FGORPG ノンケがエンジョイプレイ   作:秋の自由研究

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幕間の物語:目覚めの兆し

「――かかって来い。どうせ時間もないんだ」

 

 目の前で、ゆらりと立ち上がった少年から……表情という物が消えている事に、一番身近に居た香子は真っ先に気が付いていた。その声も、何時もより平坦で。いっそいつもより冷静なようにすら見えた。

 

「ま、マスター……」

 

 伸ばした手の先、康友は振り返りもせず、此方へと押し寄せる大量の連合ローマ兵に向けて歩き出した。カラカラ、と引き摺るバットの音が、怒号に交じって嫌にハッキリと聞こえている。

 ――香子が何よりも恐ろしかったのは、発動した、泰山解説祭だった。

 

『                    』

 

 見えない。文字が現れない。白紙のモノローグだけが、痛々しいほどに彼の今の心の内を表している。胸元にやった手をキュッと握りしめた。あそこにあるのは、残酷な真実に他ならない。

 

「――止めないと」

 

 あのまま行けば、彼は何処までも行ってしまう。それこそ、手のつけようのない場所まで。確証は無いが、頭のどこかが警鐘を鳴らしている……だが。

 

『それは駄目だ』

 

 そんな香子に、ダ・ヴィンチは即座に待ったをかけた。

 

「どうして!」

『現状で、自分達で抑え合ってる暇はない。ブーディカも、スパルタクスも、自分の相手で精一杯……敵を全員排除してからなら、未だ話も違うけど。彼を止めて居たら、私たち全員死にかねないんだよ、この状況は』

 

 あまりにも残酷な、戦場での採択。ダ・ヴィンチの言葉は何処までも非情で、そしてどこまでも正しかった。言い返す事も出来ず。そして。

 

「今こそ、僭称皇帝ネロの軍を討ち果たす時だ!」

「進め! 恐れるな! 我ら連合ローマの尖兵である!」

「すすめぇえええええ!」

 

 敵が怒号と共に襲い掛かってくる。大地を揺らす程の音も、気にしてすらいない様に見える。ただ、からくりの様にバットを振り上げて……先ず、先頭の男の頭蓋に向けて振り下ろす。鈍い音と共に、無言で一人目が大地に崩れ落ちる。

 

「――えっ?」

 

 無表情、一切の掛け声すらなく一撃で頭蓋を打ち砕いたその様子に、思わず、と言った様子で兵士が動きを止めた。その一瞬の困惑ですら、この少年には十分すぎた。

 

「げぺ」

 

 次に狙ったのは相手の首。しかしバットではなく素手で。相手の首を鷲掴みにして力づくで、へし折った……軽い、パキリという音と共に。余りにも凄惨な光景に、思わず喉奥で悲鳴を上げてしまう。

 

「こ、こいつっ……!?」

「一斉にかかれ! 急いで……!」

 

 声を上げたその一瞬で、先ず一撃。最初に声を上げた方の顔面にバットがめり込んだ。鈍い音と共に後ろに倒れる仲間。その顔を呆然と見つめる男を、前蹴りで乱暴に倒し、後ろに続く兵士達にぶつけた。

 

「ちょ、何する!」

「俺の所為じゃ……ぎ……ぇ」

 

 それを受け止め、崩れ落ちた兵士を含め二人がひと塊になった所で、容赦なく倒れ込んだ方に一撃を見舞う。ぐしゃりという音、その直後の一撃横振りが、受け止めた側に突き刺さる。

 

『強い……精神が混乱しているとは思えないぞ。どうなってるんだ。脳のリミッターでも外れたのか……?』

「――いいえ。ダ・ヴィンチ様。恐らくマスターの強さは何も変わってません」

 

 康友のスペックが変わったのか。そんな疑問を浮かべるダ・ヴィンチに対し、香子は否と口にする。自分のマスターの動きを誰よりも見てきた彼女だからこそ。それは分かる。その上で……彼女には、ある予想がついていた。

 

「恐らく、容赦が無くなったからだと」

『容赦?』

「……人の心に触れて来た身故。分かるのです。まるで感情も無く、冷徹に相手を処理するのがどれだけ恐ろしいか、というのは。痛いほど」

 

 宮中でも、そんな人間が居た。相手が感情を露わにしている時でも、自分が侮辱されている時も、まるで感情の一つも表さずに、淡々と、過ごす人間が居るのだ。それが、常人の恐怖を煽る。そして。

 

「相手が理解できない。自分の常識に当てはまらない。だから……」

『相手の不意を突ける?』

「右大臣……道長様も狂人の類が最も与し難い、と言われておりました」

 

 故に、一切の躊躇なく、相手の都合など考えず、ただ自分の都合を押し付ける戦い方をする彼は……今現状、相手の動きを完全に制していると言えた。

 

『けど、彼そう言うタイプじゃないよね』

「えぇ。恐らくは……あの宝具の影響が大きく出ているのかと」

『――人間、錯乱状態になった時に普段より凶暴性が跳ね上がって強くなる、なんて事もある。その類と考えれば、説明はつく、か』

 

 相手を錯乱させる作用だとは思われる。それが、一種プラスに働いたのだろう。

 

『しかし、相手が全く対応できていない、というのはそれに付けても不思議だけど』

「常識の外にある相手に合わせるのは、難しい物なのです。人の心も、頭も、実に複雑ですから」

『……成程。いわば、今は無防備な相手をタコ殴りにしている訳か』

 

 身も蓋もない言い方をすればそうなる。寧ろ、そうでもしなければ康友が無双をしている様に見える現状は先ず成立しない。

 それは幸運なのか……否、幸運とは到底言い難い。正気を失った暴走。それの行きつく先は? 分かりやすい、陳腐な結論だろう。しかし、少年が負う心の傷は陳腐では到底済まない。

 

「――なら」

 

 そんなあの少年に、何が出来る? 止める? その間に彼諸共殺されてしまっては元も子もないというのに? 心に寄り添う、文字を書く、そんな事が得意な自分が出来る事は?

 サーヴァントとして、出来る事は。たった一つだ。

 

「――香子は、呪に詳しくは、ありませぬ」

 

 今、必要なのは力ではない。自分が戦いに参戦した所で、出来る事はそこ迄ない。であればもっと、多くの人の心を動かすのだ。

 

「けれどけれども……心ならば!」

 

 香子が発動したのは、呪詛をばら撒く宝具……ではない。もう一つの、回復宝具。狙いはマスターではない。今必要なのは、味方だ。彼を一人で戦わせない為に。一人でも多くの味方を。

 

源氏物語・桐壷・別離

 

 結界、回復宝具。桐壺の生と愛の歌が……呻き、狂気に侵されていたローマ兵達を癒し救う。全員とまではいかずとも彼らが居れば状況は、逆転する!

 

「こ、れは……」

「俺は……一体、なにを」

『――驚いた。回復宝具とは聞いていたが、まさか精神へのダメージも回復できるのか』

「当然かと。本来和歌というものは、心に届くものです」

 

 周りのローマ兵が立ち上がったのを確認し、香子は走り出す。もう彼が戦う必要はないのだ。止めなくてはならない。此度の事が、彼にとって致命的な、心の傷になる前に。急いで。

 

「――マスター!」

 

 声が響く。

 しかし、少年は振り返らない。次の得物に向けて、バットを振り上げている。声では届かないのか。

 

『       ろぶ し      』

 

 文字がにじみ出て来た。狂気が薄れてきているのか。そう淡い期待を持った、直後。

 

『       滅ぶべし      』

 

 ゾッとした。たった一言。その言の葉から、恐ろしいほどの怨念を彼女は感じ取った。単純な言葉故に、心を穿つ。彼の言葉とは思えない程に。ダメだ。これ以上は、絶対にいけない!

 

「マスターっ!」

 

 飛びついて、押し倒そうとして……しかし力が足りない。如何にサーヴァントとはいえキャスター、フィジカルでは貧弱な香子では。

 

「……」

「もう大丈夫です! マスター! もう十分です!」

 

 それでも必死になって少年に組み付き、離れない。動きを阻害され、漸く少年が香子の方に顔を向けて……その時だった。少年の表情が一変したのは。

 

『――藤原

「えっ?」

 

 声が違った。香子を見る目が違った。しわがれた、老人の様な声が、少年の喉奥から響いてきた。冷徹な瞳が此方を見据えていた。角の雷電が、激しさを増す。まるで、香子が最後のスイッチを入れたかのように。少年は……バットを、振り上げる。その狙いは、既に、連合ローマ兵ではなく――

 

「――なあにやってんだこの馬鹿!

 

 その側頭部に、おでこが突き刺さった。ぐわん。という音が聞こえるような一撃が見事康友の頭を揺らし……目に、光が戻る。香子の目の前に立ったのは、青い瞳の黒髪の少年だった。

 

「あれは……カルデアのもう一人のマスター。という事は」

「そこまでだ。征服王」

 

 その直後、ブーディカとにらみ合うイスカンダルの後ろから声が響く。いつの間にか彼の首筋に、紅い隕鉄の剣が突きつけられていた。

 

「皆様、ご無事では……なさそうですな!」

「何でもいいけど、私の焼く獲物、残ってるかしら? ちょっとあのセイバー一人じゃ消化不良なのよ」

 

 バーサーカーに対するサーヴァントが一人から、三人に増えていた。槍と盾が、焔が、バーサーカーの僅かな動きすら牽制している。唸り声を上げてはいるが、全くもって動けない。

 

「ったく、何やってんだ相棒……らしくない暴れ方して!」

「あの、凄い音がしましたけどやっさんは大丈夫なんですか?」

「相棒は頑丈だから大丈夫だよ」

 

 混乱を生む、連合ローマとの戦線。その佳境の最中――藤丸チームが、戦場へと到着した。

 




一応伏線染みた物を撒いてみる。
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