前が記載されていた。

 ——以下の者に第三アリーナの時間外使用を許可する。

 ——1年1組 セシリア・オルコット、織斑一夏

「……こ、これは…!?」

 箒の困惑に千冬は人の悪い笑みを浮かべる。

「本来、時間外使用はオルコットのような新型機を預かっている代表候補生が本国からの推薦もあり行えるものだ。当然学園に3年間もいてもらうわけだから、操縦者に預けている新型機も3年間開発をしないわけにはいかない」

 千冬の言葉に全員がそりゃそうだと納得する。

「織斑の場合は代表候補生でもなく、少し立ち位置が浮いてる現状ではできない手続きだが、一昨日の晩にオルコットから申請の変更が行われていた。本国の許可も取り付けてあり、正規の手続きであるためスムーズにこれは受理された。通常、本人がいなくなる前にこの申請は取り下げられるが、取り下げられなかった場合は卒業を除いて失効しないものとなる」

 一夏は一気に語られた内容を頭の中で反芻して状況を整理する。セシリアとの練習はちゃんと学校側に許可をとりつけていたということ。本人がいなくなっても、その時間はなくなっていないということ。

「つまり、ちふ…織斑先生!」

「あぁ。織斑は時間外使用が未だ可能というわけだ」

 一夏がよっしゃ!っとガッツポーズする。箒はバツが悪そうな顔をした。

「知っていたんですか、先生は」

「いや、篠ノ之に言われなければ後で確認して言っていただろう。この許可証自体は知っていたがな」

「……そうですか」

「ということだ。諸君らは何も気にせず、いつも通り授業を受ければいい。それと、篠ノ之。教員への暴言は以降慎むように」

「申し訳ありませんでした」

「わかればいい。以上でSHRを終了する。1時間目の授業は移動教室で担当教員は私だ。遅れるなよ」

 教師二人が出ていき、直後に1組の生徒全員が一夏や箒の周りに集まる。

「織斑くん!まさか虐められてるの!?」

「アリーナの予約、これひどいね」

「おりむー、だいじょうぶー?おかし食べるー?」

「う、うおっ!?みんな落ち着いてくれ!」

「篠ノ之さん!さっきすごいかっこよかったよ!」

「まさか織斑先生にあんなこと言えるなんて!」

「まるで侍みたいだよ!」

「い、いきなりなんだ!?私はただ言いたいことを言っただけで!」

 千冬によって集められた“善良な”少女である1組の生徒たちは当然今の話を聞けばクラスメイト、仲間のことが心配になる。マコトはこの状況を眺めて、一体全体どうやってこんな人がいい人たちを千冬が選別したのだろうと不思議に思う。

「すごかったね、さっきの」

「そうだね、さやか」

 囲まれる二人を遠巻きに眺めるマコトの前に座っているさやかが苦笑いしながら言った。

「さやかは一夏のとこいかないの?」

「まぁね。アリーナのこととか聞いて、腹が立つけどこうして大丈夫だったわけだし」

「そうだね」

「マコトは知ってたの?あの話」

「ううん、全然。でも、話聞いてよかったよ」

 レイラに助けられたな、とマコトは思った。このセシリアとの時間外訓練はレイラが発案したものだ。流石に緊急で呼び出されることまでは読んでいなかったであろうが、千冬の語る申請までの流れをみるに申請は通りやすいが、簡単には取り下げられないものであることがわかる。

 教官役がいなくなってしまったが、何も出来ないよりは遥かにマシだ。

「それにさ、なんだか織斑くんって困難にぶつかっても壁を壊していっちゃいそうじゃん?」

 さやかの一夏像に思わずマコトは吹き出しそうになる。よく的を捉えている言葉だったから。

「そうだね、さやかよく見てるね。一夏はさ、言い方よくないけど馬鹿なんだよ。でもさ、だから、土壇場では真っ直ぐなんだ。この前のクラス代表決定戦の時も、そうだったでしょ」

「あぁ〜、あれすごかったね。剣でビームを切るなんて漫画かアニメかと思った」

「ほんとね」

 さやかとマコトは笑い合う。先ほどまでの緊迫した空気はとっくに教室ないから雲散し、1組の生徒たちはいつも通りの1日を再開したのだった。

 

 

 

 昼食時、簪と合流したマコト、一夏、箒の3人は同じテーブルに座った。今日は珍しくテレビがかけられている柱の近くだった。

「あれ、二人は?」

「緊急で呼び出されたって、簪さん」

「緊急?そうなんだ」

 セシリアたちがいないことに簪も驚いたようだが、代表候補生としてそういったこともありえるためそれ以上の反応はなかった。それぞれが椅子に座り食事を取り始める。セシリアとレイラがいないため妙に食事中は静かだった。

 そのせいか、頭上にあるテレビのニュースから流れてくる音声が4人によく聞こえた。

『次のニュースです。昨晩、イギリスでISによる襲撃事件が発生し、イギリス軍所有の試作型IS一機が強奪される事件が発生しました』

 4人がバッ、と顔をあげる。それどころか、食堂内も今のニュースを受けて静まり返っていた。

『強奪されたのは現在イギリス代表候補生であるセシリア・オルコットさんが専用機としているブルー・ティアーズの同型機、サイレント・ゼフィルスで、公開はされていない機体でしたが、イギリス軍は情報収集のため今朝、写真などを公開しました』

 画面には人が載っていない駐機状態のISが映される。セシリアのブルー・ティアーズによく似た紺色の機体で、違いは非固定ユニットと思われるバインダーが大きく一対になっているというところか。マコトは形状からしてビット兵器が表面に装甲板のように付けられているように見えた。

「セシリアたちが呼び出されたのはこれなのか」

「だろうな、一夏。しかし、強奪とは…」

 ISを強奪するなど重大事件であり、テレビのキャスターは「イギリスは安全保障にも関わると欧州連合への警戒の呼びかけなどを」と伝えている。マコトはこの事件に、前世で起きたG強奪事件を思い出していた。一度目はまだ“シン”が子供だった頃、祖国のコロニーが襲撃されて4機が強奪。二度目は自身が所属した軍の3機が強奪され、被害側の当事者だった。

「(……ファントム・ペインみたいなのがいるのかな…?)」

 ファントム・ペイン、それは幾度もマコトが前世で刃を交えた表向きには非正規部隊の地球連合軍の特殊部隊だった。非人道的な実験で生まれた強化人間を主力に様々な極秘裏な作戦を遂行する、ある種のスペシャリスト集団。そのようなものたちがこの世界にもいて、こんな事件を引き起こしているのか。全てはマコトの想像だが、幼少期の白騎士事件の時にも彼女は血のバレンタインのようだとあのミサイル群を見ていた。

「ミサイルが日本に撃たれた時もそうだけど、こう、たまに物騒だよなぁ」

「……日本が特別平和なだけだよ」

「簪の言う通りだな。我々もISに触ってるんだ。気をつけないとな」

「気を付けるって言っても」

「一夏。知ってると知ってない、構えてないと構えてるじゃ違う、そうでしょう?」

「それもそっか、マコト」

「それにしても、こんなことが起きて二人は戻れるのか?」

「…むしろ、戻るよりIS学園にいた方が安全だからすぐ帰ってくると思う。ここにはオリジナル、量産型合わせて世界で一番ISがあるから」

 学園にISがたくさんあることに加えて、教員は高い実力を持つ。特に千冬という世界的に有名な最強のIS乗りがいるということも大きい。簪の言うことはもっともだった。それでも、マコトは不安になってくる。

 人間はどこまでも愚かになれる。一夏への嫌がらせやマコトへの嫌がらせもそうだ。たとえ、世界最強がいようが、ISの配備が世界一だろうが…仕掛けてくるものは仕掛けてくる。ロゴスのような、利益があって、それのために動こうとするもののほうがまだわかりやすい。しかし、そうではない、もっと曖昧なものを頼りにしている者たちがあのミサイルや今回の強奪をしているのであれば、どこにも安全な場所などありはしない。

「マコトさん?」

「……あぁ、なんでもないよ、簪」

「………そう」

 誤魔化すようにマコトは微笑みながら言うが、簪は一瞬だけ見えたマコトの瞳に絶対に何かがあったとわかった。テレビの画面を見上げていたマコトの表情が見たこともないぐらい冷たく、目つきが鋭かったのだから。

「なんにしても、セシリアたちが戻るまで一夏は一人で特訓継続だな」

「あぁ。むしろ、あいつらが帰ってくるころには驚かせるぐらい……なんだ?」

 話している一夏のポケットからメールの受信音が鳴る。一夏が携帯を取り出してメールを見れば彼は驚いた顔をする。

「どうした一夏」

「レイラからだ。今日の訓練用のメニューを送るってさ」

「本当か?アイツはすごいな」

「ただ、これからしばらく連絡はできないから返信不要って……レイラも大変だってのに、あいつ」

「オルコットさん、言ってたよね。レイラは友達想いだって」

 本当にこういうところが前世からマメなやつだとマコトは心からの笑顔を浮かべる。そうしなければ落とされていた、というのもあったが、マコトはフリーダム対策をしていた時のことを思い出す。

 だから、レイラの送ってきたメニューもしっかり今の一夏に必要なものだろうと思った。

「ほんと、いい奴らに恵まれたよ、俺は」

「だな。ならば、応えんとな、一夏」

「あぁ。見てろよ、代表戦で目に物見せてやるぜ」

「そうだ、その意気だ」

 まるで熱血漫画のようなノリに簪はちょっと心が踊り、マコトは安堵する。これなら一夏は大丈夫だと。問題はマコト自身だ。レイラがいなくなった以上、身の危険がある。これからは極力一人で行動しないようにしよう思うのだった。

 

 

 

 その後、一夏は順調にレイラの訓練メニューを消化し続け、翌週の月曜。代表選の数日前にはセシリアたちは帰ってきていた。

「ただいまもどりましたわぁ!」

「皆様、朝から友が大きなで声で失礼します」

 SHR前、元気よく教室に入ってきたセシリアたちに1組の生徒たちは「おかえりー!」と声を揃えて出迎えた。セシリアは真っ先に一夏と箒へと歩み寄り突然訓練を放置して戻ってしまったことを謝罪した。

「本当に申し訳ありませんでしたわ。まさか急に呼び出されるとは」

「いいよ、気にしなくて。大変だったんだろ。ニュースで見たよ」

「えぇ。まさかこのようなことが起こるとは…」

「犯人は見つかったのか?」

「いいえ、それが全く…襲撃犯も捕捉できず、本国は何をしているのやら」

 少々疲れた様子でセシリアはため息をつく。彼女からすれば相棒の姉妹が誘拐されたようなもので、サイレント・ゼフィルス強奪の報を聞いたときは思わずすぐにブルー・ティアーズを展開しそうになったほど怒りに震えていた。レイラがそれを宥めてくれたが、本来はレイラのほうが怒りたかったはずである。

 この世界におけるサイレント・ゼフィルスは彼女のISとなるはずのものだったからだ。

「おかえり、レイラ」

「ええ、ただいま戻りました。マコト」

 レイラはマコトのほうにまず歩んできて、何事もなかったかを聞く。マコトの近辺警護をしていた以上、突然放り出してしまい心配だったのだ。

「何かありませんでしたか?」

「うん。とりあえずは……それよりもレイラは大丈夫?だいぶ顔が疲れてるけど」

「………やはり、あなたにはバレますね」

 マコトはすぐにレイラがひどく落ち込んで、疲れ切っているのがわかった。元からポーカーフェイスなのが今世では余計に様になっているせいでセシリアでさえもレイラのポーカーフェイスは見破れない。だが、マコトは僅かな視線の動きや息遣いなどの前世の仕草の癖からレイラが疲れていることを悟った。

「何があったの?」

「……奪われたアレは私の搭乗予定の機体でした」

「っ!そんな…」

「先日、装備が完了し、諸々の検査をして再来月には送ると言われていたのですが、まさか報告のあった数日後にこうなるとは」

「それって」

「えぇ…あの時と似ていますね」

 レイラが言うあの時、それは間違いなく前世のミネルバ進宙式で発生したG強奪事件だろう。後の調査で、あの式典の襲撃とG強奪には内通者がいることがわかっている。でなければ、本来は戦艦だけのお披露目で搭載予定だった非公表の機体がターゲットになるはずがないのである。

「捜査はしていますがそう易々とはいかないでしょう。代わりと言ってはなんですが、建造中だったブルー・ティアーズ三号機を緊急避難的に受領しました」

 レイラが自身の右手を上げる。中指には青い金属製の指輪が嵌められていた。

「愛称はダイヴトゥ・ブルー。といっても急いで組み上げたのでパーツがなくて、外装のほとんどがセシリアのブルー・ティアーズの予備パーツで組まれているので実質ブルー・ティアーズの色違いですね」

「……大変だったんだね」

「手続きに急ぎの調整、セシリアとのテストを兼ねた模擬戦…久々に忙しかったですよ」

 ため息をつくレイラにマコトはポンポンっと昔の癖で肩を叩く。レイラも少し眉を下げながらも「ありがとうございます」と励ましを受け取った。

「…あ、あのさ、それ、私聞いてもよかったの?」

「「あ」」

 が、二人の横にいたさやかが恐る恐ると言った様子で言う。レイラはすっかりさやかがいることを忘れており、マコトはかつての親友がそこまで疲れているのかと悟る。

「相沢さん、魔法の言葉を教えましょう」

「う、うん」

「私は気にしない、だからあなたも気にしないでください」

 言外に「忘れろ」という意味だった。

 笑顔で、目一杯の笑顔でさやかの肩を突然ガシッと掴んで言うレイラは、さやか曰く恐ろしかったという。

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