ここまで読まれてる方は承知かと思いますが結構ハチャメチャな設定改変が世界観全体に回ってるのでご了承頂ければと思います。
「いやぁ、きみよく生きてたねぇ」
あっはっはっ、となんともゆるい空気を出しながらシエラはシャルロットそっくりな笑顔を見せた。一方で、ベットに座っている一夏は顔を引きつらせていた。彼をここまで運んだ箒とレイラも同様だ。
「うーん、身体中の筋組織はほとんどぐちゃぐちゃだし、骨はいっぱいヒビが入ってたし、内臓もなんか壊れちゃいそうだったね」
優しい眠くなるような声音に乗せて流れてくるのはとっくに死体になっているのではないかというぐらいの惨状であった。
セシリアとレイラの試合で白式の【真なる回帰】形態を使用した一夏は試合終了時に激痛に苛まれ、ここに運ばれた時点で喀血までしておりまさに瀕死であった。レイラは耳をつんざくような束の悲鳴を聞きながらシエラに助けを請ったわけだが、シエラは一夏を見た途端、彼に触れると一瞬で彼の怪我を直してしまった。
それはまさに奇跡の所業と言えるだろう。直された本人である一夏もどう考えても死ぬと思ったほどの激痛だったが、どこも今は悪いところがない。むしろ、生きていて一番体が軽いとさえ思える。
「それでぇ、どうしてこんなにことになっちゃったの?」
「いやそれはこちらが聞きたいのですが!?」
思わず箒が声を荒げてしまう。シエラは何事もなかったかのようにカルテを書こうとしており、箒の叫びに一夏もレイラも「うんうん」と頷いた。シエラは「びっくりしたぁ」と言いつつも右手に持っていたペンを一度白衣の胸ポケットに入れ、生徒たちの疑問に答えることにした。
「何をしたかって言うと、こういうことをしたんだぁ」
広げられたシエラの手の中に、黄緑色の光球が浮かび上がる。CGなどの類には一切見えず、箒は幻術か何かか?と思うも違う、とその光球から感じるものにより判断する。その感じるものとは、篠ノ之神社裏山の持つ特殊な空気とそっくりで、強い“生の力”だ。
霊感あらたかなあの山での精神統一によって得られる強い力のようなものとよく似ていた。
「……こ、これは」
レイラからすれば、信じられないものだった。コズミック・イラでは霊的な神秘はほぼ忘れ去られている。レイとして、フラガの血同士の感応こそあったが、そんなものなどこのシエラの力の前ではかわいいものだ。
「これはねぇ、魔法だよ」
「ま、魔法って、あの魔法ですか?」
「そうだよ、織斑くん」
魔法。おとぎ話の中でしかありえない異能。インフィニット・ストラトスの登場により、おとぎばなしに踏み入れた世界の中では消えたはずの神秘。それが一夏の命を救ったのだ。
「さすがに私も死者蘇生は無理だから、間に合ってよかったねぇ」
光を消したシエラはほがらかにそう言う。魔女と呼ぶにはあまりにも陰気はなく、魔女狩りなどの歴史もある中で、レイラは実在した魔女の存在に驚きのあまり言葉がもう出ない。そもそも、いきなり魔法使いと名乗られても理解できないのが普通であり、そう言う存在もありえると思っている箒がおかしかった。
「ほ、箒は、なんかあんまり驚いてないのか?」
「忘れたのか。私は篠ノ之神社の巫女だぞ」
「そういやそうだった」
「ミコ、とは?」
「レイラ、だいぶ違うが、教会におけるシスターのようなものだ」
流石にシエラのような特殊な力こそないが、第六の感覚とでも言うべきものは篠ノ之家の娘である以上あり、箒は姉よりも熱心に篠ノ之神社の手伝いをしていたせいか、霊感は強い。
そのためか、箒はシエラの力が“根本的にはあの山と同じ”であることに気がついた。
「……デュノア先生、つかぬことを聞きますが、その力はどこで?いつから?」
「えっとぉ、これあんまり言っちゃうとシャルに怒られちゃうんだけど……みんなはシャルのおともだちだからいいかな?」
彼女はそう言うなり、おもむろに白衣の中に着ているシャツのボタンを少し開ける。豊満な胸の谷間が覗き慌てて一夏は目を逸らしたが、箒とレイラはそのまま見続けた。シャツの中にシエラが手を入れると中につけていたネックレスのトップ部分が出てきて、そこには四角い、エメラルドグリーンの小さな宝石のようなものがついていた。
「これね、私の実家の…ルーセル家に伝わってる宝物なんだけどね。だいだいルーセル家の女性はこの宝石を身につけると、魔法が使えるんだ」
「マジックアイテム…というべきものですね。まさか実在したとは」
レイラはこれでは本当にアーサー王伝説なども全部事実だったのではと言いたくなる。魔法は実在し、シエラの故郷はフランスだ。円卓の騎士とも縁がある。非現実的なものだと聞いただけではレイラも断じてしまうが、こうして目の前で力を行使されてしまえば信じるしかない。
一夏はスゲェ!という感想しか出てこず、弾がこういうの好きだろうなとゲーム好きの友人のことが頭を過った。
3人の中で一番そちら側にいる箒は嫌な汗が背中を伝っていた。宝石を出された瞬間、あまりにも“それ”は彼女の中で一致していたからだ。
「……先生、その、宝石はどこで入手したのですか?大元の、採取場所は」
「私もよくは知らないけどねぇ、日本だと、ひぃおばあちゃんって言うのかな?その人から聞いた感じだと“山”にある洞窟でとったって」
「……山…洞窟………」
箒は裏山にある唯一の洞窟が姉の研究所になっていることを覚えていた。幼馴染みの中ではマコトと千冬しか入ったことがない、箒たちからすれば未開の場所であるそこは幼少期に精神統一を行った場所にそこまで遠くないと千冬本人が言っていた。
「(この、先生の持つ石は山の持つ“力”とあまりに似すぎている。篠ノ之の山の力は人を正しく“生かせる”ようにする力だ。そして、この石は彼女に人を“正しい姿に戻す”力を与えている。私の推測が多すぎるが、理屈ではないところが同じだと言っている)」
疑問は僅かだが彼女の中にずっとあった。なぜ最初は部屋に引きこもっていた束が突然裏山に研究所を作ったのか。最初は“家族ですら”視界に入っても認識があまりできなかった束が次第に、親族でさえも家族を受け入れるようになったのか。
マコトや、千冬という存在もあっただろう。それにしたって彼女はあまりにも変わりすぎた。
「(父さん、あなたは何を知っているのだ)」
篠ノ之の裏山についての話は父、柳韻しか知らない。彼は健在であるが、居場所は知れない。箒の中の直感が全ての根源があの山にあると言ってくる。不思議な力の源であり、人に正しく生きる活力を与える場所。それほどまでの大きな力はこうやって切り出して持ち運ぶことさえできる。
そこで生まれたインフィニット・ストラトスは無関係とは思えない。
「(頭がどうにかなりそうだ…!姉さんの夢は、夢は彼女のものだ。だから、何か影響されたものじゃない。だが、これほどの力の源を発見したら彼女はどうする…やれるはずだ、できるはずだ。その純粋な力だけを抜き出すことぐらい)」
「お、おい、箒、大丈夫か?」
「——は…あ、あぁ、大丈夫だ」
「本当かよ?顔がすげぇ難しいことになってたぞ」
「問題ない。…先生、ありがとうございます」
「おっけー、シャルには教えたって言わないでね」
「もちろん」
箒に続いて、一夏とレイラも頷く。レイラは頷いたものの、シエラが見せた力にギルバートから伝えられたニュータイプという存在に彼女も当てはまるのではないかと思った。マジックアイテムありきかもしれないがそれを扱うことができる存在だ。
そして、フランスのデュノア社が策謀で勝利したとしても落とされたエクスカリバー。動かされたシャルロット。本当に狙われていたのは——シエラ・デュノアという魔法使いだったのではないだろうか。
「(魔法。言うなれば人類が手にしたかった第六の力。それを自在に扱える彼女という存在はあまりにも……瀕死の人間を生き返らせるほどの力があれば狙われるのも道理です。シャルロットさんも、娘とあらば多少は素養もありますし、あの夜止めていなければと思うと、ゾッとするものがありますね)」
影も見せずにその手を伸ばす敵の存在にレイラは震えそうになる。明確な権益に溺れたものたちではない、目的が理解できない相手。生きている人間の中でもっとも恐ろしい相手。
それが、この世界における——敵。
生きてるのか死んでるのかわからない警備員のスコールさん(Phase-EX2より登場)も似たような石を所持しているのは秘密だ。