FGORPG ノンケがエンジョイプレイ   作:秋の自由研究

52 / 271
一方その頃(スキル)





???視点:竜の騎士

 ――傷が疼く。

 

「はぁっ……はぁっ……ぐぅう」

 

 唸り声を上げる事しかしかできない。呼吸するのも苦しい、予想だにしない痛打。東洋の伝説を舐めていた、としか言えない。竜騎兵と呼ばれた自分をここまで追い込むとは。胸に刻まれた火傷の痕を撫でながら、蠢く。

 何よりも……魔術を用いた治療をもってしても回復しきれない程に、自分が疲弊している事、火傷に込められた執念が強い事。それが、驚愕するべき点だろう。

 

『貴方は嘘を吐いた……私たちを欺き、その上、()()()()()()()……見苦しい!』

 

 ……そうだ。彼女、バーサーカーの実力は決して僕に及ぶ程のモノではなかったのに。決闘代理人として戦っていた僕から見れば、あまりにも稚拙で、弱々しい……筈なのに。そんな常識など容易く飛び越え、ここまでの手傷を。

 あぁ、それはまさに。彼女の執念の賜物だろう。

 

「こ、んな、所で……寝てる訳には、いかない……! のにっ!」

 

 折れてなどいない。決して、僕は諦めるつもりは無い……けど、体がピクリとも自分の思った通りに動かないのだ。徹底的に体を焼き、傷を負わせ。結果として彼女は見事、自分を無力化して見せた、という訳だ……なんとも、忌々しい。

 ――彼女が、ではない。自分の信念を貫く事すら出来ぬ、自分自身がだ。こうして与えられた部屋の一つの床で、藻掻くしかできない、自分が。

 

「負けた……んだ……彼、女の……思い、に僕の……」

 

 僕に残っているのは、思い一つだ。たった一つ。あんな女吸血鬼に汚されてなるものか。そんな意地にも、いや、妄念と呼んでも良いだろう。しかし、そんな妄念は、彼女の執念に競り負けたのだ。

 

 ――動けないのはその所為かもしれない。

 

 心で敗れる、というのはそういう事だ。体がどれだけ健康で、丈夫でも。結局は自分の心が折れているのなら、立ち上がれもしないのだ。

 

「――随分と手ひどくやられましたね。バーサーク・セイバー」

「キャスター、か……何の用だい。私を、笑いに来たのかい」

 

 だから、此奴が現れたのも、そんな自分を嘲笑う為だと思っても、仕方ない。

 

「いいえ、そのような事は……貴方はジャンヌの剣として、あの方に仇成す匹夫を見事討ち取ったのです。賞賛こそすれ、嘲笑するなどと」

 

 あの黒い聖女の為に、剣を取っている訳ではない。あくまで自分の成し遂げたい本懐の為に剣を取って、戦っているにすぎない。だがそれでもこの男にとっては一向に構わないのだろうと思う。

 ただ僕が、彼女へと捧げるだけの戦果を挙げれば、それで良し。倒れても、手駒が無くなった程度にしか感じないだろう……

 

「その結果が……これだよ! こうして、床の……上を這いずりまわり……竜騎兵には、とても見えない。虫が、せいぜいさ……!」

「ふふ、虫と言うのはジャンヌに逆らう匹夫共の事……勘違いしてはいけません、セイバー」

 

 ――自分が狂っている、と言う自覚はある。狂気に身を預けてでも、自分が守るべきものを守りたかったから。後悔は、していない。

 だが、この男の狂気に比べれば。僕が身を預けている狂気など、まるで薄い。バーサークサーヴァントですらないというのに、精神を汚し、英霊とは思えぬ思考へと走らせるこの男の狂気。濃密と言うのも、足りぬほどに。

 

「……今や、その虫を、払うだけの……力だって、残っちゃいない、さ」

「であるならば! 虫たちを払う更なる力を、貴方に授けようではありませんか」

「――力?」

「そう! その体の火傷など気にならなくなる程の、全てを切り裂き、崩す程の! ジャンヌの剣として相応しい圧倒的、そして! COOOOOLな力を!」

 

 ――だがその狂気の化身は、何の気紛れかどうやら僕に手を差し伸べてくれるらしい。

 

「……竜の魔女の、さしがねかい?」

「いいえ、私の独断にございます。ジャンヌより了承は頂いていますが」

「だろうね。彼女が……僕などに、そんな気を向けるとは思えない」

「しかしジャンヌに必要な力でございます故……いかがか? バーサーク・セイバー。我が手を取っていただけますかな?」

 

 分かっている。

差し伸べられたこの手は、自分をさらに深みへと……この男と同等の狂気の渦へと自分を引き込む招待状だ。こんな物を手に取るなど、諜報員としては論外だろう……だが。

 

「――いいだろう。君の力を借りよう……力が手に入るというなら」

「ありがとうございます――シュヴァリエ・デオン。フランスの勇壮なる竜騎士の名に相応しい力を……」

 

 ――思いを遂げる為なら。折れた今、ここから立ち上がる為ならば。どんな悪意でも飲み干して見せよう。

 体に走る痛みに耐え、手を取って……そこで、僕の意識は闇へと堕ちた。

 

 

 

 目を覚ました時には、酷くすっきりとした心地だった。

 ベッドから起き上がる。体が軽い。気だるさも何もない。生まれ変わったような心地だ。アレだけの痛み、熱。それがまるで気にならず……いや、熱に至っては、それが心地よくすら感じる。そして、腹の底から湧いてくる、力。

 

「お目覚めですか、バーサーク・セイバー……いいえ、今はこう呼ぶのが正しいか。()()()()()()()()()! シュヴァリエ・デオン!」

 

 その声に、視線を向ける。キャスターが近寄ってくるのが見えた。

 それより、彼は自分を何と呼んだのだろうか。ドラグーン・セイバー?

 

「キャスター……ぼ……いや、私は、一体」

「ふふふ、我が配下の海魔の拾ってきた土産……かの女怪が引き剥がした邪竜の鱗! 一枚だけでも魔術礼装の触媒として極上の素材! それを用いて、貴方を改造したのですよ」

 

 改造。サーヴァントの、エーテルで編まれたサーヴァントを改造するなんて。そんな話聞いた事も無い。

 

「そんな事が……?」

「我が友の書き上げた邪本と、聖杯の力があれば不可能ではございません。現に、溢れかえっていませんかな。体の底から、力が!」

 

 しかし、キャスターの言う通りだ。

 自分の体の内に宿る、熱のような力を、僕は感じている。エーテルの体の中に、まるで火山でも発生したかのような。凄まじい熱だというのに、心地の良さすら感じるこの異常な感覚は。

 

「凄まじいな。まるで、生まれ変わったみたいだ」

「文字通り生まれ変わったのですよ。貴方の肉体を、飛竜種の体を以って体を以って作り変えました」

「飛竜種の?」

「腐っても竜種ですから。潤沢な魔力を孕んだ素材になり得る。そして、ファブニールの鱗を触媒とすれば、加工も可能です」

 

 ……要するに、壊れた僕の体に飛竜の体を詰め込んで直したという事か。それにしては、余りにも調子が良すぎるような気がしないでも無いが。

 

「――そして、()()()()()()()()()()()

「何?」

「幸運にも恵まれたのですよ……貴方の竜騎士としての逸話、貴方を焼いた焔、そして邪竜の鱗! 全てがまるで決まっていた事の様に相性が良かった!」

 

 その一言を聞いた瞬間、体が跳ねた気がした。

 いや、跳ねたのは体じゃない……心臓だ。霊核が、まるで喚起するかのように飛び跳ねたのだ。何かが埋まっている。何かが、取り込まれている。咄嗟に、服をはだけ左の胸を覗き込む。

 

「――これ、は」

「そう、貴方は()()()()()()()()()()()()()()()()()()! 胸を焼き続けていた焔と共に霊核へと染みこみ! 貴方はまさに、小規模な悪竜現象(ファブニール)と化した!」

 

 そこには……まるで、心臓を護る様に生えた、竜の鱗が。その鱗の色は確かに竜の魔女が使役しているファブニールの物。であれば、自分は本当に……いや、だが。その力を以てしても一つ、懸念は残る。

 

「流石にファブニールそのもの、とまでは参りませんが。それでも通常のサーヴァントなど及びもつかない程に、貴方は強化されました……」

「だが、それは……向こうにとっては福音となり得るんじゃないのか。ジークフリートとゲオルギウス。両者共に人類史に名高い竜殺しだぞ」

 

 彼らを相手取るなら、この竜の力の無い方が、寧ろ戦えるのではないのだろうか。

 

「その辺りは問題ありません……それだけではない、と申しましたでしょう? 少し、私流の小細工をしておりましてね……今の貴方には、竜殺しの力とて、さほど気にはならないでしょう」

「……どういう意味だ?」

「仔細は後程。今は、その体があらゆる英霊英傑など、ものともしない程の力を持っているとだけ! それだけを感じなさい!」

 

 ――左胸に手を当てる。その心臓から聞こえる鼓動。それが余りにも頼もしい。まるで、自分の物とは思えない程大きく、逞しい――もしキャスターの言う通りなら、これなら果たせなかった悲願を。僕が。

 あの女吸血鬼になど渡さない。彼女の……()()()()()()()()()は……この僕が、シュヴァリエとして!

 

「――ジル、終わったかしら?」

 

 竜の魔女! そうか、配下を改造したと聞いたのなら、見に来るくらいはするか……であればあの女吸血鬼に取られる前に!

 

「おぉジャンヌ! 整いましてございます……!」

「そう……あら、そこまで見た目は変わってないけど。感じるわ、アンタの内から溢れる竜の鼓動を。確かに、そこらのサーヴァントとは比べ物にならないでしょうね」

 

「――ジャンヌ・ダルク。お願いがある」

 

「……あら、私に跪くなんて随分と従順になったものね。バーサーク・セイバー?」

「王妃、マリー・アントワネットの首を私に任せて欲しい……あの吸血鬼になど渡したくない。私が、あの方の首を」

「良い感じに染まって来たじゃない……いいわ。あの女の首は任せます。念入りに、胴と首は斬り分けるのですよ?」

 

 言われずとも……王妃に無駄な苦しみを与える事はしない。一撃で仕留め、終わらせる。

 

「あぁ、それが終れば君の指揮に従ってフランスの全てを切り刻もう」

「――ふ、ふふふ。アンタ、大分キてるじゃないの。良いわ、ドラグーン・セイバー。その邪剣、私が貰い受けましょう」

 

 あぁ。構わないとも黒い聖女。君の指揮する飛竜などに、このフランスは傷つけさせはしないとも……僕が、この国に美しい最後を。麗しの白百合に、相応しい最後を。

 

「く、ふふふふぅははははははははっ!

 

 竜騎士。シュヴァリエ。デオン・ド・ボーモン。このフランスの為に、躍るとしよう。

 




この為に、この為に、幾つかの布石を撒いてきたんですよ……!

オルレアンやっててこれをめっちゃやりたかったです(アポクリ履修済み並感) 因みにジルは、聖杯さえあればこれくらいは出来るんじゃねーの? って判断の元書いてます。錬金術に傾倒したって逸話もある事ですし。

清姫ちゃんはどうなったかって? それは次回以降で。

追記:実際これ出来るのか、と言われると正直分かりません。あくまで独自の設定になりますので、タグに独自設定加えときますかね……?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。