「勇者キーーーーック!」
友奈の飛び蹴りが一列に並んだ騎士甲冑をドミノ倒しに蹴散らす。
それが戦闘開始の合図となり、部屋の両サイドに並んでいた騎士甲冑たちが動き出した。
「(数が多い! 足でかき乱す!)」
友奈に範囲攻撃手段はない。正確にはライセン大峡谷の外なら装備の力であるのだが、ここでは徒手空拳しか使えない。
ゆえに機動力と手数で攻撃範囲の狭さを誤魔化す。積極的に動いて、騎士甲冑をハジメに近づかせないという戦法を選んだ。
脚のハジメ製魔法具を発動させる。
友奈の適性を考慮し、籠手同様に風の魔法を仕込んである。ライセン大峡谷対応で、こちらも効果は一瞬風を噴出するというだけの物。
だがその一瞬で友奈は大きな加速を得て、騎士甲冑を翻弄する。
「勇者、パパパパーンチ!」
友奈の連打が騎士甲冑の軍勢を弾き飛ばす。ハジメの所には一体も進ませない。そんな気迫を感じる攻撃的な守りだ。
だが気迫で高過ぎる目標を達成出来るほど、友奈はまだ強くない。
床を構成する感応石が壊れた騎士甲冑のパーツを結合・修復し、友奈の背後で騎士甲冑が数体現れた。
「行かせるもんか!」
咄嗟に引き返し、騎士甲冑の一体を掴んで振り回す。
今の挙動で壊しても意味がないことはわかった。なら叩いて吹き飛ばし続けるしかない。
背後に出現した騎士甲冑は全て排除したが、その他の騎士甲冑が間合いを詰めてくる。一度のミスでじわじわと状況が悪化することになりそうだ。
その程度で友奈が怖気づくことはない。ハジメの援護を完遂すべく、さらに機動力と手数を増やして騎士甲冑を弾き飛ばし続けた。
「高嶋さん! 下がって!」
「ッ!?」
唐突にハジメの声が響く。
友奈は混乱することもなく、ハジメが言ったのだから何か起きると断定してハジメのもとに戻る。
友奈が下がるのに一瞬遅れて、騎士甲冑たちが飛び込んできた。
「ええっ!?」
突っ込んできたではない。文字通り飛び込んできた。重力が仕事していないかのように、あるいは真横に作用しているかのように、一直線に重量物がなだれ込んでくる。
初見で出だしが遅れていては、流石に普通に殴る蹴るでは対処できない。ステータスの高い肉体とハジメ製の防具を着こんだ友奈は守りを固めれば普通にやり過ごせる。だが物理面は低ステータスで、荷物持ちのため防具も軽装なハジメは危険だ。ゆえに友奈は切り札を一枚切った。
「“限界突破”勇者パンチッ!」
“限界突破”は普通に発動させただけだが、それでもステータスは跳ね上がる。その出力で籠手の機能を発動、渾身の拳と共に高出力の風を発生させ、迫る鉄塊を逸らして見せた。
「回復2番、発動!」
次いでハジメ製の防具に複数刻まれた魔法の一つを発動する。取り付けた魔石を消費し、“限界突破”の反動で一時的にステータスが下がるのを防ぐ回復魔法を発動するのだ。例のごとくライセン大峡谷対応で、鎧内部にしか効果がない代わりに阻害効果を受けづらい。
本来友奈に“回復魔法”の技能はない。魔石をエネルギーとして用意しようとも、このレベルの回復魔法を発動させようと思えば直径が数メートルはある魔法陣が必要になる。
それを解決したのが、ハジメの“言語理解”の派生技能“低水準言語”だ。人間の言葉を用いた魔法陣ではなく、もっと魔力を扱いやすい言葉を用いることで小型化と詠唱の短縮に成功したのだ。
「アレ何かな?」
「それがさっぱり。わかったのは騎士甲冑とか部屋の機能じゃなくて、迷宮の主か中ボスが直接介入してきたってことくらいだよ」
「わかった。じゃあもっと戦って観察すればいいんだね!」
「そうなるね。暴れれば暴れるほど、こっちの解析も捗るし」
飛び込んできた騎士甲冑が背後で結集・修復され、飛び込んでこなかった騎士甲冑が前方で隊列を組む。適当に押しかかってきた先ほどまでとは違う。先ほどまでが半分オートだとすれば、今は直接指示を出して操作しているのだろう。
状況は悪化したが、確実に前進はしている。ならばそのまま進み続け、試練を踏破するのみだ。
騎士甲冑が剣を投げる。投じられた剣は垂直落下しているように真っ直ぐに飛び、友奈に打ち払われ別の騎士甲冑にぶつかる。ぶつけられた騎士甲冑は転ぶが、他の騎士甲冑が
騎士甲冑が壁や天井を駆けまわる。包囲は平面では済まず立体となり、投げつけられる剣や騎士甲冑の飛び込みの脅威も増していく。中には剣を振り回しながら飛び込んでくる騎士甲冑も出てきた。ここまでくるともうなりふり構っていられない。ハジメはうずくまって小さくなり、友奈はハジメの上をピョンピョンと飛び回りながら迎撃する。負傷こそないが、じりじりと疲れがたまり精神が削られていく。
だというのに友奈はまるでブレず揺るがない。迷宮の主がメンタルを擦りつぶすべく状況を悪化させ続けているのに、集中力も途切れることなく状況に対応し続ける。
そしてついに、状況が動く時が来た。
「揺れるから備えて!」
ハジメの合図と共に、床から手すりのようなものが生える。これに掴んで体を固定しろと言うことだろう。友奈は即座に指示に応えた。
そして部屋が丸ごと動いたような大きな揺れが発生する。
手すりを掴んだ友奈はともかく、騎士甲冑たちは変化に対応できない。体が持ち上がり、壁面へと叩きつけられる。
「勇者キック!」
ハジメにぶつかりかけた騎士甲冑は友奈が蹴飛ばし他の騎士甲冑と同じところに叩きつける。
ひとまとめにされた騎士甲冑は、ハジメの“錬成”で固定され身動きが取れなくなった。
「扉壊して駆け抜けて!」
「了解!」
相変わらずの躊躇ゼロ。用意された開錠手段を無視し、マスターキー勇者の拳で扉を開く。
ハジメも友奈に続き、扉を壁に“錬成”し、固定から脱出した騎士甲冑の追撃を防ぐ。
そのまま二人で奥へ奥へと駆け出した。
先ほどの揺れは騎士甲冑の部屋を、迷宮の主の間に繋がるよう組み替えたことによるものだ。
本来のライセン大迷宮は一定時間毎に組み替えが行われ、作った地図は無駄になり、どのルートを通っても深部にはたどり着けないようになっている。迷宮の各所にある殺傷性トラップや嫌がらせ、ウザい煽りを耐えきり、迷宮の主が招待してもいいと判断した場合のみ、深部に到達できる仕組みなのだ。それをハジメは“鉱物系探査”により迷宮に継ぎ目があることから察知、対策を取った。
迷宮の組み替えを行う感応石を、騎士甲冑に使われている感応石を経由して乗っ取り、迷宮の主の間へと接続したのだ。製作者が同一のため、全ての感応石が似た質の魔力を帯びていたからこそ取れた手段だった。
そのまま通路を突き進み、辿り着いたのは巨大な球状の空間だった。
「うわぁ……なんだろうねこれ」
「甲冑が天井走ってたから、これも重力操作とか引力操作辺りなんだろうけど……量が多すぎるね」
直径2キロメートルはありそうな空間に、無数のブロックが浮遊して不規則に移動しているのだ。完全に重力を無視しているが、ハジメたちに影響はない。重力操作を受けるのは特定の仕掛けが施されている物だけなのだろう。
だがハジメたちに重力を作用させられないくらいどうと言うことはない。このブロックをまとめてぶつければそれでミンチの出来上がりだ。迷宮に入ってから、【反逆者】の殺意や実力は実感できたつもりだったが、まだまだ理解が足りなかったらしい。
あまりの光景に度肝を抜かれていると、下から超巨大な甲冑が浮き上がってきた。
いよいよボス戦かとハジメと友奈が身構える。
しかし訪れたのは、気の抜けるような巨大甲冑からの挨拶だった。
「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」
回復は一番が怪我の治療。2番が“限界突破”の反動予防。3番が状態異常治癒。4番のみ自動発動、大怪我した時の大回復。という今後使わなそうな設定。