FGORPG ノンケがエンジョイプレイ   作:秋の自由研究

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難産やった……後で気に入らない箇所修正するかもしれん。


藤丸視点:アンタは一体誰なんだ

 ――響く、何かの破壊音。感じる、地響き。後ろの激闘は、想像を遥かに超えて過酷なのだろう。それでも、俺達は決して振り返らず、走る。

 

「ドクター! この先に反応は!?」

『あるよ! 間違いなく、竜の魔女、黒いジャンヌ・ダルクの反応だろう!』

 

 その言葉に、拳をぎゅっと握る。いよいよ、この特異点も大詰めだ。彼女を打ち倒し聖杯を回収する。そのゴールに、手をかけているのだ。

 

「そうですか……マシュ、調子はどう。いけそう?」

「はい、戦闘行動に一切の支障はありません。全力戦闘、行けます」

 

 特異点での長い闘い。疲れが出ていないかと言う心配は、どうやら杞憂で終わってくれたらしい。幾らマシュが頼りになる後輩とはいえ、疲れているのに戦わせるのは嫌だ。無理だと分かっていても、休んで欲しいと思ってしまう。元気なら、それに越した事はない。

 

「香子さんは? 問題ないか?」

「はい。大丈夫です。マスター。ご心配、ありがとうございます」

「全員大丈夫そうですね……黒い私の実力は未知数です。くれぐれも用心を」

 

 この先に居る存在は決して、弱いという事は無いだろう。このフランスを亡ぼしたのは紛れも無く、あの黒い彼女に他ならない。もしかしたら、あのファブニールよりも、強いかもしれない。

 

「なんだ、ビビってるのか立香」

「……お前はどうなんだよ康友」

「正直、ビビってないと言えば嘘になる」

「まぁ、だろうな。俺もそうだし」

 

 そんな心はどうやら友人にあっさり見抜かれていたらしい。まぁ、友人も似たようなことを考えているっぽいから、分かるのも当然だろう。

 

「ただ、言いたい事は言うつもりではいる。ここでチキったら漢じゃねぇ」

「お、言うじゃんか。まぁさっきのは予行演習みたいなもんだしな」

 

 ……なんか、マシュやジャンヌさんから凄い物を見る目で見られている。何故だろう。あれ、どうして皆止まるの? 急がないと駄目でしょう。

 

「あの、マスター。言うってまさか」

「さっきのジルに言ったようなことを……?」

「え、はい。そうですけど……その、えっと。何かおかしいですかね?」

 

 隣の康友と目を合わせ、首を傾げた。先頭のジャンヌさんが若干頬を引きつらせ、マシュが悲しそうな顔しているのが、なんだろう、とても辛い。特に後者。俺、何かマズい事を言ったのだろうか

 

「香子さん、俺達なんか可笑しなこと言ってますかね」

「ま、マスター? その、ご自覚がない、とかでしょうか……!?」

 

 康友も完全に慌てている。完全に俺達二人が何かしでかしたのは間違いないようで。それをそのままにしておけないからこそ……こうやって止まった。この状況で止まる程の事を俺達が言った、又はやったという事だが。

 

「……なぁ、康友。なんか思いついたか?」

「マジで身に覚えがないんだけど。え? 俺ら余程の事したよなコレ」

「うん。絶対俺らが悪いと思う……け、けど覚えのない事で謝るのって不誠実じゃ」

「バッカお前、悪いと思ったらまず謝るんだよ、基本だろ!」

 

 正直、余りにも座りが悪いというか、空気に潰されそうというか、兎に角男子二人で固まって会議。一刻も早くこの状況を打開しないとマズイのだが、お互い出るのは不毛どころか余計に火に油を注ぐような意見だけだ。

 

「……あの、マスター」

「ま、マシュ……その、えっと……俺は」

「マスターの個人の意見があるのは、その。良く分かります……私も、此方のジャンヌさんが本物だと、その……思っています、けど」

 

 ……本物? 本物……んん……あ、成程! 閃いた! 閃いたっていうか、漸く分かった何に怒ってるのか!

 

「あー、そっかそっか……言い方がちょっとマズかったのかな」

「……え?」

「大丈夫だよマシュ、ジャンヌ。詳しくは時間無いから言わないけど、少なくともそういう意味じゃ言ってない。うん。取り敢えず、信じて欲しい」

 

 でも、止めてでも真意を聞こうとした理由が分かった。確かに聞いておきたいわなぁ、下手すりゃ俺達二人揃って外道扱いだった……確かに、言い方をちょっとでも考えておくべきだったか。

 

「なんだよ立香、分かったのか、俺らが怒られた理由」

「まぁなぁ。誤解だったけど、誤解じゃなかったというか。うん」

 

 しかし、言葉とは難しいもんだ。俺が思ってもいないような意味に取られちゃう。コミュニケーション能力を、カルデアに居る間に養った方が良いだろうか。

 

「……えっと」

「本当に、分かって言るんでしょうか」

「うん……俺達は、彼女の存在を否定したいわけでは、ないからね」

 

 

 

「――あぁ、来ましたか。全く、殆どを失った癖に諦めの悪さだけは残るだなんて、なんとも滑稽な事です。『私』自身の事とはいえ、度し難い」

 

 ――予想は、外れていたと言える。

 

『いや……突入する直前増えるとか、無しだろう普通に』

「ドクター・ロマニ。言っている場合ではありません。状況の解析を」

『いや解析しなくても分かるよ……シャドウサーヴァント! それも相当な数を取り揃えてあると来た! 全く、最後の最後までたっぷりと戦力があるね!』

 

 黒いジャンヌ・ダルクが待ち構えているとばかり思っていたその場所……恐らくは玉座の間だろうか。そこに居並ぶ黒い影。居るわ居るわ、間違いなくこっちに味方についてくれているサーヴァントと同数は居るだろう。

 

「ですが、手遅れです。流石にサーヴァントの再召喚までは叶いませんでしたが。それでもこれだけの数のシャドウサーヴァントを、相手に出来ると思っていて?」

「……勝てるか勝てないかは問題ではありません。しかし、戦う前に一つだけ、貴女に訊きたい事があります……マリーと、ジルのお陰で、思いついた、一つを」

 

 その奥で笑う黒いジャンヌに向けて、ジャンヌ・ダルクは毅然と立った。

 

「……今さら何を」

「至極簡単な問いかけです。貴方は、自分の家族の事を覚えていますか」

 

 そして問いかけたのは……なんとも、当たり前の質問だった。

 家族を覚えているか。そんな物、誰でも当たり前に答えられるだろう。特別な境遇の人間でも無ければ、良い記憶であれ、嫌な記憶であれ、家族というモノは記憶に刻まれているものだろう。

 

「……ジャンヌさん?」

「どういう意味だ? あれ」

「分からん……だが、無意味な問いかけじゃあないらしい」

 

 今、明らかに黒いジャンヌは……身じろぎをした。いや、動揺した、と言う方が正しいのだろうか。あの問いかけが、確実に彼女を揺らがしたのだ。

 

「私は、あくまで田舎娘。戦場に立ち、その記憶が鮮烈であったとしても……私の中に残る記憶の大部分は、長閑な、平和な村で過ごした、なんて事の無い、それでも、暖かな思い出で占められている。ジャンヌ・ダルクとして必要なものです」

「……そ、れは」

「いいえ、その思いが忘れ得ないからこそ……この国の裏切りに、憎悪し、絶望し、そして何よりも、憤怒する事が、出来る筈なのです」

「……っ!」

「記憶が、ないのですね……」

 

 それは至極当たり前の帰結だった。じゃあどうして。彼女はここまで戦うことが出来るのだろうか。燃料が無い車が、走っているようなものだ。

 

「そんな、そんなもの! 関係ない!」

「……」

「そんな記憶があろうと、なかろうと! 私が、ジャンヌ・ダルクである事に……!」

 

 ――あぁでも、そんな疑問は今は気にしなくていい。それだけは見過ごせない。

 

「いいや、違うね」

「そうだ。違う。そこだけは否定させてもらう」

 

 ジャンヌの横に、ずずぃっと。ビックリしてるようだが、ここは。言いたい事はしっかり言いたいタチなんで。

 

「――何?」

「何度も言うが、絶対違うだろ、それは。さっきもそうだ。アンタはずっとこのジャンヌ・ダルクを見てそれを言ってた……アンタは、自分はこの人だって、そう言ってる感じがした」

「つーか間違いなくそう言ってたと思うんだよな……だよな?」

 

 そりゃあ、違うだろうよ。

 

「え、っと……?」

「そ、それがどうしたっていうのよ……その女は、絞り粕のようなものとはいえ、私が捨てた、とはいえ」

「違う。絶対にだ。アンタはこの人じゃない。この人は、アンタじゃないだろう」

 

 黒いジャンヌが目を見開く。

 どうにもしっくりこなかった。黒いジャンヌが本物とか、偽物とか。そういう話も。当人が自分をジャンヌ・ダルクと名乗った時も。まぁ、百歩譲って、同名なのは良いとしてもまるで誰も彼も、ジャンヌと彼女が同一人物みたいに。

 

「っ、本質は同じだって話をしているというのに! 私もソイツも、サーヴァントでしょうが! 同じジャンヌ・ダルクから分かれた、同じ! 」

「違う! アンタもジャンヌも! 独立した一人の人間だろうが! サーヴァントだろうが何だろうが関係ない! 本質が一緒なんて、有り得てたまるか!」

「記憶がないって時点で大分違いあるって突っ込むのは野暮なのかコレ」

 

 記憶がないとかは、正直あんまり気にはならないと思う。記憶が無くても、全然黒いジャンヌは話せてるし、問題は無い。一人の人格を、ちゃんと持っている様に見えるんだ。だからこそ!

 

「どれだけ似て居ようと、全く同じ人物なんざこの世には存在しない! ましてやアンタらは似てる所だって少ないってのに! 偽物本物以前に、()()()()()()()()()()()()()!」

「……!」

 

 マシュの言葉は、そもそも彼らが共にジャンヌ・ダルクである。という事を前提にしている。それは違う。違うのだ。誰かの偽物、を名乗る事は出来る。だが、全く同じ『偽物』になる事なんて、人間の誰にも出来ない。

 

「ま、その辺りは同感。アンタもジル・ド・レェも、アンタをジャンヌと同じだって言ってたけどな……結局の所、自分は自分だ。他の誰でもないんだ。元が同じだって、別れた時点で別人だろ」

「わ、私は……私は」

「なぁ、教えてくれよ。アンタは何者なんだ。『ジャンヌ・ダルク』じゃないだろう、アンタは。一体、誰なんだ?」

 

 彼女は、絶対にジャンヌとは違う、独立した人格を持った、別人なんだ。だったらそこを聞かないと、納得なんて出来る気がしない。

 

「――名乗っているはずです。黒い私。もう既に」

「っ!」

 

 え? そうだっけ? 聞き覚えが無いんだけども……聞き逃してたとかか!? 康友お前どう!? あ、お前も覚えはない……やべぇ、俺達スゲェ失礼なことしちゃってる!?

 

「貴女は手ずからこのフランスを亡ぼすと言った。貴方はこのフランスに、名を名乗って宣戦布告をしたはずです」

「――」

「記憶など、関係ないと。貴方は言いました。貴女には、記憶が無くとも、このフランスを燃やすだけの心がある!」

「かん、けい……えぇ、そうよ! 記憶の有無なんて関係ない!」

 

「私はフランスを亡ぼす者! 復讐者! 竜の魔女! ジャンヌ・ダルク! 名前が被っていようと、()()()()()()()()()()()! これで満足かしら、カルデアのマスター!」

 

 ――あぁ! 上等!

 アンタが何者かは分かった。どうして喧嘩するのかも、ハッキリ見えた!

 

「――おうよ! アンタがどんな人間かは分かった!」

「なら、アンタからフランスを守らないとな! 俺達はカルデアのマスターの!」

「藤丸立香と!」

「本造院康友だ!」

 




他の皆:(同一だが性質の違う)ジャンヌ・ダルク
ホモ君と藤丸君:(名前だけ同じで全く別人の)ジャンヌ・ダルク

オルタは別人。本人がオルタを本人だと言おうが、ホモ君達は『いや別人やろ』と普通に言います。別名『絶対同一人物許さないマン」

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