物語が動いているのは学園だけじゃないよというお話。
——アメリカ合衆国ネバダ州 ネリス空軍基地
その日、基地内にはけたたましく警報が鳴り響いていた。敵襲を報せるものであり、本来は試験場やアクロバット専門部隊が使用するこの基地では鳴らないものだった。そのため、基地内では慌ただしく所属員たちが動き回っており、この基地にてある機体んテストパイロットを任されていたナターシャ・ファイルスもまた、ブリーフィングを行っていた会議室から飛び出していた。
「こんなところに敵襲だなんて!」
艶やかな金髪を揺らしながら、彼女はひた走る。向かう場所は基地の滑走路だ。
『シルバー隊、滑走路に集結後、緊急発進を許可する。ファイルス少尉。長機不在のため、君が隊長代理だ。コールサインはエンジェルス1だ』
「了解!」
彼女が所属するはアメリカのIS試験小隊であり、現在アメリカが開発中の試作機のうち一機を20になりたてで任されるほどの腕利きだ。国家代表クラスの腕前と美貌・可憐さを備えたそんな彼女だが、実戦経験は——なかった。
「(初めての実戦がこんな急にくるなんて…!)」
基地内の建物から出て、彼女は身に付けていた専用機化されているISを展開する。全身を白銀の装甲が包み、背中には機械仕掛けの天使の羽のようなウィングバインダーが展開する。貴重なフルスキンと呼ばれるタイプのISで、宇宙空間での運用も考慮した現時点におけるインフィニット・ストラトスに最も近い機体。それがナターシャの専用機“銀の福音”ことシルバリオ・ゴスペルであった。
「(それに、この子を——人との戦いに使うのは…!)」
ナターシャ・ファイルスという女性は世にも珍しい、篠ノ之束の発表した初期論文からインフィニット・ストラトスを正しく外宇宙探査用としてのものだと理解し、そうなってほしいと望む。
ゆえに、人類の隣人となるISを兵器としては扱わず我が子のように可愛がっていた。周囲からは奇特と思われる人物だ。
しかし、だとしても彼女は軍人であり、実際にこうなれば戦場に出るしかない。
「ナターシャ!」
「フレラ!メリダ!いくわよ!」
「「了解!」」
滑走路には既に彼女の僚機であり、試験時はモニターを担当するフリカアトラの搭乗者二人がISを展開し待機している。銀色のフリカアトラはシルバリオ・ゴスペルの試験小隊“シルバー・エンジェルス小隊”の所属機である証だった。
「エンジェルス1よりコマンド・ポストへ、小隊は合流した」
『シルバー隊、確認した。緊急発進せよ』
「シルバー隊、了解。二人とも、いくよ!」
ナターシャが地を蹴り、一気に飛翔する。フリカアトラ二機もゴスペルに追従するため改造が施された機体のため難なく追従する。上空に上がった3機はすぐにナターシャを先頭にアロー・フォーメーションを展開した。
『敵機、南東に4。IFF反応無し。コアナンバー割り出し不可』
「こちらでも視認した。メリダ、解析できる?」
「データベースに照合できる機体はないみたい。でも、熱量からラファール・リヴァイヴかも」
「ラファール?それにしては形状が」
空域に侵入してきた所属不明機は全てで4機であり、ISであった。奇しくも敵はゴスペルと同じフルスキンで搭乗者は伺えず、どこから飛来したものなのかわからない。機体形状はどれも真っ黒で、まるで魔女の箒のような兵装を抱えた、魔法使いのようなもの。
それらは、もしここにわかるモノたち…特にこの場になく本来であれば“最後の一機”である機体の搭乗者、ロゼンタ・デュノアがいれば驚愕の上でその名を呼んだであろう。もう滅んだ亡国機業、実働部隊“モノクローム・アバター”の小隊のうち一つ“ナイト・ガーデン”の所属機【ブラック・ロータス】と。
「CPへ、これより侵入機に対し警告を行う」
『了解』
「…前方のIS群へ告げる。本空域はアメリカ空軍の管理区域である。所属、空域侵入の理由、搭乗者氏名を述べ、武装解除の上、ただちに降下せよ」
オープンチャンネルでナターシャは呼びかけるが、ブラック・ロータスからの返答はない。箒に跨り、微動だにしない相手の様子はひどく不気味で、ナターシャは嫌な汗が出る。できることならゴスペルの武装を起動したくないそんな気持ちでいっぱいだった。
『シルバー隊、威嚇射撃を許可する。それでも応じない場合は撃墜せよ』
だが、それは叶わない。もうここは戦場になっていた。
「エンジェルス、了解。エンジェルス1より各機へ、前方の所属不明機、右翼よりα1、α2と3、4と呼称する。エンジェルス2と3はα1及びα4へ威嚇射撃を。こちらは中央のものへ行う」
「エンジェルス2、了解」
「エンジェルス3、フレラ、了解!」
僚機からの返答も来て、ナターシャはゴスペルの武装から安全装置を解除する。本来であれば飛び立つ前に外すべきものであったが、彼女の想いが、そのようにさせていた。しかし、それが不幸中の幸いであった。
「っ!?敵全機から高エネルギー反応!ブレイク!ブレイク!」
ナターシャの右後方を飛んでいたエンジェルス2——メリダ・ウィッシュからの通信によりナターシャは即座にブラック・ロータスたちの正面から外れる。ウィングバインダーに搭載された多数のスラスターによる全力の瞬時加速。ISでありならインフィニット・ストラトスの加速に匹敵するそれはナターシャの命を救った。
刹那、ナターシャたちがいた場所を信じられないような出力と範囲のビームが襲った。いち早く索敵機のため反応したメリダ機は回避に成功したが、反応の遅れたフレラ・アシュフォードは19年間の短い生涯を走馬灯で見ることなく、その身を光の奔流に溶かされた。
「あぁっ!?フレラァァ!」
ナターシャの悲鳴も意味をなさない。ビームが過ぎ去った後、そこにあったのは、まるで直前までの指示を遂行使用していたフリカアトラが遅すぎるを回避をした直後に、搭乗者死亡により解除され、残された下半身が落ちていく光景だった。
『え、エンジェルス3、KIA』
「ッ!メリダ下がって!」
「あ、あぁ」
「メリダ!」
「…!ぅ、りょ、了解!」
「CPへ!これより本機は領域支配戦闘を行う!」
『CPよりエンジェルス1へ、司令部へ照会。許可されました』
「安全装置解除、周辺の遊軍機に警報。これより本機は——領域支配戦闘を開始する!」
まるでそれは悲鳴をあげるかのように、シルバリオ・ゴスペルが唸りをあげる。戦いたくはない。だが、戦わなくてはならない。それがナターシャという女性がなさなければならないこと。
「(ごめんね…ごめんね!こんなこと、君にさせなくちゃいけなくて!)」
“彼女”への謝罪は心のそこからものだった。それに対して“彼女”は機体の出力を大きく上げることで応える。ここまで愛してくれるナターシャを生きて還すために。
銀の翼が大きく開き、翼の中に格納された数多のビーム砲が光を宿す。アメリカ軍が核に代わる新たな時代の抑止力となるはずの超兵器が牙を剥く。36連装半誘導ビーム・ランチャー。白騎士の無砲身メガビーム砲を威力以外は再現することに成功した、最強の武装にして唯一の装備。
ブラック・ロータス4機はターゲットであるゴスペルが戦闘形態に入ったことを完全に認識し、全機がゴスペルへと砲身を向ける。これから為されるのがただの蹂躙撃であることも知らずに。
「すぅ…ナターシャ・ファイルス、シルバリオ・ゴスペル!交戦!」
こうして、歴史上初となる公にされたIS対ISの戦闘が開始された。
その結果は後退し、観測に回ったメリダ・ウィッシュ少尉(当時)がこのように記している。
まるであれは天使が悪魔を滅するかのような戦いだった、と。
本作の銀の福音はアメリカ単独の開発で、唯一白騎士並の性能に一部が達しているIS最強の機体です。
強さ的には
白騎士>(千冬搭乗という超えられない壁)>黒騎士>(オリジナルのインフィニット・ストラトスの壁)>ステラドレス&白夜叉=銀の福音
といった感じです。
まぁアメリカの工業力なら強引になんとかできそうだよね…。