FGORPG ノンケがエンジョイプレイ 作:秋の自由研究
『彼を説得するのは、君に任せたいと思う』
香子に、ロマニはそう切り出した。藤丸から貸してもらったその通信端末から映し出されたその表情は暗く、そして硬い。そんなん表情で告げる彼、というのは……言われなくても分かっていた。
本造院康友。彼女のマスターである。
「説得、というのは」
『分かっているだろう、式部さん。貴女も……今、彼は前線に出るだけの能力を失っている。しかしそれでも前線へ出て戦うのをやめて居ない。正直、余りにも危険に過ぎるんだよ。彼を失うのは、大きな痛手となりかねないんだ』
彼は、基本的に後ろに隠れて指示する事を、『ただそれだけでは臆病』とする、何方かと言えば将と言えるタイプの人間であり。そして、自分達の世界は自分達で救わねばならない、とあの燃え盛る特異点の中でも言える程に正義感も強い事を、共に戦い続けていた香子は良く知っている。
だからこそ、あんな異常な能力が芽生えて尚、ここまでその能力を恐れる事も無く使い続けて、前線に立つ事も、恐れなかった。だからこそ……それが問題になっている。
『僕らとしては、彼は一般人として、日常に返す事もちゃんと考えている。この戦いに勝つために、彼を
「だから、能力の発動は……」
『解析は続ける。だけど、もう二度と許可することは無いと考えて貰って大丈夫だ』
ロマニは、マスターの安全を第一に考えているのだと、それは間違いないだろう。魔術師の中でも、彼はとびきりの優しい人間だ。
『だからこそ、今やるのは。彼をどうにか最前線から下げる事だと思うんだ……』
「で、ですけど」
『彼の心意気を否定する事になるかもしれない。彼は誰よりも真っ先に立ちむかう、強い心を持っている……僕らの行動は、彼の気持ちを、押さえつける事につながるのかもしれない。それは気が進まないのは、分かるよ』
そうでなくては言わないだろう。こんな他者の心までしっかりと慮った発言は。それでもこうして話しているというのは……
『けれど君だって、彼をそのまま戦わせる事が危険な事は、間違いなく危ない事だと分かっていると思うんだ』
「そ、それは……その」
『しかし、僕らが言っても、多分……でも、一緒に戦場を駆け抜けた君なら』
自分で説得するのではなくて、こうして間違いなく説得できると踏んだ相手に即座に頼めるのも、美徳だろう。マスターは本当にいい仲間に恵まれているのだと、彼の言葉を聞いていると分かる。
『頼む。紫式部。君に――』
――その言葉に、頷いたのは。必然だったのだろう。
「……香子さん」
「さ、そろそろ薬草を探しに参りましょうか。メディア様に届けねばなりませんし」
「ぅ……あぁ、分かっ、った……」
反論したい、そんな気持ちもあるだろう。だけどそれを封殺する為に、ズルい言い方をしてしまう。こんな意地悪に言葉を使った事など無いが……しかし、自分の頭脳が、未だ未熟で、されど若さに溢れたこのマスターを言葉で抑える事が難しくない事を、既に分かってしまっているのだ。
平安の時代。人の悪意や野心に満ち溢れた宮廷内に比べれば。このマスターの何とわかりやすい事だろうか……と、思いはするが。
「(そこまで誰かを口で言いくるめるなんて、得意じゃないのに……)」
堂々とマスターと話し、口先一つで言いくるめるだけの、度胸などが自然と湧いてきたのだ。それは……彼が心配だから、その行動を諫めるだけの勇気が湧いてきたのか。いや、理屈は今はどうでもいい。
「(でもマスターが、コレでもし無茶をしない様に、なって下さるというのであれば。私は……私、は……)」
――一瞬。思い出すのは燃え盛る、あの特異点。
『今、ここに生きる俺達が! 戦わないで! どうすんだよ!』
勝てるはずも無い、自分より圧倒的に強い怪物にたった一本の得物を構えて突撃していった、あの横顔を思い出す。目の前の巨大な脅威に対し……歯を食いしばって、前を向いて走り出す。圧倒的な脅威が怖くない筈がない。だが、その恐怖をも乗り越える程に強い覚悟を持って彼は。
「(本当に、コレは……良い事なんでしょうか)」
――少し、揺らいでしまう。彼が下がった方が守りやすい。藤丸にも負担をかけずに済む。カルデアのリソースも消費せずに済む……メリットは、明確に多い筈だ。多い筈だというのに。
それでも彼をこうして縛るのを手放しで良しと思えないのは、どうしてなのだろうか。
後ろを振り向く。彼は、少しうつむいて、香子の後を続いて……
「――薬草、ゲットだぜ!!」
いや、野草を探して居ただけの様だった。右手に持った草を堂々と天に掲げ、宝剣を天に翳すが如き立派な立ち方。やっぱり結構元気なのかな、と思って……ふと、彼をよく見て首を振った。目が少し、揺らいでる。
取り敢えず、気持ちを切り替える為の空元気、なのだろう。言外に『お前は無力なのだから黙って下がっていろ』と言われたのだから、当然だろうか。
「えっと、マスター。其方の草。多分違います」
「えっ、特徴そっくりだけど……?」
「そっくりですが、恐らく別の種です。それも気を付けなければいけない類の」
「……ッスゥウウウウウウウ……もしかしなくても、毒草だったりしませんか?」
「メモにはそう書いてあります」
「ふざけんな!!(声以外も迫真)」
物凄い勢いで叩き付けられる草だが、別にそこまで危険な毒草ではない。とはいえそれは伝える必要は無いだろう。危険と思ってくれる分にはそれでいいだろうから。それにこういう会話で互いの緊張を解して、少しずつ元気を取り戻してもらうのも必要だろう。
「(何れにせよ、マスターに無茶をして貰う訳には行けないのだから)」
きっと彼にとっては、それが一番辛い事なのは間違いないだろうから。気晴らしくらいは年長者の自分が、振っても構わないだろう。
「(……ああ、本当にあの術が恨めしい)」
今こそ。心を覗き。少しでも彼の心の奥底にある物を理解して、その強張りを解き解す事が出来るかもしれないというのに、と。マスターとサーヴァントは、互いに助け助けられ、が理想だろう。
「(あぁ、いっそ)」
『余計な事なんて考えず、自由に、貴方は自分の思うが儘に生きてください』と、言ってしまったら、どうなるだろうと考える。
きっと、彼は活き活きとするのが目に見えて、思わず少し笑ってしまった。藤丸と共に敵の中に突っ込んで。互いがどれだけ相手を討ち取ったかを自慢し合って、最終的に喧嘩を初めて……
「――香子さん」
「あ、はい」
「今度こそ、コレで間違いない?」
「え? その……少しお待ちくださいね」
想像力豊かなのが少し災いしてしまったが……しかし、美しい光景である事は間違いなかった。活き活きと、こんな時であるからこそ、何れに地上に返す為に、心を豊かに保つのは必要な事ではあるだろうと。
「間違いないと思います」
「おぉ、ソイツはいい。結構群がって生えてる所を見つけたからさ」
「本当ですか? でしたら、早めに終わるかもしれませんね」
「ただ……一種類だけそんな大量に要るかな」
「えっと、全て取り切る事は前提なのですか……?」
「まぁ多いに越したことは無いと思ったけど。まぁ一応は植生とか、そう言うのに悪影響あったりしたら、まぁ……ダメだしね」
こうした会話で、そう出来ればいいのだが。
祈りながら……香子は、彼と共に島の鬱蒼としたジャングルを歩いていった。きっと、きっといい方向に向いてくれ、と。
善意を踏みにじるか。善意に従うか。