「ハッキリ言う。お前はクビだ」
昼間の冒険者ギルド併設の酒場にて。
今日は休息日として必要物資の買い物をするからと、いつもよりだいぶ遅い時間に集合したのがつい先ほど。
昼食を頼もうとしてその前に話があるとリーダーに言われ、メニュー表を見ながら聞いたのが、この一言だった。
「……え? はい?」
流石にこれにはワイバーンステーキセットと、ミノタウロスハンバーグセットにするか悩んでいた自分も、メニュー表から顔を上げた。因みにデザートはアイススライムアイスにすると最初から決めている。
「だからお前はもう、うちに必要ないから、出て行けって言ったんだ」
「えっと、……なんで?」
自分で言うのもなんだが、結構このパーティに貢献してきた筈だ。
時には目の前の戯言をのたまった男と共に前衛で援護したり、時にはその右横に座る小柄な美少女魔術師を守る為に盾役を引き受けたり、時にはその逆隣りに座るちょっと扇情的な格好の美人盗賊が自由に動き回れるよう支援魔法を唱えたりと、他のメンバーの手が回らない所を手助けしてきた。
それが一体全体、どうして解雇宣告されるので?
「はあ? 何言ってんだ。お前がやってたことなんて大した事もない、誰にでもやれた事ばっかりだろうが」
「…………」
ほーん? そういうこと言うかー。言っちゃうかー。
「……それに、あなたに目の前でウロチョロされて、魔法が撃てなくて迷惑でした」
「ぶっちゃけ、アンタの助けは余計なお世話だったわ。別にいなくても私だけでどうにかなる事が殆どだったし?」
とは、美少女魔術師と美女盗賊の言である。
「それにな、ある意味一番迷惑してたことが他にもあるんだよ」
不機嫌さを隠す事もなく、二人に続いて男が言う。
まだあるのか。
「お前の食費が高すぎんだよ! お陰で碌な装備が整えられねえんだよ! お前がいなけりゃもうワンランク上の装備が買えてもっと活躍できた筈なんだ!」
……む。これはちょっと言い訳しにくいか。
今更何をとは思うが、流石に自分が健啖家というのには自覚がある。毎食普通の一人前では足りず、二人分三人分は当たり前のように食べるからだ。
このパーティを組んでからも、クエスト達成の打ち上げで調子に乗って五人前以上、なんて事も極稀に良くあったりする。というか今もワイバーンステーキとミノタウロスハンバーグ、少し悩んだ末に両方頼もうとしていたし、実は。
「いや、確かにそうかもしれないけど、力を発揮する為には仕方なく……」
言い訳がましい気はしなくはないが、そもそも最初のパーティ結成時にも言った筈の事でもある。
自分は食べた分だけ強くなる特性・能力を持った冒険者だと。
まあ色々条件というか制約なんかもあるが、そこは割愛。
少なくとも、十全に食事が出来なければ、この間なんとか討伐したマウンテンボアみたいなAクラス難易度の依頼は達成できやしない。
……それくらいにはこのパーティの戦力になっていると思ったんだけどな。
「兎に角、お前とは今日ここでお別れだ。この金食い虫がっ!」
「ひっど」
もう少し言い方というものがあると思うのだけど。それに追放されるとしても気になる事がある。
「パーティメンバーはどうするんだ。三人じゃ心許ないだろ? 他に当てはあるのか?」
その言葉を受けて、リーダーは不敵に笑った。個人的にはあまりカッコいいとは思えなかったが。
「実はもう既にパーティには入ってもらってんだよ。お前が知らなかっただけでな。おい、来てくれ」
男が呼ぶと、少し離れた席からこちらに向かってくる姿があった。
ガチガチの重鎧姿にいかにも堅牢そうな大盾。腰には片手用ではあるが幅広で頑丈そうな剣を帯びている。
「これがうちの新メンバーだ。もうお前なんていなくても良いのさ」
「……どうも、紹介に預かった重騎士だ」
くぐもっていて声だけでは一瞬分からなかったが、フルフェイスの兜を脱いだ姿はクールビューティーと言うに相応しい、どこか冷たくも凛々しい魅力がする女性だった。
「どうだ、良い女だろう? 能力的に問題ないし、相性もバッチリよ」
男の笑みに邪なものが混じる。ああ、そういう事か。
知らない間に加入していたとしてもまだ数日だろうに、もう手籠めにしたのか。手の早い事だ。ある意味感心すらする。
まあそれについては、他の面子に対しても同じことが言えるが。
新しく加入した彼女もそうだが、他の二人もどこか熱っぽい視線を目の前の男に向けている。
同じパーティ内で男女の関係になると不和が起きてパーティが崩壊する、なんてことは昔から言われているが、そんなものは当人たちの問題であって外野がとやかく言うべきではないとは思っていた。
この美人騎士がどういう経緯で知り合ったかは分からないが、遥かそれ以前からリーダーが美少女魔術師と美女盗賊の二人と関係を持っていたのは、前から自分も察してはいた。
よくもまあ仲違いもせずに両手に花とはよくやるものだとは思っていたが、まさか更に手を出すとまでは思っていなかった。
前々から思ってはいたが、リーダーのパーティ編成における理想は、やはりハーレムのようだ。
別に理解できない訳でもないのだ。好みの異性を侍らすことが男女ともにある種、理想の一つだというのは分からなくもない。分からなくもないが……。
「ん? 不満そうな顔だな。なんなら謝って悔い改めるっていうなら、考え直さない事もないぞ? ま、その時は……夜の世話もしてもらうがな?」
「…………………………」
最後の方は流石に人目に付く場所であり時間帯も時間帯なので声を低くしてはいたが、中々にゲスい事を言う。
そしてそれと同時に看過できない事をコイツはした。
「――
「んな!? なんで……!」
これも私特有の能力の一つである。まあ、おまけのようなものではあるが、精神作用系の術は基本的に私には通用しないのだ。
……成程成程。魅了の術を使って三人を好きなようにしていたか。であるなら、女の敵に対して情け容赦は無用。徹底抗戦と相場が決まっている。
女の敵である目の前の馬鹿が魅了の術を看過された動揺から立ち直る前に、囲っていた丸テーブルを思いっきり蹴りつける。
この時点で周りにいた客たちは安全圏まで避難する。ギルド併設の酒場なだけに客の殆どは腕に自信のある者達だ。突然の喧嘩に色めき立つ者もいるだろう。昼時の酒場であり夜ほどの人数はいないが、それでもまばらとは言えないくらいの数の人達が私達を遠目に煽り始める。
そんな中、吹き飛ばしたテーブルの衝撃に私以外の全員が吹き飛ばされるが、重騎士のみ奇襲に耐え、その場に踏みとどまった。他は完全に油断していたのに、盾役として中々練度が高い証拠である。
しかしそれをある程度予想していた私は、手に持ったままの酒場のメニューを彼女の顔面に投げつけ、僅かに怯ませる。
そしてその隙に横を通り過ぎ、自ら蹴飛ばしたテーブルを速度優先の低空で跳び越え、テーブルに押し倒された格好の元リーダーに迫る。
「うぐっ!」
彼が体勢を整える前に指輪をした左手を踏みつける。
「痛ってえええ!? その足をどけやがれこのクソ女ァ!!」
「黙れ! 男の風上にも置けない奴が!」
私は見ていた。魅了の術を見破った時、コイツの目が思わず自分の左手を見た事を。
左手の中指に付けている指輪。これが魅了の術の大本だろう。
そもそもこの男にはこういった精神作用系の術の持ち合わせはない。習得難易度が高い所為もあってコイツに限らず、使用者が少ないのだ。
それなのに魅了が使えるとすれば、何かしらの道具を使っていると考えるのが自然である。
「この指輪だな? 魅了の術が使える原因は」
「…………」
何も言い返さず目を逸らすが、態度そのものが雄弁に語っている。
この態度と先の動揺からくる油断した行動。これだけでアタリを付けるのは容易である。
この指輪は確か、いつかの遺跡探索の後の時期から付けていた筈だ。
遺跡探索などで習得した物は、ギルドには余程の希少価値や危険物でない限り提出の義務はないが、どういったものを収得したかは報告しなければならない。この指輪も、ちょっとした魔よけの効果しかないと報告していた筈だ。
「ま、経緯はどうあれ、悪用していたことに違いはないか。言い分はある? 聞くだけは聞いてやっても良いよ?」
元リーダーはしばし渋面を作り、絞り出すように言葉を放つ……が、
「くそったれ……。こうなったら……お前ら、俺を助けろ!!」
魅了の指輪にありったけの魔力を流し込み、馬鹿が叫ぶ。
精神作用系の術というのは、基本的に一人一人に時間をかけて対象に働きかけるものだ。それを無理矢理、この酒場にいる連中を相手に一瞬で言う事を聞かそうというのだ。
無理だと断言する事は出来ない。遺跡由来のものにどれだけの効果が秘められているかは未知数だからだ。
流石にこの人数を相手にするのは骨が折れる。それに既に魅了が効いていたパーティの女達はもう攻撃態勢に移っている。
だが、初めから何かしらの反撃があると警戒していた私には、届かない。
「――
背中に背負っていた大槌を素早く手に取り、何者にも拒否できない断罪の術式を質量の塊と共に、魅了の指輪に向けて振り落とす!
「
直後、術式そのものが小気味良い高音を鳴らしつつ、左手を指輪ごと叩き潰した。
「ぐぎゃあぁああああ!!」
聞くに堪えない男の悲鳴を合図に、パーティは解散と相成ったとさ。
顛末として。
その後、元パーティリーダーの男はギルドを通して国にしょっ引かれることになり、アーティファクトの悪用と婦女暴行の罪によりお縄に着いた。
他にも色々余罪があるようで、これからその事について追及されるそうだ。
私以外のパーティメンバーであり被害者の三人は、急に術が解けたショックで昏倒。それから魅了の効果が抜けきるまで、治療院で養生するらしい。その後についてはまあ、色々だろう。同じ女として早く元気になってもらいたいものである。重騎士は分からないが、他の二人については性格も治っていると良いなあ。あの態度、魅了関係なしの素であるからして。
で、私はと言うと。
「う~~ん、美味しい!」
街で買った、シャイニングアップルパイを食べながら、国道を歩いていた。
城下町などの立派な街道とは比べるまでもないが、踏み固められた道は街がまだ近い事もあり、馬車がすれ違える程に広く歩きやすい。また、国道そのものに魔よけの術式が設置されており、国道周辺であれば比較的安全で、こうやって野生の動物や魔物の出現に構える事なく歩ける。
「しかし、このアップルパイは美味しいなあ。朝一で並んだ甲斐があったね」
有名店の激レア人気商品である。
主な材料のシャイニングアップルは美味しすぎて毎年農場が魔物に狙われる程であり、収穫の時期が近くなると冒険者ギルドに長期の防衛依頼が出る。
そんな生産事情がある貴重で美味しい食材を使ったスイーツを、あの街で最後に食べるものとして選んだのは間違いなかった。大変満足である。
そう、私は今まで活動拠点にしていた街を離れる事にした。
もう少しあの街で活動しようとは思っていたが、あんな事があったので心機一転、別の街に移ろうかと思ったのだ。
……解散理由が理由だし、少なくない人数に事情も知れただろうし、微妙に居づらくなったんだよね。
なので、ほとぼりが冷めるまではあの街から離れようと思ったのだ。
まあ当面はソロでもやっていけるし、どうにでもなるだろう。なにより、
「いざ、まだ見ぬ食を求めて!」
ま、大体そういう事で。
後に、『大物喰らい』『大食い』とか言われる。
細かい設定はありそうかもしれないがまだ考えていない、残念!