FGORPG ノンケがエンジョイプレイ 作:秋の自由研究
――傷が疼く。
「はぁっ……はぁっ……ぐぅう」
唸り声を上げる事しかしかできない。呼吸するのも苦しい、予想だにしない痛打。東洋の伝説を舐めていた、としか言えない。竜騎兵と呼ばれた自分をここまで追い込むとは。胸に刻まれた火傷の痕を撫でながら、蠢く。
何よりも……魔術を用いた治療をもってしても回復しきれない程に、自分が疲弊している事、火傷に込められた執念が強い事。それが、驚愕するべき点だろう。
『貴方は嘘を吐いた……私たちを欺き、その上、
……そうだ。彼女、バーサーカーの実力は決して僕に及ぶ程のモノではなかったのに。決闘代理人として戦っていた僕から見れば、あまりにも稚拙で、弱々しい……筈なのに。そんな常識など容易く飛び越え、ここまでの手傷を。
あぁ、それはまさに。彼女の執念の賜物だろう。
「こ、んな、所で……寝てる訳には、いかない……! のにっ!」
折れてなどいない。決して、僕は諦めるつもりは無い……けど、体がピクリとも自分の思った通りに動かないのだ。徹底的に体を焼き、傷を負わせ。結果として彼女は見事、自分を無力化して見せた、という訳だ……なんとも、忌々しい。
――彼女が、ではない。自分の信念を貫く事すら出来ぬ、自分自身がだ。こうして与えられた部屋の一つの床で、藻掻くしかできない、自分が。
「負けた……んだ……彼、女の……思い、に僕の……」
僕に残っているのは、思い一つだ。たった一つ。あんな女吸血鬼に汚されてなるものか。そんな意地にも、いや、妄念と呼んでも良いだろう。しかし、そんな妄念は、彼女の執念に競り負けたのだ。
――動けないのはその所為かもしれない。
心で敗れる、というのはそういう事だ。体がどれだけ健康で、丈夫でも。結局は自分の心が折れているのなら、立ち上がれもしないのだ。
「――随分と手ひどくやられましたね。バーサーク・セイバー」
「キャスター、か……何の用だい。私を、笑いに来たのかい」
だから、此奴が現れたのも、そんな自分を嘲笑う為だと思っても、仕方ない。
「いいえ、そのような事は……貴方はジャンヌの剣として、あの方に仇成す匹夫を見事討ち取ったのです。賞賛こそすれ、嘲笑するなどと」
あの黒い聖女の為に、剣を取っている訳ではない。あくまで自分の成し遂げたい本懐の為に剣を取って、戦っているにすぎない。だがそれでもこの男にとっては一向に構わないのだろうと思う。
ただ僕が、彼女へと捧げるだけの戦果を挙げれば、それで良し。倒れても、手駒が無くなった程度にしか感じないだろう……
「その結果が……これだよ! こうして、床の……上を這いずりまわり……竜騎兵には、とても見えない。虫が、せいぜいさ……!」
「ふふ、虫と言うのはジャンヌに逆らう匹夫共の事……勘違いしてはいけません、セイバー」
――自分が狂っている、と言う自覚はある。狂気に身を預けてでも、自分が守るべきものを守りたかったから。後悔は、していない。
だが、この男の狂気に比べれば。僕が身を預けている狂気など、まるで薄い。バーサークサーヴァントですらないというのに、精神を汚し、英霊とは思えぬ思考へと走らせるこの男の狂気。濃密と言うのも、足りぬほどに。
「……今や、その虫を、払うだけの……力だって、残っちゃいない、さ」
「であるならば! 虫たちを払う更なる力を、貴方に授けようではありませんか」
「――力?」
「そう! その体の火傷など気にならなくなる程の、全てを切り裂き、崩す程の! ジャンヌの剣として相応しい圧倒的、そして! COOOOOLな力を!」
――だがその狂気の化身は、何の気紛れかどうやら僕に手を差し伸べてくれるらしい。
「……竜の魔女の、さしがねかい?」
「いいえ、私の独断にございます。ジャンヌより了承は頂いていますが」
「だろうね。彼女が……僕などに、そんな気を向けるとは思えない」
「しかしジャンヌに必要な力でございます故……いかがか? バーサーク・セイバー。我が手を取っていただけますかな?」
分かっている。
差し伸べられたこの手は、自分をさらに深みへと……この男と同等の狂気の渦へと自分を引き込む招待状だ。こんな物を手に取るなど、諜報員としては論外だろう……だが。
「――いいだろう。君の力を借りよう……力が手に入るというなら」
「ありがとうございます――シュヴァリエ・デオン。フランスの勇壮なる竜騎士の名に相応しい力を……」
――思いを遂げる為なら。折れた今、ここから立ち上がる為ならば。どんな悪意でも飲み干して見せよう。
体に走る痛みに耐え、手を取って……そこで、僕の意識は闇へと堕ちた。
目を覚ました時には、酷くすっきりとした心地だった。
ベッドから起き上がる。体が軽い。気だるさも何もない。生まれ変わったような心地だ。アレだけの痛み、熱。それがまるで気にならず……いや、熱に至っては、それが心地よくすら感じる。そして、腹の底から湧いてくる、力。
「お目覚めですか、バーサーク・セイバー……いいえ、今はこう呼ぶのが正しいか。
その声に、視線を向ける。キャスターが近寄ってくるのが見えた。
それより、彼は自分を何と呼んだのだろうか。ドラグーン・セイバー?
「キャスター……ぼ……いや、私は、一体」
「ふふふ、我が配下の海魔の拾ってきた土産……かの女怪が引き剥がした邪竜の鱗! 一枚だけでも魔術礼装の触媒として極上の素材! それを用いて、貴方を改造したのですよ」
改造。サーヴァントの、エーテルで編まれたサーヴァントを改造するなんて。そんな話聞いた事も無い。
「そんな事が……?」
「我が友の書き上げた邪本と、聖杯の力があれば不可能ではございません。現に、溢れかえっていませんかな。体の底から、力が!」
しかし、キャスターの言う通りだ。
自分の体の内に宿る、熱のような力を、僕は感じている。エーテルの体の中に、まるで火山でも発生したかのような。凄まじい熱だというのに、心地の良さすら感じるこの異常な感覚は。
「凄まじいな。まるで、生まれ変わったみたいだ」
「文字通り生まれ変わったのですよ。貴方の肉体を、飛竜種の体を以って体を以って作り変えました」
「飛竜種の?」
「腐っても竜種ですから。潤沢な魔力を孕んだ素材になり得る。そして、ファブニールの鱗を触媒とすれば、加工も可能です」
……要するに、壊れた僕の体に飛竜の体を詰め込んで直したという事か。それにしては、余りにも調子が良すぎるような気がしないでも無いが。
「――そして、
「何?」
「幸運にも恵まれたのですよ……貴方の竜騎士としての逸話、貴方を焼いた焔、そして邪竜の鱗! 全てがまるで決まっていた事の様に相性が良かった!」
その一言を聞いた瞬間、体が跳ねた気がした。
いや、跳ねたのは体じゃない……心臓だ。霊核が、まるで喚起するかのように飛び跳ねたのだ。何かが埋まっている。何かが、取り込まれている。咄嗟に、服をはだけ左の胸を覗き込む。
「――これ、は」
「そう、貴方は
そこには……まるで、心臓を護る様に生えた、竜の鱗が。その鱗の色は確かに竜の魔女が使役しているファブニールの物。であれば、自分は本当に……いや、だが。その力を以てしても一つ、懸念は残る。
「流石にファブニールそのもの、とまでは参りませんが。それでも通常のサーヴァントなど及びもつかない程に、貴方は強化されました……」
「だが、それは……向こうにとっては福音となり得るんじゃないのか。ジークフリートとゲオルギウス。両者共に人類史に名高い竜殺しだぞ」
彼らを相手取るなら、この竜の力の無い方が、寧ろ戦えるのではないのだろうか。
「その辺りは問題ありません……それだけではない、と申しましたでしょう? 少し、私流の小細工をしておりましてね……今の貴方には、竜殺しの力とて、さほど気にはならないでしょう」
「……どういう意味だ?」
「仔細は後程。今は、その体があらゆる英霊英傑など、ものともしない程の力を持っているとだけ! それだけを感じなさい!」
――左胸に手を当てる。その心臓から聞こえる鼓動。それが余りにも頼もしい。まるで、自分の物とは思えない程大きく、逞しい――もしキャスターの言う通りなら、これなら果たせなかった悲願を。僕が。
あの女吸血鬼になど渡さない。彼女の……
「――ジル、終わったかしら?」
竜の魔女! そうか、配下を改造したと聞いたのなら、見に来るくらいはするか……であればあの女吸血鬼に取られる前に!
「おぉジャンヌ! 整いましてございます……!」
「そう……あら、そこまで見た目は変わってないけど。感じるわ、アンタの内から溢れる竜の鼓動を。確かに、そこらのサーヴァントとは比べ物にならないでしょうね」
「――ジャンヌ・ダルク。お願いがある」
「……あら、私に跪くなんて随分と従順になったものね。バーサーク・セイバー?」
「王妃、マリー・アントワネットの首を私に任せて欲しい……あの吸血鬼になど渡したくない。私が、あの方の首を」
「良い感じに染まって来たじゃない……いいわ。あの女の首は任せます。念入りに、胴と首は斬り分けるのですよ?」
言われずとも……王妃に無駄な苦しみを与える事はしない。一撃で仕留め、終わらせる。
「あぁ、それが終れば君の指揮に従ってフランスの全てを切り刻もう」
「――ふ、ふふふ。アンタ、大分キてるじゃないの。良いわ、ドラグーン・セイバー。その邪剣、私が貰い受けましょう」
あぁ。構わないとも黒い聖女。君の指揮する飛竜などに、このフランスは傷つけさせはしないとも……僕が、この国に美しい最後を。麗しの白百合に、相応しい最後を。
「く、ふふふふぅ、ははははははははっ!」
竜騎士。シュヴァリエ。デオン・ド・ボーモン。このフランスの為に、躍るとしよう。
この為に、この為に、幾つかの布石を撒いてきたんですよ……!
オルレアンやっててこれをめっちゃやりたかったです(アポクリ履修済み並感) 因みにジルは、聖杯さえあればこれくらいは出来るんじゃねーの? って判断の元書いてます。錬金術に傾倒したって逸話もある事ですし。
清姫ちゃんはどうなったかって? それは次回以降で。
追記:実際これ出来るのか、と言われると正直分かりません。あくまで独自の設定になりますので、タグに独自設定加えときますかね……?