IS -可能性の宇宙へ-   作:ババネロ

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#phase-33「つなぎとめるもの」

 セシリアがマコトたちのいるアリーナに到着したのはちょうど、暴走したオニールとマコトが向き合っている場面だった。観客席に入るなり歓声はなく妙に騒ついていることに気がついて、セシリアは何が起きたのかと周囲を見渡せば、ちょうど1組の生徒たちが纏まっている座席を発見し、その中にさやかたちがいることに気がついた。

「さやかさん!」

「あ!セシリアさん!」

 試合があったはずのセシリアがISスーツに学園指定のジャージを上に羽織った状態で現れたことにさやかたち1組の生徒たちは驚いたようだった。セシリアは素早くさやかたちに近づいて状況を聞く。

「さやかさん、この会場の様相はどうされたのですか?試合というには妙な困惑を感じますが」

「急にコメット姉妹の妹さんのほうが姉のほうをフレンドリーファイアして、さらに簪さんを殴って気絶させちゃったんだよね」

「……どういうことですの……?」

 さやかの説明を受けて、セシリアは再度アリーナの中を見る。ISバトルにしては異様に殺気だっている。先ほどまでの一夏たちとの戦いは死闘でこそあったが、あくまで競技の延長線上でのものだった。試合結果にケチがついて、おまけにセシリアのブルー・ティアーズもどういうわけか試合後から動作が重く、二回戦以降は使用できるか怪しい。

 そこまでの戦いでも、ここまで濃密な殺気はなかった。特に、マコトを見たセシリアは思わず後退りしそうになる。ステラドレスへの覚醒と同時に、セシリア自体も持っていた才覚を目覚めさせた影響か、マコトの今の“感情”がダイレクトに流れ込んできた。

「うっ…!だ、ダメですわ、マコトさん!そんな、そんな気持ちで戦っては!」

「え!?せ、セシリアさん!?どうしたの!?」

「それは、それはいけません!あなたは、あなたは自分も相手も殺してしまう!」

「こ、殺してって!?」

 強烈なまでの怒り。それがマコトから受け取られるものだった。対極的に、オニールから何も感じられない。まるで、機械のような印象さえ受ける。セシリアは初めて感じる人の意思に、体が震え出す。

「なんですの、この、人の気持ちが、私の中に、入って……!」

「セシリアさん!とにかく座って!相沢さん、席あけよ!?」

「わかった!」

 1組の生徒の一人である鷹月静寐がさやかにそう言って席を開けさせると、さやかは無理やりにでもセシリアを座らせる。セシリアの顔は真っ青だった。

 震えているセシリアは明らかにおかしい。さやかも静寐も、他の1組生徒たちも全員が同じ気持ちで、アリーナにいる救護班を呼び出そうと思っていたが、そんな彼女らの前に上級生二人が気がつけば立っていた。

「君たちは1年1組の生徒かな?」

「えっ…!?せ、生徒会長!?」

 緊急事態、と書かれた扇子で口元を隠した楯無が虚を隣に現れた。セシリアも顔を上げ、友人にそっくりな楯無を見る。目元を見る前に、彼女からも強い怒気を直接心に感じて、苦しくなる。直接見てはいないが簪が堕とされた、しかもISを纏った上で気絶するほどの攻撃を受けて。最悪の場合、命にも関わる状況だ。

 もしレイラがそうなってしまえばセシリアも同じ気持ちを抱くため、理解できる。

「簪さんの、お姉さまですわね」

「えぇ、オルコットさん。いつも簪ちゃんと仲良くしてくれてありがとう。……今はそれ言ってる場合じゃないけれどね」

 楯無はちらりとアリーナ内を見る。フレンドリーファイアという前代未聞のことがあったとはいえ、試合が止まっていない。ということはアリーナのジャッジに届いている墜落した二人のバイタルは危篤というわけではないのだろう。簪もファニールも判定上は僅かだがエネルギーが残っており、試合中止とはいかない。いかないが、気絶した二人を一度ピットに戻すために中断させる必要がある。だというのに、それがされていない。

「みんな、見ていたと思うけれどこの状況は明らかに異常よ。これから私は会長権限でアリーナのジャッジに一時中断を申し入れるのだけれど、力を貸して欲しいの」

 アリーナの中央管制室…ジャッジ係がいるところで何かが起きている。楯無は嫌な予感がしてしょうがなかった。校内にいる生徒会役員たち、つまりは更識家の工作員たちにこのアリーナの管制室へ連絡をさせたが一切反応がなかったことで、余計に疑惑が増す。

 進入を許したのか、それとも最初から入り込まれていたのか。

「(いいようにやられ過ぎてる。篠ノ之博士や亡国のあの二人、織斑先生や理事長…そして私たち更識。ここまでカードを揃えてもまるで壁になってない。蜘蛛みたいに気がつけば忍び込まれて巣が張られてる…!)」

 ネストとはよく言ったものだと楯無は思った。

「力を貸す、とはどうすれば、よいのですか?」

 セシリアの問いかけに楯無は答えた。

「このまま、普段通りに観戦し続けて。その間に私がなんとかするから」

「なんとかって」

「相沢さんだったかしら?マコトちゃんのお友達の」

「な、なんで知って」

「生徒会長だからよ。お願いね。コメット姉妹のためにも、いいわね?」

 さやかは楯無の意図がなんとなくだが理解できた。直感的な彼女だからこそだろうか。この生徒会長はこの異常事態を“何もなかった”ことにするつもりだということを。セシリアも同じく楯無の意図を理解する。

「……わかりましたわ。皆様、そうしましょう」

「みんな、このまま応援を続けよう」

 セシリアとさやかの言葉に1組の生徒たちは顔を見合わせ、頷く。楯無はそれを確認すると扇子を閉じて、笑顔を見せる。1年1組。仕組まれたとはいえ、まっすぐな生徒たちが揃えられたこのクラスは聞き分けが良くて非常に助かった。

「(2組はあの二人のファンだから扱いづらいから、簪ちゃんたちが相手になったのは不幸中の幸い……って、こんなこと、考える自分が嫌になる)」

 更識楯無としての冷徹な思考と、更識刀奈としての想いがぶつかって彼女は嫌になる。

「お嬢様」

「えぇ、いきましょう。ついにご対面、かもしれないから」

 なんであれ、“敵”がここにいる可能性が高い。であれば、なんとしてでも捕らえて情報を吐かせる必要がある。楯無は最後に、マコトへ視線を向け彼女の健闘と、簪を守ってほしいという願いを送り、アリーナの管制室に向かうのだった。

 

 

 

 楯無が移動し始めた瞬間、戦闘は再開された。オニールはブレードを展開した状態で急加速する。フリカアトラの優れた加速力は何かによって強制的にリミッターを解除された影響で飛躍的に向上している。

 亜音速飛行でマコトへとオニールは襲いかかるが、マコトは振り下ろされた一閃を打鉄では不可能な後退速度で回避する。デスティニーでよく行っていた回避機動だった。

「はぁぁっ!」

 後退の直後に、今度は全速力での突撃。強烈な速さで後退と前進を行われ、振り下ろした体勢を戻そうとしているオニールは回避できず、マコトの手にあるブレードの直撃を受けた。バリアが正確に発動し、オニールの頭部に当たったことで絶対防御が起動するも、その出力はインフィニット・ストラトスとしての最高のもの。オニールには傷一つ付かない。

「おおおおっ!」

 それがわかっても、マコトは動きを止めない。斬れないなら、叩き潰す。反撃も許さぬほどのラッシュをマコトは仕掛ける。リミッターの外れた打鉄の速度に任せて、オニールを削り取るように何度も四方から切りつける。観客席から見れば、マコトが分身したのかと見紛うほどの速さだ。

 だというのに、オニールはこれを刀で全ていなしてくる。

 埒が明かない、とマコトは今度は重い一撃を加えるべく、大上段にブレードを振り上げる。すると、受け身に回っていたオニールが急激に動きを変える。力任せとはいえ、確かな技量と速さで振り下ろされたマコトの一撃をオニールはスッと回避し、マコトの背後をとる。そのまま、下段からマコトの背骨を縦に切り裂くように刀を振り抜く。バリアに阻まれたがオニールのカウンターは確かにマコトに届いた。

「ぐあっ!?」

 強烈な一撃であった。またしても意識が飛びそうになるが、どうにかこらえてマコトはオニールへと振り向くが、オニールはそこから何もしてこない。追撃をすれば確実にマコトに痛手を負わせられただろうに。

 加減されている——そんなことが過った瞬間、またしてもマコトの怒りが爆発した。

「……バリアがなかったら、今ので終わりだった、って……そう言いたいの?あなたはッ!!」

 怒りのままに、急加速。初めてオニールのような何かが目を見開いた。

「——対象の脅威度を上方修正——」

「ふざけるなぁぁぁっ!」

 更に増した速度の一撃は回避できず、オニールは持っていた刀を頭上に突如投げ飛ばすと、振り下ろされたマコトのブレードを白羽取りしてみせる。この光景はまさしくマコトが、シンがオーブでキラにされた防御そのものだった。

「そんなっ!?」

「——対象を革新者と認定 評価開始——」

「なにを——っ!?」

 取られたブレードが、オニールに握り潰される。マコトは即座にブレードから手を離し、ガルムを呼び出して牽制しつつ後退する。3点バーストにモードを切り替えて連射するが、、オニールは最低限の回避で突撃をかけ、機体が前を向いたことでミサイルを全弾発射してくる。

「ミサイルぐらいでっ!あたしが!」

 追尾してくるミサイルに、マコトは急降下する。追尾性能も向上したミサイルはマコトを正確に追うが、それは仇となる。地面すれすれで急制動と瞬時加速を行うことで直角に低空飛行へと移ったマコトをミサイルは追いきれずほとんどが地面に着弾する。

 残ったミサイルはマコトがガルムで撃ち落とす。

 その様子を見ていた1組の生徒たちはようやく応援を再開した。

「マコト!頑張れ!」

「マコトさん!負けないでくださいまし!」

「飛鳥さん!がんばれー!」

 困惑の支配していた会場内に響いた1組の応援はたちまち、観衆たちを元に戻らせる。試合は続行され、こうしてマコトが必死に戦っている姿を見ていれば、応援したくなるのは筋だった。

 さやかやセシリアの声が届いたことで、マコトは急激に怒りが冷めていく。冷や水を浴びせられた。そんな感覚だった。

「はっ、はぁっ、はっ、あ、あたし、なにを…!」

 弾けた種は再びマコトの中へと埋め戻され、マコトは状況を再確認する。

「簪さんが堕とされて、あたし、ベルリンの時を思い出して…それで」

 オニールを本気で殺そうとしていたという事実がマコトの心を氷づけにする。しかし、それでもマコトは呆然と立ち尽くすことにはならない。苦しく、怖いが、それでもまだこの戦闘は収まっていない。マコトが友人たちの声で戻ってこれたとしても、オニールはまだ、何かに囚われている。

「さっきの、切り結んだ時の言葉…オニールさんじゃない“何か”の言葉だった」

 対象の脅威度、それにこちらからアクションをすれば変わるターゲッティング。異常な高性能化。少し考えればマコトは思い当たるものがすぐに出てきた。

「…これって、サイレント・ゼフィルスと同じ…?」

 あの時と違うのは操っているのが機械か生身の人間かであったが、動きがあまりにも似通っていた。だとすれば、今のオニールのフリカアトラはインフィニット・ストラトスとしての性能を発揮している。マコトの打鉄もSEEDにより一時的に同等の性能となったが、彼女が正気を取り戻したことで元に戻っている。

「さっきまでのあたしの動きも同じだったけど、元に戻ってるし…どうしよう」

 今のフリカアトラと打鉄では性能差がありすぎるうえ、圧倒的な力に対して、ISの打鉄ではバリアが正常に作動するか怪しい。ファニールや簪の様子からして少なからず絶対防御を貫通しているのは間違いない。

 倒れ伏している簪をちらりと見れば、幸いにして内臓などに損傷を受けたわけではないのか血反吐を吐いたりしている様子も見受けられず、衝突の衝撃で気絶したようだった。それでも、勿論安心はできないが。

「けど、退けないよね」

 マコトはそんなことは構わずオニールへと銃口を向ける。結局、マコトの戦いは前世でも今世でも変わらない。圧倒的不利な状況を覆す。それをいつも求められてきた。

「あたしはあたし、でも、シン・アスカとしての戦いは捨てられない。力がなくちゃ、強くなくっちゃ、あたしは“ヒーローごっこ”を続けられないから」

 性能差があろうと、なんであろうとそれらは退く理由にならない。もしオニールを囚えているものがサイレント・ゼフィルスと同じ人形であるならば、観客にも被害が及ぶ可能性がある。

「いくよ!」

 マコトは臆することなくオニールへと挑みかかる。ガルムを単射モードにし、牽制しつつ加速する。オニールは高く投げていたブレードをキャッチし、一瞬でマコトに詰め寄ってくる。逆手に持ち替え、マコトの腰を断ち切ろうとしていると判断し、マコトは急制動の上、、まるで曲芸のように刃に沿ってくるりと前転する。たとえリミッターがかかっても打鉄の操作性の良さは変わらない。

「ごめんねっ!」

 続け様にブレードを左手に呼び出し、マコトはフリカアトラの背部左翼にある非固定ユニットのミサイルサイロに刃を突き立てる。思った通り、そこはバリアが弱いのか、大きな抵抗を受けながらもブレードが突き刺さる。

 ブレードを抜き、瞬時加速で離れると破損した部分が大きく爆発する。オニールは吹き飛ばされ、スラスターユニットを一つ失ったフリカアトラはバランスが崩れてしまったのか、反撃のためにマコトへ迫ろうとするも体が後転してしまう。

「よしっ!扱いが難しいって、そういうことだよね!」

 ティナという初心者との模擬戦でマコトはフリカアトラの弱点を見抜いていた。スラスターユニットの制御を誤ると簡単に機体が回ってしまうのだ。こうなってしまえば高い機動力を生かした戦闘は難しくなる。

 ただし、それはオニール本人が動かしていればの話であるが。

「——機体損傷 アンロックユニット喪失 スラスター推力配分変更——」

 本来であれば専用の設備でないとできない、非固定ユニットの再配置をオニールは行い、機体が安定する。

「うそっ!?」

 安定したオニールが再度突っ込んでくる。速度は少し落ちたものの、脅威であることには変わりない。

「無茶苦茶だよ!どうしたもんか…!」

 ブレードを破壊されないよう、丁寧にマコトはオニールの攻撃を捌き続ける。この様子では学習能力も高そうで、先ほどのような攻撃を当てさせてくれそうにない。エネルギー切れを狙いたいところではあるが、アリーナの表示は正気を失う前から変わっていない。つまり、エネルギー残量が白騎士同様無限になっている可能性が高い。

「(観客席には楯無さんがいた。それなら、あの人に賭けるしかない)」

 これ以上は時間稼ぎしかできないと判断する。マコトは大切な友人の姉を信じることにした。

「気が済むまで、相手、してあげる!」

 刃を滑らせ、オニールの力を利用して彼女を弾く。観衆は状況を知らず歓声をあげていた。

 

 

 

 一方で、管制室にやってきた楯無と虚が見た光景は信じられないものであった。管制室内では試合状況がモニターされているが、それらを見ているものは誰一人としていない。ジャッジを任された生徒も、教師も、全員気を失っていた。

「外傷もありませんし、空間内に薬物やガスの反応はありません。どうやって…」

「えぇ。というか、犯人がいないって最悪ね。ここまでは一本道だったのに誰ともすれ違わなかったのよ?」

 敵の見事なまでの手際と、犯人が見当たらないことに楯無は警戒を強める。不幸中の幸いなのは、誰の人命も失われていないことだ。

「とにかく、試合を止めないと。あのオニールって子、どうにもサイレント・ゼフィルスを思い出しちゃってしょうがないわ」

「報告で聞いていた動きとよく似ています。おそらくあれも…」

「ユグドラシル、ってことね。ただ、操られてるんだろうけど、どう解放したものか」

 試合を中止したところで暴走しているにオニールを止めなくては意味がない。楯無が介入すればせっかく異常事態であることを伏せている意味がなくなってしまう。

「お嬢様、僭越ながらご提案が」

「遠慮なく言っちゃって」

「剥離剤の使用を」

 剥離剤、リムーバーと呼ばれるそれはISを強制的に解除させるものだった。一度使うとISコアが耐性を持ってしまうというものだったが、搭乗者の負傷時など緊急解除を自力できない場合に利用されているもので、当然IS学園にも厳重な封印がされているが各ピットに標準装備されている。

 これならば暴走していたとしても動きを止めることができるかもしれない。

「いい案ね。採用よ。けど、どうやってリムーバーをぶつけるの?」

「それは…」

「まぁ、マコトちゃんが頑張ってピットに押し込んで私が押し付けるしかないわね」

「危険です」

「簪ちゃんをやった時点で私には躊躇いなんてないの。簪ちゃんを救うなら私は死んでもいい。知ってるでしょ」

「………刀奈、そんなことを言うのは」

「撤回はしないわ。虚、試合の一時停止をアナウンスして、お願いよ」

 虚は主人ではなく、幼馴染みからのお願いにため息をつきながらも頷く。同じく妹を持つ姉同士。彼女の気持ちは痛いほどわかるのだ。暗部として甘さを捨てきれないのは認められざるものだが、今の二人はこの学園のただの生徒として行動した。

「観客の皆様へ、負傷者の一時退場のため試合を一時中止します。しばらくお待ちください」

 そうして、状況は整った。楯無の姿はもう管制室にはなかった。

 

 

 

「ぐっ、う、試合の一時中止!?」

 ようやくか、と思いながらマコトはオニールの攻撃を受けていたがアナウンスがあってもオニールは止まることがない。だが、ここでマコトの待ち望んだ人物がピットから飛び出してくる。

「マコトちゃん!」

「楯無さん!」

 楯無が専用機であり、一度はマコトと相対したミステリアス・レイディを纏ってアリーナ内に侵入した。観客席にはどよめきが広がるが、彼女はそれを構うことなく、いきなりマコトとオニールを搭乗機から射出した水のヴェールで拘束した。

「試合は中止よ!命令を聞きなさい!」

 マコトは楯無がなんとか場を何事もなく治めようとしていることに気がついた。楯無に目線を送ると楯無は彼女らしく余裕の表情でウィンクしてみせる。暴れるオニールだったが、マコトよりも強固に固められた水の拘束を簡単には振り切ることができない。そのまま楯無は強引に二人をピットへと引きずり込んだ。

「楯無さん!ありがとうございます!でも、この子はどうすれば!?」

「こうするのよ!」

 オニールを強引にピットの壁に押し付けて、楯無は手に白いボールのようなものが現れた。それをオニールに投げつけると、ボールが破裂し、彼女の全身を光が包んで、ISが解除される。

「あっ……」

 解除と同時にISは消え、オニールは気を失った。

「よっし!うまくいったわね!」

 今度は丁寧にオニールを床に寝かせ、彼女のネックレスとしてかけられているフリカアトラの待機形態を楯無は引きちぎる。

「虚ちゃん!いいわよ!試合はこのまま中止!ジャッジの子たち入れ替えたらB

ブロック第二試合を行わせて!」

『わかりました。念のためこちらに残りますがよろしいでしょうか?』

「もちろんよ。応援も寄越すわ。現場検証もしてちょうだい!」

『ありがとうございます』

 なんとか最悪の状況にはならず、場は収まった。マコトも拘束を解除され、一度打鉄から降りた。制服姿の楯無もミステリアス・レイディを格納すると大きく息を吐いた。

「ふぅ。なんとかなったわね。助かったわ、マコトちゃん」

「いえ、こちらこそ。楯無さんがこなかったらやられてました」

「簪ちゃんを応援に来たのが正解だったわ。やっぱり、妹は大切にするものね」

「そ、そうだ!簪さんが!」

 そう言ったところで、簪を回収した手伝いの三年生がピットまで打鉄丙型ごとやってくる。あとにはファニールも続いていた。

「簪さん!」

 マコトは当然彼女に駆け寄り、楯無以外の整備課の生徒たちが即座にリムーバーで簪とファニールのISを強制解除する。救護班として配置されている生徒たちが簪たちを見れば、生きていることは確認できた。

「すいません!簪さんは!」

「とりあえず生きてはいます。ただあれだけの衝撃を受けているのですぐに医務室のデュノア先生に診てもらいます。そちらの二人もです」

「お願いします。大切な、大切な人なんです!」

 マコトの目には自然と涙が浮かんでいた。楯無はそう簡単に簪が死ぬような体ではないとわかっているので、息があるのなら大丈夫だと一安心し、マコトの様子を微笑ましく見守った。

「(これにて一件落着…とはいかないけれど、全員無事でよかった。犯人探しに、明日はシャルロットちゃんの編入試験と…忙しくなるわね。あと、このコメットさんの妹の機体は博士に預けるしかないわね。カナダに話すのはそれから——)」

 タッグマッチはこのまま継続となるが、楯無は姿を消した敵への警戒を緩めない。

 

 “敵”との邂逅は刻一刻と迫っていた。

 




次々回ぐらいでシャルとラウラ編入から続く一連の騒動は区切りを迎えて、夏に入りたいと思います。


■真なる回帰状態での被弾について
基本的には白騎士と同様の出力や無限のエネルギーを得るため、通常のISに攻撃すると絶対防御が完全に働きません。特に、専用機がそうなってしまうと、セシリアが予感した「零落白夜に貫かれるレイラ」の通りになってしまいます。今回のオニールの暴走はあくまで量産機でのものだったので簪とファニールは運良く助かった、というだけです。
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