※設定とか独自満載で再構成に近いです。キャラの性格も大きく変わっています(天災が天才だったり)
※勢いで書いてるので投稿は超マイペースです。とりあえず寄り道しつつアニメ1期分ぐらいで終わらせる予定(?)
幾つもの輝きが浮かんでは消え、光条が走り交差する宇宙で光の翼で軌跡を描きながら剣をぶつけあう二体の巨人があった。
「あんたらが正しいって言うのなら!俺にかって見せろ!」
「クッ!」
トリコロールカラーに、赤い翼を背に持つ機体…デスティニーが聖剣アロンダイトの名を冠する対艦刀を振り抜き、対する機体…対照的な青の翼を持つストライクフリーダムの右腕を切り落とす。
片腕を失い、バランスを崩しながらも残ったビット兵器“スーパードラグーン”がデスティニーの右足を撃ち抜く。
「ぐあっ!…まだ、足をやったぐらいで!」
デスティニーのパイロット、シン・アスカは激情の中でも冷静さを失わずに相手へと機体を振り返しながら機体の右肩に残ったビーム・ブーメランを抜いて、ストライクフリーダムへと投げつける。ビームの刃を発振させ高速回転するブーメランはストライクフリーダムのコクピットめがけて飛翔するがストライクフリーダムのパイロットであるキラ・ヤマトもそのまま黙って受けるわけにはいかず、最後のドラグーンをビーム・ブーメランにぶつけて相打ちにさせた。
「シン!君の言うこともわかるけど、けどっ!」
「議長の目指す世界が正しいかどうかなんて俺にはわからない!でも、あんたらが戦った先の世界だって、平和になるかもわからない!」
同時にブーストし、二機がその手に持つ剣をぶつける。キラはストライクフリーダムの持つビーム・サーベルのリミッターを解除し、大出力であるアロンダイトのビーム刃との鍔迫り合いを可能とさせた。
シンの叫びに、キラはひどく心が穿たれた。自分が間違っている、それはいつからか彼自身も気がついていた。目の前の、運命の名を持つ“戦う力(ガンダム)”に乗るシン・アスカが守ろうとする未来は人類を生まれ得た才覚のみで縛りつけ、鳥籠の中へと縛りつけるようなものだ。もしそんな世界になれば人類はただ管理される家畜となり、形だけは確かに“真の平和”が訪れるかもしれない。
だが、キラが背負う未来は誰のものでもない、自分自身で運命を切り開くことのできる世界……聞こえよく言えばそうだが、実際は現状維持、混迷が続く世界だ。平和になるかは保証できない。けれども、今平和な場所の明日は保証される世界。
どちらが正しいかなんて、誰かが決めつけるものではない。こうして、力でどちらの平和がいいかねじ伏せてまで選ぶものではないのかもしれない。
だが、もう言葉を以って未来を選ぶには遅すぎた。
——力だけが、僕の全てじゃない。
いつかの、誰かが言った言葉がキラの脳裏を過ぎる。
「(今の僕は)」
デスティニーの光の翼が輝きを増し、ストライクフリーダムが押し切られる。弾かれ、宇宙空間を縦回転するストライクフリーダムに、デスティニーがトドメと言わんばかりに加速してくる。
「力、だけしか…っ!」
迎撃。ストライクフリーダムの両腰に備えられたレールガンが回転しながらも放たれ、シンは咄嗟に回避する。まだ外装は片足を失っただけだが、既にデスティニーはボロボロだった。かつての上司であり、尊敬していたアスラン・ザラのジャスティスを行動不能にした時点で、デスティニーの最大稼働モードを長時間使用し機体の動力源は機能不全を起こしている。今、デスティニーをまともに動かせているのは残った内部バッテリーの動力だけだった。
シンは、今のキラの呟きが聞こえていた。力だけ。力だけしかない。それはシンの心に重くのしかかる。今のシンには力しかない。それは彼自身、自覚していた。気がつけば、もう心は死んでいて、シンの手に残されたのは剣だけだった。
初めて恋をした流星のような儚げな少女も、溺れるように愛を紡いだ焔のように赤い少女も、記憶の中にいたはずの最愛の妹も——もう何も、彼には残されていなかった。
正義も折って、目の前の自由も切り捨てて。シン・アスカの運命はどこに行こうというのか。それは彼にもわかるはずがない。
「できるようになったのは、こんなことばかりでっ」
悲鳴のように、シンが吐き捨てながら再び機体を加速させる。デスティニーの頭部の隈取りの一部が血の涙を流しているようにキラは見えた。
「もう力だけしか、これしか、俺にはないんだっ!」
「そんなことっ!」
そんなことはない、とキラは言えなかった。キラもそうだったから。ラクス・クラインという一人の少女の願いを叶えるためだけにキラは剣を振るっている。自由から程遠い、もはや暴力装置として。
残った手足と、背部バインダー、腰部スラスター、全てを使って強引に体勢を整えたキラは握っているビーム・サーベルの端部に、もう一本のビーム・サーベルを接続し、“アンビテクス・ハルバートモード”へと移行させる。
「あんたも俺と同じで、力だけしかないんだ!」
「それでもっ!」
二人の言葉は、決して二人の周りの人々が聞くことが出来なかった絶叫だった。こぼれ落ちていく想い、残ったものは想いを守っていたはずの力。二人の戦士は気がつかないうちに伽藍堂になっていた。
ストライクフリーダムの光の翼が青く、青く、大きく広がり、関節部や装甲の隙間から黄金色の光が覗く。限界稼働、コクピットにアラートが響く。
デスティニーの光の翼が赤く、赤く、端から千切れていくように生えていく。聖剣アロンダイトは禍々しく紅く閃いて、全開を超えた出力でビームの刃を纏った。
「俺は、俺はァァァァ!」
「僕は、それでも、それでもッ!」
運命と、自由が交差する。翼を失ったのは……。
「あぁ、どうして、僕たちは…こんな、こんなところまで、きてしまったんだろう」
ストライクフリーダムの右肩に、聖剣は突き立てられ、その柄には力なく灰色になった両腕があった。
「ステラ、ルナ……マユ、ごめん、俺は、おれは…明日を、見れない」
デスティニーの翼から光が失われ、碧く意志を灯した光が消えていく。鮮やかなトリコロールは灰に染まる。
シンの視界を光が包んでいく。終わりだと、彼は悟った。確かな手応えはあった。それでも彼は、守ろうとした、正しいと信じた明日を守れたのかわからなかった。戦争がない世界以上に平和な世界なんてない。そのための方法はどうでもよかった。ただ、近しい人がそれを世界に示して、信じて、剣をとって、戦った。
失われていった彼女のような存在をもう生み出さないために。
「…そうだよな、あんたも、そうなんだよな」
大切な少女を奪ったはずの彼でさえ、きっとそうなのだと、いや、そうだとシンは知っていた。
だから、戦争なんて、なくなるのが一番だ。そうに決まっている。
「キラ・ヤマト、おれは」
俺たちは、同じものを見ていたはずだったんだ。そう告げようとして、シンの意識は呑まれていく。熾烈な焔が、彼の運命をこの“世界”から拐っていく。
音を立てて崩れていく運命に、キラは叫びながら機体のスロットルを全開にして、その場から去っていく。もう、遅い。何もかもが間違ってしまった世界で、キラ・ヤマトは混迷を選んだのだ。彼のように、毎日、誰かが大切な物を奪われ、絶叫し、平和を願う心を根絶やしにしていく、そんな世界を彼は選んでしまったのだ。
「ラクス、僕たちは、間違ったんだ」
一人、コクピットの中でキラは言った。間違った。今更それをハッキリと理解した。一人の少年が、愛するもの全てを奪われて、残った最後の、平和を願う心をキラは奪ったのだ。もっと、やりようはあったはずだ。こんなことになる前に。
「いいや、僕か。僕が悪いのか」
世界を何回滅ぼしても足りないような憎悪に飲まれ、心を消耗し、それを癒すために彼女の…世界を、今よりも少しはマシにできるはずの少女の運命を、選択肢を、キラは奪ってしまったのだ。元をたどれば、彼女はキラのものではなかった。親友の女性だった。例え親に決められたものであっても、そこには確かに、愛はあったことを知っている。
それを奪った。
「フレイだって、ははっ…あははっ……あぁ、僕は、ぼくはっ」
どれだけ、どれだけのものをキラは奪ってきたのだろう。
そして、これからも、きっとキラは奪い続ける。止められない、止まらない。一度飛んでしまった弾丸のように。
「誰か、僕を、ぼくを、止めて」
「のぞみ通り、そうしてやる」
憎悪に染まった、彼の心を破壊した声がまるで福音のようにコクピット内に響いた。刹那、キラの全てが光に灼かれていく。意識が、どこかへと流されていく。
「お前の重ねた業も、全て、これで終わりだ。キラ・ヤマト」
ストライクフリーダムの胸をビーム・サーベルが貫いていた。それを行ったのは満身創痍の機体。レジェンド、デスティニーの兄弟機であるその機体はキラが大破させたはずだった。
「お前が、おまえがっ……おれの、友達を奪ったんだ」
もはや先のない運命を憂いた彼の友達はいない。目の前の自由が奪い去ったのだった。それを知って、初めて、彼は、レイ・ザ・バレルは本当の意味での怒りを覚え、真の意味で殺意を持って、人を殺した。仇としてこれまでもみていた、けれども、どこかそれは他人のものようなはずだった。それが、心から、燃え盛るような憎悪になっていた。
「シン、お前の、仇はおれが——」
殺し殺され、世界の行方を左右したはずの青年たちは瞬く間にそこらじゅうに瞬く命の輝きに混じり、消滅する。
こうして、この世界は混迷へと進んでいく。その果ては、絶望を超えた、虚無が広がっている。そこには正義も、運命も、自由も、明日を切り開いてきたものたちの伝説さえもなく、悲鳴が響き、あたりまえのように幸せは散る。
地獄がここに顕現したのだ。
そんなことにも気が付かずに、人々は平和を、平和をと唄う。その平和が、誰のものなのか、何のためのものなのか、知ろうとも、聞こうともせずに——その果ての終局を見ようともせず。
正義は世界に残された。秩序を失い、混迷へと堕ちても、それは身勝手にも誰しもが持つものであるから。
けれども、自由と、運命と、伝説は世界から失われた。それはもう、この世界には不必要なものだから。故に、新たな世界にそれは必要だった。
剣が必要だ。
担い手が必要だ。
世界を想う心が必要だ。
誰かを想う心が必要だ。
愛を知る心が必要だ。
だから、彼らの戦いは全てを失って、伽藍堂になろうとも終わらない。失ったのなら、もう一度詰めればいい。そんな、超然的な総意によって人形となっていた者たちに今一度熱が宿される。
もしくは、その超善的な総意は、僅かな彼らを想った人々の贈り物なのかもしれない。
「シン、明日を、私が欲しかった明日を、あげるから…運命は、あなたの味方だよ」
「キラ…もう大丈夫。あなたを自由に、してあげるから」
「レイ…いい。レイはレイだけの生き方を伝えていけばいい」
虹色の彼方、刻の狭間を流され、彼らはどこかへと消えていく。その先には光が待ち構えていた。
「っは!?」
黒髪の少女が汗をかきながら跳ねるように目を覚ました。周囲を見渡せばそこには見慣れた彼女の部屋があって、ため息をつく。懐かしい夢を見ていた。飛鳥 マコトはもう遠い昔のことのように感じる宇宙での戦いを夢に見ていたのだ。
「あたしが…いや『俺』が『俺』だった頃の、か」
喉から出てくる声は間違いなく、容姿相応の少女らしいソプラノで、ルビーのような瞳と端正な顔つきに僅かにシン・アスカの面影を残すのみだ。
「……なんでまた、見るようになったんだろう」
彼は、彼女となってこの世界に生まれ変わっていた。性別は逆転し、しかし家族は依然と変わらず。とりまく世界は彼が生きた世界の遥か昔の西暦。紛争はあれど、大きな戦争などない、彼が望んでやまなかった世界だ。
マコトは掌を見る。ひどく汗ばんで、まるでモビルスーツで戦ったあとのようだった。今の世界では空想の産物でしかないモビルスーツというロボットに乗って戦っていたなど、本当に“夢”のようだとマコトは思ってしまう。もしかしたら、本当に、あれは夢でしかなく、あたしの妄想の産物なのかもしれない。苦笑気味に、彼女はそう思ってしまう。
それほどまでに、彼がこの世界に来て馴染んでしまっていた。当たり前のように平和に慣れ、少女として生き、今日に至っている。欲しかったものが手に入って、失う心配もないとなれば、そう思いたくもなる。
「んっ、ふぅ、起きよっかな」
口調も、既に残っていない。シン・アスカという人物は飛鳥マコトの空想上の人物なのではないかと彼女自身考えてしまう。ただ、それを完全に否定できないほどに、彼の記憶は間違いなく“俺の記憶”だと彼女は言えてしまう。実感があるのだ。
「マユも起こして、ランニングにいこう」
マコトはそう言ってベッドから出る。最愛の妹は当たり前のようにいて、今も生きている。一歳年下の姉に甘えん坊な妹だ。今世でも仲がいいとマコトは胸を張って言えた。パジャマのまま、彼女は妹の部屋に移動し、ノックもせずに入る。妹の飛鳥マユは静かに寝息を立ててベッドに入っていた。
マコトにそっくりだが、姉はつり目で妹は垂れ目、背の高さと髪の長さで区別はつく。マコトはいつものようにマユの肩を揺らして起こす。
「ほら、マユ、起きなって」
「…んぅ〜〜いま、なんじ?」
「六時だよ」
「むりぃ、ねる」
「ダメだって。ランニング一緒に今日からするって言ったのマユでしょう?」
「明日から、やるからぁ」
「マユ、約束、したでしょ」
「うぅ…そうだけど…」
マコトが笑顔で、圧をかけて言ったせいかマユは仕方なく、といった形で上半身を起こす。
「ほら、支度して。あたしも着替えるから」
「りょうかーい」
だらだらとしつつ、マユは起きて、マコトもそれを見届けると一度部屋に戻りランニングウェアに着替える。初夏の朝とはいえ、既に陽が上り気温は高い。短パンTシャツだ。
着替え終わった二人はもうとっくに起きて弁当の準備をしている母に挨拶をしながら家を出る。家を出て、軽くストレッチをしてから二人は走りだす。妹の速度は遅く、マコトはこのペースだといつもの半分も走れないなと苦笑いしながら、予定していたランニングコースを変更することにした。
「マユ、今日は篠ノ之神社までいって階段上り下りして、家まで帰るからね」
「えぇ〜〜〜!?あそこの階段登るの〜〜!?」
「しょうがないでしょ。いつものあたしのコース行ったら学校遅刻しちゃうから、近くの神社の階段往復に変えたの」
「お姉ちゃんの鬼」
「マユ、我がまま言わないの」
「ぶぅ〜〜…まぁ、しょうがないけどさぁ」
ぐぅたらしがちな妹が姉にせがんだ誕生日プレゼント。そのあげる代わりに体をちゃんと動かさないと、という約束があって今マユはランニングをする羽目になっている。約束を破るのは流石にダメだとわかっているので文句は言っても走るのはやめない。
マコトはマユがひとまず約束通り走っていることに安堵し、目的の神社まで向かう。篠ノ之神社は姉妹が住むこの街にある歴史ある神社で、篠ノ之流剣術という剣術道場まである。そこの娘たちと二人は知り合いなのだ。だからついで朝の挨拶でもしよう、マコトはそんなふうに思っていた。
神社はさほど飛鳥家から遠くなく、すぐに二人の前にそれなりの段数の階段が姿を表す。綺麗に掃除された石積みの階段は普段は神社にこないマユには断崖絶壁のように見えた。
「いくよ、マユ」
「うん」
気乗りはしないが、といった様子でマコトの後ろにマユが続き、階段を登っていく。途中、朝早くからきている参拝客とすれ違いつつ、あっという間に鳥居をくぐり彼女らは神社の正面へとやってくる。
「ふぅ…思ったよりは疲れなかったかも」
「そりゃちょっと走ってきただけでしょ」
「そうだけど」
マユの言われなくてもわかってるよー!という言葉を無視しつつ、マコトは周囲を見渡す。清涼な空気に満たされ、呼吸をするのも気持ちがいい。マコトは篠ノ之神社が持つこの空気感が好きだ。神社が持つ特有のものなのかもしれないが、マコトは前世ではあまり神社に行った記憶もなかったから新鮮に感じているのかもしれない。
境内を見ていると、社の前に、奇妙な人物がいるのが見えた。中学生ぐらいの背丈で紫色の髪を揺らし、白衣姿で箒を雑に動かしている少女。明らかに神社に合っていない服装の少女がいた。
「あ、今日は珍しく束姉さんがやってるんだね」
「ほんとだ〜」
「束姉さん!おはよう!」
マコトが元気よく声をあげれば、白衣の少女…この神社の神主の長女、篠ノ之束が死んだ目を一瞬マコトたちに向けたあと、すぐに二人の姿を認識して生き生きとしたものへと変えた。
「まーちゃん!ゆーちゃん!おはよう!」
竹箒を放り投げて束は二人に駆け寄る。境内の掃除が嫌だったんだなと飛鳥姉妹は察して、束を迎えた。
「束姉さんは掃除?」
「そうそう。ほんっと面倒なんだけどさ〜、箒ちゃんがやんなきゃだめだって言うからしょうがなく」
箒とは束の妹で、マコトたちとは同級生だ。生家である神社の掃除を嫌がる束と違い生真面目で、元男であるマコトでさえも男より男らしい気概のあるまるで武家のような少女だ。そんな箒を束は溺愛しており、妹の頼みは断れないのだ。
なんだか、その辺りは親近感を覚えるなとマコトは内心、苦笑した。
「まーちゃんたちはランニング?精が出るね〜、束さんは朝の運動とか絶対やだね」
「そうは言っても、束姉さんは運動神経いいじゃん」
「そりゃ天才ですから。万事、やればできちゃうのです」
ブイ、っとピースして笑う束。彼女はまごうことなき天才であった。西暦というマコトから見れば過去の世界でありながら、既に束の技術はコズミック・イラにも劣らない凄まじいもので、その天才的な頭脳は日本の義務教育の中で過ごすにはあまりに退屈で彼女が学校に通うことはあまりない。
篠ノ之束にとっての世界で認識できる人間は家族だけしかいなかった。そのはずなのに、飛鳥姉妹が認識されているのはひとえに、束がマコトに……シン・アスカという存在に興味を持っているからにすぎない。
「ほんと、人類が宇宙にいっちゃえばこんな面倒な社の掃除とかなくなるんだけどなぁ」
「そうなの?」
「そうだよ、ゆーちゃん。宇宙に出る頃になれば人類に人種とか国境とかそういうの意味なくなるからね」
「じんしゅ、こっきょー」
マユが首をひねる。まだそのあたりの話は早いか、と束はあははと笑いながら誤魔化してチラリとマコトを見る。マコトは愛想笑いするしかない。束には既にコズミック・イラの全てを伝えている。彼女の夢、宇宙の果てまでを人類の飛べる成層圏とする壮大な計画のために。
マコトはその時のことを思い返していた。
「へぇ、それが君の生きた世界なんだ。“シン・アスカ”」
束との出会いはまだマコトたちがもっと小さい時のことだ。篠ノ之神社の近くで迷子になったマユを探すうちに入り込んでしまった篠ノ之神社の裏山で見つけた、明らかにこの世界の技術レベルではない人工的な施設の入り口に辿り着いたマコトは束にスタンガンで気絶させられ、彼女の研究施設に監禁されたのだ。
その時に、年齢相応でない喋り方と何か“この世界とはズレている違和感”を感じ取った束は根掘り葉掘りマコトを問い詰めて、彼女が“彼”だった頃の記憶を聞き出したのだ。
「そうだよ、だから、もういいだろ。離してくれ」
まだ少し、シン・アスカとしての口調が残っていたマコトはぶっきらぼうにそう言って束に解放を求め、束はあっさりと拘束を解いていた。
「宇宙に出ても、ヒトは、人類は、争いを止められないのか」
マコトを解放し、思考に耽る束を見てマコトはその場からすぐに離れようとは何故か思わなかった。彼女の悩む姿が、どこか、彼が最後に仕えた男と重なったから。かつての彼も、そうだった。僅かに見せた、苦悩。人類がどこまで行こうとも絶やすことのできない争い、戦争。それを解決するために、ある種の天才と言えた頭脳が導き出した遺伝子による運命の強制。
似ても似つかない目の前の少女も、何かに苦悩しているようだった。
「……なに?まだいたの?」
「なぁ、あんたは、何をしようっていうんだ」
値踏みするかのように束はマコトを見る。しばらく彼らは見つめあい、束がため息をついて「しょうがない」と話し出した。
「私は、この世界が窮屈でしょうがないの。だから、もっと、もっと遠くへ行きたいの」
出てきたものは平和に悩んでいた彼とは全く結びつくこともない、個人の願望だった。
「私は天才。わかるでしょう?ここを見れば、キミも」
まだ中学生もいいところな束の容姿と、マコトが今いるこの研究所と思しき施設は束が一人で作り上げたものだと察していた。確かに、空間に投影されるディスプレイや自動的に何かを作っている機械の類を見れば束の「天才」という発言にも納得がいく。
「どこまでも続く“無限の成層圏”。私はそこに行きたいの」
「それがあんたの……夢、っていえばいいのか」
「そう。けど、今、キミが語った“未来”の出来事でそれに影が差した」
明らかに不機嫌だと言わんばかりの表情にマコトは身構える。
「あたしの妄想だって、思わないのか」
「普通ならそう想うだろうね。けど、キミの言葉は現実味があるすぎる。そして、君が語った技術は私の脳が今は無理でも、人類がこのまま続いていけば実現できる技術だと理解できる。それに、コーディネイターだっけ?遺伝子改良による人工的な人類の改造はもう現時点で行われてる」
「ッ…!そんなっ」
「まぁ、流石に大々的じゃないから、種族間の戦争とかそういうことにはならないと思うけどさ」
マコトがこの世界は薄氷の上に平和があると認識したのも、この時だった。
「話を戻すけど、このまま私が一人で世界を変えても、世界は混乱して、宇宙に行くどころじゃなくなる。宇宙に出て、遺伝子いじくって強制的に進化しても結局、人類はなんにも変わらず君の世界では戦争してたわけだからね。こんな地球に縛りつけられてる間に私の技術っていう“劇薬”……君の世界で言うところの“ファースト・コーディネイター”のような衝撃を与えたらどうなることか容易い」
篠ノ之束はどこまでも理性的に思考をしていた。いや、まだ理性的な思考をできる段階だった。もし、マコトと出会うのが彼女が“事を為した”あとであれば、せいぜい異世界の持つ技術を聞くだけ聞いて、玩具にする程度で終わっていたことだろう。
だが、まだ間に合った。かろうじで、家族との繋がりを絶っていなかった束は普遍的な常識を理解し、自らソレを飛び越えることが可能だとわかりながら、すり合わせることを無意識にできていた。
世界を囲む籠を破壊して、もっと彼女の生きやすい世界に変えたい。楽しい世界にしたい。天才であっても、未来は確定していないからやってみないとわからない。わからなかったが、実例が突如として目の前に降ってきた。束の夢のプランは修正を求められていた。
「あんたは、その、結局何をどうしたいんだ」
「あぁ、具体的に言わないとわかんないよね。纏めると、生身で人間が宇宙に進出できるようにしたいんだよ、私は」
「生身で!?」
「そう。宇宙線、フレア、人体には地獄とも言っていい宇宙空間を身一つでどこまでも」
マコトは想像する。モビルスーツという兵器で宇宙を駆けていた彼がそうなった世界を。彼女の言う通り、本当になんの枷もない、囚われていない自由な世界。無限の宇宙を前に、人類の争いなんて無意味に思える。
「私は、この母なる星と未知の闇に広がる広大な宇宙との架け橋、そして人の今と未来の間に立つ者。調整者、コーディネイター…」
「なにそれ」
「あたしの世界の、さっき言ったジョージ・グレンが外宇宙に旅立つ前に言った言葉」
「……へぇ」
束はその言葉を真に理解できた。宇宙という、無限の可能性。そこへと旅たつ者が後に続く者たちへと充てた激励の言葉。今束を囲う檻の外。そこはきっと楽しくて、終わりのない夢の先。ヒトはどこまでも行ける。
「私はさ、自分だけが飛べればどうでもよかったんだ。けど、今開発してる技術は世界に公表したかったんだ。これはさ、天才である私も理解ができなかった。他人なんてどうでもいいのにさ」
だが、今彼女はわかった。理解した。同時に、自らがただの思い上がった小娘だとも知った。
「みんなにも、きっとそこが楽しいよって言いたいんだ」
所詮、束自身も“人間”なのだと壮大な宇宙戦争が続いた世界の話を前に、思い知らされた。そして、憑物が落ちたかのように、これまでの自身の世界が矮小なものだと認めざるえない。
「……そうだな、きっと、争いもない宇宙を自由に行けたら、楽しいよな」
「わかるんだ」
「あぁ。あたしが飛び続けた宇宙は楽しくなかった。いつも死と隣合わせで、楽しいなんて思えなかった。けど、あんたの言うように、誰しもが宇宙に簡単にいけるようになったら、きっと、きっと」
素晴らしい事だ、とマコトは言い切った。束は微笑んだ。初めて彼女が人らしい温かみを見せたマコトは思った。機械的な、どこか覚めた声音が暖かさを伴っていく。
「名前」
「へ?」
「もう一回、言って欲しいな、あなたの」
「…シン…いや、あたしの名前は飛鳥マコト」
「マコト…マコト…うん、じゃあ、まーちゃんだ」
「ま、まーちゃん?」
「そうそう。私は束、篠ノ之束!よろしくね、まーちゃん!」
これが篠ノ之束と飛鳥マコトの出会い。気がつかぬ間に一人の少女の“運命”をマコトが大きく変えてしまった出来事だった。
「——まーちゃん、どうしたの?」
「へ?あ、ごめん、束姉さん、ぼーっとしちゃって」
「も〜、話をちゃんと聞かない子はぎゅっ〜の刑にしちゃうぞ!」
「うっ、それはちょっと」
束との出会いを思い返していたマコトは束の言葉で現在に意識を戻す。今目の前にいる篠ノ之束はどこにでもいそうな、気の良い近所のお姉さんだ。マコトの出会い以降、篠ノ之束という人物はある程度は社交的になった。学校こそ行く機会は少ないが、それでも僅かながら友達も増えたし、束は他人をある程度認識できるようになった。小さな世界で宇宙を目指すには限界があると悟ったからだろう。
実を言えば現時点で、束は宇宙へ身一つで飛び立つことができるが、それを世界へと明かすにはまだ尚早だとわかって控えていた。せいぜい、関連論文をこそっと学術誌忍ばせるぐらい。彼女が選んだのは時間をかけて、確実に地面を固めることだったのだ。人との関わりを経て、束は人が急激な変化を嫌うものだと理解した。
そんなことをしようなど以前は考えもしなかったのに、そのきっかけをくれた目の前の少女はそれをわかっているのだろうかと束は優しげな瞳をマコトへと向ける。
「いや〜それにしてもゆーちゃんもかわいいね〜、まーちゃん、妹を交換しない?」
「いやだよ」
「そんなぁ〜、少しだけ、少しだけだから」
「束お姉ちゃん、箒ねえに怒られちゃうよ?」
「大丈夫だよ、この時間帯は箒ちゃん稽古で」
「姉さん」
マユの肩を掴んで明らかに不審者じみた行動をする束に、絶対零度の声が届く。ギギギ、と錆び付いたロボットのように束が社のほうへと振り向けば、道着を身につけた束の妹の箒がそこにはいた。幼いながらも大和撫子を体現するかのような容姿は、今、彼女の怒りを強く引き立てる。
「ほ、ほほほ、箒ちゃん、これはその、じょ、冗談で」
「私のお願いを聞かず、私の友人の妹に変な事を言う姉さんよりも、確かにマコトのほうがいい姉かもしれないですね」
「うっ」
笑顔で、それはもう冷たい笑顔で箒は言った。束の精神へのダメージはこの時点で致命傷レベルだった。自業自得、とはマコトもマユも言わなかった。
「父さんに言います」
「ちょ、ちょっと、箒ちゃん、ま、待って、それだけはダメぇ!」
「言います」
「本当にやめてぇ!なます切りにされちゃう!」
箒がスタスタとその場から去っていく。篠ノ之姉妹の父は現代に生きる剣士でもあり、束の言う通り人間をなます切りにするぐらい出来そうだった。実際、束が箒と喧嘩して研究所に引き籠った際、研究所の合金製の分厚い扉を斬鉄してしまったことがあるという。
「束姉さん、あたしたちはもう家に戻るから、箒のこと追いかけたら?」
「うぅ、そうだね……じゃあね、二人とも!」
白衣の端を風に揺らしながら束はその場から兎のように駆けていく。マコトたちは手を降って見送った。くすくすと笑いながら、恒例の篠ノ之姉妹の漫才の余韻を味わった二人は神社に背を向けて元きた階段へと戻る。
戻ろうとした時、一人の黒髪の少年がちょうど登ってきた。
「あ、マコトとマユじゃん」
「一夏じゃん、おはよう」
「おう、おはよう」
「おはよっ、一夏にぃ」
現れたのは箒や束と共通の友人である同級生の織斑一夏だった。彼も朝のトレーニングのためにここに来ているため、こうしてマコトと会うことは珍しくなかった。
「二人もランニング?マユも一緒なのは珍しいな」
「うん。今日はちょっとね」
「そっか。箒たちは?朝の挨拶ぐらいはしてこうかなって思ってるんだけど」
「あ〜、さっき会ったけど今はいかないほうがいいと思う」
「……わかった。となると師範にも会わない方がいいな」
「うん」
一夏はマコトの言葉で何があったのか悟り、大人しく帰る事を決めた。マコトたちが階段を降り始め、一夏もそれに並んだ。
「束さんも懲りないなぁ、千冬姉にまたアイアンクローされそう」
「あはは…目に浮かぶ」
千冬、というのは一夏の姉で、束とは同級生だ。束の数少ない友人の一人で、天才的な剣術少女だ。箒は束よりも千冬の妹なのではないかと思うほど、ウマが合う。ただ、箒と違い私生活がだらしなく、そこだけは束と共通している。
両親がおらず、一夏と二人で暮らしているため、ズボラな姉のために一夏は家事が得意で、マコトはそういったところにちょっと憧れている。
「マコト?」
「あぁ、なんでもないよ。さっさと走って戻らないと、もうこんな時間だし」
「そうだな」
「あ、ちょっと二人とも、待ってよ〜!」
三人が階段を駆け下りる。初夏の暑さが滲み出てきた空の下、いつもの日常が始まる。
マコトはきっとこのまま、何事もなく日常を続けていけるのだと思っていた。近所に住む変わったお姉さんたちや、可愛い妹。一緒にバカをできる男友達。優しい両親や、しっかりとした大人たち。得たかった平穏は今ここにあって、これ以上は望まなかった。
だが、“世界の運命”は彼をそのままにはさせない。どれだけ大きな分岐をして、一人の少女の運命を救ったとしても、“世界”そのものの力には抗う術がない。
「ッ………なんだ、この、不愉快な感覚は」
「レイ?どうしたの?」
「あ…いえ、母さん、なんでも、ないの」
遠い欧州の島国で、まるで姫のような愛らしい容姿の金髪の少女が世界に一瞬駆け巡った悪意を察知した。
世界を悪意が包んでいく。運命の時を刻む針は、今動こうとしていた。
転生者はシンとレイともう一人だけの予定(それ以外はよく似た別人)