しかし原作で技能は全部漢字のため“精神保全・他”“体調管理・自他”に変更します。
買い取った亜人族奴隷を案内人に、ハルツィナ樹海を進む。
現地の亜人族と接触した時に話を拗れさせると判断したため、護衛の王国騎士は置いてきた。ハジメと友奈、亜人族だけでの樹海踏破だ。
ハルツィナ樹海は現地の人間族に七大迷宮の一つとして挙げられるだけはあり、環境は過酷だ。
視界を遮る濃霧に、方向感覚を狂わせる地形、そしてその環境に適応した魔物に亜人族。帝国が戦力では亜人族を圧倒していながら「樹海から出てきた者を捕まえる」という方法でしか奴隷を得られないのも納得の天然の要塞だ。
器用で便利な“錬成”に特化しているが、生物や植物は対象外なハジメ。戦闘に特化し精神面での支えとなれるが、こそこそとした行動を苦手とする友奈。そんな二人には厳しい環境でもある。
もちろん転移者のチートスペックと神代魔法を習得したことによる才能限界の上昇があるので、ゴリ押しで通れなくはない。しかしその場合、樹海へのダメージとハジメたちの消耗が非常に大きくなってしまう。
なので前線を張るのは、ハジメに治療された亜人族たちだ。
「! (クイクイ)」
「…………」
「……ッ!」
本能的に樹海で気配をまき散らせばどうなるか理解できているのか、静かに探し、静かに狙い、静かに駆除して進んでいく。
ハジメと友奈はスゴイスゴイと小さな声で褒めたりしているが、奴隷として価値無しと見做された者達が活躍できるのは二人の介護があってこそだ。
ライセン大迷宮にて、ハジメは得意な派生技能を習得していた。
“錬成”を極めたと言える派生技能の一つ“生成魔法習得”だ。
この世界の魔法系技能は全て神代魔法の派生、あるいは劣化版であり、極めれば源流である神代魔法にたどり着く。ハジメはそう考えたうえで、神代魔法と同レベルでの“錬成”の行使を目指し練習した結果なので、目標を達成しただけに過ぎない。
理論は間違ってはいなかったのだが、ミレディをしてもこんな事例は初見だったらしい。重力魔法を教えていたはずなのに生成魔法を使い始めたことに大いに混乱していて、ハジメと友奈は思わず笑ってしまった。笑い事じゃないと怒られた。あと生成魔法は習得済みでも、オルクス大迷宮には解放者の遺産がかなり残ってるから回収だけはしろと忠告された。
ライセン大迷宮での思い出は置いておいく。
ハジメの生成魔法により手足を失った亜人族には義手や義足が、戦闘技能を持たない亜人族は使用者登録をしたアーティファクトを装備させることができた。王国や教会に知られないために樹海に入ってからの授与だったが、友奈の“精神保全・他”と“体調管理・自他”のおかげで元奴隷たちの受け入れ態勢が整っていたためいきなりの使用でも十分な成果を挙げられていた。
そのまま快進撃を進めていくと、ついに何者かが進路に立ち塞がってくれた。
「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」
現れたのは虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。
それ以外にも霧と樹木に隠れ、多くの亜人族がハジメたちを見張っている。
ハジメたちを代表し、前に出て話しかけたのは友奈だ。
「私たちはライセン大迷宮の攻略者です! 【解放者】の言葉を頼り、交渉に来ました! ついて来てくれた人たちは、帝国で奴隷にされていた亜人族! 彼らは樹海に返還するため連れてきました!」
目の前の虎亜人に、潜んでいるはずの亜人族にも動揺が走る。
ハルツィナ樹海から連れ去られた亜人族は通常、死ぬまで奴隷だ。戦力差から取り返すことも出来ず、樹海ではさらわれた時点で死んだ者として扱われる。そんな彼らが一部とはいえ帰ってきたと言う。もしかしたら自身の部族の者も、そう考えてしまうのは仕方ないだろう。
そして実際に、同族を発見できた者もいた。
「……交渉に応じるなら解放するってか?」
目の前の虎亜人もその一人だ。視線の先には脚を無くした虎亜人の元奴隷。友奈が介護している時に聞いた話では、好奇心に負けて樹海の外に飛び出し捕まったとか。以降労働奴隷をしていたらしいが、怪我で働けなくなり廃棄寸前だった。
「交渉と解放は別です。今回は交渉できなくても、受け入れてもらえるなら彼らは解放します」
「…………わかった。長老たちには伝える。あと人手も呼ぶからそれまで動くな。何か仕掛けられてねぇか確認しないと受け入れは無理だ」
リーダーの虎亜人の指示に従い、潜んでいた亜人が一人離れていく。
そこからはトントン拍子で話が進んだ。
ミレディから聞いた通り、フェアベルゲンの長老たちは【解放者】の話を掟として伝えられていた。これで面倒なやり取りはスキップされ、ほぼハジメたちの要望が通る。
ハジメと友奈は客分。奴隷たちは一度死んだ扱いになるので他所からの流民と同じで同族が受け入れ。またハジメたちが奴隷を樹海で解放すれば同じように受け入れるし、大迷宮を攻略に来たときは大樹まで案内する約束を結んだ。一部の長老は反対したらしいが、捕まった同族を解放するという恩を売りつけていたため多数決で抑え込まれたそうだ。
ハジメとしては多少拍子抜け。もっと問題が発生すると思っていたが、想像以上に亜人族は純朴で情に厚かったように見える。これで大丈夫かと不安になるが、ハジメの想像以上に【解放者】そして大迷宮攻略者の武威が影響した結果である。
ただし全てがハジメたちの思い通りに進んだわけではない。受け入れてもらえない元奴隷も少ないが出てきた。
「やっぱりこの人たちは受け入れてもらえないんですか?」
「すまんが魔力持ちはどうしてもな。どう扱っていいかわからんし、下の者が怖がる。ソレはなおのことだ」
亜人族と人間族の混血で、魔力は持つが見た目に亜人族の特徴が大きく表れた者達。人間族の領土でも居場所のなかったはみ出し者たちは、亜人族でも居場所は得られなかった。
特にダメだと言われたのが、ハウリアと呼ばれる兎人族の白髪の少女だ。名前はシア。
混血でもないのに魔力を持っているだけに留まらず、魔物だけが持つ“魔力操作”の技能を先天的に有する。はっきり言って亜人族から全く別種の生き物が生まれたに等しい事例だ。人間の両親から
加えて彼女が生まれた部族は既に存在しないと言うのも大きい。
忌み子であるシアを匿って育て、他部族にバレた後は一族総出で守り他の地に移動しようとしたハウリア一族。結局帝国兵から隠れきることは出来ず半数が奴隷として捕まった。シアは逃げ切りは不可能と“未来視”して殿を担当、右目と左腕を失う大怪我を負いながら、残りの半数を樹海へ引き返らさせた。
樹海に逃げ帰った部族が暖かく迎えられるわけもなく、バラバラに各部族で数人ずつ預かり、一段下の存在として鉱山のカナリアのように用いるようになった。ハウリアとして団結したころは虫も殺すのを躊躇う惰弱な一族だったが、数人だけ他部族に混ぜて使えば非常に有用な斥候と評価は上がっているのは皮肉な話だろう。
ともかく彼ら彼女らに帰る場所はない。ハジメが彼らの価値を上乗せしないことには。
「なら僕たちの配下としてここに滞在させてもらえませんか? 対価に僕が作った道具は渡しますし、有事の際は協力させます」
「……大迷宮攻略者の配下とあれば受け入れよう。便利な道具は欲しいしの」
ハジメも友奈も途中で見捨てる気はない。
そしてフェアベルゲン側は過剰なほどの対応からそれを察し、対応には苦労するだろうが受け入れを決意した。事実上、受け入れた者達はハジメと友奈がフェアベルゲンを裏切らないための人質だ。彼らがいる限り敵対はしづらいし、また利益を得られる可能性も高い。それらのリターンと対応失敗してしまった場合のリスクを比べて、リターンの方が大きいと判断したのだった。
ハジメとしても混血との交流は貸し借りからでいいと思っていた。そうして相互理解を進め、いずれ穏当な着地点にたどり着ければそれでいいという考えだ。全部受け入れて失敗されるよりは、一部受け入れ拒否も妥協もできる頭を持つリーダーがいて良かったとも言える。
「だがアレだけは連れて行ってくれんか? さすがに我らでは手に負えん」
「……………………わかりました」
「それでは改めまして、これからよろしくお願いしますぅーッ!」
「軽ッ!?」
「よろしくー!」
あまりの軽さにリアクション芸をするハジメ、揺ぎ無い友奈。
「予想していた通りの結果ですぅ。父様も生きてましたし、もう心残りはありません。友奈さんには話通してましたよぉ?」
「え、本当? 聞いていないんだけど」
「えへへへ、ごめん、言い忘れてた」
ハジメが目を向けると、友奈は笑ってすました。ほっぺた摘まんでもにもにする口実はもらえたのでもにもにする。楽しかった。
実際の所、ハジメが忙しかったから判断しておいてくれたのだろう。買った亜人族奴隷は廃棄寸前の者ばかりで、義手・義足が必要な物は多かった。それにハジメに伝えていたとしても、連れて行って大丈夫な相手かどうか判断できるのは保護してからずっと介護で接していた友奈になっただろうし。
ハジメとしても連れていくことに異論はない。弱者なら手間がかかるだけだが、シアなら戦力としてカウントできるはずだ。ハジメ製の義眼も義手も「迷宮で拾った」「自分には自前の腕があるから亜人族奴隷に着けてみた」こう言えば通せる。連れていくメリットはあってもデメリットはほぼないのだ。
「じゃあ義手と義眼専用の一から作り直そうか。あと専用武器。斧がいいかな、ハンマーがいいかな、それとも丸太? 経験なしだと武器に合わせられるから選択肢増えるのが楽しいけど悩むなぁ。
滞在の対価で頼まれた道具も作らないといけないし、ちょっと工房作って籠るよ」
「お手伝いは任せて!」
「私も張り切りますよぅ!」
「うん、ありがと。じゃあ護衛の人に怪しまれたくないしすぐにでも取り掛かろうか」
今後は奴隷を保護して樹海に連れて行ったり、預けた連中の様子を見に行ったりはします。しかしそこまでで法や掟とかにまで過剰な干渉はしません。基本ハジメたちは異邦人なので、現地人同士で助け合いと相互理解を進めてほしいという方針です。
亜人族に上げた義手義足、アーティファクトは自動修復機能完備。魔石さえ交換すればメンテナンスなしでも長期間正常に動作する高性能品。混血の亜人族に“錬成師”がいれば、メンテナンスして死後に別の人が使えるかもしれません。
ただし監視のための機能と、悪用した時に備えてハジメの意思で所有者ごと自壊する機能もあります。こっちの機能はハジメ以外誰も知らない。身体検査した亜人族も見つけられずステルスしてます。
シアが廃棄予定で売られていたのは、顔に傷があって性奴隷にしづらく、腕がない兎人族なので戦闘用に使えると思ってもらえなかったためです。買い手がつかないので飢えてドンドン弱っていました。