FGORPG ノンケがエンジョイプレイ 作:秋の自由研究
「――全く、我が王の計画の一助にすらなれないとは」
玉座の間に響く靴音。態と立てているのだろう。苛立ちの対象は……あくまで彼にとって役立たずとしか呼べないサーヴァント達。イスカンダル、諸葛孔明、呂布。そして未だ玉座に座ったままの、一応の切り札。
「私を苛立たせるのばかりが上手いなぁ? 君達は」
「言うではないか。お主の作戦には出来るだけ忠実に従っている積りだが」
「その作戦を成功させるために、ありとあらゆる手段を尽くす……そうしている様に、私には見えないのだよ。ライダー、イスカンダル」
緑衣にシルクハットの魔術師、レフ・ライノールの計画では、もっと、もっと早く。カルデアとローマの一軍は壊滅迄追い込まれている筈だったのだが……結果はこれだ。計算に狂いが出る毎に、恐ろしい程、苛立ちは募るばかりだ。
「余の言った通り、呂布を貸し与えて貰えれば問題無く殲滅出来ていたと思うのだが」
「アレはガリアへの再侵攻に回していると、あの時は言っただろう」
「ガリアから無防備な首都を穿つ、であったか……理にこそ適っていたが、結局その作戦も、現地のサーヴァントに阻まれ、しくじったようだが?」
「ふん、中国の歴史上でも類を見ない武人とやらも、その程度という事だ。そして今はお前の話だイスカンダル。その呂布の分の不足を補うために、人類の恩讐という、不完全極まりない感情とやらを利用しろと伝えたはずだ」
レフの計算では、呂布の不足を補うだけの実力がブーディカにはあり、そしてローマへの恨みも、此方の提案に応じるだけの濃密さがあった筈だった。其処を突けば所詮は寄り合い所帯、一撃で崩せる。
「――予想以上に、女王ブーディカの負けん気が強かったようでなぁ! はっはっはっはっ! あのシールドバッシュは効いたわい!」
「貴様」
「それを見誤っていたのは、余もそうだが、貴様もであろう。何方も間抜けだったという事で手打ちにせぬか。次に向けての策を考えねば建設的とは言えぬからな」
ギリ、と魔術師が歯を鳴らす。このサーヴァントは、確かにそれなりの駒だ。しかしどうにも御し難い。反発心が強いとは言えないのだが、どれだけ失態を詰めようとしても話をいつの間にか流されて終わってしまう。
「――っち、まあいい。どうせ次でこの特異点の命運も決定する」
「ほう?」
「これだけ予定よりズレているのだ。君達の無能も、向こうの虫の様なしぶとさも、私は見誤っていた。故にもう思考を変える。全ての戦力を投入し、奴らの首都へと向かい殲滅する。もはやこちらの戦力と相打ちでも構わない」
そう言うレフの顔は歪んだ笑顔によって彩られていた。
「……擦り減ったローマでは、壁を突破しきれず。勝手に自壊する、か?」
「その通りだ。流石は征服王、理解が早い」
それは人を生物とも考えない。ただの資源として磨り潰すという、狂気の沙汰を基盤に置いた思考だった。魔術師が人でなしというのは相場が決まっているが、最早この男はその原則からすら外れているのだ。
「君達を効率的に使い潰す為の策だからね、僅かでも無駄にしないよう、熱も入るというモノだ」
「――そうか。であれば、余もそれ相応の準備をせねばならん。その熱意に応えねばな」
そしてそれを聞くイスカンダルの表情たるや。従順な言葉とは裏腹に冷め切った瞳と無表情。戦場を駆け抜ける、征服王としての覇気の欠片も無い。
「なぁに、今回は単純明快だ。難しい調整は要らない。全軍をもって踏み潰すだけなのだからね。サルでも出来る単純作業だとも」
「それでもやっておくに越したことは無いからな……失礼する」
それは、イスカンダルが目の前の男に、忠誠は勿論、僅かな期待すらも抱いていない事の証左だった。
「――坊主! アレはダメだ! どうにもやる気が起きん!」
「何を今さら。彼と貴方の相性が致命的に悪いのは分かり切っていただろうに」
「それにしてももう少しマシだと思って居たが! 全くサーヴァントというのも良い事ばかりではないという事が、こんな所で知れるとはな」
――故に、なのか。コレは当然の帰結と言えた。
「それで……我が軍師よ。戦局はどうだ?」
「問題ない。全ては計画通りに進行中だよ。後は、彼の言う最終作戦が遂行されれば晴れて此方の勝利だとも」
そもそも、レフ・ライノールはサーヴァントというモノに期待をしていない。そして期待をしていないというのは、それだけ評価をしていない、という事であり……反乱を起こす様な力があると露ほどにも考えていないのだ。
「であれば、いよいよもって手は抜けんか」
「そうだな。我々の勝利を盤石とする為にも」
そんな侮られている孔明とイスカンダル。彼らの言う我々というモノに、レフ・ライノールが入っているのか。果たして彼らの想像する勝利がなんなのか……知らぬのは、民と、自分の指示にサーヴァントが従う事をなにも疑っていない、哀れな魔術師擬き。
「それで? どうだスパイの方は」
「驚くべきだよ。まさか令呪を魔力リソースとして、サーヴァントをスパイとして送り込んで来るとは」
「ほう!? それはなんとも思い切ったやり方をする」
「とはいえそれも間違っているとはあながち言い切れん。乗り込んできたサーヴァントは彼の白百合の竜騎士様だからな」
「――ほうほう! シュヴァリエ・デオン! あのフランスのか! 成程!」
こうして、堂々と話しているのも、監視の目があるというのが分かり切っていての事。態とである。あくまで、向こうと通じているとは悟らせぬように、最低限の事をあえて伝えるのだ。
「向こうも必死だという事だろう」
「現地での召喚か?」
「いいや、その素振りは見られなかった。恐らくは既に召喚していたのだろう」
「ここに来る前にか! 成程、ソイツは良い! どうやら奴らには中々の天運が付いているようだな……そうでなくては、面白くない!」
裏切りを悟られぬような言葉遊びなど、この二人にとってはさしたる労力ですらない。レフ・ライノールに読心術の心得でもあれば少しは話も違っただろうが、それでも歴戦のブラフを使いこなすこの二人相手に、何処まで通じるものか。
「さて、後は此方の話か。万が一余達が負ければ……魔術師殿の切り札とやらはどのような感じだ?」
「ローマを相手取るのであれば、かの勝利の女王ブーディカ、更にはカルタゴの大英傑ハンニバルをも凌ぐ力を発揮する、恐るべき怪物であることは間違いない。が、この特異点そのものも滅茶苦茶になるのは間違い無いだろうな」
――そんな二人ですら、その表情を歪めざるを得ないのが、レフ・ライノールが呼び出そうとしている、切り札。そもそも、全ての作戦は最後にこれが控えているという彼の圧倒的な勝利への確信を持っての行動だ。
「要するに、最後にすべて帳尻を……いや、合わせるとは言わんな。
「そもそも彼に特異点をマトモな状態で維持する、という発想は無い以上はそれが最も合理的なのだろう。そんな物が策として成立しているのが、若干腹立たしくはあるのだが」
「御せるのか?」
「万が一の場合、制御できなければ此方にまで牙を剥かれかねないレベルの大物だ。流石に対策は打ってある。とはいえ、どれだけの効果があるかは、分かった物では無いが」
「まぁ切り札を切って此方が自滅など、洒落にもならん話だしのう」
ちらりと、孔明があらぬ空中に視線を向ける。見ているだろう事を承知した上で、迂闊に使う事は進められない……と、今までの話を踏まえた一種の警告だった。
「まぁ、彼だけは逃げ去る準備が出来ているのではないかね」
「余達を生贄に、か。とことんせせこましい男だ」
「しかし、私達は従わぬ、という訳にはいかん。宮仕えの辛い所だ」
しかし。そんな切り札を目の前にして。この二人は、決して怯んでいるだけではない。飄々と仮面の下に一つ、ギラリと光る物を隠し、時を待っている。
「まぁその切り札を切る、切らぬは次の決戦次第だ。其処で無事向こうのローマを亡ぼしてしまえば」
「その必要すらなくなる、という事だ」
――敵も味方も、それ以外も。揃い揃った役者の全てを欺き、自分達こそがが盤面をひっくり返す。その時を。
おや? ローマのラスボスの様子が……?