FGORPG ノンケがエンジョイプレイ 作:秋の自由研究
「――そもそも、私は贋作の類では無い」
一閃が、空間を断つ。長い刃渡りの剣は、圧倒的なリーチを誇る。リーチにおいてアドバンテージを誇る筈の突きと、全く互角に張り合う程に。それが、まるでつむじ風の如く連続で襲い来る。全て掻い潜って、突きを通すのは相当に難しいのは、ここまでの攻防で嫌という程理解できている。
「へぇ!」
「キャスターめが、万が一の時の為に……召喚しておいた、護衛役だ」
「……つまり君はっ! 正規の英雄という事かい!」
「そうだな。此方の贋作英霊は、タネが割れれば、その弱みを突かれかねぬからなぁ」
それ故に、彼が贋作の英霊で無いという事実など、大した問題では無かった。
たとえ贋作であろうと真作であろうと、彼に今、自分が気おされている事実は変わらないのだからと。デオンの手に無駄な力が籠りそうになって……一呼吸入れて、無駄な力を抜いて、再び視線を向ける。
「しっ!」
「まぁそれ故に……他の六人を相手取ってなお、負けぬ程度の実力を求められた訳なのだが。護衛役として召喚されて、良かったと思っている」
斬撃の嵐を掻い潜って漸く突き出した剣も、相手の振る刀に弾かれて……構える事すらなく、小次郎は肩に剣を担ぎ、此方と相対する。突き出した剣の切っ先を、的確に、かつ一撃で確実に弾くのは、どれ程困難なのか。想像するだけ馬鹿らしかった。
「くくっ、槍とも剣とも違う、この鋭い突き。こんな面白い技の使い手と、存分に死合うことが出来るのだから」
「面白がっているとは、余裕だな! 佐々木小次郎!」
「余裕などないとも……今こうして、凌いでいる間は常に、全力だ!」
自分の剣は、無数の決闘の代理人として鍛え上げたものだ。対人戦であれば、人一倍、いや人より数倍は長けている。しかしながらその腕をもってして、目の前の相手に剣を突き立てる事は出来ていない――それがなぜか、デオンにはいやという程理解できていた。
「そこだっ!」
「――遅いな」
小次郎と自分の技量には、恐ろしいほどに隔絶した差がある。自分の方が剣の重さや速さでは勝っている筈なのに、たった一つ、その剣の上手さだけであらゆる不利を覆して余りある程に。
技量に置いて、この英傑以上の相手というのはどれだけいるのか……そもそも存在し得ないのではないか、とすら思う。
「全くこれほどの技量とはね。接近戦の花形、セイバーの立場が無い!」
「巧さは拙者の
言葉を交わす間にも、二、三度程、相手の霊核や利き腕を潰そうと突きを繰り出したが、その悉くは打ち落とされている。どころか、一手を繰り出せば必ず的確なカウンターを返してくるのだから、シャレにならない。
「しかしセイバー、お主の技量は実に見事……フッ!」
「っく、嫌味かい!?」
「いいや、私の知っているセイバーと比べても、人を相手取った、そうさな……決闘の腕に限れば間違いなく上だろう」
その一言の直後、振り下ろされた全力の袈裟切りを一歩下がって何とか避けるが、それでも僅かに避け切れず、一歩届かない。生前の決闘の何れと比べても、緊張感は段違いと言えるだろう。
「しかしながら、それだけの腕を持ちながらも、先程からどうしようも無く、後一歩を踏み込んでは来ないなぁ。セイバー」
「……嫌な感覚がするからね」
最悪の予感がするのだ。
相手に決め技がある事など、サーヴァントが相手なら当然だろう。それを恐れて踏み込まないなど、それこそ愚行……なのだが。それは理解できている。故に、今まで、デオンは様子を伺う事に徹して来た
「そうなれば……どうするセイバー。このまま終わらぬ舞踏に興じるつもりか?」
「……いいや、そんなつもりは無いよ。そろそろ此方も仕掛ける積りさ」
デオンが見に徹し、分かったのは相手の技量だけではない。自分が相手より優っている部分もキッチリと分析していたのだ。
「ここまで対人戦の素人に翻弄されたとなれば、決闘代理人の面目丸つぶれだからね」
「――ほう? 私が、か」
「違うのかい?」
「いいや、お主相手に隠し立ては不可能と見た……如何にも、この佐々木小次郎、決闘の経験など、皆無に等しい」
それは、相手は一騎打ち、というより実戦の素人であるという事。驚くべきは、彼は実戦の経験など皆無に等しいというのに、その技量だけでその経験すら埋めている。
……のだが、それ故にか、技量による鋭く、正確な反撃や、必殺の斬撃などは目を見張るなどという言葉ですら足りない程。だが、その分経験則に裏打ちされた、無骨な人間業などは技の冴えに反し酷く少ない。歪だ。
「その点において、私は貴方より長じていると言える」
「で、あろうなぁ。其方の動きは正に人を相手取るのに最適化され……此方とは比べるべくもない程の高み。決闘の職人、と呼ぶべきだろう」
故に、その部分を押し付けて、勝利を掴む為に……デオンは覚悟を決めて一歩を踏み出した。そのデオンの動きに合わせ、小次郎が、初めて構えを取った。
「……それに勝ったとあれば、私に取ってはこれ以上なき誉れであろうな」
「それは僕も同じさ。マスターの祖国の剣聖との決闘で勝利を掴んだとなれば、マスターに捧げる勝利としては最上の物になるだろう」
一歩ずつ、一歩ずつ……距離を詰め。小次郎の得物、物干し竿の間合い。その僅か外にてデオンはその足を止めた。ここから先は、死のエリアだ。
「覚悟は良いか、セイバー」
「あぁ、行くぞ。佐々木小次郎」
互いの呼吸が重なる……小次郎の切っ先はブレず、デオンを狙っている。デオンの視線が小次郎の一挙手一投足を見逃すまいと、注がれている。
呼吸が五つ。
「――」
踏み出したのは、デオンだった。今までと違う……ジークフリート戦で見せた、無駄の無いゆらりとした足取り。それを見た小次郎の眼が細められる。
「王家の百合よ、永遠なれ……『
相手を幻惑する、デオンの必殺の宝具。小次郎の剣をすり抜け、一気に叩き切るつもりなのか……だが、その宝具を前に、小次郎はにやりと笑う。
小次郎の眼は、相手を幻惑しようとするデオンの姿を決して逃がさない。
「……燕の如く、すり抜けようと言うか。だが私の剣は生憎と……その類の敵を打ち倒す為に生涯をかけて編み出したのだ」
一歩、二歩……三歩目で緩急をつけてデオンが駆けだす。真っ直ぐに、貫く為に。だがその動きを小次郎は見逃していないだろう。全力の、全霊の一撃を、放つ構えだ。
「秘剣……『燕返し』」
振り下ろされる剣。現れる全く同時の三つの斬撃。予想を遥かに超えた光景に目を見開くデオン。
衝撃。その直後にデオンの体に、三つの剣閃が走り、小次郎は、剣を振り切ったまま、止まっていた……その霊核を、刺突の一撃で貫かれて。
「……成程、避ける為では無く」
「タイミングを……誤魔化す、為の、宝具だ」
「そもそも、打たせる前に、貫く……か。やられたよ」
小次郎の眼が見ていたのは、
「全く、成程。実戦ではこの様な摩訶不思議な決着もあると……学ばせてもらった」
「いいや……僕も、凄まじい物を見せて貰ったよ。三撃同時の、剣なんて、ね。授業料には、十分さ」
「言ってくれる……」
何とか立っているデオンの前に崩れ落ち、黄金の光となって消えてく小次郎。そしてその直後、隣にデオンも倒れ込んだ。小次郎が限界だったのと同じくデオンも、洒落にもならない被害を受けている。一撃受ける覚悟で踏み込んだとはいえ、一撃どころか三撃貰ったのだ。予想を遥かに超えたダメージを頂いてしまって、流石にもう立てない。
「全く……決闘でここまでの傷を負った事は無かったんだけど……恐るべき、だね。佐々木小次郎……」
剣聖、と呼ばれているのは伊達では無かった。セイバーとしての、面目だけはギリギリで保てただろうか……少しは、オルレアンでの恩も返せただろうか。
「マスターは……あぁ」
遠くを見れば、マスター二人がジャンヌ・オルタに上から奇襲を仕掛け……雑に払われていた。思わず『あのマスターいっぺん全力でシバキ回した方がいいのではないのだろうか』と思ってしまう。しかし、雑に払っただけとはいえサーヴァントの攻撃を受けて、殆ど傷らしい傷を負ってないのは、見事だと思ってしまう。
「……やはり、あの角が、力の原因なのかな」
その額から生えた角がどのような由来のものかは分からないが、そのパワーアップの能力は本物。とはいえ……
「アレ、明らかに良いもの、じゃない、と思うんだけど」
魔術や、別の理に関する事にそこまで詳しくないデオンではあるが、それでもアレが無条件にいい影響を与えてくれるとはあまり思えない。彼のキャスター、紫式部はその辺りを考えているのだろうか。
それとも……と、そこで思考は止まってしまい……強敵を倒したその余韻に浸り、デオンはゆっくりと瞳を閉じた。
Q:回避無効の小次郎にどうやってデオン君ちゃんは立ち向かうんですか?
A:避けずに先に殺せばいいのだ!