ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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大峡谷沿いの街にて

「い゛っぢゃや゛だ~~っ!! も゛う゛ぢょっどい゛よ゛う゛よ゛~~~~!!!!」

 

 ライセン大迷宮から帰還する当日、友奈がミレディに泣き付かれていた。

 遥か長い間、誰も来ない迷宮の主として孤独に過ごしたミレディに、友奈という薬は効きすぎたらしい。

 

「また来るから、そんなに泣かないで。笑って笑って、ね?」

 

「ぐじゅ……」

 

「まだまだ教わりたいことは多いし、これっきりってわけじゃないですよ。ただ食料も尽きちゃったし、戻らないと怪しまれるので、今回はこの辺で戻らないとダメなんです」

 

「……わかった」

 

 友奈の慰めとハジメの説得もあってミレディも友奈から手を離した。

 

「カッコ悪いところを見せちゃった。もう大丈夫。二人のこれからが自由な意志の下にあらんことを祈ってるよ」

 

「ありがとう。またね!」

 

「大袈裟な気がするけど……ま、いいか。また来ます」

 

 この後、ハジメと友奈は物資を補給した後にアリバイ作りのため同じ場所からの捜索を行い、何度もライセン大迷宮を訪れることになる。本当にすぐだったため、ミレディもかなり驚かされることになるのだった。

 

 

 

 

 

 ライセン大迷宮攻略後、ハジメと友奈はさらなるアリバイ作りのため、ハルツィナ樹海の方角へ向けてライセン大峡谷の調査を進めることになった。大迷宮はまだ見つけていないことになっているので、一通り降りられる場所の付近は調査しないといけないのだ。端まで調査を終えれば、これ以上は出費と得られるだろう利益が釣り合わないと見て、一度王国に報告しに戻ることになっている。

 

 調査を進めていくと、自然に活動場所が王国から帝国に移る。

 明確に王族の上に教会が来る宗教国家な王国とは違って、帝国は傭兵が建国した実力主義の国だ。また亜人族が固まって暮らすハルツィナ樹海と隣接することもあって、休息期間中に街を歩けば王国では見ることがなかった光景が見られた。

 

 野生の魔物を対処する冒険者が、感覚が鋭く身体能力の高い亜人族の奴隷と相棒として固い信頼関係を築けている姿。

 傭兵や冒険者も参加する闘技大会で強者として人気を博する亜人族の奴隷剣闘士が、平時には自由に振る舞う姿。

 一般人が亜人族の奴隷を実態としては配偶者として迎え、混血の子供を「魔法が使えるから亜人族じゃなくて人間族」という理屈で市民として受け入れられている姿。

 

 どれも亜人族蔑視の風潮が強い王国ではありえない光景だ。宗教上の問題で対等な地位ではないが、他種族に対する理解と交流は進んでいる。ミレディたち解放者が望む通りに神殺しがなされることになった場合、この国を起点に種族間の関係は変わっていくだろうと思わせる光景だった。

 

 だからだろう。綺麗なモノだけ見ていればいいのに、好奇心に負けて醜悪なモノまで覗き込んでしまった。

 

 

 

 

 

「うぐ、おげぇ…………っ!」

 

「なにこれ……っ!?」

 

 予想を超えた光景にハジメは胃の中身を吐き戻し、友奈も普段の余裕は消え崩れ落ちるハジメを気遣うこともできない。

 

 やってきたのは亜人族の奴隷市。ただしその中でも、廃棄される手前の奴隷が売っている場所だ。

 怪我で働けなくなったり戦えなくなった亜人族や、性奴隷として連れて来られ壊れた(・・・)ために捨てられた亜人族が劣悪な環境で叩き売りされている。皆、欠片ほどの生気も感じられず、死んだような虚ろな目で鎖につながれていた。

 ここまで見てきた異種族間の交流、その負の面がわかりやすく形をもって存在していた。

 

 二人が平静を失ってるのを見て、二人に請われてこの場所まで案内した護衛(監視)の王国騎士が慌てて外まで連れ出した。

 

「ですから言ったじゃないですか! ここらは匂いがきついと! 気分が良くないようなので早く戻りましょう!」

 

 彼はハジメと友奈が動揺しているのを劣悪な環境による悪臭が原因だと思ったらしい。奥に来るまで奴隷市を見てきた中で、ハジメと友奈は奴隷市自体に嫌悪感を持ったわけではないと感じたからだ。その見立て自体は間違っていない。

 ただでさえ奴隷と言うのは高い買い物だし、雑に扱って使い捨てるよりきちんと扱って長く働いてもらった方が費用対効果はいい。

 そしてトータスには“天職”という技能にボーナスがつく生まれつきの素質がある。大規模に奴隷を運用して鉱山なり農場なりを運用するより、それらに特化した“天職”持ちを大事に使った方が段違いに効率がいいのだ。だから奴隷を使い捨てにする慣習も、適正に合わない仕事を無理やりさせる慣習も育ちにくかった。

 だから入り口付近で売られている奴隷は健康だし、生まれ故郷を離れて広い世界を見たくて自ら奴隷になった者までいた。雰囲気としては面接会場だ。

 

 だがここは違う。ヒトではない『物』を処理するための場所だ。亜人族はヒトではないという認識の王国騎士には臭い程度で違和感はないが、ハジメと友奈はそうはいかない。奴隷制と言う時点で想定できただろうに、二人はそれまでの光景で油断し見落としていたのだ。

 

 

 

 

 

 奴隷市の奥から離れた後、二人は王国騎士の目から逃れられる自室に戻り暗い雰囲気のまま今後について相談を始めた。

 

「……いきなりだけどさ、貯めてるお金使っちゃっていい? アレ放置はきついよ」

 

「私も放置はしたくないよ。でも何に使うの?」

 

 友奈は、そして一応ハジメも善性の人間だ。苦境にある人を見れば助けたいと思うし、見捨てれば自分にダメージが来る。

 だが二人とも魔王のごとき横暴さは持っていない。友奈は他人に合わせるタイプだし、ハジメは自由に動くが他人に強制するのはやりたがらないタイプだ。土地の風習である奴隷制に対して認めたくないと思いながら、それを否定して今の現地人を力尽くでねじ伏せ虐げることはできないでいた。

 

 だから友奈は悩んでいたのだが、そこへハジメの金を使う発言だ。

 

 ここへ来る道中、気分転換に冒険者の仕事なんかもやっていた。現地人では対処が困難な魔物の退治などの高難度クエストも友奈たちには簡単だし、街の設備を改良を行うなどの依頼では材料採取の段階からハジメが大活躍した。それらの功績に対して友奈は無償奉仕にしようともしたが、教会からの資金とは別に自分たちの自由になるお金が欲しいとハジメが交渉し、大仕事に相応しい報酬を勝ち取っていた。

 また街の有力者と協力して、ハジメ製の装備と“勇者”である友奈への挑戦権を優勝賞品にした闘技大会を開いてみたりもした。予想以上に多くの客が訪れ、一部もらっただけでも大儲けできていたのだ。

 そんなわけで、二人にはそれなりな額の金がある。だがこれをどう使えば多少なりとも対処できると言うのか。

 

「とりあえずあそこにいた奴隷は皆買っちゃって、次の街とかにいるのも酷いのは全部買って、治療してハルツィナ樹海に返そうと思うんだ。同族ばかりの樹海でなら生きていけると思うし」

 

 労働力にならない欠損がある者は受け入れられづらいかもしれないが、そこはハジメ製のアイテムでその者に価値を持たせればいい。そうしれば多少無理してでも受け入れると思うし、無碍には出来ないはずだ。なお与えた力で暴走を始めれば、ハジメが動いて後始末と償いはする覚悟は決めている。

 

「対処療法でしかないけど、“勇者”とその仲間が苦境の亜人族を助けてるってなったら多少は扱いも変わると思うんだよ。奴隷制自体は否定してないし、その中でも酷いのだけ対処してほしいってだけだから上に話を通せば少しずつでも改善できるかもしれない。

 行き当たりばったりの対策だし、いつまでこの世界にいるかわからないから無責任だとは思うんだけど、そもそも簡単にどうこうできる問題じゃないし」

 

「ううん! いいと思う! やれることからやっていこー!! 私もお世話とか頑張るよ!!!」

 

「即決だねッ!? まぁその方がありがたいよ。“勇者”が直接動いてるって事実はこの世界じゃ重いから。

 ならすぐにでも偉い人に話しを通しに行こうか。たぶんそっちの方が早いし、滞在中にあの場所に連れていかれる奴隷も増えるだろうから」

 

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