FGORPG ノンケがエンジョイプレイ 作:秋の自由研究
――信じられない。信じたくない。
「……見事、ではあるが……僅かに足りぬ」
アレだけの力の奔流を跳ね返されてなお、黒いセイバーはそこに健在だった。通じていない訳ではない。アレだけの一撃、通じない訳がない。重症の筈だ。つまりそれだけの力を食らってなお、相応の傷を負ってなお、倒れるを良しとしていないだけだ。
強い。肉体だけではなく、心も!
「まだ、です。私、やれます。先輩」
「マシュ……」
あぁ、分かってる。今すぐにでも倒れそうなこの子を背に庇い、目の前の相手に挑むというのは……正しい事じゃない。自分は、弱い。自分が死ねば、いいや、誰か一人でも欠ければ終わりだと、専門家の所長やマシュが言っていた。
どれだけマシュが傷ついて、辛そうでも、俺には、支える事は出来ても、隣に立つ事は許されない。彼女に、任せるしか……
「……っ! ああ畜生、もう無理だ!」
――でも、でも。
それでも、康友は飛び出した。
「……ほう?」
「吹っ飛べっ!」
振り下ろした金属バットは、あっさりと黒い籠手に受け止められて、全く効いた様子も無く、あっさりと払われて宙を飛ぶ。やはり、俺達の攻撃なんて、蚊が止まった程度でしかないのだろう。
「マスター! 前に出てはいけません! 相手は――」
「……相手が、どうとかじゃないんだ。違うんだよ、式部さん」
「え?」
効かないと分かって、地面を転がって、それでも……康友は目を逸らさない。立ち上がって、セイバーを睨んでる。
「分かったんだ。俺はカスだ」
「マスター……?」
「これは現代の、
「今、ここに生きる俺達が! 戦わないで! どうすんだよ!」
――あぁ、その言葉に。どうしようもなく、納得した。
マシュが戦ってる時。前に出ようとした体を、足手まといになるからと、必死に言い聞かせて止めた。ここに居る事こそが戦いだと。
マシュの所に行ったのも、彼女がどうしようもなく、ピンチになってからだ。
無力さに歯噛みした。じゃあ、それはどうしてだ。
「……決まってる、だろ。俺」
「せん、ぱい?」
「ありがとう、マシュ。休んでて。その時間位は……俺が稼ぐよ」
全部、全部! 誰かに、人任せにしてたからだ。自分が無力だっていう、そんな言葉に甘えて……俺は、奥に引っ込んで、傍観者見たく振舞ってた! あんなに、酷い大けがした女の子を、その子が強くなったからって……!
「康友」
「立香……やっぱ、俺ら賢くねぇな」
「賢かったら、この状況に納得できてたかな」
「いいや、無理じゃねぇかな」
そうだ。所長は言っていた。これは、今を守る戦いだと。
じゃあ今を生きる俺達が、戦いもせずに後ろに引っ込んでるだけなんて、そんなん道理に合う訳ない。立っている事が責任? 死ぬのは足手まとい?
甘えるなよ、俺。だったら
「でも俺は、バカでよかったと思う」
「あぁ……式部さん!」
「は、はい!?」
「俺達で全力で時間を稼ぐ……此奴にとどめ刺すだけの、強烈なのを頼む! 任せるよ!」
相手は英雄。自分達より遥か格上の怪物。
怖いけど……でも、不思議と足は竦まない。
「無謀だな。貴様ら二人、万に一つもなく死ぬぞ」
「なら億に一くらいならあるか? ゼロじゃなきゃいい。俺の頭皮はゼロだがな」
「ゼロじゃなけりゃ、その一を掴み取ればいいだけだ。隣の頭ほど絶望じゃない」
軽いジョークで緊張をほぐす。自然体を保つ、その上で全力を引き出して、二対一。これでようやく僅かな時間を稼げるかどうか。だが、ここでやらないという選択肢はない。
「あ、アンタら! 何を馬鹿なことやっているの! 戻りなさい! これは命令よ!」
「所長、援護頼んます!」
「後、始末書? は後でどっさり書きますんで!」
「っ! ……こ、いつら……!」
やっぱ、所長は賢い。こういう人が上に立ってれば……俺達も、安心して好き勝手出来るってもんだ。
鉄パイプを構える。剣とぶつかり合ったらまず持たない。殴り合うっていうより、必殺の一撃を出させないよう注意して、邪魔する、ってのが正しいか。
「……ん?」
そう思ってたら手元の鉄パイプに、お札が絡みついた。見ると、紫式部さんが続いて康友のバットにも飛ばしてくれている。
「式部さん」
「少なくとも、それでお二人の得物は暫くは簡単には折れたりしません……マスター! 藤丸様! 必ず! 必ず! ご無事で!」
「――あいよ!」
内心はビビってるだろうけど、返す笑みはあくまで不敵に。ハゲにあの眼付、頬の傷が追加されて、それこそその筋の人にしか見えないけど、今は……その笑いが凄い心強く感じる。
「つーわけで、最後はそっちのハゲと俺、二人がお相手するよ」
「力不足もいい所だけどな。まぁ、出来るだけ時間は稼がせてもらう」
視線は目の前の黒い騎士に。無表情だったその顔はなぜか今、少し笑みを浮かべていた。
「「行くぜぇ!」」
「……あぁ、来るがいい!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「オゥリャッ!」
「甘いっ!」
康友の攻撃を剣で払おうとして、体重が左に乗っている。そこに合わせて、右から左へ、殴るんじゃなくて、相手を押し込むように……っ!
「っ」
「――隙だらけだっ!」
狙い通り。体勢を崩すまでは行かなくても、僅かによろけた。値千金の隙。ここから、一気に叩き込む!
「オラッ!」
「せぇい!」
左によろけたセイバー目掛けて、康友がバットを盾にしてぶつかる。あくまで相手の重心を崩す動き。ぶつかった勢いをそのままに、地面を転がる康友の上、鉄パイプを振りかぶり、狙いを定める。
「っく!」
「足元がお留守だぜ」
「な」
だがそれじゃ終わらない。足元には、転がって、セイバーの足裏に回り込んだ康友。そして目の前には俺。徹底的に行く。そうじゃないと、此奴相手は安心できない!
「そら!」
「転べ!」
康友は踵、俺は顎に。上を後ろに、下を前に……当然、結果は決まってる。
「う」
すっころんで仰向き転倒! 良し今だっ! 急いで離脱っ!
「ひゅう、あっぶねぇ……これで三回目か?」
「四回目だよ。マジで綱渡りだな。汗が止まらねぇ」
「へ、髪なんて持ってるから汗かくんだよ」
「冷や汗だからお前もかいてるぞ」
マジか、なんて言って禿げ頭を撫ぜる友人に、ちょっと笑えて来てしまう。
命を張ってるギリギリの喧嘩だ。相手はボロボロの重体だというのに、あるのは、いつ死んでもおかしく無いという緊張感だけ。
どれだけすっころんでも、何でもないように立ち上がる。ダメージなんてゼロ。俺らがやってんのは真面目な話、児戯だ。足引っかけてるだけ。これが……これが、英雄。これがサーヴァントかと、嫌でも理解する。
「……こうも私が地に転ぶとは。力、技、速さ、全てが未熟、否、それ以下とはいえ……その方らの連携は実に見事。それらを補って余りあるだろう」
「お褒めに預かり光栄至極……か?」
「喜んでどうすんだっ!」
突っ込まれてしまった、だって、なんか黒いけど、あのアーサー王に褒められてるんだから。ちょっとくらい喜んだっていい気がする。まぁ、そんな呑気な場合じゃないのは事実だけども。
「――故に、手加減はしない」
「今までもしてないだろうが……っ!?」
直後だった。セイバーから、何かがあふれ出す……これは、見間違えようがない! マシュを襲ったあの……黒い光を撃つ直前の!
「康友!」
「分かってる! 黙って撃たせる訳ねぇだろ!」
問答無用で直行! なんとしても止めたいところだけど……!
「そらっ!」
「しゃあっ!」
まず康友、続いて俺。二人でそろって片腕狙い! これで、どうだ!?
「っ、駄目かっ!」
「クッソ、マジで鋼で出来てんのか此奴!」
「こうして動かなければ、先程の様な真似も出来まい」
……畜生、駄目か。悔しいが予想通り、今度は揺らぎもしない。
さっきまではどっちかが攻撃を引き付けてる間に、重心の寄ってる方へ押して体勢を崩してたけど、相手が攻撃するために重心を崩さなきゃ……無理だ! 何か、何かないか!
「アンタら、避けなさい! 大きいのいくわよ」
「所長!?」
「そりゃあ頼もしいっ……?」
――そうか、まだ所長が居る!こういった事態の専門家、所長の攻撃なら、俺達よりはまだ効果が……いや、待て。
「いや所長! まだ打たないで!」
「はぁ!?」
「立香お前何言ってるんだよ!?」
所長も康友も、『此奴、とうとう頭おかしくなったか?』みたいな顔を向けないで欲しいんだが。一応俺にも考え位あるのだ。
「合図に合わせて!」
「合図って!」
「いいから!」
「……あーもう分かったわよ!」
後ろを振り返れば、黒い、禍々しい何かを指の先っちょに貯めた所長の姿。なるほど、アレは相当効きそうだ……っ!
「何の積りかは知らないが、この一撃を止められるとでも?」
「……しくじったら恨むぜ、立香」
「もとから一歩間違ったら死んでたろ。そう言うな」
一応、勝算はあるつもりである。まぁ、多分失敗したら消し炭だけど。
力が溜まっていく。膨れ上がっていく……ヤバい。ちょっと足震えて来た。この作戦で本当にいいんだろうか……さっき、マシュが全力で止めて、やっとだったっていうのに。
俺達で、どうにかできるのか……いいや、やるんだ! 覚悟決めろ、男だろう!
「覚悟は良いか、少年達……止める術があるというのなら全霊を賭けて成し遂げて見せろ」
「上等……!」
「ここまで来たんだ、やってやる……!」
セイバーが、黒い剣を腰に寄せて、構えた。マシュを追い詰めたあの光が、もう一度放たれようとしている。けどマシュは。傷一つなかった全開のセイバーの一撃を、弾き返して見せたんだ。それに比べりゃあ……!
「なんて事は無い……っ!」
「卑王鉄槌、極光は反転する……」
「行くぞ康友!」
「よっしゃあぁ!」
突っ込む! まっすぐ! 放たれる直前だ! そこに、滑り込まなきゃ意味がない!
「光を呑め!」
来る、アレが来る! 狙いは、力を貯め切った瞬間だ……っ! 間違えるなよ! 俺!
「エクスカリバー……ッ!?」
「康友! 担ぎ上げろ!」
「……なるほどなぁ!」
狙いは足元……ただし、攻撃する為じゃない。
しっかり二人で両足掴んで、
「しまっ!」
発射する前に持ち上げようとしても、逃げられるかもしれない……けど、撃つ直前なら? アレだけの凄い力が、溜まり切った直前なら? どんだけ凄いパンチも、打つ最中は何処にも逃げられない。
「っしゃぁっ! 所長! お願いします!」
「飛んでけ馬鹿野郎が!」
正直、持ち上がらなかったら終わりだった。けどちょっと重いくらいで、投げるのに支障はない! 後は思いっきり上へ放り投げるだけだ!
「私に命令しないで!」
無防備な空中。後方から飛来する黒い弾丸。直撃したそれは、小規模な爆発を巻き起こした。だが煙の中……まだ、あの黒い騎士は健在だろうと、確信がある。
「康友!」
「立香!」
たがいに頷き、飛ぶ。徹底的にやらないと、反撃を許す。そんな気がした。跳躍して煙の中へ、抜けた先に、黒い姿を捉えた。
――隣の康友と目が合う。なんか、角が額から生えてる。気迫が見せる幻覚だろうか。それなら最高だ。そんだけの気迫を込めた一発、叩き込んでくれるんだからなぁ!
「「落ちろぉっ!」」
黒い胸板に、パイプとバットが突き刺さる。
ズシッとした感触が一瞬あって、そのまま振り切った。
黒い騎士が地面に吸い込まれるように飛んでいく。俺が見れたのはそこまで。全部力を使い切っちゃって、もう体が動かないし、もう落ちるだけで……
「……か、髪があってよかった」
「はっ、禿でもそこまでいたかないわい」
「やせ我慢するんじゃない、痛いだろ……」
お陰で思いっきり頭打った……膝から上に力入んない。もう立てない……康友の奴も、膝が完全に笑ってる。向こうももうピクリとも動けないだろう。
けど、なんとか時間は稼げたようで。
「マスター、藤丸様、お見事でした。漸く陣も敷き終わりまして、後は、私が」
「……」
「――限りあれば 薄墨衣 浅けれど 涙ぞ袖を 淵となしける」
俺の目の前に、洋装の文豪が座す。康友の隣、寄り添うように。文机に向かい、筆が躍る。唯何かを書いている様にしか見えない、というのに……立ち上がった目の前の黒い騎士から、明らかに先ほどまでの迫力が、消え失せていっているのが、分かった。
「『源氏物語 葵 物の怪』」
言葉が終ると同時、筆の動きも止まり……セイバーを一目見ても、変わっているようには見えないけど。でも、終わったのは、分かった。
「……呪詛、か」
「そのままでは、貴女を討ち取れるかどうか、分からぬものですが。マスター達が時間を稼いでくれたおかげで……拙いながら、呪詛を増幅する陣を、敷くことが出来ました……これはここに居る皆の、勝利です」
「あぁ。そして私の……敗北だな」
頭はふらつく。もう限界に近いだろう……けど。
俺達は、あの強大な敵に打ち勝った、という事だけは。妙にハッキリと理解することが出来たのだ。
尚、マスターが与えたダメージはマジでゼロな模様。悲しいなぁ……後、所長の攻撃はルーン石じゃなくてガンドにしました。
追記:サブタイトル変更しました。