IS -可能性の宇宙へ-   作:ババネロ

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#phase-30「かくして幕は上がる」

 学年別のタッグマッチの前日晩、一夏、ラウラ、シャルロットの部屋に一夏の姿はなかった。部屋に残されたラウラとシャルロットはタッグマッチの翌日、つまりは明後日に迫った月末のシャルロット編入試験に向けて最後の追い込みをかけていた。

「ごめんね、ラウラ。明日は早いのに」

「別に気にする必要はない。私の好きでやっているからな」

 ラウラはタッグマッチ当日、生徒ではなく出向中のドイツ軍人として学園内の警備担当者たちと訪れる要人などの警護に当たることとなり、早朝から会場内の点検に参加する。そのため、本来であれば既に20時を回った現在、就寝に入ってもよかった。しかし、彼女はシャルロットの勉強を教えることに時間を割いている。

「…………ふむ。なかなかいいな。過去問題で9割を取れていれば十分だ」

「よかったぁ〜」

「クラリッサにも手伝ってもらってランダムに応用問題も追加してこれなら当日よほど意地の悪い問題がこなければ大丈夫だろう」

「人生で一番ここ最近が勉強してる気がする」

「それはそれでどうなんだ……?」

 なんであれ、シャルロットのテスト対策は万全となったのは確かであった。シャルロットは勉強が嫌いだったが、まさかここまで自身が勉強できることに驚いている。ラウラの教え方が丁寧、というのもあったが気力が続いたことも驚きだった。

「フランスにいた頃は、成績とかはどうだったんだ?」

「うーん、落第ギリギリ、かな」

「なんで平然とした顔でそれを言えるのか」

「いやぁ、学校は卒業できればいいかなぁって。高校出たらテストパイロットで暮らして行こうかなと」

 どう考えてもその人生プランはフラグすぎる、とラウラは思ったが言わない。一夏や箒のような普通からは外れた者たちのせいで霞むが、シャルロットはマコトたちのグループの中では比較的一般人の部類だった。もちろん、ISの操縦者としてはプロに近いものもあって、決してただ能天気というわけでもないが、彼女はラウラも含めいつもの面々の中で何も抱えているものがなかった。

 親が3人はいるものの家族関係は良好で、実家の騒動に巻き込まれるまでは危ない目にあったこともないごくごく平凡な少女。学園に来て、救われてからはその本来の気質が徐々に出てきている。

 実を言えば、シャルロットはマコトたちよりも他の1組の面々と喋っていることが多いぐらいだ。化粧品の話や、お気に入りのブランドの服、好きな人はいないのか、他愛ない話をしているシャルロットの姿はラウラもここ数週間でよく目にしていた。

 そんな彼女が少しだけラウラは羨ましかった。

「ラウラ?」

「いやなんでもない。過去がどうあれ、ここまで努力したんだ。あとは当日に全てを懸けよう」

「うん。本当にありがとう、ラウラ」

「それは受かってからで頼む」

「あはは、そうだね」

 冷えたコーヒーを飲みながらラウラは試験勉強もひと段落ついたので話題を変える。

「それにしても、一夏は凄まじいな」

「確かに。前日だからって森でキャンプって」

「箒と精神統一する、と言っていたがあれがブシドーというものか」

「ちょっとよくわからないね」

 一夏がこの部屋にいない理由は聞いており、タッグマッチ当日のコンディションを整えるために無断にキャンプ場跡で箒とキャンプをして一晩過ごすというものだった。これは一夏と箒の大事な試合があったときなどのルーティーンで、まだ箒が引っ越す前に篠ノ之神社の裏山で過ごしていたことを思い出してのことだった。

 篠ノ之神社の裏山は霊感あらたかな場所であったので本当に精神統一の効果があったが、この島のキャンプ場で同様の効果があるかは不明だ。

 見つかったら校則違反で困るはずだが、二人が選んだそのキャンプ場跡は束の研究所がある近くであり、束の監視の目があるため逆に学校側は見回りにこない場所であった。

「織斑先生もそうなのかな?」

「教官もそういえば試合前は瞑想すると言っていた。そういうものなのかもしれん」

「サムライの映画みたいだ」

 欧州から来た二人からすれば一夏たちの行動はかなり意味不明であり、そんな慣れない環境で一晩過ごしたら逆に当日のコンディションが崩れそうなものだが、本人たちはそれでいいので理解できなかった。

「ラウラはタッグマッチ出なかったけど本当にいいの?」

「何がだ?」

「ラウラも新型機のテストパイロットしてたよね」

 他国の軍人相手にそれを気兼ねなく聞くのは——とラウラは一瞬思ったが、既に彼女の専用機やその周りの情報は欧州で公開されている部類なので話すことにした。

「あぁ、そもそも私の専用機は所詮、実験機だからな。レイラのように先行量産機としての仕様とは程遠い」

「AICだっけ?すごいよね」

「それが問題だ。敵中で静止するなど、ショーをしているわけじゃないからな」

 ラウラは自身の専用機に与えられた特殊機能があまり褒められたものではなかった。現在のISの戦闘はセシリアのような中距離での機動戦が主である。これは千冬と戦うためにはどうすればいいかという対策から生まれたもので、千冬が引退した今でも続いてしまっている。

 AICと呼ばれる機能は技術者から静止でのが使用がラウラに求められ、彼女は「未完成品で実戦などできない」と試験運用を断っていた。これには軍の上層部も同意し、今彼女は専用機を持ってきていなかった。

「全く、試験部隊ではなく実戦部隊だと何度技術部に言えばわかるのか…」

「あはは、大変そうだね」

「大変だよ。部隊運営というのはな」

 そうは言うが幼いながら少佐という階級になり1部隊まで任されているあたり、仕事は完璧にこなしているのだろうなとシャルロットは思った。漫然と日々を過ごしている自身とは大違いで、シャルロットは彼女を思わず褒めたくなったが実際にはしない。

「ただ、明後日には別の機能を付けたものをこちらに寄越すと言っていたな」

「へぇ〜、それはやっぱり機密だから教えてくれないよね?」

「詳細はな。名前と概要ぐらいは別にいいと思うが」

「え、いいんだ」

「あぁ。確か——『ユグドラシル・ドライブ』という機体性能向上システムだと聞いている。AICが停止なら逆にPICの動作を更に過敏にする、簡潔に言えば機動力向上用のシステムらしい」

「すごいね。ドイツってISが戦車の延長線上の運用が多いから、そこから発展するためなのかな?」

「だろうな。こちらの現在の主力機である“ヴァイスヴィント”もISでありながらローラーダッシュを搭載した陸戦機だ。シュヴァルツェアシリーズはそこからの脱却も目指している、というのは広報でも流している通りだ」

 シャルロットはテストパイロットとしてはどんな機体でも“普通に乗れる”のでヴァイスヴィントと呼ばれるドイツの主力機に搭乗したこともある。白色の無骨な機体で、ISでありながら陸戦を主に置いた調整で、その分、空中での機動はラファールなどと比べると旋回性能などで劣る。しかし、搭載する兵装は全て大火力を持つものであり、単純な火力であれば現在のISの中では上位に食い込む。

 堅実な機体であれも悪くなかったけどね、とシャルロットは感想を思い返した。

「さて、そろそろいい時間だ。シャワーを浴びるが先でいいか?」

「うん、いいよ。それともお風呂沸かして一緒に入る?」

「どちらでも構わない」

「じゃ、お風呂沸かすね」

 そこに若干な邪な感情(可愛い子は愛でたい)が混ざっていたことにラウラは気がつかない。彼女は純粋だった。

 

 

 

 ラウラとシャルロットが風呂に入ろうとしていたのと同時刻、マコトたちも明日のタッグマッチに向けて話をしていた。対戦相手は当日の朝発表のため、考えられる相手の全てを彼女たちは考えていた。セシリア・レイラ組に当たればマコトが強引にかき乱しながらビットの動きを釘付けにし、セシリアから先に落とす作戦を。一夏や箒であれば徹底的に中距離戦で対応をする。

 コメット姉妹が来ればドッグファイトは避け、乱戦も起こさせず遠距離戦に持ち込む。マコトと簪は特に何か大きな理由があるわけではなかったが、勝ちたかった。簪は好きな人と勝利の美酒を欲し、マコトはこの世界に来て幼馴染たちに次いで長くいる、この世界の相棒を勝たせたかった。

 いつものメンバーの中で、この二人が一番、何も抱えずに勝利を欲していた。

「…っと、こんなところでいいかな。あとは明日の出たとこ勝負でいくしかないね」

「そうだね。想像からは、ここまでしかできない」

 資料映像やこれまでの有事の戦いの記録を二人は確認し終えて、明日へのイメージトレーニングを終える。

 二人は例の如くベッドの縁に並んで座っているが、以前と違い板一枚挟んでいるような薄い隙間がある。いつでも触れられる距離でありながら、触れられない。ただ、その距離は決して二人の間にある壁ではなく、二人の言葉や、想いが混ざり合うための空間だった。

「……勝ちたいな、マコトさん」

「うん。そうだね。勝ちたいね」

「私、こんな何かに“勝ちたい”って思ったの初めてだと思う」

「一夏の時はどうだったの?」

「あのときは代表候補生としての義務みたいなのが強かったかも」

「そっか」

 束との邂逅が、裏の世界で顔を俯けないことが、簪の歩み方を大きく変えていた。臆病なところや、人見知りなところは変わらない。けれども、臆病でも歩みが遅くても、前には進める。簪はそれをこれまでの戦いで知った。

「マコトさんは、戦うのが怖いって思ったことある?」

「あるよ、もちろん」

 その質問に、マコトは前世を思い出す。怒りがあった、憎しみがあった、それを力に変えていた。でも、どこかにあった。戦うことへの恐怖。——ステラが奪われるまでは。

「あったけど、いつの間にか忘れちゃってたかな」

 隠されない悲しい笑みはきっとまた誰かを喪ったからだと簪は思った。簪は彼女からまだ前世のことを詳細に聞いたわけではない。けれども、マコトが時折見せる悲しげな笑みは姉である刀奈が任務で喪った者たちのことを思い出す時と似ていた。

 人の死は人を変えてしまう。姉がただ簪の姉だけでいられなくなったように。

 それが奪われたものならば、尚更。

「……それは、忘れたんじゃなくて、奪われたの?」

「簪さん、もしかして心読めたりしない?」

「それができたら、私はあなたにもっとたくさん言いたいことがある」

 言いたいことってなんだ、とマコトは思ったがスルーする。

「まぁ、質問に答えると、そうだね。前世のあたしは、たくさん奪われて、奪われて、最後には奪う側になってた」

前にも話したよね、とマコトは簪に言う。もちろん簪は覚えていた。嵐の夜、抱き合いながら吐露したマコトの想い。奪うばかりだったマコトが、この世界に来てようやく守ることができた日。

「恐怖がなくなるっていうのは克服したわけじゃないんだ。そうなったらいずれ破滅する。その人は恐れていたはずの恐怖そのものになって、恐れていた人たちに乗り越えられていくから」

 だからマコトは簪には奪われないでほしいと思った。恐怖が奪われた時、人のブレーキは一緒になくなってしまう。

「もう、私は、マコトさんに何も奪わさせない、マコトさんからも奪わせない。逆に、私はマコトさんにたくさんのものを渡したい」

 あなたのことを愛しているから、とはまだ簪には言う勇気がなかった。代わりに、今彼女に渡せるものを簪は懐から取り出した。桐で出来た小さな箱。それを掌に乗せて、簪はマコトに差し出した。

「これはその最初の一つ目。はい」

 優しい微笑みはマコトの心に染み込むように見え、彼女は簪の手から箱を手に取る。蓋を開ければその中には一つのヘアピンが入っていた。ただし、そのヘアピンには桜色の宝石が嵌められた上、桜の花の形をした装飾も施されている。決して派手すぎず、けれどマコトの艶やかな黒髪に合う、素晴らしい出来だ。

「これ…」

「前に言った髪飾り。どう、かな」

「…きれい……だけど、その、高かったんじゃ」

 箱から取り出して、室内の照明に宝石の花弁を輝かせる。彼女の気持ちを受け取る気であったマコトだが、これは明らかに高価なもののはずだ。大丈夫なのだろうか。

「ううん。これはね、更識家に付き合いのある職人さんがタダでくれたの」

「え、そうなの?そこはやっぱりお得意様だから?」

「うん」

 簪がタダでこのヘアピンを作ってもらえたのにはある理由がある。その職人が更識家に“頼まれて”装飾品を作る際、特定の相手への贈り物は人生で一度だけ無償で作成する。無償ではあるが魂が込められた逸品。

 それが送られる相手は——更識家直系の人間が“添い遂げる”と決めた者。

 姉ですらまだ、そんな依頼することなどないのに、簪は一足飛びそれを依頼した。若さゆえの暴走か、それとも覚悟を以ってのものかは簪自身もまだよくわっていない。

 けれども、翼を得たマコトがどこにいかないように留めておくための最後の楔がこの髪留めだった。

 そのような背景があることを簪は告げない。マコトも気がつかない。伝える時が来れば伝える。簪はそう決めていた。

「桜の花言葉って、優美な女性、とかそういうのだよね。あたし、そんな人かなぁ」

「ううん、桜の花言葉はもう一つあるよ。精神の美。マコトさんの心は、綺麗だから」

 綺麗だから、と真正面から言われればマコトは顔を真っ赤にする。レイラに美少女だと言われた時とは全く違う感覚だった。

 マコトはせっかくもらったのだから、と照れながらも髪留めを前髪につける。簪の想像していた通りマコトにはよく似合っていた。

「……ありがと、簪さん。大切にするね」

「うん。そうしてくれると嬉しいな」

 マコトは体が暑くてしょうがなかった。さきほどの、渡される直前の言葉が何度も頭をよぎっていく。誰かに守られるような言葉をかけられたのはいつが最後だっただろうか。こんなにも献身的な言葉を投げかけられたら、マコトは——勘違いしそうになる。

 目の前にいる、強くて優しい女性を、もっと意識してしまう。

 臆病で、守らなければいけないと思っていた相手は遥かに、マコトよりも強かった。

「ね、寝ようかな。明日もあるし」

「そうだね。マコトさん、明日はよろしくね」

「こっちこそ。黒騎士はないけど、あたし、頑張るから」

「大丈夫。マコトさんの力はもう、知ってるから」

 一緒に戦おう、と簪が手を差し出す。マコトは迷わすその手をとった。もう彼女は一人ではない。この世界に飛鳥マコトは完全に根を下ろす。それは彼女がようやく、皆の輪に入ることを意味する。視覚的に、行動的に見えるものではなく、精神的に。

 

 

 

 翌朝、対戦相手が発表される。一年生の出場選手はその数からアリーナを分けてAブロック、Bブロックと2ブロック制で戦うことになり、マコトたちはBブロックだった。そして、試合相手はいきなりの強敵であった。

 Bブロック一回戦第一試合——飛鳥・更識(簪)ペア 対 コメット(姉妹)ペア。

「早速ね」

 アリーナ前の電光掲示板を見ていたマコトと簪に、同じく見に来ていたファニールが言う。彼女の隣には妹のコメットの姿もある。代表候補生にして、現役のアイドル。彼女目当てに見に来ている観客も多くいる。

「私たちは負ける気なんてさらさらないわ。オニール、そうでしょ」

「うん。お姉ちゃんと一緒に、私、頑張るから」

「お互い量産機、そうなれば当然、力のあるほうが勝つ。首洗っときなさい」

 勝気なファニールの挑発にマコトも簪も乗らない。二人は冷静にファニールに向き合っている。

「そうだね。だから、あたしたちも負けない」

「………うん……」

 マコトの影に隠れながらも簪はファニールから視線を逸らさない。ファニールはいい度胸だと思った。日本の国家代表候補生の中でも新参な更識簪のことは十二分にファニールは調べている。公式試合出場数0。非公式戦では勝ち星もなし。学園に来てからも一夏とは互角の勝負。

 異常な腕のマコトがペア相手だが、ファニールには勝ちが見えていた。慢心ではなく確かな自信として。

「いくわよ、オニール」

「うん」

 その場から踵を返し去っていく姉妹をマコトたちは見送る。

 ついに、予期しないものではない、覚悟を持って挑むべき戦いの幕があがる。マコトは少しの間やめていた、簪の手を取ることを今日ばためらいなくした。簪の体温が伝わる。燃えるような暖かさだ。

「簪さん、勝つよ」

「もちろん」

 隣にいるマコトを簪は見る。渡したヘアピンは陽光を受けて煌めいていた。

 

 

 

 

「今頃マコトたちも準備中かな」

「だろうな。あいつらのことを考えてる余裕はないぞ」

「わかってるよ」

 タッグマッチAブロックが行われるアリーナのピットで一夏と箒は試合前の最終チェックを行なっていた。チェックと言っても一夏の白式には複雑な装備もなく、箒も借りている打鉄には予備2本を含むブレード4本と、気休め程度に打鉄用のバズーカを格納している。

「わかっていると思うが、我々は切れなきゃ終わりだ。私は斃れてもお前をあいつらに喉元に届ける」

「わかってるさ。信じてるぜ、箒」

「こちらもだ、一夏。やつらに篠ノ之流ここにありと見せつけてやるぞ」

「おうさ」

 二人の悪鬼が嗤う。ピット内で待機している手伝いの整備課の生徒や三年生らがその顔を見てしまい震え上がった。完全に人斬りの顔をしており、これより修羅に入ると言わんばかりの二人の気迫は恐ろしいものだった。

「気迫だけは正直、教官にも匹敵するな…お前たち」

「ちょっと怖いなぁ」

 ピットに応援に来ていたのはラウラとシャルロットだった。一晩の精神統一により完全に一夏と箒は“仕上がって”おり、ここにはいないが二人の様子をカメラで見ていた束はあまりの恐ろしさにクロエへ抱きついてしまったほどだ。

 そこにいるだけでビリビリとする肌の感触に、ラウラはこんな空気の二人がアリーナに出てしまえば一夏が男性操縦者であることや箒の苗字を気にすることなど出来なくなるだろうと思った。シャルロットはこういった二人の気迫には妙に耐性があるので怖いなぁ、とやんわりと言うだけだった。

「勝負は気持ちからだからな」

「あぁ。勝負は確かに道筋あってのものだが、それを貫くには確固たる意志が必要だ」

「サムライ…ブシドーだな。こうしていざ見せつけられると恐ろしく感じる」

「軍人であるラウラにそう言われるのは光栄だ」

 覚悟ガンギマリとでも言うべき状態は軍人でも怖いな、とラウラは思った。これから行われるのはあくまで競技だが、戦争で、殺し合いであればこのような手合いが一番恐ろしいとラウラは考え、できればそんな日がこないことを願うばかりだ。

「さて。行くか。いいな、箒」

「あぁ。一回戦であいつらと戦えるんだ。出し惜しみは無しで行くぞ」

「どうせ俺の戦い方は一回でみんなにバレるしちょうどよかった」

 一夏と箒がカタパルトへ向かう。ラウラたちはそれを無言で見守った。

『打鉄、カタパルトに接続を確認。発信タイミングを篠ノ之さんへ移譲』

 まず出るのは箒だった。既に練習で慣れたカタパルトでの射出に、箒は気合を入れる。

「一夏、先に行く。——篠ノ之箒、打鉄、いざっ!」

 勢いよく箒がピットの出口へ消えていく。観客席からの歓声がピット内に響いてきた。観衆の前での試合は二度目だが、一夏は気後れしない。もう彼には対戦相手のことしか見えていなかった。

 この学園に来て、初めて戦い、初めての敗北を経験したあの青の騎士と、今度は彼女が守護する女王との戦いがこれから待っている。

『発進タイミングを織斑くんに移譲』

「ふぅ……織斑一夏、白式、行きます!」

 白が飛翔する。

 

——起動データ『白騎士』をアンロック。回帰開始。『白■叉』へのコンバート率__25%

 

 覚悟を決め、刃を磨いた若武者に、剣は応えるべくしてその身を鞘から抜こうとしていた。

 




簪さん王手をかける。どこかの誰かも愛とは躊躇わないことだと言っていたので吹っ切れた若さは強い。

次回はマコトたちからではなく、もう一方のブロックでの話になると思います。
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