FGORPG ノンケがエンジョイプレイ 作:秋の自由研究
――走る。走る。
Drロマニが、管制室で何かが起きたといった。そこには確か、自分を案内してくれた少女、マシュが居たはずだ。嫌な胸騒ぎがする。とにかく、急ぐしかない。
「立香!」
向かいの通路から、一番頼りになる男が走ってきた。どうやら彼奴も気が付いたらしい。
――本造院康友。互いを良く知る、長い付き合いの親友。
「康友! 管制室だ!」
「管制室って……おい、まさかマシュって子に何か」
「何があったか分かんないけど、兎に角警報が鳴ってるって」
「あぁ!? 最高に良くない情報だな!」
鋭い三白眼が、管制室に続く通路を睨み、同時に駆け出す。特に何をしに行くか。此奴は言わなくても走り出してくれる、俺と一緒に。だから此奴の事は信じられる。ハゲでチンピラみたいだけど、そんな見かけなんか気にならないくらい、内面は熱い奴だから。
「後ろで置いてかれてる人は?」
「医療班のトップの人!」
「そうかい、後で世話になりそうだな!」
「その予感は当たって欲しくない……!」
目の前に管制室の扉が……いや、先ほどとは違う。中の色は、青じゃない。全てを舐め尽くし、消し去る、絶対の赤。アレは、焔だ。管制室が火に包まれている!
「誤作動じゃないみたいだな……!」
「立香! 一気に突っ切るぞ!」
「当然!」
止まってる暇はない。入口に立ちふさがる焔の壁に向けて、顔だけは覆って突っ込む。一瞬熱を感じたが、一瞬なら焦げもしない。問題は無い。火を抜けたところでストップ。首を回して周りを見舞わせば端から端まで、隙間の一つもない火の海だ。
<隔壁が閉鎖するまで、三十秒です>
「酷ぇ……」
「マシュ、無事で居てくれよ、頼むぞ……っ」
そう思ったのも、正に一瞬。居た。探し人は。部屋の真ん中。自分達の目線の先に。
「――マシュッ!」
見つけた。あぁだが、畜生。最悪だ。悪い方向に予想を超えてくれやがった。マシュは、火の海の真ん中に、寝っ転がっている。でも……ああ、クソッたれ!
「何っ!? 何処だ……あぁ、おい、悪い夢でも見てんのか!」
巨大な岩と、床に挟まれて。上半身だけが見えている。その下は? 想像もしたくない。この世の理不尽に吐き気がしてくるから。
「兎に角助けるぞ」
「了解、立香、合わせるから好きにやれ!」
「分かった!」
とにかく、まずは彼女を引きずり出さねば。しかし下に手を挟んで、持ち上がるか? それならば、と頭の中で答えを導き出す。必要なのは、一瞬の爆発的な力だ。
「棒と土台! 秒でいいから隙間を! その隙に!」
「上等、思いっきりやって動くかどうかだなぁ!」
瞬間、康友が下がり、俺が前に出る。マシュの近くで、フォウと呼ばれていた子が鳴いている。大丈夫だ、きっと、お前の友達は助ける。でも声に出す余裕はない、直ぐにマシュの近くで待機する。あぁ……チクショウ、岩の下で、血が滲んでるのが見えた。
「マシュ、大丈夫か?」
「……せん、ぱい」
「大丈夫、もう大丈夫だぞ……」
「立香! 準備出来たぞ!」
康友が、何処からか拾ってきた太い金属製の棒らしきものを抱えている。近くの残骸を蹴って飛ばし、巨石の隙間の近くへ。康友がその残骸に棒を乗せ、巨石と床の間に斜めに差し込んだ。これで、二人とも準備完了だ。
「任せたっ!」
「よっしゃ、どっこいしょぉぉぉおお!」
親友が金属棒を思い切り下へと押し込む。筋肉が膨張する、体が僅かに膨らんだかと錯覚するほどに。ギギギ、と軋む音が少し響いて。
直後、ほんの僅か、指一本分ほどだが、巨石が持ち上がった。マシュとの間に隙間ができた。ここだ。抵抗はない、一気にマシュを引きずり出した。
「っし!」
「あっ……」
見たくは無いが、確認。足は欠けてはいない。潰されて、肌が裂けて、骨も……だが、まだ大丈夫だ。絶望的だが、助かる可能性はゼロではなくなった。
そしてマシュが引っ張り出された瞬間に、巨石は重たい音を立てて大地を叩く。康友の使っていた金属棒は限界だったらしく、ひしゃげていた。一瞬、遅れていたらと思うと、ゾッとする。
「はぁ……はぁ……っあぁ! マシュちゃんは無事か!?」
「無事じゃないが、生きてる。今、ドクターの所に連れて行く。他の人は?」
「……向こうからざっと見たが、容器の中の何人かはそこまで重症じゃないように見えた。助かるかもしれないぞ」
「よし、マシュを届けたら次はその人たちだな」
出来る事は幾らでもある。とはいえ、あんまり急いでマシュを揺らすとケガが余計に悪化するかもしれない。落ち着いて、移動するべきだろう。
後は、誰か託せる人が……あ。
「ふ、藤丸君、走るの速すぎ……って、これは……!」
入口の向こう、今一番必要な人が来てくれた。
「ドクター! こっちです!」
「藤丸君! それと……」
「本造院です。藤丸とおんなじ攫われですよ。それより、この子を!」
マシュをDrロマニに早く託さないと。一秒ごとに助かる希望が薄れていく。出来るだけ、マシュに負担をかけないように、でも出来るだけ急いで……!
<中央隔壁、緊急封鎖します。館内洗浄まであと百八十秒>
「えっ!」
「何ッ!?」
……最悪だ。
マシュを助ける事が出来る、最後の希望が壁の向こうに消えていった。二重に、分厚そうな壁が、ここを完全な密室にしてくれやがった……クソ、恨むよ神様。なにも、こんな完璧なタイミングで!
「っざけんな、なんでもう少し……!」
「こんなもん、蹴破ってやる!」
康友が蹴りつけたが、さっきの石とはまるで別物。僅かに震えもしない。その壁に、康友は拳を叩き付けて。顔は、うつむいていて見えない。だが分かる気がした。俺も今、同じ顔をしているだろうから。
「……駄目だ」
「そうか……もう俺は神には祈らない」
「同意だ。こんな子を見捨てるような神だったら、祈る価値ないだろう」
そのまま、康友は隔壁に背を預け、ずるずると座り込んでしまう。こうなってしまっては仕方ない、背負っているだけでもマシュには負担になる。そっと、出来るだけ衝撃の無いように床に降ろした。
「……でられなく、なっちゃいましたね」
「大丈夫だ。まだ、まだ助かるかもしれない。諦めちゃダメだぞ」
「そうだぜ。確かに今は脱出できなくなったが……もう少ししたら開くかもしれない」
弱音を見せる訳にはいかない。今一番辛いのはマシュだ。五体満足の俺達が彼女を励まさなきゃいけない。彼女が助かる事を、諦めちゃいけない。絶対に。
「あ、カルデ、あすが」
「カルデアス……?」
「……おぉ、こいつはまぁ」
マシュが視線を向ける先。そこにあったのは、真っ赤な球体。さっき見た時は、青い地球の姿だったのが、まるでこの部屋の様に、全て炎に包まれて。
カルデアスは、この世界の姿だと所長は言っていた。じゃあアレは。
「……いや、今はいいか」
そんな事より、今は、目の前の彼女の命だ。
「なぁ、マシュ」
「せん……ぱい」
「不安なんだ。少し、抱きしめても、いいかな」
マシュが、目を少し開いた。驚いているのだろうか。でも、今は一人じゃないと、せめて彼女に伝えたかったから。ややあって、頷いた彼女の体を、出来るだけ優しく抱きしめる。まだ暖かい。命の温もりは、まだ彼女に宿っている。大丈夫、彼女はきっと助かると、己に言い聞かせる。
<コフィン内マスターの バイタル 基準値に達していません。レイシフト定員に 達していません 該当マスターを 検索中 発見しました>
「ヒュウ~、お熱いな二人とも」
「黙ってろこのハゲ」
「あいあい……じゃ、俺は頭でも」
康友が手を伸ばして、マシュの頭をそっと撫でた。こいつも、出来得る限り不安を取り去ってやりたいんだろう。俺達の不器用な鼓舞は、届いただろうか。こんな絶望的な状況でも生きる事を諦めて欲しくないという願いは、届いただろうか。
「……せんぱい、やっさん」
「ん?」
「あたたかいです……こんなときなのに、なんだか……」
<適応番号48 藤丸立香 補充適応番号01 本造院康友 の2名をマスターとして再設定します アンサモンプログラムスタート 霊子変換を 開始します>
<レイシフトまで>
<3>
<2>
<1>
<全行程 クリア ファーストオーダー 実証を 開始します>
やっぱり手を握るだけじゃ不安やろうなマシュちゃん……せや! ぐだ男にラブハグさせたろ!(この話を書いた切欠)
追記:幕間っていうのも違う気がしたんでサブタイトルを変更しました→さらに変更しました。