ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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猶予

 

「……結構余裕あったね」

 

「そりゃね。次の町まで徒歩移動はきついし、準備してもらった馬車使うよ。離反したわけじゃないんだし。

 次の町についてからも、迷宮の特徴に合わせた訓練と準備して、大迷宮に向かうのはそれが終わってからだって」

 

 クラスメイト達から離れた後、ハジメと友奈はのんびりと馬車に揺られていた。

 ハジメが別行動を取らなければならなかったのはクラスメイトが脅威だからで、友奈が早期に離れなければならなかったのはクラスメイトが引き留めるだろうからだ。クラスメイトと距離さえ取ってしまえば、もうそこまで急ぐ必要はないのである。

 

 ハジメ独りなら不安と心細さを感じながら、黙って運ばれるだけだっただろう。

 だが友奈がいる。ハジメの心は明るく、会話も弾んだ。

 

「ヒュン、ズバン!って感じでさ! かっこよかったんだ!」

 

「へぇ、それ気になるな! 向こうにいた頃に見とけば良かったよ。リアルタイムで見なかったのは惜しいことしてたかも」

 

 始めはこの世界で役立ちそうな護身用の格闘技術について。その話も実演や練習が出来るスペースがないのでネタも尽きて、日本で見た格闘技の話に花が咲いていた。

 

 友奈の趣味は格闘技だ。それも観戦も実践も両方楽しむタイプ。天性の格闘センスによって色々な格闘技を習得・観戦していたが、幅が広すぎて話に付いてこれる相手は少なかった。また性格的なこともあって聞き手に徹する場合が多く、趣味について語ることはあまりない。

 ただハジメには知識があった。有名どころだけでなくムエタイ・カポエイラ・中国武術・プロレスなどの多種多様な知識を、基本となる技術を「実践は出来ないが指導はできる」というレベルで理解しているほどに。それでいて趣味というほど深くは嗜んでいないため、友奈の話も目新しく素直に楽しめる。友奈ほどではないが聞き上手なこともあって、珍しく友奈主導で盛り上がっていた。

 

「語った語った! こんなに話せたの久しぶりだよ。南雲くんも結構詳しいね」

 

「ゲームでキャラのモーション設定する参考として勉強したからね。漫画書いてても人の体の動きとか、知ってれば知ってるだけ役に立つし」

 

「! ゲームと漫画作ってたんだ! 今度はそっちの話聞かせてほしいな」

 

「え? 面白い話じゃないと思うけど……まぁいいか。僕ん家は―――」

 

 尋ねられるがまま、ハジメは自身の家の事を話す。

 父がゲーム会社社長で、母が少女漫画家なことは驚かれたが笑って受け入れられた。友奈自身もゲームのプレイヤーで読者だったそうだ。

 またそれだけではなく、会社の宣伝方法についても友奈は知っていた。

 

「あの会社だよね、Cシャドウの」

 

「そうそう。会社の広告とか、ゲーム大会のラスボス枠でCシャドウが活躍してるとこで合ってるよ」

 

 Cシャドウはハジメたちより一つ年上の長い黒髪とクールな雰囲気が特徴の美少女だ。

 ジャンルを問わずゲームの腕前に優れている上に、ビジュアルがいいので会社のアイドルとして、小学生のころから親元を離れ大活躍している。

 彼女の座右の銘は「芸は身を助く」。ハジメは詳しくは知らないが、ゲームの腕で問題があったらしい親元を離れることに成功し、今の環境を勝ち取った経験からそう考えるようになったとか。ゲームのみならず色々な技術や資格を身に着けていたりするのだ。

 

「ただあの子、ずっと仕事してたり、資格の勉強したりで僕より人と交流取らないんだよね。日本に戻ったら遊びに誘ってあげてくれないかな?

 僕もああいう生活がいいと思ってたけど、友達と話すってそれだけでかなり楽しかったし。食わず嫌いは損だって実感できたからさ」

 

「おっけー、任せて。楽しませてみせるよ!」

 

「ありがとう。

 で、まぁそんな感じで子供を働かせるのに躊躇のない親でね。僕も職場で色々やらせてもらってたよ。ゲームとか漫画の製作はそこで経験したんだ」

 

「ほうほう、例えばどんな?」

 

「そうだなぁ、最近のだと―――」

 

 ハジメ的に「ちょっと苦労したけど楽しかった思い出」をいくつか語る。

 最初は興味津々で聞いていた友奈だが、次第に表情が変わってくる。

 学生にやらせる「お手伝い」レベルではない。友奈に専門的なことはわからないが、間違いなく「労働」だ。

 それもただの労働ではなく、どう見てもブラックな奴である。同じ趣味の連中が集まって、楽しいからという理由でやってるから問題にはならないが、外から見るとどう考えてもアウトだった。

 無論、ハジメ父の会社や母の職場がずっとそんな状態なわけではない。忙しい時だけだ。しかしハジメが「手伝いを頼まれる時」とはつまり「特に忙しい時」で、「印象に残っている」のはその中でも厄介な事例だ。そんな話を聞いて友奈が「?????」となってしまうのも無理はなかった。

 

「あ、ごめん。つまらなかったよね。昔から楽しい話とかできなくてさ」

 

「ううん、そんなことないよ! ちょっと、混乱してただけ。南雲くんの家かなり特殊だね」

 

「それは自覚してる。小さい頃とか同じ年の子と話が全然合わなかったよ。

 高嶋さんの家はどんな感じ? 出来たら教えてほしいな」

 

「いいよ。と言っても南雲くんのとこみたいに面白くはないだろうけど」

 

 友奈もハジメに自身のことについて語りだす。

 当人の申告通り、ハジメに比べれば山も谷もない話だ。特徴といえば格闘技を除くと人助けだろうが、友奈は他人の悩みや苦難を自身の武勇伝のように語る気にはならなかった。話したのは地域のボランティア活動に参加したことくらいだ。

 

 だがハジメはニコニコと笑って、心底楽しそうに友奈の話を聞いていた。

 ハジメは相手が隠していることを(あば)こうとはしない。隠したいことは誰にでもあって、そこを踏み荒らすのは親しい相手だからと許せることではないと考えるからだ。

 だからこそ話してくれるのは嬉しいと感じていた。まぁ普通の家庭と言うものをハジメは知らないので、そちらに対する興味も大いにあったのだが。

 

 友奈もまた、自身のことを話せるのを楽しんでいた。怒鳴り合ったり口喧嘩をした仲だ。ハジメの世間離れした性格と偏った経験もあり、多少のことで気まずくなる事はないと安心して話すことが出来ていた。

 

 しかし楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。今日の目的地まで到着したのか、案内についた騎士が二人を呼びに来た。

 

「高嶋様、南雲様。本日の移動はここまでです。野営の説明を行いますので、出てきてください」

 

「っと、もう時間みたいだね。続きはまた今度にしようか。時間はまた取れるだろうし」

 

「そうだね。野営ってキャンプみたいな感じかな? そっちも楽しみ!」

 

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