FGORPG ノンケがエンジョイプレイ 作:秋の自由研究
「――ライダー。定時報告だ。島の中心の目標に動きは無し。今回は挑発行動を織り交ぜたがやはり無反応の模様だ」
「おーう。ご苦労。しっかし、ここまで待ちに入られると、どうしようもないのう」
「仕方ない。それがあそこに自らを配置した理由だろうからな」
砂浜に設置された、特別大きなテントの中で。征服王イスカンダルは干し肉を齧りながら孔明の報告を聞いていた。彼にとって、どんな豪勢な料理よりも、趣向を凝らした料理よりも、新しい開拓を狙った料理よりも。こうして戦場で、シンプルなテントの中で、箱か、石にでも腰かけて齧る、干し肉が一番舌に合った。
贅を尽くした料理が嫌いな訳ではないが、結局の所、自分は戦の渦に身を置いているのが一番性に合っているのだろうと……そう考えた時、ふと眼の前の軍師はどうなのだろうと考えた。
「……どうした、ライダー」
「なあ坊主、お主、美食を極めようと思った事、あるか?」
「び……? なんだ一体急に。激務で疲れているのか? 休むか?」
「いや、そうではないんだが。ふと思ってな。で、どうだ」
そう聞かれた孔明は、少し寂し気……と言うより、若干呆れも混じった決まりの悪い表情を浮かべ、少し考えてから口を開いた。
「期待していたのであれば生憎だが。葉巻を吸うのに慣れてしまったせいか、食に関してはそこまで拘ることは無くなってしまったよ。まあ気に入りの店くらいはあったが」
「ヌハハハハ! そうかそうか! なんだかんだ言って似た物同士ではないか!」
こんな事を考える位には、疲れているのも、また確かなのかもしれない……と思考を終わらせ、改めて思考を切り替える。この特異点において、当初の予定はもう跡形もなくなっている状態だ。
要因は、色々ある。アルゴノーツに、来るカルデアへの対処の準備、そして抵抗勢力の存在と、彼らが秘する物。
「それと、例の抵抗勢力についてだが」
「ん? 何か動きがあったか」
「あぁ。いつも通りの動きだがなぁ」
「では報告せんでも良いだろうよ……」
「仕方あるまい。報連相は戦術の基本だからな」
「余とてどんな報告も笑って受け止められる訳ではないぞ、軍師よ」
「思い切り顔を顰めて貰おうか。巡回中に三隻が被害を受けた。おまけに、被害は船のみ船員にほとんど被害なし。いつも通りマストと帆、船体の一部を狙って、修理可能なレベルで破壊している」
「だーっ! またか! ええいここまでゲリラ戦に徹されると逆に清々しいわい!」
干し肉を嚙み千切りつつ、征服王は現代のサラリーマンの様に天を仰いだ。敵は自分達に被害を与えようとしているのではない、此方の手から逃れ、そして徹底的に此方への嫌がらせを行う事で、事態が収束するのを防いでいるのだ。
資源は無限ではない。有限の資源では、船を新しく拵えるのも一苦労だ。この海は広いがそれでも、何百隻と船を作れるほどに資源がある訳ではない。だからこそ、修復出来る船は修復して再び使い回す事で、限りある資源を節約しつつ、陣営を回していく必要があるのだが……
「修理した船も、そのままのパフォーマンスを発揮できる訳ではない……私の中に眠る孔明の知識を生かして、船の修理にも出来るだけの事はしているのだがな。全く、向こうには相当資源の運用に詳しい者が付いていると見える」
「――正直な所、聖杯に船の資材は頼っていたからのう……やられた!」
「使える資源は使うべきだが、しかしそれに頼り過ぎたというのは否定しきれん」
聖杯があれば話も違うのだが……しかし、自分達が所持していた聖杯は、突如乱入して来た女海賊に奪われたままだ。全てを聖杯に頼り切りにしていた訳ではないが、無くなった今、大きな痛手を被ったのは確かなのである
「全く、陸とはやはり勝手が違う! オケアノス、やはり余が目指した海とは別物とはいえ挑み甲斐があるのは確かだ!」
「お前が海を目指したのは闘争の為ではないだろうに」
「はっはっはっはっはっ! 全くもってそうだがなぁ!」
「それでどうする」
「――仕方あるまい。本拠地を開けるのは避けたかったが……余と、ティーチの奴の二人で追い込みをかける。余の膝元で、これ以上暴れられるのは勘弁を願おう」
敵は例の反抗戦力一つではない。そろそろ自分達を追ってくるであろうカルデアにも意識を割かねばならない。というより、今特異点で敵対している勢力は、全てカルデア相手の前座の様な物なのだから、ここで苦戦するのは余り宜しくないのだ。
「そうだな。と言うより、今までが消極的過ぎたのだ。お前らしくもない」
「まーそう言われちまうと、余も立場が無い訳だが……言い訳をさせてもらえるなら、この海と言う、経験した事のない戦場を見ておきたかった、というのもある」
「消極的どころか弱気な発言だな? ライダー」
「馬鹿を言え。どんな征服者とはいえ無知では勝てぬ。地道な積み重ねを行って、その成果で戦での勝利を掴むのだ。かの黄金の英雄王ですら、個人は兎も角、群の戦ではその前提を覆す事は出来ん。いや、寧ろ奴こそ、そう言った手間は惜しまんであろうが」
「……それは確かにそうではあるがな」
故にこそ、かの提督三人の力を借りて、イスカンダルはかの戦で勝った。時期的に、決戦を仕掛けざるを得なかった時に、足りぬ経験を、現地の海を知る者達の力で補った。積み重ねを行えないのなら、それが一番だった。
「――しかし、その積み重ねは終わった。多少は、海での戦いにも慣れた。サーヴァントは成長せぬ、とは言うが。しかしこうして得た知見を活かすのも、紛れも無き成長と言う話だ」
「サーヴァントの成長は能力面での話だ。記憶やその経験値が成長等しないのであれば我々は当時の事以外、何も覚えられない木偶の坊だよ」
「全くもってその通り……まぁそれで心配の一つは潰れた訳だが、もう一つはどうしようもないか、我が軍師」
「其方はもう諦めるしかあるまいよ」
「はぁー……世知辛いのう。まさか、余が人材不足に悩まされるとは」
王の軍勢をずっと維持するのは元から不可能である。臣下を一人くらい呼び出して統治を任せる、というのは不可能ではないが、結局の所、余り遠距離まで宝具が展開できる訳でもない。あくまで、嘗ての臣下たちは宝具の力によって呼び出されるのだから、宝具の縛りから抜け出す事は出来ない。
「いっそ、私が残ろうか」
「馬鹿を言え。お主が単独で残って、其処を狙い打たれれば目も当てられん。ただでさえ戦力を分散しておるのだ、これ以上はいかん」
「しかしだな」
「それに……余らがここらへんをナワバリとしているのは、要するに監視網を引く為だろう。最悪、本拠地が狙われたならば、近くの兵を纏めて引っこ抜いて詰めさせるのも不可能ではない」
「最終手段だぞそれは」
一応、孔明とて、むやみやたらに自分達の支配区域を広げたかった訳ではない。今もイスカンダルを狙う勢力を監視する為の、網を広げる為だ。それがあるからこそ、近くに敵が居たとしても、彼らがイスカンダルを直接狙う事は出来なくなっているのだ。
「だが、それを壊すという事は……」
「余を狙いやすくなる。だろう? しかし、此方としては、霊脈上に設置した拠点が使い物にならなくなるのも正直厳しい事に変わりはない。余が自分を自衛出来る以上、向こうに自衛の戦力を割くのは当然ではないか」
「拠点は建て直せばいいが、お前は生き返らせる事は出来ん」
「なぁに、貴様が傍に居る以上、そうそう死ぬことはあるまいよ!」
そう言って豪快に笑うイスカンダルに、呆れたように顔を顰める孔明……その孔明の元に滝の様な汗をかいて、息を切らせ、一人の兵士が走り込んで来たのは、そんな時だったのである。
「――コ、コウメイ様! は……っはぁ……緊急! 緊急でございます!」
「何事だ」
「っ、ぐ、はぁ……ティーチ、提督……からの、連絡で……フランシス・ドレイクと交戦した、との事」
「そうか。その様子だと、目標は敵わなかった様だな……」
――態々戦力を割いてまで黒髭を別行動させ、かの女提督、フランシス・ドレイクを追撃し聖杯を奪還する作戦。此方に所属しているサーヴァント三騎での作戦だ。まさかそれが失敗するとは……可能性として考慮はしていたが、低いとは思って居た。
「不可能を成し遂げる女海賊、侮っていたつもりはなかったが……」
「そ、その。ティーチ提督曰く、しくじったのはフランシス・ドレイクだけの力ではない模様で……!」
「……協力者がいたのか」
「はい。自分達と同じような存在が六人は乗っていて、どれも見慣れぬ異邦人との事」
――
カルデアの襲来だ。
「ご苦労だった。少し休んでくれ」
「承知しました……ふぅ……はぁ……」
テントの外へと歩いていく兵士を見送ってから、孔明は改めてイスカンダルに向き直って言葉を続ける。もはや一刻の猶予も無い事を悟ったが故に。
「――阻止するべきは、領海内の反抗勢力との合流、か?」
「一刻の猶予も無い。出るぞ。反抗勢力を叩き、
――征服王が、動き出す。
イスカンダル王の趣味趣向については完全に偏見です。美酒を嗜むのはZEROで確認できていますし、美味しいものは美味しいと食べるのも確認してますが、でも戦場で塩辛い干し肉を豪快に齧ってるのが一番、こう、らしいのではないかな、と。