IS -可能性の宇宙へ-   作:ババネロ

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捏造マシマシ

※オニールちゃんの名前今までめっちゃ間違えてたので前話までも修正しました。ほんとごめんなさい…。
※評価受付を非ログインでも可に変更しました。


#phase-32「一等星」

 その人はまるで星のような人だった。煌めくステージの上でも呑まれずに、もっと光り輝く人。小さな頃、私たちがいた孤児院のママが見せてくれたビデオに写っていた彼女が、私たちの未来を変えた。

 キララ・トヤマ——それが、私たちがアイドルを目指したいと思った夜空に輝く一等星の名前。東にあるという島国のアイドルなのに、世界中の、こんな私たちのいるような世界の片隅にも活躍が届いたほどの凄いアイドル。デビュー僅か1年でそうまでなった、生まれながらのアイドル。

 栗毛色の踊りに合わせて揺れる細やかな髪と、デビュー当時15歳という年齢に合わない恵まれた、少女として完成されたスタイル。紫水晶のような瞳は色に反して優しく暖かさもあって、声は優しく、時に激しく、時に力強く、ダンスをしながらの生歌は未だに誰にも負けていないと思う。

 最後に見たときの薄いピンクのお姫様みたいなドレスは本当に、彼女はお姫様なんじゃないかと思わせた。小さな私は彼女の虜になった。

 だから、私はアイドルになりたいと思った。双子の妹のオニールも同じ気持ちだった。アイドルになりたい、そんな夢をママに話せば彼女簡単にはなれないということを言いながらも、応援してくれた。

 ママは歌が得意だった。だから、歌唱のレッスンをしてもらえて、踊りに関してはキララさんの動きを見て、頑張った。

 けれども、そんな頑張っている最中のことだった。私たちの夢で、目標だったキララさんが突然アイドルを辞めた。本人は最後のライブから一度も姿を見せることなく、事務所からの一方的な通知で。

 それは8年前の春のことだった。小さかった私たちは理解もできず、ただ泣くことしかできなかった。そうして、落ち着いてみれば、まるで世間は「アイドル キララ」の存在をなかったかのように扱っていた。

 ありえない。どうして、なんで。孤児院のみんなも、ママでさえもそうだった。私たちが持っていたビデオを見せても、ママはただ「綺麗だけど、どなた?」とおかしなことを言った。なのに、私たちがアイドルになるということだけは知っていて、怖かった。

 まるで、オニールと私たちだけ、違う世界に来てしまったかのような、そんなありえない気持ちになった。

 キララさんが消えてからしばらく、私たちは引きこもって泣き続けた。でも、ママがくれた雑誌に乗っていたキララさんのある言葉を見て、私たちは立ち直った。それはアイドルの死とは、という質問に応えた時の彼女の答え。

 

——アイドル、そのままの意味では“偶像”です。ファンの皆さんや、私に期待してくれるたくさんの人たち。応援してくれるみんなに応えるために私はいつもステージに立っています。そんな私が“死ぬ”ということはきっと、みんなに、“アイドルの私”が忘れ去られてしまった時になるでしょう。だから、もし、私がいきなりいなくなってしまっても、誰かが“私”というアイドルを憶えていてくれたら、きっと私は永遠に生きられると思います。

 

 インタビュー記事の写真にあったキララさんの笑顔は優しいけど、ちょっと悲しそうだった。

 だから、私たちはキララさんの生きた証を。私たちが憧れた彼女のことを忘れ去った世間に思い出させるために、より一層アイドルになりたいと思った。親に捨てられて、苗字のなかった私たちは自分たちで苗字を「コメット」とつけた。綺羅星みたいに輝いた、キララさんにあやかって。

 そうして、アイドルになるための手段としてカナダの代表候補生になって、代表候補生として広報をどうしたいか希望を聞かれたときに“アイドル”になりたいと告げて、すぐに日本に飛んで、新人アイドルが出るステージのオーディションを受けた。結果は合格だった。

 私たちの容姿は優れているという自覚と、小さい頃から続けたレッスンで培われた力、そして、なかなかいない代表候補生でありながらアイドルという肩書。

 何かとISでは影の薄い本国からすれば存在感をアピールするにはうってつけということもあり、大きく裁量権を与えられた私たちは必死に学んだ日本語で、初めてのステージで、あの一等星を忘れた愚かな人たちに言ってやった。

 

——あんたたちに、一生忘れられない“一等星”の輝き、刻み込んであげる!

 

 このステージがデビューだというのに、なんてことを言うのだと多くの輩が思ってたけど、それは全部、私とオニールの実力で黙らせた。キララさんのファンだったからこそわかる。本気の熱量があれば、ファンもまた、応えてくれるということを。

 忘れ去られた世界の中で、私たちだけが憶えている輝き。私たちが忘れない限り、キララさんの輝きは生き続ける。

 だから、負けられない。あの授業の時とは違う、本当のステージ。ここで私たちの輝きに陰りを与えるなんてこと、絶対に許されない。

 専用機は間に合わないと知っている。あんな無茶苦茶な機体、出遅れてる私たちの国じゃ時間がかかる。けれども、私たちの力があればそんなものもいらない。

 相手は赤い瞳を持った二人の女の子。どっちもむかつくぐらい強そうで真っ直ぐで、特に、黒髪の方はなんでか、キララさんを思い出させる。すごい、むかつく。

「負けられない。私たちは」

「そうだね、お姉ちゃん」

「キララさんのためにも、こんなところで私たちは落ちるわけにはいかない」

「うん。キララさんみたいに、一等星になるまで、私たちは輝き続けないと」

「だから、ここでも、刻み込むのよ。“一等星”の輝きを」

「もちろんだよ。いっしょに、輝こ?お姉ちゃん」

「ええ!」

 飛鳥マコト、更識簪。私たちにあんたらは勝てない。世界が忘れたあの“輝き”を知ってる私たちは、強いから。

 

 

 

 セシリアらの勝負が着いた頃、マコトたちはアリーナのピットで打鉄を装備し待機していた。簪の打鉄は以前、セシリアの夢の中でも使用した打鉄丙型で、今回はマコトの援護を行うために、打鉄二式用に開発された荷電粒子砲“春雷”を手持ち式に基幹部分を打鉄用のアサルトライフル“焔備”へ移植したビーム・ライフル“雷切”を装備している。

 それ以外は変わらない仕様で、背部アンロックユニットのブースターや搭載火器であるビーム・キャノン“火蜂”など、中距離以上に対応する装備で固められている。

 一方のマコトの打鉄は基本的な装備のままで、サイレント・ゼフィルス戦で装備したグレネードランチャー付きの“ガルム”と、直剣であるISブレードを手持ちと予備として2本だけだった。

「装備はこれでよしっ、と。コンビネーションはどうやっても向こうの方が上だから、どこまでやれることやら」

「……山田先生との戦いだけじゃ未知数。まだ何か隠し球があると思う」

「だろうね」

 高い練度のコンビネーションとなると前世のキラ、アスランの二人がすぐに出てくる。敵から見てもあの二人の動きは見事だった。資料映像として戦後回収されたジャスティスのフライトレコーダー(核自爆やジェネシスの崩壊に巻き込まれても尚、無事だった)をマコトはアカデミーで見たことがあったが、異様なまでの連携はもはやテレパシーでも使っているのではというレベルであった。

 あれほどの連携はしてこない…とは思いたかったが、マコトは気を引き締める。

「ねぇ、マコトさん」

「ん?どうしたの簪さん——」

 マコトを呼んだ簪が、マコトの手を握る。ISはまだ未展開だが、ISスーツ越しだ。体温は伝わってこないが、簪のマコトを見る瞳からその熱さは伝わった。マコトは手を握られ、どうすればいいのかわからなかった。それを言いことに、簪は畳み掛ける。

「この戦いに勝てたら……私のこと、呼び捨てで呼んでほしい」

 精一杯の勇気で頬を染めながら、簪はそんなお願いをマコトにした。マコトは思わず可愛らしい簪の様子にむせそうになる。けれども、友人のお願いをそのまま無視することはできないため、なんとか簪に向き直って答える。

「えっと……別にいいけど、前もポロッと呼び捨てしちゃってたこともなかったっけ」

「そうだけど。日常的に」

「…それなら別に、今からでも」

「ダメ」

 上目遣いで静止されたマコトはくらりときた。今まで知っている女性相手では感じたことのなかった新しい感覚に、マコトは目眩がしそうだった。こんなに、簪さんは可愛いんだ、と心は跳ねていた。

「勝ったら、お願い」

「……わ、わかった。そしたら、あたしのことも呼び捨てにしてね」

「……いいの?」

「片っぽだけじゃ、なんか対等な関係じゃないでしょ」

 あくまで友人としての感覚でマコトは言ったが、それが更なる深みにハマることだと気がつかない。そして、もう一人の女性にもっとアプローチを激しくさせる起爆剤だということもわからない。

 レイラがいればマコトの行動はまさに、地雷原の中で跳ね飛ぶような行為だと指摘していただろう。

 そんなこともつゆ知らず、マコトのその言葉は発せられて、簪の顔を笑顔に染めさせた。裸で抱き合ったり、押し倒したりしているのに、なんともプラトニックな願いに簪は嬉しさで弾けそうになった。今なら、素手の打鉄でも戦えそう、そんな風に舞い上がってしまいそうだ。

「約束、だよ?」

「わかった。じゃ、そろそろいこっこ」

「うん」

 手を離して、簪は展開し、マコトは待機している打鉄に乗り込む。既にピットの出口からは歓声が聞こえてきており、二人がISに乗り込んだ時には打鉄のレーダーが相手となる機体を捉えていた。

——IFF識別 カナダ空軍 機種 フリカアトラ 数2

 コメット姉妹の駆る機体は既に二人を待っている。

「先にいくね、簪さん」

「わかった。すぐに私も行く」

「おっけ」

 マコトが先にカタパルトに乗る。練習のたびに乗ってはいるが、この世界における“実戦”でのカタパルト使用はまだ数えるほどでしかない。

『カタパルト接続。進路クリア、打鉄、飛鳥機、発進どうぞ!』

「飛鳥マコト、打鉄、いきます!」

 脳内でスロットルを上げ、マコトはカタパルトとスラスターの勢いに機体を乗せて出撃する。

 マコトが出れば次は簪だ。

『続けて、更識機、どうぞ!』

「打鉄丙、いきます…!」

 背部のユニットをブーストさせながら、マコトよりも簪は素早く飛び出した。ピットから出れば控えめな歓声…に混じって聞き慣れた応援が届く。姉の声だった。

「簪ちゃーん!頑張ってー!」

 ちらりと声をする方を一瞥すれば、妙な内輪を持って楯無が彼女の側近である虚を連れて観客席にいる。あまり周囲の歓声がないせいか非常に目立っており、彼女の周囲にいる生徒たちが若干引いている。

 簪は見なかったことにして、マコトの隣に並んだ。

「すごいね、楯無さん」

「言わないで」

 さっそくマコトにそんなことを言われたが、簪は即座に見なかったことにしろと言外に言った。苦笑いしながら、マコトはだろうなぁと思いつつ、対戦あいてへと意識を改めた。

 以前にも見た、オレンジと菫色のフリカアトラを纏うコメット姉妹はどこかアイドルのステージ衣装を思わせるISスーツを纏って、二人の前にいる。

「……私たちが言うことは一つだけよ、飛鳥マコト」

 ファニールがマコトを射抜くように睨んで、言う。声音はアリーナの外で話した時よりも更に低い。殺気に近いものも含まれており、マコトは意識を切り替える。競技ではなく、これまでこの世界でもあった“本当の戦い”の意識に。

「私たちは勝つ。私たちはアイドル、どこでも輝く“一等星”」

「だから、刻み込むね、あなたたちにも、私たちの輝き」

「一生忘れられなくさせてあげる。あんたたちにも、この観衆にも」

 コメット姉妹二人の言葉に、簪は気圧される。凄まじい覚悟を感じさせる言葉だった。どこか、なぁなぁで日本代表候補生を任されている簪にとって、異国の代表候補生との戦闘はこれが初めてだった。

 ファニールと、オニールにマコトたちは返す言葉がない。だが、その覚悟に対して返せるのは——力だった。

 ブザーが試合開始の合図を告げる。先手は当然のようにコメット姉妹だった。

「いくわよ!」

「いくよ!」

 重なる声に合わせ、ファニールとオニールが弾かれたように二手に分かれる。真耶との戦いでも見せた初動だった。これに対し、マコトたちも二手に分かれる。ファニールにはマコトが、オニールには簪が。マコトたちにとっての理想的な戦場は「コメット姉妹にコンビネーションをさせない」ものだった。

「向かってきた!?」

「いくよ!ファニールさん!」

「生意気!」

 ブレードを右手に展開したマコトはファニールに斬りかかる。だが、ファニールは早々に奥手の一つを披露する。マコトの機動を捉えている“オニールの視界”がファニールの脳裏に流れ、彼女は完全にマコトを見切る。ぶつかり合う直前に振られたマコトのブレードによる突き出しをギリギリで回避したファニールは速度を殺さず、そのままマコトの背後をとった。

「疾——!?」

「あんたが遅いのよ!」

 続け様に、マコトの背を思い切り叩きつけてファニールは瞬時加速なしに急速加速した。彼女が向かう先には簪がいる。

「お姉ちゃん!」

「オニール!」

 ビーム・ライフルを構え、オニールを撃とうとした簪に届く接近警報。マコトが容易く抜かれたことが簪には想定外で、彼女は咄嗟に上昇し、ファニールの頭上を瞬時加速で抜け、マコトに合流しようと考えたが、それは上昇をした段階で阻まれる。

 ファニールの視界がオニールに共有され、簪の打鉄がスラスターを噴射しようとした瞬間にオニールが簪の頭めがけて発砲した。

「くっ!?」

 僅かに噴射し、オニールの射撃は簪の打鉄の脚部に直撃する。衝撃でバランスを崩した簪は更に後方からのファニールによるミサイルに被弾した。

「簪さん!!」

 体勢を立て直し、マコトが見たものは簪が前後からの攻撃で爆炎に包まれた瞬間だった。僅かな時間でも巴戦になってくれれば、と思ったマコトたちの初動は見事に失敗し、この結果となってしまった。

「どうよ!これで…ッ!?」

 背後からのミサイルはかなりの痛手となったはずだ、とファニールは言葉による牽制をマコトに行おうとしたが、爆炎から飛び出した二本のビームがそれを遮る。それを確認したマコトは瞬時加速でファニールに切り掛かったが、またしてもひらりと躱される。初動はオニールに読まれているためだ。

「今のも避けられた…!」

「素人の攻撃に当たると思ってんの!?」

 爆炎が晴れ、僅かな煤に体と機体を汚した簪がファニールにいくらかのビームを連射しながら接近してくる。マコトは変わって、今度はライフルを装備の上、オニールへと加速する。

「分断しようってわけ?いい度胸じゃない!」

「少しでも勝てる可能性に賭けるなら……!」

「舐めんな!」

 マコトのことを視界に入れつつ、ファニールは突っ込んでくる簪に向かって今度はアサルトナイフをライフルに代わって右手に展開する。フリカアトラの特徴でもある4基のアンロックユニットに内蔵されたスラスターによる瞬時加速はまさに彗星のような速さで簪に飛び込んできた。

「げいげ——」

「間に合うもんか!」

「ぐっ!?」

 直撃。ナイフの切先は見事なまでに雷切の銃口を捉え、砕くように破壊した。その勢いのままファニールは簪の心臓めがけてナイフをぶつけ、絶対防御が最大出力で展開する。しまった、と簪は思った時にはエネルギーが5割も一気に削れていた。急所への一撃はあまりにも重すぎた。

 一撃を受けた簪はそのまま突き飛ばされ、地面へと落下する。絶対防御によって刃が届くことはなく、かつ衝撃も緩和されるがそれでも胸への攻撃は確かなダメージを簪に与えている。苦しさを噛みしめながら簪は宙返りし、スラスターを噴かしてなんとか墜落を免れる。

 ファニールは手を休めず、簪に向かってアサルトライフルを掃射してくる。上を取られたことで簪はかなりの不利を背負う。マコトに視線を向けると、マコトにはオニールが格闘戦を挑んでいた。相手は一切言葉を交わしていないにもかかわらず、気がつけば逆に簪たちが分断させられていた。

 だからといって諦めるわけにはいかないと簪はビーム・キャノンによる対空射撃を開始した。

「そこをどいて!」

「どかないよ!」

 マコトは簪が落とされたことで合流しようとしたが、オニールが突然射撃戦から格闘戦へと動きを変えてきたせいで、この場に釘付けにされてしまっていた。オニールが手に持つのはファニールのようなアサルトナイフと違う、二振りの刀であった。カナダの機体であるにも関わらず装備されたその刀をオニールは手慣れた様子で振るっている。

「つくづく、あたしは剣士に縁がある…!」

 よく知らないとはいえ、ファニールに比べ控えめなオニールの印象とは真逆の、果敢な二刀による攻めはマコトの周りにいる剣士たちの気迫にも負けない勢いがある。

「たぁっ!」

 飛びながら交差するたびにぶつけられる鋭い太刀筋は全てがその先にマコトの急所がある。オニールの表情は必死そのものだ。

「なんとか合流しないといけないのにっ」

「させないよっ、お姉ちゃんのステージが終わるまでは!」

 アリーナ内を周回するかのように、マコトをアリーナの中心側にしてオニールは何度もマコトに刃を振るう。いつでも弾いていけるはずだとマコトは思うが、少しでも離れようとすればドッグファイトになる。そうなれば、機動力に劣る打鉄はフリカアトラを振り切ることなどできない。つまり、振り出しに戻ってしまう。

 合流させず、連携させず、もしくは乱戦に持ち込んで、というのがマコトたちの作戦だったが、それを利用されて逆に分断されてしまったのだ。

「ええい!」

「このぉ!」

 マコトとオニール、互いに剣を振り、刃がぶつかり、拮抗する。ぎしぎしと音を立てながら、二人は視線を交わす。

「ファニールさんのこと、あなたは好きなんだね!」

「そうだよ!お姉ちゃんはアイドルだから!」

「あなたも、そうでしょ!?」

「私はお姉ちゃんが輝いていればいいの!だから、お姉ちゃんと一緒に踊って、歌って、お姉ちゃんのことを支えるの!そのためにっ」

 ガチャン、とオニールのフリカアトラに搭載された非固定ユニット前面二基のミサイルランチャーの口が開いた。まずい、とマコトは咄嗟にオニールを蹴り飛ばそうとするが、それよりも早く、オニールがスラスターの推力を使ってマコトを弾いた。

「あなたを倒すの!」

「このっ…!」

 放たれるミサイル。マコトは回避は不可能と判断し、ある程度のダメージは受け入れて耐ショック姿勢をとった。ミサイルは直撃し、バリアと絶対防御が作動。2割近くのシールドエネルギーが削られた。

「これでぇ!」

 観衆が、特に観客席にいる2組の生徒たちが大きく沸く。爆炎から飛び出したマコトにオニールが迫っていた。その速さは先ほどのファニールが見せたものと全く同じで、打鉄では回避できない。

 しかし、マコトとてこの程度では終わらない。今この場にいる少女たちの誰よりも戦いの経験があるマコトは諦めない。

 ガルムを呼び出したマコトは向かってくるオニールに銃口を向け、グレネードランチャーの引き金を引いた。ボシュっと音を立てて放たれた弾頭は射出されてすぐに爆発した。中身はサイレント・ゼフィルスの時のような煙幕だった。

 張られた煙幕に、オニールは面食らってわずかに速度を緩める…ことはなく、ほんの少し軌道を修正して煙幕に突っ込む。なぜならば、彼女には煙幕の向こう側が見えているのだから。

 煙幕を突き破り、果たして、そこにマコトはいた。彼女の回避運動は無為と化して。

「そんな!?」

「やぁっ!」

 咄嗟にマコトは非固定ユニットのシールドを防御に回し、オニールの右手に持たれた刀の一撃は防いだが、あろうことかオニールはそのままマコトの眼前で非固定ユニット4基を使って強引に横回転して非固定ユニットをもぎ取りながら、左手に握られた刀をマコトに振り下ろした。

 回避はできるはずもなく、マコトは刃をもろに受けた。

「きゃあっ!?」

 両腕でガードするも、エネルギーは相応に削られる。まさか接近戦でこうも負けるとはマコトは思っておらず、熱くなりそうになる。だが、彼女は一人で戦っているわけではない。

「予想以上に…!簪さんは!?」

 ガルムでオニールを牽制し、どうにかこれ以上の接近戦は避けるマコトは簪に目を向ける。簪はファニールによって低高度に釘付けにされており、対空戦を強いられていた。射撃戦の得意な簪は見事にファニールの接近こそ防いでいるが、ファニールには攻撃があたらず、簪にはファニールからの弾幕を浴びせられている。

「このままじゃ…!」

「逃さない!」

 オニールが両手に拳銃を呼び出し、フリカアトラの加速力に物を言わせて突撃してくる。マコトはそっちがその気なら、と臆することなくブレードを左手に、オニールへと合わせて突撃した。

「逃げない!?」

「このぉぉっ!」

 マコトの突撃により交差は一瞬、結果はオニールの両手に握られた拳銃が破壊された。小爆発を起こしたことでオニールは衝撃を受け、マコトから目を離す。ファニールはオニールからの視界が途絶えたことを悟って、簪への掃射を止め、大きくマコトら外れてオニールに合流する。

 これにより、マコトも簪と合流し、陣形は振り出しに戻った。しかし、有効なダメージをマコトがは入れられず、逆に簪はかなりの痛手を受けている。残りエネルギーは4割、無茶な機動もできなければ、これ以上のビームによる攻撃はある程度出力を絞り、節約して撃つ必要がある。

「簪さん、ごめん、あたしの作戦が」

「大丈夫。マコトさんのせいじゃない。正直、ここまでとは思ってなかった」

「悔しいけど、そうだね。あの子たち、強い…!」

 二人の前に立ちはだかるコメット姉妹は笑顔だった。しかし、それは好戦的なものではなく、ステージの上で輝くアイドルとしてのもの。決して、個々の技量は負けていない、マコトも個人的なスキルは完全に上だとわかっているが、相手のまるでこちらの動きを見ているような動きに翻弄されている。

 何かカラクリがある。マコトはそう考えた。真耶との一戦を彼女は思い返す。特に、ついさっきマコトは同じ手を使った。煙幕による視界の制限。それに対し、オニールはどう動いたのか。

「(あのときは山田先生にやられてたけど、さっきは躊躇わず突っ込んできた。けど、あの速さじゃ、ファニールさんからの通信なんて入ってこない。なのに、正確に煙幕の向こう側のあたしに向かってきた)」

 見えていないはずなのに見えている。それを伝えられずに。そう思えばすぐにマコトはその可能性に思い至る。

「(まさか……二人は視覚を共有しているの…?)」

 そうでなければ、説明できない動きがこれまで行われていた。真耶の時も、防げないはずの攻撃を防いでいた。まるで次にそうくると判断して。双子の第六感にしてはあまりにも強すぎる。

「マコトさん?」

「簪さん、作戦変更。絶対に、二人を分断しちゃダメだ」

「え?でもそれじゃあ」

「じゃないと、やられる」

 簪の前にマコトは回って、ライフルとブレードを構える。その様子にファニールは今度こそ光線的な笑みを向けた。

「へぇ、気がついたんだ」

「みたいだね」

「……やるわよ、オニール。一気にケリをつけるわ」

「うん、わかった」

 手品の一つがバレた、となればファニールはもう一つの奥の手を切ることにした。

「簪さん、援護お願い!あたしがなんとかしてみる!」

「ごめんなさい…!マコトさんに負担を」

「ううん!大丈夫!隙を作ってみるから、そこをお願い!」

「了解!」

 マコトは簪を砲台に自らを囮にすることにした。不利な戦いは慣れっこだ。マコトが加速をかけ、コメット姉妹へと突撃する。だが、相手はその場から動かず、目を閉じた。なんのマネだとマコトは思ったが止まらない。何かをする気なのはわかったが、簪が動けない以上、退くことはできない。

『システム起動」

 ファニールとオニールの声が重なり、フリカアトラに搭載された“システム”が起動する。ただしそれは——二人の知る“システム”ではなかった。

 

——Standard Yggdrasil system standby

 

「え」

 本来起動すべきであった、衛星からの視界とリンクし戦場を支配する“グローバル・システム”とは別のシステムが起動する。ファニールがおかしい、と思った時にはもう遅かった。

 “ソレ”は、オニールを選んだ。

 隣にいたオニールの様子が急変する。僅かな新緑色のオーラが迸ったかと思えば、同期していたオニール機のエネルギー計などのリンクがファニールの視界から消え去り、見えていたはずのオニールの視界が見えなくなる。

 そして、瞳から光が消え失せ、涙を流したオニールが「たす、けて」と呟いた瞬間、ファニールはオニールに異常な脚力で蹴り飛ばされた。悲鳴もあげられず、そのままファニールは弾丸のようにアリーナの地面に墜落した。

 突撃していたマコトは理解不能な事態に思わず急停止する。急停止した瞬間にはコニールが目の前にいなかった。

 どこに、と背後に目を向ければ、簪の腹部にオニールの拳がめり込んでいた。そのまま簪はアリーナの観客席のバリアまで飛ばされ、バリアに激突すると気を失って堕ちていった。

「あ、ああ、な、なんで、どうして」

「————」

「どうして、ファニールさんも、それに、あんな、力」

 オニールは答えない。否、答えられない。マコトは困惑したまま、簪と同じく一瞬で詰め寄られたオニールによって殴られ、吹っ飛ばされた。刹那、背中に大きな衝撃。意識が朦朧とする。それでも気絶しないのはマコトの確かな精神力のおかげだった。

 頭がおかしいと、何かが起こったとマコトは思うも、何もわからない。

 それでも、状況は動く。オニールの右手に刀が再び装備され、その切先は簪に向けられた。何をするのか、すぐにわかった。

「ま、って、そんな、力じゃ」

 朦朧とする意識で、マコトは手を伸ばす。明らかにISの限界を超えた力で、空中からの勢いをつけて刀を突き出されたらどうなるのか、マコトはわかる。簪が、死ぬ。

——いやぁぁぁぁっ!

 マコトの中に、かつて救えなかった少女の悲鳴が響き渡った。

「あ、ああ、あっ、ぅ、やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」

 朦朧とした意識がクリアになる。思考が加速する。それは、マコトに、否、シン・アスカに与えられた人類の次のステージへ上がるための種。芽吹かなくてはならない種を弾かせ、一時的に力を得るそれは、この世界でレイラが、束が危惧した————シン・アスカの、黄泉の国からの帰還であった。

 打鉄が乗り手を“人類”ではないと機械的に判断し、設けられたリミッターを解除する。限定的な“真なる回帰”を迎えた機体が、名を持たないインフィニット・ストラトスへと戻り、一息にオニールに体当たりした。

「——!?」

「うあああああっ!」

 勢いのままにマコトは観客声のバリアにオニール、を乗っ取った何かを叩きつける。全身を打ち付けられたはずのオニールは一切動じることなく、マコトのことを蹴り付けて弾いた。視線がマコトを射抜く。ターゲットはマコトへと移ったようだった。

「簪はやらせない、討たせない。だから、あたしは——あなたを討つ」

 ブレードを両手に、マコトは曇りなき瞳をオニールへと向ける。

 怒れる瞳と、醜悪な可能性に囚われた少女の死闘が今、始まった。

 

 

 

 お姉ちゃんは、ファニールは私にとって星のような人。唯一の家族で、私のことをたくさん好きでいてくれる人。そんな彼女がアイドルに憧れて、そうなりたいと願った。きっと、アイドルになったお姉ちゃんはもっとキラキラできると思った。あの、雑誌に載っていた、私たちしか憶えていないキララのように。

 だから、支えてあげたい。苦手な仕事も、難しいことも、一緒にこなして、お姉ちゃんとあの一等星みたいになれたら、それはきっとすっごく嬉しいと思った。

 

 

 なのに、なんで、私はお姉ちゃんを蹴落として、一人で戦っているんだろう。

 




マコトがなんか弱く見えますが、今回の試合はマコトはプロトジン(ジンの訓練機)でエールダガーに挑んでいるような状態です。加えて、あくまでマコトは千冬や箒とかのような超人ではないのでこうなってしまいます。黒騎士に乗った場合は別ですが。

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