IS -可能性の宇宙へ-   作:ババネロ

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最初で最後の仲間同士の全力勝負


#phase-31「流星を断つもの/夜叉を狩るもの」

 一夏たちが出撃したピットとは反対に位置するピットの中は静謐な空気に包まれていた。管制をしなくてはならない三年生も、ピット内で一般生徒向けのISを整備する整備課の生徒も、警備を行う警備員たちも誰一人口を開くことも、息の音を立てることもできない。

 彼女らの視線の先には一人の姫に跪く騎士の姿があった。彼女たちのカケラでも知る生徒はその姿に驚きを見せるだろう。事実、整備課の手伝いでこのピットにいる本音は呼吸を忘れそうになる。

 跪くセシリアの姿はあまりにも、物語に出てくる騎士姫のように美しく、彼女の前に断つレイラもまた、御伽噺に出てくるような美しさを見せている。それはセシリアとレイラのISスーツが「公式戦」で使用する本来のISスーツに変わっているからか。

 セシリアのISスーツは色こそ青なのは変わらないものの、プリマのように至る所にフリルがあしらわれ、露出はなく脇腹を僅かにシースルー状の素材にすることで十代の若々しい肉体のエロスと美しさを両立する。

 レイラのISスーツは普段のセシリアと同じ青ががったものから、純白にがらりと変わり、基本的な装飾や形状はセシリアと同じだが籠手や胸元にはプレートアーマーが装備されている。そして、極め付けは本来彼女が戴くことのない“ティアラ”が頭にあった。これはただの装飾品ではなく、ティアラの中央に設けられた宝玉にセンサーが搭載されており、射撃精度の向上を見込んだものだ。

 代表候補生といえど、二人の母国での知名度はピカイチで、かつ実力と容姿の美しさは人気に直結する。更に、片やこの若さで当主、片や幻のプリンセス、とくれば下手なアイドルよりも二人は期待され、その身に代表のみが与えられるはずの専用装備が許された。

「——セシリア、私、こういうのあまり好きではないのですが」

「此度の戦いは私達も覚悟を決めなくてはいけません」

「…それはわかっています」

 誓いを立てるためにセシリアは出撃前にこのような儀式を求めた。ルームメイトであり、友人でもある箒の覚悟は前日の別れ際に味わった。肌が粟立つほどの剣気。今の今まで彼女が解放していなかった「織斑千冬と剣術では互角」という人を超えた域にある姿。

 篠ノ之箒と名乗る少女が内に潜めていた、ある種のおぞましさすら感じさせるソレはセシリアの意識を変えるに十分すぎた。先日の気絶もあり、彼女は親友であり仕えたいと誓った少女に不安を与えてしまった。だからこそ、今日は不甲斐ない姿を見せられない。

「あなたに、剣は届かせません」

「作戦では私が前衛ですが?」

「わかっています。ですから、私のティアーズが姫様の剣舞を邪魔する輩を討ちます」

「………わかりました。お願いします。私の騎士」

 苦笑いしながらもレイラは彼女の献身を受け入れる。親友がそうしたいと言っているのだから、止めるつもりは起きなかった。前世における罪の贖罪を成すかのように。

 セシリアが立ち上がり、レイラから少し離れるとブルー・ティアーズを展開する。夢の中で顕現した姿ではなく、いつも通りの期待形状と装備。彼女はそのままカタパルトへと向かい、機体を接続する。

 出口から歓声が聞こえる。先に一夏たちが出撃したのだろう。

Do you mtch the control language to that?(管制の言語はそちらに合わせますか)

「いいえ、日本語で構いませんわ」

『ありがとうございます。アリーナ内のコンディション・グリーン。カタパルト接続を確認。進路クリア。発進タイミングをオルコットさんに移譲』

「レイラ、お先に」

「どうぞ!」

「では……セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ!行きますわ!」

 セシリアがカタパルトで射出される。それを見送ったレイラは自らもISを呼び出し装着する。その機体形状は一部が大きく変更されていた。セシリアの一件以降、武装の力不足を感じたレイラはタリアに頼み込み、分解され、オプション装備化されたサイレント・ゼフィルスの兵装をダイヴトゥ・ブルーに移植した。

 左右に浮かぶアンロックユニットの形状はまるで背に円環を抱くように展開されそれには片側4つ、左右で8基の“ソード・ガンビット『ティアーズⅡ』”が装備され、腰にはシールドビットが装甲として配置。

 主兵装だったビーム・ライフル“レヴァリエ”は格納され、彼女の右手には白銀の聖剣としか言いようのないものが握られていた。その銘は“カリバーン”。衛星砲“エクスカリバー”の粒子加速圧縮ビーム砲の原理をそのまま人間サイズにダウンサイジングして、剣に内蔵したソード・カノンだ。

 ダイヴトゥ・ブルーも灰色だった機体色が白銀に塗装しなおされ、その姿は見違えていた。この日のためにセシリアの夢の一件から僅か数日でこの改造をなしえたイギリスの技術部は優秀だった。

 レイラは機体をカタパルトへと載せる。

『続けて、デュランダル機。進路クリア、発進、どうぞ!』

「レイラ・デュランダルです。ダイヴトゥ・ブルー・プリンシパル、発進する!」

 天使の名を与えられたレイラの剣は本来の“潜航する者”としての役割を放棄し、飛翔する。ピットから射出され、アリーナ内へと進入したレイラを待っていたのは大歓声と、今は敵として立っている級友たちであった。

 箒と一夏の目はとても友人を見るような目ではない。前世で相対した“敵”とよく似た真っ直ぐで、迷いのない瞳。そこまでの覚悟、であれば、と彼女は手にした剣を体の前に立て、振り払う。

「……そこまでの覚悟、敬意を表しましょう。極東の剣士たちよ」

 一夏と箒は内心、レイラのISの形状が大きく変更されていたことに面を食いつつも、本気のレイラの威圧感を受けて、それは流した。

「(スゲェ…コイツがレイラの、セシリアの言う姫様としての本気か…?)」

「(ほぉ…そうか、レイラのウチにあるのはこれなのか…まるで天から民を見下ろす帝のような、支配者としての気…!)」

 解放されたレイラの本来の気質が一夏と箒の闘争心を燃やしていく。挑戦者である二人にとって、レイラは今まさに打倒すべきものとして認められてしまった。

「しかし、我が騎士が其方たちの剣を阻む。そして、我が剣が貴殿らの心を砕く」

「そういえば、そちらで言う剣は斬るのではなく、砕くのだったな」

「いかにも」

 レイラが手に持つカリバーンを両手で持ち、大きく構える。マコトが今ここにいれば、それはレジェンドでエクスカリバーを構えたポーズと酷似していることに気がついただろう。

「レイラ、スゲェよ。スゲェ。ヒリヒリくる。まるで暴君みてぇだ。支配者だ」

「それが?」

「………お前を斬りたい」

 最終的に皆斬れば良い。一夏の中に眠っていた千冬と同じ“暴力”が目を覚ます。かつては篠ノ之流によって押さえ込まれたそれは、今こうして師範ではない箒と共に“武”だけを思い起こさせたせいで解放される。

 そんな“獣”としての笑みを見せる一夏にセシリアは戦慄した。何を彼は目覚めさせてしまったのだろうと。これまでの戦いが、彼の心境に何をさせたのだろう。

 その答えは単純明快に……彼が力を欲したから。それだけが、彼の中にあったものを呼んでしまった。友に失望されぬよう、託された力を振るえるよう、少年の心は修羅となっていく。

「無礼な。我が姫を斬る?その物言い——」

 試合開始を告げるブザーが、その瞬間鳴った。

「お前たちを斬り捨てて、俺はこいつをモノにするッ!」

「——万死に値する!」

 セシリアがレヴァリエを唐突に最大出力で放ち、それを一夏はいきなり展開した零落白夜で切り払い、強烈な左右への高速機動でセシリアに迫った。クラス代表戦の焼き直しとなる組み合わせ、しかし、一夏の動きはあの時の比ではない。

「(この動きっ!?)」

 その動きはIS乗りであれば誰もが忘れることのできない“最強”の動き。閃く零落白夜の切っ先が確実な死をセシリアに幻視させる。だがそれでも、彼よりも経験のあるセシリアは退かない。

「まずはセシリアを!」

「させるとお思いで!?」

 彼女は左手に持つレヴァリエを消したかと思えば、次の瞬間、刀身が青白く光るナイフを持っていた。見たことのない装備、一夏はレイラの持つナイフと同じく特殊装備でないかと一瞬ひよってしまう。それは大きな隙となる。

「タァっ!」

「投げ!?」

 セシリアにとっての剣とは銃だ。故に、彼女はブルー・ティアーズに装備されている唯一の格闘武装であるナイフ“インターセプター”を容赦無く一夏に投擲した。最低限の回避、と一夏は飛び込んでくるナイフを避けようとするが、僅かな反応のラグがそれを許さず、零落白夜の使用を一時中断させ切り払うという選択肢を選ばせる。

「一夏!」

 箒が援護を行おうとバズーカを手にするが、それは即座に体勢を立て直したセシリアの右手にあるライフルが砲口を撃ち抜く。咄嗟に箒はバズーカを手放すが、弾薬の誘爆で爆煙が目の前に発生し、視界を奪われた。

「箒…!ッ!?」

「正気か!敵を前に——!」

 瞬時加速を行い、レイラが今度は一夏に突貫する。振り抜かれたカリバーンの一閃は一夏から見ても洗練されたもので、彼は雪片で受けるしかなかった。

「余所見をっ!」

「このっ!」

 一夏は力任せにレイラを箒がいるであろう方向に弾き、直感的に後方へ瞬時加速する。刹那、彼のいた直上から青い閃光が降り注ぐ。セシリアのビットからの射撃だった。息つく暇もなく、またしても四方からセシリアのビットが降り注ぐ。包囲網から抜けるように、一夏は連続して瞬間的に瞬時加速を使う。

「私を忘れるな!」

 見事な回避を見せた一夏に負けじと爆炎を突き抜け、箒が二刀をレイラに振りかぶる。大きく振られたはずの斬撃は信じられない速度でレイラの首を狙っていた。

 強烈な金属音が響き、レイラのカリバーンが必殺の一撃を防ぐ。咄嗟の防御は衝撃を防ぎ斬れず、レイラは弾かれた。

「頂くッ!」

 刀を正面でクロスさせ、箒は一気に突撃する。観客席のものたちはその姿にかつての織斑千冬を幻視する。

 痛撃が決まる、誰しもがそう思ったが、レイラは己が持つ“空閑認識能力”を超えた“直感”で吹き飛ばされながらもカリバーンの剣先を箒に向けた。整えられた美しい聖剣の刀身がガバリと上下に別れた。

「!?」

「穿て!」

 黄金色のビームが通常の粒子ビームより加速されて打ち出された。それはまるで、聖剣の光が伸びたかのように箒の手にあるブレードのクロスされた場所に直撃する。

「ぐぅ…!オオオオオオオ!」

 乙女のあげる雄叫びではなく、それは鬼の咆哮であった。直撃した聖剣の一撃はブレードの表面に施されたコーティングにより四散する。打鉄の出力の限界で箒はブーストしていた。

 気勢こそ衰えないが、加速自体は衰える。宙返りして体勢を整えたレイラはついに背中の円環に備えられた権能を解放する。

「ティアーズ!敵を切り裂け!」

「だが、レーザーでは止まらん——!」

「私は切り裂けと命じた!」

 耳をつんざくようなアラート。箒の全身を切り刻まれる衝撃が襲った。

「ガッ!?」

 サイレント・ゼフィルスに搭載されたティアーズを改修したティアーズⅡのビームブレイドが容赦無く四方から箒を切り裂いていく。繊細な操作により全てが人体の急所を捉え、エネルギーを大きく殺ごうとする。

「これしきィ!」

 そうされても、箒は退かない。その顔は凶暴な笑みを浮かべている。さすがのレイラも僅かな恐怖を感じる。もはや、狂気なのではないかと思うほどの闘争心。

「臆すなァ!」

 研ぎ澄まされた箒の瞳がレイラの心を鷲掴みにしようと射抜く。レイラはだからといってやらせないと、向かってくる箒に向かって、前触れなく瞬時加速し、その勢いのままカリバーンを箒のブレードに叩きつけた。

 衝撃波が目に見えて起きそうな衝突に、二人のISが軋んだ。

「どうした打鉄ッ!もっと踏み込めッ!」

「ダイヴトゥ・ブルー、負けないでっ!」

 乗機を叱咤し、励まし、二人の剣は一歩も退かない。ブレード二本で押し返そうと箒はするが、全く押し返せない。その均衡を崩せるのは彼女たちの相棒たちしかおらず、先に手を出せたのは当然——セシリアだった。

「そこですわ!」

「しまった!箒!」

「ヌッ!?」

「きゃっ!?」

 緩んだ力をレイラは押し返し、箒は咄嗟にレイラを飛ばされる直前に蹴り飛ばした。セシリアのライフルとビットからの全力射撃を箒はかろうじで回避する。そのまま箒は戦場を膠着状態にさせることはなく、彼女の手にあるブレードを突如一夏に投げた。想定外の動きにレイラとセシリアはその行動を阻害できない。

 空中で見事に打鉄用のブレードを左手に持った一夏は大きく上空に飛翔する。彼の白式は左手のブレードを認識できない。火器管制がろくに動作しないからだ。それでも、彼の手にあるブレードは正しく一夏の脳には認識される。

「大人しく、斬られろッ!」

 加速。一夏の闘争心が爆発した。真っ直ぐに、レイラに向かって飛び込んでくる。重力とISの加速力、それらが合わさって、その場にいる全ての人間がかつて見た千冬がそこにいるかのように錯覚する。

 レイラは確信した。間に合わないと。だからか、妙に目の前がスローモーションに見え、一夏の異変に気が付く。彼が飛び込んでくる進路上に、円錐状の光があった。それを彼が突き破った瞬間、白式が白く、弾けた。

「(あれ…は!?)」

 白式の形状が変化する。脚部のユニットはスマートに、かつスラスターが多数配置されたものに、腰部にもフィン状のスラスターユニットが見える。これまでの野武士のような武者姿が洗練された武士の鎧のように整っていく。

 左右のアンロックユニットは蛇腹状の装甲が重なって、内側には砲門が見えた。白一色の装甲板が開き、青白い光を発する。直感が囁く、あれは全て零落白夜だと。

 

——暮桜装備・稼働データ削除完了。白式再起動。真なる回帰“白夜叉”起動完了

 

 白騎士が仮初の主人の覚悟に応え、不要な“暮桜”のAIコア人格を除く全てのデータを削除し、新たな形態を形成する。白式【真なる回帰(リバースシフト)】“白夜叉”。それが一夏の覚悟を示す新たな力の銘だった。

 セシリアの脳裏を少し先の“未来”が過った。一夏の持つ絶死の光が大切な親友を射抜く未来が。それは彼女が幼き頃に見た“碧い宇宙”が教えてくれた新たな力。絶対に間に合わない。だが、間に合わせる。

 一瞬の、引き伸ばされた時間でセシリアは思い返す。出会いの夜、素敵だと、そう言ってくれたどこか遠い瞳で、寂しそうにしていた彼女の横顔を。

「わたしのレイラに触れるなぁぁぁあっ!」

 激情が、彼女を覚醒させた。

 

——守護を承認。我らは流星の如く。我らが騎士に星の加護を

 

 青が弾け、碧がセシリアとブルー・ティアーズを包み、彼女は流星と化した。

 ブルー・ティアーズ・ステラドレス。真なる回帰を迎えた少女の願いが予知された未来を覆す。ベイパーコーンを発生させ、瞬時に音速を超えたセシリアに絶大な負荷が掛かるが彼女はそんなものを気にしていない。迫る一夏の零落白夜を彼女は直感的に呼び出したビーム・サーベルの出力を発振口が焼き切れるほどに出力を上げ、レイラに直撃する寸前にそれを零落白夜に直撃させた。

「ッ!?」

 声も上げられないほどの衝撃が一夏の手を襲い、雪片が弾き飛ばされる。音を置き去りにする中での接触で一夏は確かにセシリアの表情を見た。普段の自信満々で明るいお調子者な愛らしい少女は消え、そこにいたのは姫を守らんとする騎士だった。

「オアァァアッ!」

 弾かれ、体勢が崩れたにも関わらず一夏は左手のブレードを強引にセシリアへ振るう。体がねじ切れんばかりのGは白式がかろうじて彼の体が保つように制御される。インフィニット・ストラトスとして覚醒した膂力の一撃はセシリアを斬り裂かんと迫るが、彼女は真っ向からそれに対してビーム・サーベルで迎え撃った。

「ハァァァッ!」

 光と鉄の刃が触れた瞬間、比喩もなく衝撃波が発生しレイラは直感的に全力後退することでその直撃を回避する。

「まさか二機とも…!」

 束が告げた真なる回帰(リバースシフト)を迎えたとレイラは察し、このタイミングで!?と驚くしかない。衆目の中での覚醒は避けるべきだったと思いながらも、レイラは守られたことで胸を撫で下ろす。

 一夏とセシリアの切り結ぶ速度はISのハイパーセンサーによる視覚強化でさえ追うのが精一杯のもので、観客には青と白が何度もぶつかり合ってるいるように見えているだろう。幸いなことに、機密などもあり内部でのカメラ撮影は禁止されている。記録映像は学園が握っているので束と千冬にもみ消されるだろうと判断した。

「私を忘れるな!」

「くっ!?まだっ!」

 静止したレイラを箒は見逃さない。彼女の手には投げ飛ばされた雪片が握られ二刀流に戻っていた。零落白夜がなくともせおの強度は白騎士時代から何も変わらぬもので、箒ほどの剣士がそれを持てば脅威となる。

 カリバーンによる迎撃とビットを射撃モードに切り替え迎撃、更にシールドビットもフル稼働させ14基による弾幕が箒を襲うが、彼女はまるでクラス代表決定戦の一夏のようにビームを全て切り払った。直線的な機動からブレない。レイラは悟った。まだ箒は三次元的な機動に慣れていないと。

「であれば!」

 ビットが散開し、箒の正面にビームによる網を作った。箒は咄嗟に急制動をかけそこに突っ込むのは避けたが、その網が消えた瞬間にレイラは眼前にいた。

 その手にあるのは聖剣ではなく、赤く光る刃。“女王宣誓”。

「それは——だがっ!」

「女王——宣誓!」

 突き出されたレイラの刃は箒の心臓を確かに捉え、迎え撃つ箒の雪片はレイラの腹部を捕らえていた。どちらも生身であれば正しく、その機能を発揮し敵の命を奪っていたことだろう。故に、二人のISは搭乗者を全力で守ろうと機能を全開にした。

「(セシリア、ごめんなさい。でも、信じています。あなたならきっと)」

「(一夏、後は託す)」

 最期の一撃を受けた二人の言葉はセシリアには直接走り、一夏には気として伝わった。

 撃墜のブザーが鳴る。最強に近い剣士と、絶対の権限を持った女王の刃はそれぞれのISのエネルギーを絶った。

「よくもっ!」

「やったなぁっ!」

 ブレードとサーベルがぶつかり、憤怒に満ちた流星と、修羅と化した夜叉は互いにアリーナの端に飛び、静止する。

 アリーナ内は静まりかえり、遠くに向かい合う二人の吐息が聞こえそうなほどだった。

「セシリア」

「一夏さん」

 二人の信念がぶつかり合い、視線が交差する。一夏はブレードを正面に構える。セシリアは全てのビットを展開し、レヴァリエが変化したバスターライフル“メテオブレイカー”を両手に装備する。

「俺が」

「私が」

 白夜叉が青白く光る。全身が零落白夜と化す。

 ステラドレスが全ての砲口をまるで星のように煌めかす。

「「倒す!!!」」

 それは英雄譚の再現かのように、一人の剣士が降り注ぐ流星群へと切り込んでいく。白騎士は彼に託す。本来の主人の戦闘記録を。星の衣は彼女に捧げる。絶対に陰ることのない星の輝きを。

「うオォォォッ!」

 もはや瞬間移動にしか見えない回避行動も、セシリアには“視えた”。彼が回避した先に、既に星が降り注ぎ、彼の体を穿っていく。それでも、一夏の視界にはセシリアしか見えない。白夜叉となった時点で、もう全てのコンソールがオミットされていた。

 友は語った。首があり、剣を手が持てばあとはもげてもいいと。

 まさしくそれは命を燃やした、今の織斑一夏に為せる全力の一撃。雪片はない、相棒もいない、残されたのは託された刃と己の身ひとつ。届かせる、絶対に。

 セシリアは飛び込んでくる一夏に彼は止まらないと察したのだろう。流星では止まらない。ならば、どうすればいいか。もっと強く、もっと大きい星を——隕石をぶつけるだけだ。

「連結!」

 メテオブレイカーの二挺目をもう一方のメテオブレイカーの末尾に接続する。腰だめでそれを構え、照準は一夏へと向けた。一夏は構わず突撃してくる。

「潰れなさいっ!メテオブレイカー!」

 放たれたのは現行のISでは放つことができない極光。IS4、5機は巻き込もうかというブルー・ティアーズ自体が小型のエクスカリバーとなったかのようなこの一撃は一夏を容赦無く焼き払わんと放たれた。

「つっきれぇぇぇえっ!」

 触れたブレードは真っ先に溶かされた。しかし、零落白夜と化した白夜叉は星を滅ぼすような光の中を圧されながらも突き進んでいく。

 全開で放つブルー・ティアーズの装甲が、まるで熱に溶かされていくかのように弾けていく。それは白夜叉も同じだった。解けていく装甲は二人が退く理由にはならない。

 メテオブレイカーが限界を超え、火花を吹き、照射が止まる。銃口の前に、もう一夏はいる。一夏の手刀がセシリアに向かって放たれる。セシリアもまた、左手に呼び出したビーム・サーベルをその手刀にぶつける。ビームが手刀によって斬り裂かれ、セシリアはそれを感じた瞬間に次にくる一夏の左手の手刀を阻むためにビットを呼び出しリフレクターで防ぐ。

 零落白夜もエネルギー兵器である以上、リフレクタービットを貫いた時点で手刀をコーティングするように包んでいたエネルギーは弾かれる。

「こうすれば、その力は使えないでしょう!」

「剥がされ——!?」

「これでチェックメイト——!」

 ビットが一夏の背後を取り囲む。一斉射撃。これで決まるとセシリアが最後の一手を打とうとした瞬間、それは起こった。

 

——稼働限界に到達。システム強制停止。

——搭乗者の身体損壊度限界に到達。強制停止。

 

「うっ!?」

「あぁっ!?」

 ブルー・ティアーズの星の衣が突如解け、機体は元に戻り、一夏の方は…。

「白式!?おい!?」

 白式が解除され、彼は空に放り出された。

「一夏さんっ!」

 セシリアは突然のことだが対応しようとするも、ブルー・ティアーズは滞空以外の行動を受け付けない。セシリアの視界に映るコンソール類は全て「機能停止・再起動中」と表示されていた。

 一夏が落ちていく。このままでは彼が死ぬ。一瞬前まで戦っていた相手は既にクラスメイトへと戻っていた。

「誰かっ!」

 セシリアの悲痛な叫びは届く。一夏の下に、最低限の行動エネルギーを残していたレイラが入り込んだ。彼女は衝撃が少なくなるよう速度を合わせ、すくい上げるように一夏を救出した。

「うっ、あ、あぶねぇ、死ぬかと思った」

「間に合ってよかったです」

 伝説に残るような戦い、奇跡の救出劇。それらを見せた観客の歓声が爆発したかのように起こった。勝負は着いた。

『ジャッジよりオルコット機へ、状況を問う』

「は、はい!機体の制御システムが機能停止、エネルギー類も確認が取れません!」

『……了解しました。判定を出します』

 観衆の喜びの声はこの勝負の結果が「引き分け」とアリーナ内のモニターに表示されたことでも止まらない。一回戦にしてまさかのベストバウト。熱い勝負を繰り広げた4人には惜しみのない称賛が送られた。

「はは…あと少し。少しだったんだけどなぁ。届かなかった」

「いいえ、一夏さん。あなたの剣は届いていましたよ」

「………だといいな」

 慈愛に満ちたレイラの顔は一夏の闘気を沈めていく。勝負は終わったのだった。

 終わったことで、一夏の体が限界を超えたことに気がついた。

「おっ…うごぉぉっぉおぉ!?」

「!?い、一夏さん!?どうされたのですか!?」

「うぎっ、がっ、や、やば、体が、がぁっ、い、いてぇ、なん、これ、きんにくつ、みたいなっ」

「一夏どうした!?」

 箒も慌てて僅かに回復したエネルギーで降りてきたレイラたちに駆け寄る。一夏は苦悶の表情を浮かべていた。

 なにが、どうして。そんな疑問に応えてくれる存在がレイラに通信を入れてきた。

『れーちゃん!』

「これはっ…!状況は見られていますか!?」

『モチっ!二人ともやっちゃったから見てたけど、いっくんのはちょっとヤバイ!すぐに医務室連れてって!』

「なにが起きたのですか!?」

『さっきの戦いでいっくんの体、筋肉がズタボロになってる!さっきのいろんな保護制御がぶっ飛んでたんだよ!』

「そんな…!」

 束から告げられたのはとんでもない事実であった。一夏の体は以前、マコトが危惧していた白騎士に超人以外の人間が乗ったらどうなるかという回答だった。

「レイラ!誰と話しているんだ!?」

「箒さん!今はとにかく彼を医務室のデュノア先生に!」

「今はそれが先決か…わかった!いくぞ!」

「セシリア!彼を医務室に連れて行きます!あとをよろしくお願いします!」

「えぇ!?」

 慌ただしく同じピットに消えていった三人をセシリアは見送ることしかできず、一人取り残されたところでようやくブルー・ティアーズが再起動する。

「再起動確認…ふぅ。さて、どうしたものでしょうか」

 セシリアは改めてアリーナの惨状を見る。地面はセシリアの放った流星群とメテオブレイカーでめちゃくちゃな数のクレーターを生み出し、照射の着弾点は大きく砂がガラス化していた。

 これは果たして、次の試合はできるのだろうかと思った。

『オルコットさん、聞こえますか?』

「はい、聞こえますわ」

 ジャッジの一人である真耶がセシリアに声をかけてくる。

『えっと、この状況だと次の試合ができないのと…先ほどの様子ですと織斑くんが負傷しているようですので、二回戦にはオルコットさんが進んでください』

「わかりましたわ。ちなみに、第二試合以降の開始は…」

『午前中は不可能です』

 そうですか、とセシリアは静かに返しピットへと帰還する道をとる。観客席からは暖かい拍手が送られた。

「……時間が空きますわね。マコトさんや簪さんの試合も、このまま行けば決着の前ぐらいは見れますでしょうか」

 一夏たちのことは心配だが、大丈夫だろうと判断してセシリアはマコトたちの試合を見ることにした。そこで彼女は先ほどの戦いとは違う、異様な光景を目にすることになるとは思っても見なかった。

 

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