ラウラの衝撃的な発言はさしもの1組も彼女に声をかけることは様子見することとなった。朝の接触からは特に一夏もラウラに声をかけることもなく、隣にいるシャルロットはなんとも言えない表情のまま午前中の授業を受けるハメとなった。シャルロットとしては同じ欧州からの転入生ということで声をかけてみたかったが、一夏への妙な発言のせいで躊躇っていた。
午前中の授業が終了してもそれは変わらない。各々の生徒たちが昼食を取ろうと席を立つ。マコトも一先ず簪と合流していつものメンバーで…と考え動こうとしたが、ここでラウラに声をかけたものがいた。
「らうらう〜、一緒にご飯食べよ〜」
「……?私のことか?」
「そうだよ〜」
本音であった。シャルロットの一件以来、1日だけ暗かったがそれ以降はいつも通りに戻っており、マコトはどうしてだかわからなかったが、レイラがなんらかのフォローをしたのではないかと思っている。事実その通りだが、レイラは特に言うこともないだろうとしてマコトにも本音との屋上での出来事を話していない。
そんな本音であるが、彼女を中心としたグループは1組の中ではかなり穏やかな人物たちで構成されており、一夏のクラス代表推薦を初めとして色々と人のことを想える様がありありとわかる。
故に、かなり浮いてしまったラウラに声をかけるのは必然であった。
「……君は?」
「私は布仏本音だよ〜」
「本音、か。ふむ……早速の誘い、大変嬉しいのだが…」
ラウラは申し訳ないといった表情で本音に言葉を返す。本音たちは「おや」と少しだけ驚いたような顔をした。マコトはラウラを見ていると容姿以上に軍人として大人なのかもしれない、とも今の姿を見ると思ってしまう。
「あっ、マコト。簪さん来たよ」
「ほんと?」
さやかに声をかけられマコトが教室の前方の入り口を見れば簪がひょこっと顔を出していた。マコトが手を振れば微笑んで手を振り返してくる。彼女を待たせるのも悪いか、と思いマコトは先に食堂に行き席でも取ろうと考え席から離れるが、ラウラの言葉で足を止めるしかなかった。
「すまない。私は織斑一夏と食事を取ろうと思っていてな。またの機会、というのはダメだろうか」
「おー、そっか〜。じゃあ、今度一緒に食べようね〜」
「あぁ。こちらとしても望むところだ」
マコトは思わず一夏を見る。一夏も箒とマコトを交互に見て「どうすんだよ」といった表情をしていた。今朝のぶっ飛んだ発言はともかく、なんとなくラウラは千冬の関係者で一夏は面識がなくても千冬から現況を聞いていて、サポートしようというのが目的だと察しているため大丈夫だろうと判断した。
「……マコトさん?なんか1組変だよ」
「いつものことだよ。先行って席取っちゃおう」
「う、うん」
いつまでも留まるわけにはいかないのでマコトはナチュラルに簪の手を取る。簪は僅かに頬に朱が差す。どうしてこの人は…と思いながらも、確かに昼ごはんを食べなくてはいけないため、彼女は素直にマコトに手を引かれた。
マコトが簪を連れて出て行ったことに一夏は助けてくれないのかよ!と内心泣きながらも、ラウラがその気なら腹を割って話すしかないと考え、席から立ち上がった。
「わかった。ラウラ、でいいのか?千冬姉とは知り合いなんだろ」
「あぁそうだ。いわゆる、義理の兄妹といったところか」
「……なんとなーく、日本語間違ってる気がするけどまぁいいや。飯、行こうぜ」
「無論だ」
千冬の関係者、ドイツ…とくれば鈍い一夏も理解する。一夏には千冬がドイツ人の知り合いを作るタイミングがあったことを知っている。
「(確か…第二回モンドなんちゃらの時にドイツで試合してたよな。そのあと、なんでか向こうにしばらく滞在してて…そんときに知り合ったんだろうな)」
第二回モンド・グロッソ。ISを使用した競技大会で、早い話が全世界規模の合同大演習であった。別の異世界で言えばガンダムファイトのようなものである。勝ったところで得られるのは名声だが。
姉の活躍を一夏は鈴や弾、マコトたちとテレビで見ていた。そして、千冬が最後に出場したのはドイツでの第二回大会。その後の長期滞在などからラウラがその期間中に知り合った可能性が高いと一夏は判断した。セシリアやレイラ、シャルロットの日本語に対する理解が深すぎるだけで、一夏は普通ちょっとは使い方間違えたりするだろうと今朝のお兄ちゃん発言はともかくとして、今のラウラの発言はスルーする。
「箒、レイラ、セシリア。それにシャルロットも。マコトたちが席取ってくれてるだろうし」
「そうだな。私も千冬さんと彼女がどういう知り合いなのか興味があるからな」
箒もラウラとの昼食は賛成のようで一夏に続く。一方、レイラとセシリアはラウラがなんで千冬と知り合いなのか知っているため頷くだけで返事はしない。特にレイラはラウラを警戒する。
「(クロエ先輩と出会ってから似ているどころか、ほぼ顔の造りも同じことに気がつきましたが……彼女たちは一体……それに、ボーデヴィッヒさんはオルコット事件を知っている。口に出させないようにしなければ)」
前世では自らがクローンであったレイラはラウラがすぐにクロエとクローンに近い関係であることに気がついた。レイラは幼少期、セシリアを救うことに必死で束や千冬が引き起こし終わらせた戦いの詳細を知らないが相当に厄介なものがあると考える。
要注意だ、とレイラは唯一ラウラへの警戒心を持った。
食堂に先行していたマコトと簪によって席は既に押さえられており、後から来た一夏たちは難なく席につくことができた。一夏を中心に座れば、周りからするとまるで一夏のハーレムのような様相を呈すが全く本人たちにはそんな気がなかった。1年生たちの間では美男美女しかいないこのグループが早くも高嶺の花のような扱いになりつつある。
これはクラス代表戦まで一夏を嫌悪していた組もそうで、避難中にサイレント・ゼフィルスのビームから観客席を守ったことを受けて1年生の中から一夏に向けられた悪感情は大分無くなっている。
もちろん、簪もこのグループにカウントされている。そのため、未だに4組内で微妙に浮いているのは簪の人見知りのせいではなく、彼女が気がつかないうちに簪が絶対なるとは思っていなかった学校内カーストの番外に位置する特別な存在となっていたからだ。
「わりぃな、マコト、簪。席取っててもらって」
「いいよ、気にしないで」
一夏が席を取っていたことに礼を言うが、マコトは気にするなといつものように返す。ラウラは一先ず一番端の席、シャルロットの隣に座った。シャルロットは欧州出身のためラウラの存在は知っていたが、彼女は代表候補生ではなく1企業のテストパイロットで社外に出ることはまずなく、面識はなかった。
「(こうして目の前にすると可愛いね、この子)」
自然と、アイドル然とした容姿の女性がなりやすい代表候補生の例にもれず、ラウラの容姿も優れていた。シャルロットはラウラが小さいこともあって母の如く可愛い子を見たら撫でたいという衝動に駆られたがグッと我慢する。
「…さて、改めて自己紹介としようか。ドイツ軍よりIS学園に出向となったラウラ・ボーデヴィッヒだ。出向、といっても普段は朝礼で教官が言った通り学生として諸君らと立場を同じとする。歳に関しても諸君らと同じだ。気にせずラウラ、とでも呼んでくれ」
丁寧な自己紹介に自然と拍手が7人から漏れる。朝の妙な発言はなんだったんだと簪を除く全員が思った。カンのいいレイラは恐らくはラウラに近しい誰かが吹き込んだのだろうと思った。
「ご丁寧にどうも、ラウラさん。私はレイラ・デュランダルと申します」
すぐに自己紹介に返したのはレイラだった。座りながらとはいえ気品に溢れた所作にマコトや簪、シャルロットはやっぱりお姫様だ…と毎度のごとく決まった感想をしてしまう。ラウラはレイラの名前を聞いた途端にビクリとしていきなり起立した挙句、更に敬礼までした。
「これはっ……!まさか高名なプリンセス・レイラ様だったとは…大変なご無礼を!」
「おやめください。私はただの小娘ですよ。少佐殿も、こちらではただの生徒として参られたのでしょう?」
「ハッ!その通りです!」
「でしたら、そのように」
「わかりました。では…お名前でお呼びしても」
「許可を取る必要などありませんよ。学友として、レイラとどうぞお呼びください」
「私も、でしたらラウラと」
「よろしくお願いしますね、ラウラさん」
「こちらこそ!よろしくお願い致します!」
セシリアを除く全員が二人の空気に入れない。ただ、一夏は気になったことがあるのか顎に指を当てて全員に問うようにこういった。
「なぁ、そういえばシャルロットもそうだったけど、レイラって向こうだとすごい有名人なのか?」
一夏の言葉にラウラが信じられないといった顔をする。シャルロットも同様だ。マコトはレイラが元王族で、代表候補生としての腕もあって…と思っていたが、改めて一夏にそう聞かれると少しだけ違和感があった。レイラの容姿がただ美しいからという理由だけでは明らかに足りない。シャルロットもラウラも、レイラに向けているのは畏敬の念だ。
マコトは今世におけるレイラ・デュランダルのことをあまりよく知らないことを思い知らされた。知る必要性がなかったからだ。
「貴様には歴史の授業も必要そうだな、一夏。いいか?レイラ様——」
「ラウラさん」
ラウラが呆れ切った様子で一夏にレイラの何かを教えようとした瞬間だった。いつもと変わらない、いや、いつもより深い笑みを浮かべたレイラがラウラを呼び止めた。まるで時が止まったかのように錯覚するほどの重圧に、マコトはあの夜のことを思い出してしまう。
「(これ…あの夜にも……)」
空間そのものを何か、支配するような“プレッシャー”。あの時よりは弱いとマコトは思うもラウラの勢いを止めてしまうには十分すぎるものだった。
「先ほども申し上げましたが、私たちはここではただの学生なのです。IS学園では余計なしがらみなどなく、伸び伸びと学問に皆さん打ち込まれています。ですから、私が祖国で…欧州でどういった扱いをされているかなど……今は関係はないのですよ」
穏やかに、微笑んでレイラはラウラの心を沈ませるように言う。レイラ自身も今起こしていることに気がついていない。テーブルの下ではダイヴトゥ・ブルーの待機状態である指輪が僅かに蒼く輝いていた。
レイラからの忠告を受けたラウラは申し訳ない、と静かに謝罪して席につく。レイラは冷え切った空気を切り替えるように「そういえばラウラさんは代表候補生でしたね」と言った。
「へぇ、じゃあラウラもセシリアやレイラみたいに強いのか」
「一夏さん、彼女は軍人ですわ。対して、私やレイラはあくまで民間人。実際の戦闘となると恐らくは実力差がありますでしょう」
一夏の言葉をセシリアが訂正する。素直にセシリアがラウラのほうが実力が上だと評価するということはそれなりに高い実力なのだろうとマコトは思った。ラウラはセシリアにそう言われて少しだけ照れ臭そうだが、何も言わないあたり実力には自信があるのが窺える。
「軍人かぁ……それでなんでそんなラウラと千冬姉が知り合いなんだ?長いことドイツに行ってたのは知ってるけど」
「あぁ、一夏は知らないのか。当然と言えば当然か……今から言うことは機密情報だが、織斑教官…君の姉君はドイツ軍でISの教導をしていたことがある」
「あ、それで帰ってこなかったり帰ってきても、ちょっと向こうで仕事してた、で終わりだったのか」
「あぁ。かの世界最強に教練を受けるなど、他国からすればずるいと思われても致し方ない。だから基本的には秘密だ……もっとも、噂はされてしまっているがな」
ラウラがセシリアたちをちらりと見れば、噂が事実だとわかったと言わんばかりの表情をしている。
「それで教官…と千冬さんを呼んでいたのか。ある意味、ラウラは私や一夏の妹弟子だな」
「あ〜、それで義理の妹とか言ったのか」
「部下からそういうものだと聞いたのだが違うのか?」
「そうだな、妹弟子というのが近い」
「なるほど、修正しておこう」
マコトはラウラに日本語を教えたのはその「部下」であると確信し、あの妙なキャラの口調もその人物が教えたのではと考えた。だとしたら一体何を彼女に教えているんだ、とマコトは思った。
「…っと、そうだ。なんでデコピンしたんだよ」
「まだ根に持っていたのか」
「当たり前だろ。ラウラが千冬姉の弟子だってのはわかったけど、いきなりデコピンされんのは納得いかない」
「織斑教官がしろとSHR前に言った。それだけだ」
「………千冬姉」
ラウラとシャルロットを除く全員が千冬の悪い笑みを思い浮かべた。既にこの2ヶ月で1組の生徒は千冬がそこまでお堅い人間ではないと察しており、セシリアに至ってはプライベートでの姿も藍越市出身の3人の次に知っている。彼女なりの弟への激励だろうとセシリアは納得した。
「それでも何か言いたいことはあるか?」
「ないよ……はぁ。確かに先週の小テスト、点数やばかったけどさ」
「あはは…一夏もそうなんだね」
「え?一夏もって……シャルロットさん?」
思わずマコトはシャルロットにそう言ってしまう。シャルルだった時もそうだが、シャルロットへのイメージは割と優等生だな、というものだった。特にマコトやレイラは彼女と1戦交えて、嵐の中でも綺麗に機体を制御して見せる技量があるのを知っている。それを考えれば技量に合わせて知識もあると思っていたのだが違ったらしい。
「………シャルロットさんは勉強できると思ってた」
「あー、簪さんが今行ったのフランスでもよく言われてたけど……私、その、あんまり勉強好きじゃなくて……」
「え?でも、この前、部屋でなんか難しそうな本読んでなかったか?」
「あれはフランス語の小説だよ」
一夏は現在もルームメイトを継続しているシャルロットがこれまでもよく本を読んでいるのはわかっていたが、確かに思い返せばその日の復習をしている様子を見たことがなかった。てっきり授業中と僅かな休み時間の振り返りで事足りているのかと思い込んでいたが違ったのかと一夏はシャルロットのイメージを修正した。
「てっきり向こうの参考書でも読んでるのかと思ってたぞ」
「本読むのは好きだけど勉強はからっきしで……母さんも特に何も言わないし、父さんやロゼンタさんもテストパイロットで頑張ってるしって成績のことは突っ込まれなかったんだよね」
「…改めてシャルロットが社長令嬢だと思うな、そう聞くと」
「箒さんそれ絶対いいイメージじゃないよね」
意外なシャルロットの一面が知れ渡ってしまったが、話はラウラが一夏に勉強を教える話に変わった。
「まぁ、そちらの女史のことはわからんが、一夏には教官から勉強を教えるようにと言われている」
「まさかとは思いますが、学園に転入されたのはそれが理由とは言いませんわよね」
「いいや、そうではない。これはついでだ。本来の転入の目的は織斑一夏の周辺警護の強化にあった。…状況が変わり前倒しで今日入学となったが」
状況が変わった原因に心当たりがありすぎるシャルロットは苦笑いするしかなかった。脅されていたり、未遂に終わったとはいえ、シャルロットは他国でも手を出しあぐねていた一夏の情報を奪った一人目なのである。一度事を起こしたものがいれば、あとに続くものもかならず現れる。
「加えて、今私の隣にいるシャルロット・デュノアの警護も学園からのオーダーとして正式にドイツ軍へ受理されている」
「1学校法人が他国の軍隊の軍人、しかもIS乗りを呼ぶことなど出来るものなの?」
マコトの疑問にラウラは「今回は特別な事情がある」と、理由を答えてくれた。
「簡潔に言えば恩返しだ。教官にドイツ軍で教鞭を取ってもらったな。デュノア嬢についてはついでだが」
「なるほど」
筋は通っている、とマコトは思ったが本当に「筋」だけだ。それだけで軍隊が動くなどありえるのだろうか?レイラも怪しいと考えているのかチラリとマコトに目配せする。ただ、ここで聞くのもおかしいため二人はただ聞くだけに徹した。
「(……む…いつも二人で目線で会話してる……)」
簪はマコトとレイラが時折、アイコンタクトをしていることに気がつき始め、ほんの少しレイラに嫉妬していた。幸いにしてレイラにその気が無さそうなのが簪にとっては救いで、簪はレイラがもしマコトを取りに来たら勝ち目がないと考えてしまう。元とはいえお姫様で、この美貌。自身を卑下しがちな簪は勝負にならないと思った。
「警護ってことは部屋とかどうするんだろ」
「まだ教官から聞いていないか?暫くは一夏とデュノア嬢、それに私で3人部屋だ」
「え?狭くない?」
シャルロットが狭い、というのも当然で、一夏たちの部屋は二人部屋前提の広さだ。3つ目のベッドを置くことができるが、置いてしまえば他のスペースがなくなり完全に寝室と化してしまう。
「だからベッドを変えると教官が言っていた。3人寝れる1つに変えるそうだ」
「え」
「まじかー」
シャルロットが衝撃を受けたにもかかわらず、一夏は全く気にしていなかった。シャルロットは思わず一夏に言う。
「い、一夏!?同じベッドで寝るんだよ!?大丈夫なの!?」
「え?いや特に問題はないけど?あぁ、髪切るなよ」
「切らないよ!というかそんなことより、女の子と、同じ、ベッド!」
「………?何か問題あんの?」
「えぇ……」
あまりに一夏が気にしなさすぎており、シャルロットは言葉が出なかった。一夏的には同じベッドまでは特に問題がないらしい。ラウラも一夏の反応を特に気にすることもない。
「近い方が警護もしやすいから私も賛成した。…それと、デュノア嬢。よければそちらにも勉強を教えるが?」
「…………お願いします…」
もはやシャルロットは諦めたのか魂が抜けたかのように着席する。シャルロットは変なところで頑固だった。生乳事件以降も一夏はシャルロットにシャルルだった時と全く変わらない形で接してきており、シャルロットもそれはそれで助かったのだが妙に負けた気がずっとしている。
彼女はそれなりに自らの姿に自信があった。あったのだが、一夏が一切そのことに反応しないので悔しさがあった。セシリアやレイラには何やら照れたりした、というのを本音たちから聞いたことがあったので余計に悔しさが増す。
「(……ぐぅ…一夏の幼馴染みである箒さんと飛鳥さん、二人もすごい可愛らしくて美人だし…慣れてる…のかな。けど、わ、私のおっぱいを見せた時はぶっ倒れたし……一夏の基準がわからないよ…)」
「しかし、てっきり部屋割りを変えると思っていたが続行なのは驚いたな」
「えぇ。ただ箒さんもだいぶ私たちの部屋に馴染んで来ましたわね」
「セシリアの寝言は未だに慣れんがな」
「そ、それは言わないでくださいまし!」
箒が笑いながら言えば、セシリアが顔を赤くする。マコトはうまく幼馴染みがセシリアやレイラと馴染んで来たようで嬉しかった。
「ふむ。なかなか賑やかだな」
「…うるさいかな?」
マコトの問いに、ラウラは「いいや」とほがらかな笑みをを浮かべる。
「いいことだ。ここは軍ではない。あくまで民間の教育機関だ。…いつまでこちらにいるかはわからないが、改めてよろしくお願いする。そういえば、名前を」
「飛鳥マコト。隣は簪さん」
「……よろしく」
「そうか。よろしく頼む、飛鳥。それと…名前でいいのか?」
「苗字で呼ばれるの、嫌いだから」
「わかった。簪もよろしく頼む」
微笑むラウラに、マコトは確かにクロエの面影を感じた。遠い親戚なのだろうかとマコトは思った。
「って、こんなに話してると飯が冷えるな。食べないと」
「それもそうだな。ラウラ、そちらは何を?」
「ビーフシチューだ」
「大盛りですわね」
「これぐらい食わんとやっていけん。そちらの簪もかなりの量だが」
「………私もお昼はたくさん食べる」
「フッ、わかる奴がいたか」
昼食の量の話題からラウラと簪も馴染めそうでマコトは普段よりも簪の人見知り期間が短くなりそうだと安心した。
その日の午後の授業も問題なく終わり、放課後を前にSHRが開かれていた。千冬も真耶も既にいつも通りの様子で教壇に立っている。
「——というわけで、織斑たちは以降、暫く3人部屋になる。デュノア、それとは別件で連絡事項があるためこの後職員室に来るように」
「はい」
千冬からの呼び出しにシャルロットはなんだろうと特に警戒をしなかったが、それを彼女は数十分後後悔することになるが今はわからないことである。
「それと、もう2点ほど連絡事項がある。まず1点目だが、来月始め、梅雨に入るか入らないかのあたりで、タッグマッチというものが開催される。これは全学年希望者によるISバトルの大会で、任意の二人一組でチームを組んで参加するものになる」
千冬の説明を補足するように真耶が手に持っている端末を操作し、各生徒の机にあるディスプレイに情報を表示する。開催日時も詳細に決まっており、毎年の行事なのだとクラス中も理解した。
「せんせー!質問です!」
「なんだ相沢」
「えっと、変な話ですけど、なんか出ると良い事ありますか?」
さやかの直球な質問に千冬は嫌な顔もせず「そうだな」とほんの少し思案してから答えた。
「今相沢が聞いた出場することでのメリットだが簡潔に言えば進路に大きく関わる。毎年、タッグマッチでは諸外国の企業や軍関係者が観戦に訪れる。過去、このタッグマッチを見て、卒業後にその企業に採用されたものもいる。なかには、在学中に代表候補生として青田刈りに近いことをする場合もある」
マコトは千冬の言葉に驚くも、納得する。IS学園に将来の優秀なIS乗りを探しに来るのは当然と言えば当然だ。
「特に今年は織斑がいることもあり観戦希望は既に締め切られた。多すぎてな。だから、それを察した3年生あたりが既にアリーナの申請を始めている」
「ですので、この時期はアリーナの予約がいっぱいいっぱいになるので、通常20時までを消灯後の23時まで伸ばしています」
真耶がまたしても補足しつつ、ディスプレイにアリーナの予約状況を入れる。既に今週の予約は上級生で取られており、あまり予約は入れられない状態になっているのがわかる。マコトは出場するべきか考え、すぐに出ようと思った。自分がまずどこまで出来るのか…彼女は確かめたかった。
「(問題は誰と組むか、かな)」
マコトはタッグマッチのパートナーを誰にするか考える。すぐに浮かぶのは簪とレイラだ。簪はルームメイトとしてよく知っているし、一夏との不利すぎる戦闘で高い実力を持っていることも知っている。レイラは言わずもがな前世ではエレメントを組んでいたため、分隊単位では間違いなく上手く行く。
他にはと考えると、セシリアも交戦距離からして相性は悪くないだろう。シャルロットは未知数のため除外され、箒はそもそもまともにISの搭乗経験がない。
「(箒の場合は…私が後衛なんだろうけど、あんまり後衛は得意じゃないかならなぁ)」
マコトは箒と組んだ場合のことを想像するが、上手くいかなそうだと思った。マコトもある程度は狙撃戦が可能だが、結局前世では遠距離支援装備のブラスト・インパルスで格闘戦を平気でしていたのでそのうち我慢できなくなると考える。一夏も同じ理由で上手くいかなさそうだとマコトは思った。
「というわけで、教師としては出場を勧めておく。ただ、選手として出場するのもいいが、希望者は大会中整備課の手伝いもできる。毎年人手不足でこの時期は素人でも手が欲しい。来年度整備課を志望するものはそちらを希望するのも有りだ。以上が1点目だな」
千冬の連絡事項はまず一つ目がタッグマッチのことだった。クラス中がタッグマッチのことで湧くが、千冬が咳払いをして沈める。
「あともう一つ連絡事項はあるぞ。二点目だが、来週、本学では海外からの留学生の保護者向けに授業参観も兼ねた学園案内がある。中には各国のVIPもこちらに来る。このクラスだとデュランダルがいい例だ」
「お待ちください。織斑先生」
「デュランダル。発言は挙手をするように」
「失礼しました」
1組全員が珍しいものを見たとレイラに注目する。何かと礼儀正しい彼女が慌てて席を立って、話をしている千冬に割り込むのは初めての光景だった。
レイラ本人はここにきて、つい先日の悪寒の正体を察した。
「こほん……先生、その“VIP”とはどなたですか?」
「…?ご両親から伺っていないのか?」
「母からは何も聞いておりませんが」
「まぁいい。来賓するVIPとして例を挙げるが、今回くる保護者の中にはデュランダルの父であるギルバート・デュランダル大臣もいる」
レイラの目が完全に死んでいることに全員が気がついたが、千冬は気にすることなく話を進める。
「その他にもデュノアの実家であるデュノア社からはロゼンタ・デュノア取締役。他クラスも挙げるとキリがない。だから私が言いたいのはそういった面々に失礼のないように、ということだ。わかったな?それとデュランダル、とっと座れ」
「……はい」
スッ、と座ったが明らかに普通でないレイラに教室内は変な空気になる。それでも千冬は全く気にせずSHRを締めに入る。
「連絡事項は以上だ。アリーナの使用申請の方法がわからない場合はクラス代表に聞くかクラス代表を通して申請をするように」
「え!?俺がやるんですか!?」
「当たり前だ。いちいち申請に一人ずつ来られると窓口が圧迫される。他、質問があるようだったら後で聞きに来るように。以上。日直、号令!」
SHRはそこまでで終了する。千冬たちが出ていくと全員がレイラの方へと集まった。
「レイレイ大丈夫?」
「…あまり大丈夫ではありません……」
「お父さんと仲良くないの?」
「そういうわけではないのですが……その…愛が重い…といいますか」
レイラの諦め切った表情に全員「あぁ…」と察した。親バカなのだろうと思ったのだ。こんなに可愛い娘がいたらそうもなるだろうと。
「ま、まぁレイラ。お父上も悪気があるわけでは」
「セシリア…わかっています。ですが、醜態を晒さないように、釘を差しておかねば」
1組の生徒たちはその後、当日までレイラの父のイメージを勝手に膨らませていくことになるのだが、そのイメージはいい意味で否定されることとなる。
——その日の晩。一夏、シャルロット、ラウラの部屋。
「二人とも、どうしよう」
「なんだシャルロット?そんな世界の終わりみたいな表情して」
「……護衛対象にそんな顔をされると不安だ。何があった」
「…このままだと私…退学になっちゃうかも」
「えぇ!?待てよ!俺の前髪の件はしょうがないって」
「それとは違うんだ…もっと、真っ当な理由なんだ」
「どういうことだよ」
「……私、ここに避難してきたって一夏たちには言ったよね」
「あぁそうだな」
「だからその…私……ここの転入試験…受けてないんだ」
「え」
「だからさっき織斑先生に言われたんだ…タッグマッチ後……私の転入試験筆記も実技もやるって」
「……教官らしい判断だ。それで、大丈夫…じゃないのだな」
「一夏、ラウラさん。なんで私がIS学園に来なかったかわかる?」
「来る必要がなかったんだろ?」
「確か、家でテストパイロットをしていると放課後聞いたが」
「違うんだ…私、私ね………」
「IS学園……受けるの諦めてたんだよ……模擬テスト…学科ダメで」
就寝前の室内に悲鳴が木霊した。
そもそも現時点ではIS学園の生徒ですらない(学籍はフランスの学校、休学中)シャルロットの明日はどっちだ