大悪魔の農場   作:逆真

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アインズsideの話は原作三巻まで同じ。
陽光聖典は任務に失敗するし、バレアレ家は神の血に興奮するし、森の賢王はハムスケと名付けられるし、漆黒の剣は全滅するし、クレマンティーヌは抱き殺されるし、死の宝珠は飴玉扱いになるし、ブレインは心が折れるし、シャルティアは洗脳されるし、漆黒聖典は任務に失敗するし、ツアー(リモコン鎧)は洗脳状態のシャルティアと一戦交えるし、パンドラズ・アクターは敬礼とドイツ語を禁止されるし、アインズはシャルティアを殺すし、復活したシャルティアは「胸がなくなっていんす!」とか宣うよ。


接触3

 ネハンがミシェルの頭上に隕石を落とした日の昼過ぎ、聖王国城壁中央部拠点。

 

 城壁の一角に仁王立ちし、遠方にそびえ立つ謎の巨大建造物――ホシゾラ立体農場を睨みつける女性の姿があった。

 

 つい先程到着した聖騎士団団長レメディオス・カストディオだ。整った顔立ちをしているものの、目に宿る鋭い光が冷たい印象を与える。歴代聖騎士団長の中でも最強とまで言われる程の実力者で、九色の白を戴く。歴代聖騎士団長が着用してきた由緒正しい魔法の装備である銀の全身鎧と白のサーコートで身を包み、かの高名な聖剣サファリシアを佩いている。

 

 その隣にはレメディオスの妹であり神殿の最高司祭のケラルト・カストディオが並ぶ。姉と似ているが、どことなく腹黒な雰囲気の女性だ。レメディオスとケラルトは二人で聖王女の両翼と呼ばれる存在だ。

 

 更にその後ろには聖騎士団副団長のひとり、九色の桃色を戴くイサンドロ・サンチェスが控えている。もうひとりの副団長、グスターボ・モンタニェスはなく、首都ホバンスにて団長の代理を務めている。

 

 そして、この城壁を任されている将軍と参謀の姿もあった。砦に所属する九色のオルランド・カンパーノやパベル・バラハもいる。

 

 この場に来た誰もが遠くに見える建造物に圧倒されていた。しかし、やがて彼らは視線の先を変える。建造物ではなく、城壁から四百メートルほど先の平野入口に向けられた。

 

 その一画では、巨大な熱の塊が落ちたように全てが焼き払われた。ような、ではなく本当に落ちてきたのだ。天から巨大な隕石が。つまり、あれは俗に言うクレーターだ。

 

「――それで、もう一度確認させてもらっていいか?」

 

 レメディオスが問う。隕石の落下跡を未だに信じられないような目で見つめながら。

 

 参謀が苦しみを吐き出すように答える。

 

「貴女がたが来られる少し前になります。あの場所に巨大な光と熱を持った塊――隕石が落下しました。あの場所にはちょうど、あそこに見える『ホシゾラ立体農場』なる場所の住人らしき少女と竜がいました」

「何? 竜がいたのか? それに、少女とは何のことだ?」

 

 レメディオスが怪訝な声を上げると、隣に立っていたケラルトが指で己のこめかみをぐりぐりする。

 

「……姉様。その話は今朝もしたはずですが?」

「ん? そうだったか?」

 

 とぼけた顔をする姉を見て、これはいつものように右から左に流したか、他の情報に押し出されたのだと理解する。視線をちらりと向けてみれば、イサンドロやパベルが苦い顔をしている。自分も同じ顔をしているとケラルトは鏡を見なくても分かる。行動が粗暴なことで有名なオルランドでさえ呆れ顔だ。

 

 レメディオスが頭を使わないことは理解しているが、流石にこの情報はちゃんと聞いているのだと思っていた。

 

 事情を察した参謀が説明する。

 

「この一週間、あの場所には一人の少女と七体の竜が居座っていました。竜はいずれも巨大で、我々の知識にはない姿で、この距離でもすくみ上ってしまうような威容を放っていました。……竜王とはああいう存在なのだろうと言うほどの強さを肌で感じていましたよ」

「あの場所の住人は竜をそれほど使役しているのか? それで、竜を使って城壁に攻撃を仕掛けてきたのか?」

「いいえ。あの辺りの場所に居座っているだけで、何をしてくるわけでもありませんでした。おそらく理由は牽制のためであったと考えられています。実際、我々は中央とも中々連携が取れないこともあって動けませんでしたから」

 

 参謀からの言葉は中央の対応の遅さに対する批難も込められていたが、ケラルトたちはともかくレメディオスには通じなかった。通じたとしても、それは自分の仕事ではないと責任を感じない女ではあるが。

 

「時折、ここまで届く咆哮を上げるのには参りましたが、距離もあるので兵士たちも二三日で慣れてしまいましたね。使役している少女に、飼い犬のような仕草でじゃれついていたのもありますが」

「竜が、飼い犬のように……?」

 

 大陸最強の生物と名高い竜が飼い犬のように人間にじゃれつくなど想像できない光景だ。

 

「ん? あの塔もどきの住人は亜人だと聞いていたが、その少女も亜人なのか?」

「亜人あるいは人間だと思われていました。今日までは」

 

 今日までは人間だと思われていたということは、実際は違う可能性が出たわけだ。そして、今日ということは隕石が関係している。

 

「あの場所に巨大な熱の岩が落ちた後、彼女たちは無事だったのです。突然の熱と光に驚愕している我々の視線の先には、白い翼を広げて飛ぶ少女の姿がありました。強大な竜たちを連れて、上空に舞い上がったのです」

 

 あれは神話の光景だった。

 

 竜ならば納得する。最強の生物だ。隕石がどれだけ強力でも死なない個体はあるだろう。しかし、それが人間の少女に近い形をしている生物が耐えたのだ。多少の怪我はしていたようだったが、すぐに上空へ飛んだことを考えると致命傷にはなっていなかったと見るべきだ。あのような地形を破壊するような一撃を受けて動けるという事実は、農場や竜の存在に慣れ始めていた兵士たちに衝撃を与えた。

 

 あの様子から天空には隕石を落とした存在がいて、彼女はそれを撃退するために上空に飛んだことになる。かなりの高度であったようで、地上からは戦闘が起きたのかさえ分からなかった。巨大な竜たちが一か所に集まっていたため、大雑把な位置は分かったが。

 

 現在、上空にも地上にも竜たちの姿はない。少女とともにどこかに消えてしまったのだ。おそらくはあの農場に帰ったのだろう。

 

「思えば、初日の朝にもいたのです。竜を従える少女とは別の、翼を持った少女が」

 

 厳密には、白い翼を持った毛玉もいたのだが、あれについては正体が依然として見当がつかないため省略した。

 

「あの時は亜人だと思っていました。私だけではなく兵士の多くもそう思ったはずです。しかし、今日考えが変わりました。あの光景を目撃した兵士たちの多くも同じはずです。彼女は、彼女たちは天使なのだと」

 

 隠しようのない興奮を交えて、彼は言う。

 

「故に、こんな考えが頭から離れないのです。――――あそこには、神がいるのかもしれない、と」

 

 

 

 

 

 

 この世界において、人類の未来は決して明るいとは言えない。

 

 周辺国家で最もその現状を正しく認識し、改善に努めているのはスレイン法国で間違いない。六百年前に人類を絶滅の危機から救ったとされる六大神を信奉し、周辺国家最強の国力を誇る。一般には知られていないが、秘密工作部隊『六色聖典』は他国の権力者から非常に恐れられているのだ。

 

 逆に人類の危機を認識していないのは、リ・エスティーゼ王国だろう。豊かな土地でありながら、その豊かさ故に貴族たちは腐敗し権力争いをしている。良識派の貴族もいないことはないが、多くの貴族は民を重い税で苦しめている。犯罪結社『八本指』は政治の内部にまで毒牙を伸ばし、彼らの売買する薬物は他国に甚大な被害を与えているのだ。

 

 周辺国家の平穏のため、そして人類を守るために、スレイン法国はリ・エスティーゼ王国を切り捨てる道を選んだ。具体的には、発展に目覚ましいバハルス帝国に吸収させるのだ。政治的な事情により、法国は王国を吸収するのは難しいため、それが最善であるとされた。

 

 その計画の一環として、周辺国家最強の戦士、現国王直属の部下である戦士長ガゼフ・ストロノーフを暗殺することが決定された。振り返れば、この暗殺計画から何かが狂い始めた。

 

 戦士長ほどの男を暗殺する以上、六色聖典の出動は絶対だった。本来であれば、実力者で構成された最強の部隊である漆黒聖典か、隠密行動に長けた風香聖典の出番である。しかし、どちらの部隊も他の作戦の事情があったため、殲滅戦を得意とする陽光聖典が出動することになった。王国貴族への思考誘導などの手回しは万全で、陽光聖典の隊長には六大神の秘宝さえ託した。万が一のことがない限り、失敗など有り得ないはずだった。

 

 しかし、その万が一が発生してしまった。陽光聖典は帰還せず、戦士長ガゼフ・ストロノーフは生き残った。

 

 おまけに、陽光聖典を定期的に魔法で観測していた土の神殿が原因不明の爆発を起こした。これを伝説の竜王『破滅の竜王』の仕業と判断した法国は最秘宝と漆黒聖典を出動させた。しかし、これまた作戦は失敗に終わった。

 

 漆黒聖典が作戦中に謎の吸血鬼と出くわし、隊員二名と最秘宝の使い手を殺されてしまったのだ。吸血鬼は最秘宝の力で洗脳状態になったが、使用者が傷を負ったため、彼らにも操れない状態になった。人類の守り手であり切り札である漆黒聖典が撤退を余儀なくされたのだ。

 

 漆黒聖典撤退の知らせとほぼ同時に、スレイン法国中枢はローブル聖王国に出現した『農場』の存在を知ることになる。

 

「――――まさか、神の降臨か?」

「情報の中にある亜人らしき存在は『ユグドラシル』という単語を口にしたそうだ。十中八九間違いないだろう」

 

 スレイン法国の上層部に口伝でのみ伝えられてきた真実がある。

 

 六百年前に人類を救済した六大神。五百年前に大陸を蹂躙した八欲王。彼らはユグドラシルという世界からやって来た『ぷれいやー』である。二百年前の十三英雄の何人かもぷれいやーであったそうだ。

 

「それで、どちらだ?」

 

 その問いが意味するものは一つ。六大神のような人類の守護者か、それとも八欲王のような破壊者か。前者であって欲しいと願う一方で、後者である可能性も捨てきれない。

 

「現在集まっている情報では何とも……。ひとまず、現在集まっている情報をお伝えします」

 

 そして、伝えられる農場出現の経緯。深夜に鳴り響いた鐘の音と、明朝に現れた一団の情報だ。オルランドの一件も正確に記されていた。しかし、農地開発や丘陵地帯の制圧も聖王国が気づいていないため、スレイン法国にも伝わるはずがなかった。

 

 この日はちょうどネハンが隕石を落とした日ではあったが、流石に当日に他国の情報を知るほどの情報機関は法国にもなかった。

 

「それほど過激ではない、と思っていいのか?」

「結論を急ぐな。まだ様子見の段階だろう」

 

 まだこれだけの情報では判断ができない。人間に対して敵対的なのか、それとも好意的なのか。今しがた自分たちが知った情報が正しいとも限らないのだ。現場でしか分からないような雰囲気が情報として重大な部分であることもある。

 

「漆黒聖典が遭遇した吸血鬼と関係はあるのかしら?」

「日数と距離を考えると……絶対に無関係とは言えんか」

「関係があるのだとしたら、漆黒聖典との遭遇は意図的なものか、偶発的なものなのか」

 

 偶発的なものだったとするなら不幸な事故であるが、意図的なものであった場合は非常にまずい。法国の行動が筒抜けになっているか、破滅の竜王か何かと関係を持っていることになるのだから。

 

「聖王国側も対応を決めかねているようだが……。要らぬことをせぬ内に我々が接触した方が良いのではないか? 神の力を知れぬ愚か者がぷれいやーや従属神を攻撃でもしてみろ。竜王やエルフ王どころの話ではなくなるぞ」

 

 ただでさえ複数の問題や戦線を抱えているのだ。人類の守護を嘆願すべきぷれいやーと戦争をするなど考えたくもない。

 

「しかも竜を従えている、か。急がねば誰が動き出すか分からん。目撃者が大勢いる以上、話が広まれば、伝わるのはあっという間だ。評議国の議員どももぷれいやーであることに気づかないはずがない。評議国と関係を持たれては面倒だ」

「竜王と敵対関係になってくれれば良いのですが」

「逆に、同盟を結ぶ可能性もあるか」

「相手が評議国とは限らんぞ。聖王国と良い関係になるかもしれん。いや、あの目ざとい皇帝も必ず手を伸ばそうとするはずだ」

「私としては、この少女が気になりますね。聖王国からは亜人と思われているようですが――」

「――白い翼に頭上の輪。まるで天使だな」

 

 法国では、天使はただのモンスターではなく神の使いだとされている。無論、国や人類の未来を預かるものとして天使だからと言って無条件に信頼するなど有り得ないが、天使が善なるものであるはずという観念は捨てきれない。思い込みは危険だと理解していても、意識せずにはいられない。

 

「亜人たちの反応はどうだ? ぷれいやーを刺激するような真似はしていないだろうな?」

「むしろ刺激してもらった方が良いのでは? 奴らを減らせた上、戦力を確認できます」

「亜人どもを滅ぼしてくれるなら良いが、むしろ発展に手を貸す場合もあるぞ。ミノタウロスの賢者のようにな」

「口だけの賢者は人間側でしたが、亜人のぷれいやー全てがそうだとは限りませんからね」

「やはり聖王国から近い場所というのが問題だ。今の聖王――聖王女だったか――は優柔不断で慎重派である以上、即座に攻撃ということはないだろうが、聖騎士団の団長の方がな。信仰心が高いのは結構だが、あまり良い評判は聞かない。善なる者であり実力はあるようだが……」

 

 人として優しいのは大いに結構。しかし、為政者として優柔不断なのは頼りないし、戦闘集団のトップが考えなしなのも戴けない。

 

「間者を通じて、連れ去られてすぐに戻ってきたという男に情報を聞くことから始めるか」

「額冠を奪った裏切り者の捜索は一度切り上げた方が良いのでは? ぷれいやーが降臨されたのだ。破滅の竜王の復活は例外として、他の何よりも優先すべきでは?」

「しかし最秘宝が誰の手に渡るとも分からん。ズーラーノーンや八本指が手に入れた日には――」

「だからこそぷれいやーの協力を得るためにも早期の交渉を――」

「馬鹿な。それこそ慎重に慎重を重ねるべきで――」

「だが、場合によっては人類の明日を――」

「せめて善か悪かを見極めてからでも――」

「それでは悠長だと言っている――」

「――埒が明かない。やはり情報が不足しているな。加えて、他の問題も多い。破滅の竜王や吸血鬼、エルフとの戦争、竜王国のビーストマン、第九席次の裏切り、そして陽光聖典の事実上の壊滅。人手も不足している」

 

 対話が可能である相手なのはほぼ間違いない。しかし、言葉が通じるからと言って意思の疎通が可能だと言う話でもないのだ。人類の守り手を自負する自分たちには楽観的な見方をすることも初動を誤ることも許されない。

 

 その日の会議で出た最終的な結論はこうだ。

 

 風花聖典の任務――裏切り者の調査は続行するが、一部は聖王国に急行。また水明聖典の人員を可能な限り、ぷれいやーの居城の調査に回す。他の隠密部隊も回せるだけ回し、調べ上げる。そして、漆黒聖典をいつでも出撃可能な状態にしておく。

 

 法国の切り札たる番外席次の出動さえ視野に入っていた。

 

 

 

 

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンは、シャルティア・ブラッドフォールンを殺した。自らの友であるペロロンチーノの愛娘とも言うべき彼女を殺した。

 

 何者かに洗脳され、超位魔法『星に願いを』でも解除できない状態だった。この世界の未知の力である可能性もあったが、ユグドラシルにおいて最上位のアイテムであるワールドアイテムの可能性が高かった。

 

 ナザリックにあるワールドアイテムを使用すれば洗脳は解除できたのかもしれない。しかし、アインズは死という状態にすることで洗脳が解除される可能性に賭けた。

 

 シモベたちに任せる、あるいはシモベたちと連携するという選択肢もあったが、あえて単騎で挑んだ。同胞殺しという罪を子どもたちに背負わせないために。そして、シャルティアをこのような目に遭わせてしまった自らへの罰として。

 

 結果として、シャルティアは一度死に、大量の金貨と引き換えに復活させることで、通常の洗脳されていない状態になった。

 

 しかし安心はできない。シャルティアを洗脳した犯人は不明だ。おそらくワールドアイテムを使用したのだという予想はあるが、もっと未知のこの世界独自の技術かもしれない。また、目的も明白ではない。シャルティアが洗脳された状態で放置されていたためだ。仮に何かしらの罠があったのだとしても、アインズとシャルティアの戦闘時に何の干渉もなかったのは不自然すぎる。

 

 そして、ひょっとしたらシャルティアの件と関係があるかもしれない情報を、聖王国に出向いたデミウルゴスが持ち帰っていた。

 

「……ホシゾラ立体農場、パレット。確かに、そう言っていたんだな?」

「はい、アインズ様。このデミウルゴス、確かに」

 

 デミウルゴスが聖王国の丘陵地帯で接触したという謎の男ネハン・オフィウクス。その名前には覚えがないが、彼が口にしたという固有名詞には聞き覚えがあった。

 

 忘れていたが、思い出した。忘れるわけがないというほど濃厚な記憶はないし、名前を聞いて思い出せないほど印象が薄かったわけでもない。

 

「デミウルゴスが見たという建造物の形からしても間違いない。『ラグナロク農業組合』、ユグドラシルのギルドだ」

 

 シモベたちから感嘆の声が上がる。毎度のことながら大げさな反応に辟易していると、アルベドが問いかける。

 

「アインズ様。そのラグナロク農業組合がシャルティアを洗脳した犯人なのでしょうか?」

 

 アルベドの問いには剣呑な音が込められており、他のNPCたちも同じようだった。アインズも同じ気持ちであるがアンデッド特有の感情の鎮静化が発生して、冷静に言葉を紡ぐ。

 

「分からん。まだ情報がないから何ともな。彼らも上位ギルドの一つだった。ワールドアイテムの一つや二つは持っているかもしれんが、私はそれほど彼らに詳しくなくてな」

 

 犯人だと決めつけるのも、無関係だと断定するのも危険だ。可能とも不可能とも言えない段階なのだ。疑いをかける段階ですらない。

 

「デミウルゴスの所感では、そのネハンとミシェルはNPCなのだな?」

「はい。無論、本当はプレイヤーであり、私を攪乱させるための演技だったという可能性は零ではありません」

「ああ。警戒を怠るのは愚かだ。その可能性についてはちゃんと考えていたとも」

「申し訳ありません。せめて明確にプレイヤーがいるのかはご報告したかったのですが」

「いや、いい。……おまえに万が一のことがあれば、ウルベルトさんに申し訳が立たない」

 

 しかし、デミウルゴスの情報にもう少し厚みが欲しかったというのがアインズの本音だ。

 

 特にプレイヤーの有無。プレイヤーとNPCでは修得できる職業に大きな差があり、そこから魔法や特殊技術の修得数が全く違ってくる。超位魔法もプレイヤーでなければ使えない。特に、レベル百のプレイヤーがいるのか、その人数が何人なのかは非常に気になるところだ。

 

「それにしても、ラグナロク農業組合か」

「アインズ様、どのようなギルドなのかご存じでしょうか?」

 

 その質問に、記憶を呼び覚ますアインズ。あまり覚えている情報はないが、詳しくは仲間たちが残してくれた他ギルドの分析調書の中に埋まっているはずである。それは後で改めて読むとして、自分でも覚えている情報を口にする。

 

「む? ふむ……。その名の通り、農業を主な行動指針として活動してな。生産系ギルドと言えばその通りなのだが、報復を絶対とする苛烈さもあったな」

「報復でございますか?」

「ああ。蜂の巣の如くな」

 

 しかし、具体的にどの程度過激だったのかはアインズは知らない。あるいは覚えていない。どれほど大げさに語られたとしても、所詮は他人事だったのだ。

 

 農業馬鹿と戦闘狂しかいないギルド、なんて評価をどこかで見聞きした覚えがある。

 

「後は、そうだ。ペロロンチーノさんやぶくぶく茶釜さんが何度か遊びに行っていたな。私は行ったことがないが」

「ペロロンチーノ様がでありんすか!」

「ぶくぶく茶釜様がですか!」

 

 シャルティアとアウラが声を上げる。マーレも声を出すことないが目を見開いていた。ここで自分たちの創造主の名前が出るとは思っていなかったのだろう。

 

「あ、ああ。何でも友人がいたそうでな。詳しいことは聞いていないが」

 

 実際、どのような友人だったのかも知らない。聞いたかもしれないが覚えていない。それこそ、ぶくぶく茶釜の声優としての同僚の可能性もあれば、ペロロンチーノのゲームの同好の士の可能性だってあるのだ。子どものアウラやマーレの前でするべきではない話をしていたかもしれない。

 

「では、アインズ様。ラグナロク農業組合へはどのように対応なさるおつもりですか?」

 

 当然の質問だ。

 

 しかし、アインズにはすぐに答えが出ない。これほどすぐにユグドラシルの存在が発見できるとは思っていなかった上、シャルティアの件がある。友の子を殺すような真似をした後でなければ、もう少し冷静に考えられるのだが、どうしても気が急いてしまうことをアインズは自覚していた。

 

「……接触は早くした方が良いだろうな。シャルティアを洗脳した犯人と関係がないのならば、是非とも協力関係になりたいものだ」

 

 ギルドメンバーが友人であった以上、友好的に接してくれるかもしれないと期待はする。しかし、ぶくぶく茶釜とペロロンチーノは今のナザリックにはおらず、向こうにも彼らと仲の良かったプレイヤーがいるとは限らない。あの二人のことは条件には含まない方が賢明だ。

 

 そうなると、問題になるのは「アインズ・ウール・ゴウン」というギルドの悪名の高さだ。

 

 敵が多かった。仲間たちとやりたい放題やった。特に、あの大侵攻を返り討ちにした時は爽快だった。仲間たちがいる時はあの悪行こそが誇りだった。ゲームの頃はそれで問題はなかった。しかし、ゲームが現実化し、プレイヤーは自分だけ。

 

 ラグナロク農業組合とは直接的な関係がなかった分、ネット上の醜聞や悪行を大げさに受け取っているかもしれない。

 

 そうなれば敵対関係に至る可能性だってそれなりにあるのだ。仮に相手もプレイヤー一人ならば立場が同じ同盟関係を結べるかもしれないが、十人以上いたら? 否、百人近くいたら? そのほとんどがレベル百だったら? ナザリックの隷属を要求してくるかもしれない。それは自分やNPCたちは受け入れるには難しい。最悪の場合、戦争になり何もかも失ってしまう。

 

 それは嫌だ。もう子どもたちを殺したくない。誰も失いたくはないのだ。

 

 しかし、無視するなど有り得ない選択肢だ。シャルティアの件もある。もしもラグナロク農業組合が犯人だった場合、相手の方が人数が上だろうが力が上だろうが関係ない。絶対に地獄を見せてやる。死ぬよりも最悪な目に遭わせてやる。

 

「アインズ・ウール・ゴウン……ユグドラシルの者としてではなく、この世界の現地人……例えばモモンとして接触する方がいいか?」

 

 アインズは様子見の意味でも其方の方が良いような気がしてきた。ただし、一介の冒険者が逢える状態なのかが重要だ。国が農場への接近を禁止していた場合、冒険者が国家と関わりを持たないようにしていると言っても厳しいものがある。

 

「デミウルゴス。ラグナロク農業組合は現在、どういう立場なんだ? 聖王国はあの農場をどうしようとしている?」

「はっ。現在、聖王国ではあの農場の存在をどう捉えるべきなのかを決めかねている様子です」

「決めかねている、とは?」

 

 この世界において、ユグドラシルの存在は神や魔王になるだけの力を持っている。レベル三十程度で英雄扱いだ。アインズが確認したのはこの近辺だけだが、聖王国もそれほどレベル環境は違わないはずだ。そんな世界において、ホシゾラ立体農場は危険視すべき存在だ。敵として排除するか、どうにか支配下に置きたいと思うはずではないのか。

 

「はっ。アインズ様も人間の町に出られた以上把握しているかもしれませんが、この世界では情報の伝達は遅いのです。魔法による連絡も信頼性に欠けるそうですので。まして、あのホシゾラ立体農場は見たこともないほど巨大で意味不明な建造物。しかも突然出現して、中の詳細は一切不明となっています。そのような報告を聞いても中枢は現実味がなく、近隣の都市でも話のタネになっている程度の様子です」

 

 魔法があると言っても、中世レベルの文明では情報の伝達などその程度か、とアインズは納得する。この情報伝達の速度は今度何らかの参考になりそうだとも考えた。

 

「成程。つまり、どう転ぶかは分からないか。場合によっては農場が聖王国と衝突するかもしれないな。逆も然りではあるが」

「おっしゃる通りかと」

 

 ある意味、転移直後にアインズが恐れていた事態だ。ナザリックは人里離れた場所に転移したからこそ隠蔽が可能であり、人目に触れることはない。しかし、兵士が常在している城壁から目視できる場所に転移してしまった農場はそうはいかなかったのだろう。

 

 おそらくデミウルゴスが見つけなくとも近い内にエ・ランテルにまで情報は流れてきたはずだ。無論、最初は噂レベルかもしれないし、情報には正確さなど皆無だろうが。

 

 アインズは仮にナザリック地下大墳墓が転移した場所が現在とは異なり、エ・ランテルから見える場所に転移した可能性について考える。その場合、エ・ランテルが属するリ・エスティーゼ王国の一部という扱いになるのだろうか。王国貴族は典型的な腐敗した貴族らしいため、ナザリックにある財宝の存在を知れば何が何でもナザリックを支配下に置こうとするだろう。

 

「いや、案外悪いことでもないのか?」

 

 国の支配下になるということは、国という後ろ盾を得ることでもある。そうなった場合、他のプレイヤーへの牽制にもなるのではないだろうか。少なくとも、どれほど仲の悪かった他ギルドと遭遇しても即戦争にはならないだろう。

 

 そして、その観点から考えると、ナザリック地下大墳墓よりもホシゾラ立体農場の方が国の後ろ盾を得やすい状態ではある。

 

「デミウルゴス。ホシゾラ立体農場がローブル聖王国に所属する可能性はあると思うか?」

 

 ナザリック地下大墳墓が国の後ろ盾を得るかどうかはしばらく置いておく。現在の誰からも確認されていない状態を放棄するのは少々躊躇いがある。逆に、すでに衆目に晒されているホシゾラ立体農場はそれを躊躇う必要はない。それどころか聖王国と何らかの交渉を始めている可能性さえあるのだ。

 

「私が確認した段階ではその可能性は低いと思われます。いえ、判明している戦力差から考えてむしろ聖王国の方が――――」

 

 急に黙ったかと思えば、アインズの顔を見つめて、何故か愉快そうに口角を上げるデミウルゴス。

 

「――――成程。そういうことですか、アインズ様」

「う、うむ?」

 

 何がそういうことなのだろう、と疑問に思うアインズ。反射的に頷いてしまったが、何かを致命的に間違えたかもしれない。撤回しようとするが、即座にアルベドも反応する。

 

「流石は私が愛するアインズ様! デミウルゴスからの僅かな情報だけで、これほど完璧な作戦を思いつくなんて……!」

 

 アルベドからの言葉に沈黙するアインズを余所に、NPCたちは勝手に盛り上がる。

 

「ム! ドウイウコトダ?」

「そうだよ、アルベドもデミウルゴスも何が分かったの?」

「アインズ様は何を思いつかれたんでありんすか?」

「ぼ、僕たちにも教えてください」

 

 二人以外のNPCたちから「やっぱりこの御方は凄いんだ……!」という思いの籠った視線を向けられ、何と言っていいか分からないアインズ。正直に言うべきなのだろうが、この期待を裏切るのが怖い。失望されるのが怖い。

 

 だから、

 

「デミウルゴス、アルベド。おまえたちが理解したことを皆に説明することを許す」

 

 丸投げすることにした。

 

 ついでに俺にも説明してくれ、と心の中でぼやきながら。

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