ありふれた職業でも桜の勇者と共に   作:ぬがー

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クラスメイトと暗躍する者達

 魔物の咆哮と、応戦する者達の掛け声が迷宮に響く。

 

 オルクス大迷宮表層は強力な魔物こそいるが、あくまでクリアされるのが前提の特訓施設だ。ライセン大迷宮にたどり着ける地力を付けるため、トラップと魔物で搦め手対策と直接戦闘能力の向上を目的としている。そのため声が響こうが魔法で轟音が鳴ろうが、規定の数以上の魔物が一度に襲ってくることはない。なのでこの戦闘もセーフなのである。

 

 今戦っているのはトカゲのような魔物だ。ただし大きいのと小さいのがいる。

 巨大なトカゲは単純に異常な声量と硬くしなやかな皮膚、そして巨躯を武器に押し込んでくる。小さなトカゲ―――と言っても全長1メートルくらいある―――は大きなトカゲの足元から不意に現れたり、あるいは壁や天井を這って上から降ってきて毒を帯びた爪や牙を振り回す。単純だが効果的な連携で迷宮への挑戦者を易々とは進ませないと暴れまわっていた。

 しかし挑む者達も負けてはいない。結界が大トカゲの突進を阻み、前衛が奇襲を仕掛ける小トカゲを蹴飛ばし、切り払い時間を稼ぐ。その間にチームの主砲が詠唱を終えた。

 

「“神威”ッ!」

 

 極大の光の斬撃が放たれる。挑戦者たちのリーダー光輝の最大火力だ。

 階層のボスモンスターである大トカゲもこれは耐えきれず、直撃を受けた個体は消し飛び、直撃は免れた個体も吹き飛ばされた。

 

「“縛煌鎖”」

 

 魔物側に立て直す暇を与えることなく、追撃が行われる。

 香織の魔法で光の鎖が伸び、吹き飛んだ大トカゲも、撃ち漏らした小トカゲも全て締め上げられた。そしてそのまま杖の先に付けた刃物で小トカゲを斬り捨てていく。

 

「ちょ、カオリン!? 後衛が前出たら危ないよ!」

 

「大丈夫よ鈴。小さいのしか狙ってないし、鎖動かしながら斬る練習してるだけだから。手頃な練習台って少ないから好きにさせてあげて」

 

 香織を心配して鈴が声を上げるが、雫が大トカゲを斬り捨てながらそれを止める。

 香織には天性の槍術の才能があった。それは主に間違って酒を飲んで酔ってしまった時に発揮されていたが、トータス現地人間族でトップクラスのメルドも手こずるレベルだ。しかし技能としての“槍術”は持ち合わせていない。なので単純な技術として練習していた。

 

 全てはハジメを追いかけるために。

 

 最初にオルクス大迷宮に潜った時、止められたとはいえ香織はハジメを助けに行けなかった。挙句邪魔になると気絶させられて眠り続け、起きた頃には自力で生き延びたハジメはどこかに行ってしまった後。力がなく心が弱いせいでハジメを追いかけることが出来なかった。死んでいないから取り返しこそつくが、悔やんでも悔やみきれない失敗だ。

 だから力と心を鍛える。そのための労力を厭うことはない。

 メルドが提案し王国・教会が許可した指示でも「友奈とハジメがたどり着いたオルクス大迷宮の最下層(折り返し地点)まで到達すれば、一旦チーム分けについても再考する」ということになっている。二人は深くは踏み込めなかった(と香織たちは聞いている)とはいえライセン大峡谷を端から端までたった二人で捜査しているのだ。実力を付けていなければ追いかけることはできないし、少人数で動くならチーム戦が前提でもダメだ。だから今、単独でも成立するような力を身に付けないといけない。

 

「香織、強くなりたい気持ちはわかるけど無理はしないようにしてくれ。大丈夫だ。攻略は順調だし、俺たちも力を付けている。すぐに友奈と合流できるさ」

 

 そんな香織に光輝がいつものようにズレたことを言う。

 

 光輝の、そしてクラスメイトの認識では、友奈はハジメに寄生される被害者だ。

 

 明らかに特別な光輝のような存在ならともかく、普通(自分たち)以下のハジメがベヒモス相手に活躍できたのはおかしい。何か理由があるはずだと考え、クラスメイトたちは光輝と友奈の武装の差に気付く。

 同じ“勇者”にもかかわらず、光輝は最高のアーティファクトである聖剣で、友奈はクラスメイトと同等の装備だ。ハジメがその差分の投資? いや、それほどの価値はハジメにはない。ならその差分をハジメへの施しに使ってしまったのではないだろうか。そしてその優しさに付け込まれ、今も振り回されているのではないだろうか。光輝とクラスメイトのほとんどはそんな風に考えていた。

 なお落ちた後戻ってきたことについては「光輝と同格の“勇者”なら覚醒して復帰はあり得る」という認識だ。特別な奴が特別なことするなら受け入れられる。それだけの話である。

 

 そんな考えだから、彼らは合流を望むなら友奈の方だと思っている。光輝のカリスマの下で友奈をハジメ(タカリ)から解放しようという善意を持ち、脱落者も出さずに攻略を進めている自分たちに酔う、もしくは流されていた。

 

 不確定の情報を自分の見たいように認識しているのはお互い様なので何も言わないが、そんな彼らを見る香織の目は冷ややかだ。

 

「香織」

 

「うん、大丈夫だよ雫ちゃん。短気は起こさないから」

 

 今キレて暴力をふるったり治療をボイコットしてもなんのメリットもない。オルクス大迷宮も(彼らの視点では)残すところあと十数層。転機は確かに近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平和に訓練を続け力を付けるクラスメイトを他所に、迷宮の外で暗躍する者達もいた。

 

「……異教の使徒どもの動きは?」

 

「相変わらずさ。迷宮に籠ってばかりで外での動きはなーんにもなし。ここらで得られる情報はいい加減底尽きてきたよ」

 

「そうか。だがここまで動きがないなら囮と言うこともあるまい。単純にまだ時間があると油断していると見ていいだろう」

 

 彼らは魔人族のスパイだ。

 強化された魔物を従え、ライセン大峡谷を越えて人間族の領域で諜報活動を行っていた精鋭兵である。

 本来ならもう少し早期に人間族の領域に潜伏を開始し、諜報や魔物の素体探しにと暗躍しているはずだった。しかしライセン大峡谷を調査する人間がいたため、痕跡を見つけられ警戒態勢を敷かれるのを恐れたのだ。大戦力は連れているので騎士を多数相手にしても圧倒できるが、人間族全てが敵だと連携と物量に擦りつぶされて職務を果たすことが難しくなる。だから予定の進路から彼らが離れるまで足踏みすることになり、さらに“異教の使徒”を警戒するあまり暗躍はできなかった。

 とはいえ成果は十分。戦争時の大まかな侵攻ルートは調べ上げ報告したし、最警戒対象の動向も見逃していない。そろそろ行動に移るべきだろう。

 

「諜報以外の目的を確認するぞ。第一に大迷宮の調査。第二に“異教の使徒”の戦力調査。第三に“異教の使徒”の勧誘だ」

 

「なら行動はまとめて出来た方がいいね。まず迷宮に忍び込んで挑んで、進めるとこまで進む。危なくなれば戦力減らす前に撤退だ。“異教の使徒”は私らで楽に突破できるレベルで手こずってるなら勧誘、そうじゃなきゃ隠れてやり過ごす。勧誘のタイミングは迷宮の奥から引き返すときでいいんじゃないか? で、それが済んだら情報が伝えられるより先に残りの二人だ。それも済んだらこのルートでさっさとガーランドに戻る」

 

「それでいいだろう。だが帰還ルートは予備も用意しておくに越したことはない。こちらのルートも進めるよう仕掛けをして、それから迷宮に挑む。それでどうだ?」

 

「異議なし。じゃあさっさと動こう」

 




愛子先生はホルアド近辺でずっと“作農師”の技能磨き。生徒たちが100層まで攻略したらチーム分けして各地の農地改革を行っていく予定になってます。

そして相変わらず地の文でもステルスする遠藤君。
彼と愛子先生は光輝のカリスマに流されないので香織と雫の息抜きに話し相手をすることがあったりします。ただハジメの情報が少ないので光輝のカリスマに流される永山パーティの気持ちもわからなくはないという立場です。


こそこそ動いてる亜人族二人はカトレア(オルクス大迷宮で戦ったやつ)とレイス(清水勧誘してたやつ)です。クラスメイトが分かれて行動してないので、勧誘の魔人族も分かれず一緒に行動してます。


今回はクラスメイトがハジメと友奈をどう思っているかの話でした。
次話はハジメと友奈がクラスメイトたちをどう思っているかの話になります。

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